育休給付金の金額は「賃金月額」を基準に決まります。しかし、「賃金月額にどの手当が含まれるの?」と疑問に感じている方は多いのではないでしょうか。
実は、基本給だけでなく職務手当・家族手当・住宅手当なども賃金月額に含まれます。一方で、通勤手当・交通費などは除外されます。この違いを知らずに計算すると、給付金額の見積もりが大きくズレてしまう可能性があります。
本記事では、厚労省の解釈をもとに「含まれる手当」「含まれない手当」を一覧表で整理し、賃金月額の計算式・端数処理・具体的な計算例まで徹底解説します。正確な手当の区分けを理解することで、育休給付金を適切に受給するための基礎知識が身につきます。
育休給付金の「賃金月額」とは何か?基本を押さえよう
賃金月額とは、育児休業給付金の給付金額を算出するための基準となる数値です。育休開始前の6ヶ月間に支払われた賃金総額をもとに計算し、この金額に給付率を掛けることで実際の支給額が決まります。
賃金月額の定義や計算方法は、以下の法令に基づいています。
| 法令 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 雇用保険法 | 第17条 | 賃金日額の定義 |
| 雇用保険法施行規則 | 第11条〜第14条 | 賃金月額の計算方法 |
| 育児休業給付の支給に関する指針 | 第3章 | 賃金月額の算出基準 |
| 昭和59年労働省告示第119号 | ― | 「賃金」の定義 |
「なぜ手当の扱いが重要なのか」というと、含まれる手当が増えるほど賃金月額が上がり、育休給付金の受取額が増えるからです。対象となる手当を正確に把握することが、給付金の適切な受給につながります。
賃金月額の計算式と端数処理ルール
賃金月額の基本的な計算式は以下のとおりです。
賃金月額 = 育休開始前6ヶ月間の賃金総額 ÷ 6
計算後は千円未満を切り捨てます(端数切り捨て)。
計算例:
- 育休開始前6ヶ月の賃金総額:2,140,500円
- 賃金月額(計算前):2,140,500円 ÷ 6 = 356,750円
- 賃金月額(端数処理後):356,000円(750円を切り捨て)
この賃金月額に給付率を掛けて、実際の支給額が決まります。
| 支給期間 | 給付率 | 計算式 |
|---|---|---|
| 育休開始〜180日目まで | 67% | 賃金月額 × 67% |
| 181日目以降 | 50% | 賃金月額 × 50% |
上記の例では、育休開始から180日目までは 356,000円 × 67% = 238,520円が1ヶ月あたりの給付額となります。
⚠️ 端数処理の注意点:賃金月額の千円未満切り捨ては、計算後に行います。給付金額の計算結果(賃金月額 × 給付率)は1円未満を切り捨てます。端数処理のタイミングを間違えると給付金額がズレるため注意してください。
計算対象となる「6ヶ月間」の起算点と注意点
「育休開始前6ヶ月」の数え方は以下のルールに従います。
【例】育休開始日:2024年10月1日の場合
計算対象期間:2024年4月1日〜2024年9月30日(6ヶ月分)
起算点に関する注意点:
- 賃金締め日を基準に区切る:各月の賃金は「締め日」で区切られるため、カレンダー月ではなく賃金計算期間を6ヶ月分遡ります。
- 11日以上出勤した月のみカウント:賃金支払基礎日数が11日未満の月は対象外となり、そこから遡ってさらに前の月を含めて6ヶ月分を確保します。
- 育休給付金を受け取るには被保険者期間1年以上が必要:雇用保険の被保険者として1年以上加入していることが前提条件です。
賃金月額に「含まれる手当」一覧【厚労省解釈】
厚労省の解釈では、定期的かつ確定的に支払われる賃金が賃金月額の計算に含まれます。基本給だけでなく、以下の手当も対象です。
| 手当の種類 | 含否 | 含まれる理由 |
|---|---|---|
| 基本給(月給・固定給) | ✅ | 賃金の根幹となる定期的支給 |
| 職務手当 | ✅ | 職務に対する固定的対価 |
| 役職手当(管理職手当) | ✅ | 役職に対する固定的対価 |
| 資格手当 | ✅ | 資格保有に対する定期的支給 |
| 地域手当 | ✅ | 勤務地域を条件とした固定支給 |
| 家族手当(扶養手当) | ✅ | 家族構成を条件とした定期支給 |
| 住宅手当(月額固定の場合) | ✅ | 固定月額で定期的に支給 |
| 皆勤手当(固定額の場合) | ✅ | 確定的・定期的に支給される場合 |
| 勤続手当 | ✅ | 勤続年数に応じた定期支給 |
| 調整給・特別調整手当 | ✅ | 定期的・固定的に支給される場合 |
まとめると、賃金月額に含まれる手当の共通点は「毎月決まった金額が定期的に支払われること」です。
「定期的・固定的支給」が含有の判断基準になる理由
厚労省の解釈において、賃金月額に含まれるかどうかの判断基準は「定期的かつ確定的な支給」です。
この基準の背景には、雇用保険法の「賃金」の定義があります。雇用保険上の「賃金」とは、労働の対償として使用者が労働者に支払うもの(労働基準法第11条を準用)です。つまり、労働の提供に対して継続的・確定的に支払われる金銭が対象となります。
同じ名称でも扱いが変わるケースに注意:
| 手当名 | 固定額(毎月一定) | 実費精算・変動額 |
|---|---|---|
| 住宅手当 | ✅ 含む | ❌ 含まない |
| 皆勤手当 | ✅ 含む | ❌ 含まない(勤怠次第で変動する場合) |
| 家族手当 | ✅ 含む | ❌ 含まない(実費支給の場合) |
「住宅手当」という名称でも、実際の家賃額に応じて毎月金額が変動する場合は除外されます。一方、「毎月一律30,000円」のように固定額であれば含まれます。手当の名称ではなく支給の性質で判断することが重要です。
賃金月額に「含まれない手当」一覧【除外項目】
以下の手当は、実費弁償的な性質や臨時・不定期支給に当たるため、賃金月額の計算から除外されます。
| 手当の種類 | 含否 | 除外される理由 |
|---|---|---|
| 通勤手当・交通費 | ❌ | 実費弁償的な支給 |
| 出張