定年退職が目前に迫っている状況でも、育児休業は取得できます。しかし「休業は取れても、給付金はどうなるの?」という疑問を持つ方は少なくありません。
本記事では、育児・介護休業法と雇用保険法の根拠をもとに、定年間際の育休取得に関する権利の範囲・給付金の支給期間・申請手順を具体的なシミュレーション例とともに解説します。人事担当者の方にとっても、正確な制度運用のための参考資料としてご活用いただけます。
定年間際でも育児休業は取得できるのか?【法律上の結論】
結論から言えば、定年が近くても育児休業は取得できます。
育児・介護休業法第5条は、一定の要件を満たす労働者に対し、育児休業を取得する権利を保障しています。「定年予定日が近い」という理由だけでは、この取得権は消滅しません。育児休業の申請が定年予定日より前に行われていれば、法律上の権利は有効に成立します。
つまり、企業が「もうすぐ定年だから育休は認めない」と一方的に拒否することは、原則として法律違反になります。
育休取得権と給付金受給権は「別物」として考える
ただし、「育児休業を取得できる権利」と「育児休業給付金を受け取れる権利」は、法律上別々の仕組みで成り立っています。
| 権利の種類 | 根拠法 | 定年間際での扱い |
|---|---|---|
| 育児休業取得権 | 育児・介護休業法第5条 | 定年日前に申請があれば原則取得可能 |
| 育児休業給付金受給権 | 雇用保険法第61条 | 定年退職日の前日までの期間が対象 |
育休は「取得できる」のに、給付金は「定年日で打ち切られる」ことがあります。この2つの権利の違いを最初に押さえておくことが、定年間際における育休の正しい理解の出発点です。
育児・介護休業法が定める取得要件の確認ポイント
育児休業を取得するには、以下の基本要件を満たす必要があります。
| 要件 | 内容 | 定年間際での注意点 |
|---|---|---|
| 雇用継続期間 | 同一の事業主のもとで引き続き1年以上雇用されていること | 定年までの残期間ではなく、採用日からの通算で判断する |
| 子の年齢 | 原則として子が1歳未満であること | 育休期間中に子が1歳を迎えると終了となる |
| 配偶者の状況 | 配偶者が同時に育休を取得していないこと | 同時取得は不可(産後パパ育休との組み合わせは別途確認が必要) |
| 申請のタイミング | 育休開始予定日の2週間前までに申請すること | 定年予定日より前に申請書を提出していることが重要 |
なお、有期雇用契約の労働者の場合は、「育休終了後も引き続き雇用される見込みがあること」という追加要件があります。定年により雇用関係が終了することが確定している場合は、有期雇用に近い判断が適用される可能性があるため、事前に企業の人事担当者やハローワークに確認することを強くおすすめします。
育休給付金が「定年日で打ち切られる」仕組みとは
育児休業給付金は、育児休業を取得した期間中に支給されますが、支給される対象期間には終了日が設けられています。
雇用保険法第61条に基づく規定により、給付金の支給対象期間は以下のいずれか早い日までです。
育児休業給付金の支給対象期間
育休開始日
↓
【次のどちらか早い方】
① 子が1歳になる前日
② 定年退職日の前日
↓
支給終了
たとえば子が1歳になる前に定年退職日を迎える場合、定年退職日の前日をもって給付金の支給は終了します。これが「定年日で給付金が打ち切られる」と表現される仕組みの正体です。
支給終了日の計算方法と具体的なシミュレーション例
実際に「自分はいつまで給付金をもらえるのか」を確認するために、以下のシミュレーションを参考にしてください。
【ケース①:定年日が子の1歳誕生日より前に来る場合】
| 項目 | 日付 |
|---|---|
| 子の誕生日 | 2025年6月15日 |
| 子が1歳になる前日 | 2026年6月14日 |
| 定年退職日 | 2026年3月31日 |
| 給付金の支給終了日 | 2026年3月30日(定年退職日の前日) |
このケースでは、定年日が子の1歳誕生日より約2か月半早いため、給付金の支給は2026年3月30日で終了します。支給対象期間は約9か月間となり、最初の180日間は給付率67%、以降は50%で計算されます。
【ケース②:子の1歳誕生日が定年日より前に来る場合】
| 項目 | 日付 |
|---|---|
| 子の誕生日 | 2025年10月1日 |
| 子が1歳になる前日 | 2026年9月30日 |
| 定年退職日 | 2027年3月31日 |
| 給付金の支給終了日 | 2026年9月30日(子が1歳になる前日) |
このケースでは、子の1歳誕生日の前日が定年よりも先に到来するため、給付金は子が1歳になる前日で終了し、定年は関係しません。支給対象期間は満12か月間となり、定年との関係で打ち切られることはありません。
ポイント: 2つの日付を比較し、「早い方」が支給終了日になります。自分のケースを確認する際は、「子の誕生日の1年後の前日」と「定年退職日の前日」を書き出して比較してみましょう。
雇用保険法第61条が定める「離職予定なし」要件との関係
雇用保険法第61条に基づく育児休業給付金の受給には、以下の受給資格要件を満たす必要があります。
① 被保険者期間の要件
育児休業を開始した日の前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あること。定年間際であっても、長年同じ企業に勤めていれば通常はクリアできます。
② 「離職予定がない」という要件
育児休業期間中、または育休終了予定日までの間に、離職が予定されていないことが求められます。
ここが定年間際において最大の問題点となります。定年退職が育休期間中に訪れる場合、その時点での「離職(退職)」は確定しています。ハローワークの審査では、この定年退職予定をもって「離職予定あり」と判断されることがあり、給付金の受給資格が一部または全期間にわたって認められない可能性があります。
ただし、厳密には「定年退職日の前日まで」を対象期間として支給するという取り扱いが実務上は一般的です。最終的な判断はハローワークが行うため、必ず事前に管轄のハローワークへ相談してください。
給付金の支給額と給付率の計算方法
育児休業給付金の支給額は、育休開始前の賃金をもとに以下の計算式で算出されます。
支給額の計算式
【育休開始から最初の180日間(約6か月)】
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
【181日目以降】
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50%
「休業開始時賃金日額」は、育児休業を開始する直前6か月間の賃金の合計を180で割った金額です。ボーナスは含まれません。
具体的なシミュレーション例
| 月給(額面) | 最初の180日間(月額換算) | 181日目以降(月額換算) |
|---|---|---|
| 30万円 | 約20万1,000円 | 約15万円 |
| 40万円 | 約26万8,000円 | 約20万円 |
| 50万円 | 約33万5,000円 | 約25万円 |
上限額に注意: 給付金には上限額が設定されており、賃金日額の上限を超えた部分は支給されません。2024年度時点での上限は、67%給付の場合で月額約31万7,253円、50%給付の場合で月額約23万6,700円です(金額は毎年8月に改定)。
申請手続きの流れと必要書類
育児休業給付金を受け取るには、企業経由でハローワークへ申請する手続きが必要です。定年間際の場合も基本的な手続きの流れは同じですが、事前の確認と準備がとくに重要になります。
申請の全体フローと各ステップの詳細
【STEP 1】 育休取得の事前申請(育休開始の2週間前まで)
労働者は企業(人事・労務担当者)に対して「育児休業申請書」を提出します。このとき、定年予定日と育休希望期間の両方を明示しておくと、給付金の支給対象期間の確認をスムーズに行えます。申請書には開始予定日だけでなく、終了予定日についても明記することが重要です。
【STEP 2】 企業がハローワークへ受給資格確認票を提出(育休開始後)
育休開始から「原則として10日以内」を目安に、企業の担当者がハローワークに「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」を提出します。
【STEP 3】 ハローワークによる受給資格の確認
ハローワークが書類を審査し、受給資格を確認します。定年退職日が育休期間中に含まれる場合、支給対象期間についての照会が行われることがあります。
【STEP 4】 支給申請(2か月ごと)
受給資格が認められた後は、原則として2か月に1回、企業がハローワークへ支給申請を行います。
【STEP 5】 給付金の振り込み
申請から約2週間程度で、労働者の指定口座に振り込まれます。
申請に必要な書類一覧
以下の書類を揃えておくことで、申請手続きをスムーズに進めることができます。
| 書類名 | 準備者 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書 | 企業(ハローワーク書式) | 初回申請時に使用 |
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | 企業(ハローワーク書式) | 賃金日額の算定に使用 |
| 母子健康手帳(子の出生証明ページ) | 労働者 | 子の誕生日を確認するため |
| 育児休業申請書(社内書式) | 労働者 | 申請期日・定年日を明記 |
| 賃金台帳・出勤簿(直近6か月分) | 企業 | 賃金日額の算定に使用 |
| 定年退職予定日が確認できる書類 | 企業または労働者 | 就業規則・雇用契約書など。定年間際の場合は追加で求められることがある |
定年間際特有の注意: 通常の申請書類に加え、「定年退職予定日が記載された書類」の提出をハローワークから求められるケースがあります。就業規則の定年に関する条項のコピーや、雇用契約書を事前に手元に準備しておきましょう。
ハローワークへの事前相談を強くおすすめする理由
定年間際の育休・給付金申請は、通常ケースとは異なる判断が必要になることがあります。申請前にハローワークへ相談することで、以下のことが確認できます。
- 自分の定年退職日が「離職予定あり」と判断されるかどうか
- 支給対象期間がいつまでになるか
- 必要書類に追加があるかどうか
- 定年後に再雇用される予定がある場合の扱い
相談は管轄のハローワーク(雇用保険の被保険者証に記載された管轄) で行えます。事前に「育休給付金の受給資格について確認したい」と窓口に伝えると対応がスムーズです。電話での相談も受け付けているため、忙しい方は電話利用もおすすめです。
定年後に再雇用される場合はどう扱われるのか
企業によっては、定年後も「再雇用制度」によって継続して働く仕組みがあります。この場合、育休・給付金の扱いは以下のように変わる可能性があります。
再雇用が確定している場合
定年退職後に同一企業で再雇用される予定がある場合、形式上は「いったん退職して再契約」となります。育休中に定年退職日を迎えた場合、その日をもって雇用保険の被保険者資格は喪失します。
再雇用後に新たな雇用保険被保険者資格を取得した場合でも、育休中の給付金は再雇用後に継続して支給されるわけではありません。定年退職日をもって支給は終了し、再雇用後の育休については別途要件を満たす必要があります。
ただし実務上は個別判断が必要
再雇用の形態・契約内容・雇用期間の連続性などによって取り扱いが変わります。この点についてはハローワークと企業の人事担当者が連携して確認することが不可欠です。再雇用契約後に新たに育休を取得する場合の給付金受給については、再度受給資格要件の確認が必要になります。
人事担当者が対応する際のチェックポイント
定年間際の従業員から育休申請が出た場合、企業の人事担当者は以下の点を確認・対応する必要があります。
確認事項チェックリスト
- [ ] 育休申請日が定年予定日より前であることを確認する
- [ ] 就業規則に定年間際の育休に関する規定がないかを確認する
- [ ] 管轄ハローワークへ事前に相談し、給付金の支給対象期間を確認する
- [ ] 育休開始時賃金月額証明書の作成・提出準備を行う
- [ ] 定年退職予定日を支給申請書類に正確に記載する
- [ ] 定年後の再雇用がある場合は、その契約内容と育休の継続可否を確認する
育児・介護休業法第10条により、育休申請を理由とした不利益取り扱いは禁止されています。定年間際を理由に育休を拒否したり、不当に不利益な条件を課すことは違法となるため、法令遵守の観点からも適切な対応が求められます。
よくある質問
Q1. 定年まであと3か月ですが、育休の申請はできますか?
はい、申請できます。育休開始予定日の2週間前までに申請書を提出していれば、育児・介護休業法上の取得権は有効です。ただし、給付金の支給対象期間が定年退職日の前日までとなる点に注意が必要です。
Q2. 育休中に定年を迎えた場合、そのまま育休を続けられますか?
育休の「取得」という観点では、定年退職日をもって雇用関係が終了するため、原則として育休も終了します。定年後の再雇用が確定している場合は、再雇用後の取り扱いについてハローワークと企業で確認が必要です。
Q3. 定年間際に給付金を受け取った場合、退職金の計算に影響しますか?
退職金の計算方法は企業の就業規則・退職金規程によって異なります。育休期間が退職金の計算対象となる勤続年数に含まれるかどうかは、各企業の規程によって判断されます。人事担当者または退職金規程を確認してください。
Q4. 育児休業給付金に税金はかかりますか?
育児休業給付金は非課税です(所得税・住民税の課税対象外)。ただし、健康保険・厚生年金の保険料は育休期間中は免除されます。一方、給付金は「収入」として一定の社会保険料の計算に影響する場合があるため、詳細は年金事務所や社会保険労務士にご相談ください。
Q5. 定年退職後、失業給付と育休給付金は同時にもらえますか?
同時に受け取ることはできません。育休給付金の支給対象期間は定年退職日の前日で終了します。定年退職後に失業給付(基本手当)を受け取ることは可能ですが、育児中で就労できない状態では受給要件(就労の意思・能力)を満たさない場合があります。受給を検討する場合は、ハローワークでご確認ください。
Q6. 産後パパ育休(出生時育児休業)も定年間際に取得できますか?
はい、取得できます。産後パパ育休は子の出生後8週間以内に最大4週間取得できる制度です(2022年10月創設)。通常の育休と同様に、給付金(出生時育児休業給付金)の支給対象期間は定年退職日の前日までとなります。
まとめ:定年間際の育休・給付金のポイント整理
本記事の内容を以下に整理します。
| 確認事項 | 結論 |
|---|---|
| 定年間際でも育休は取得できるか | 取得できる(育児・介護休業法第5条) |
| 給付金は定年日で打ち切られるか | 定年退職日の前日で終了(子が1歳になる前日と比べて早い方) |
| 受給資格の主な要件 | 前2年間に被保険者期間12か月以上・離職予定なし |
| 給付率 | 最初の180日間は67%、181日目以降は50% |
| 申請窓口 | 企業経由でハローワークへ申請 |
| 定年間際の注意事項 | 事前にハローワークと企業の人事担当者に相談が必須 |
定年間際の育休取得は、法律上の権利として認められていますが、給付金の支給期間は定年日という制約を受けます。早めの申請・相談が、給付金を最大限に受け取るための最善策です。不明点は管轄のハローワーク、または社会保険労務士に相談することをおすすめします。
免責事項: 本記事は2024年時点の法律・制度に基づいて執筆しています。制度は法改正により変更されることがあります。最新情報は厚生労働省公式ウェブサイトおよび管轄のハローワークでご確認ください。


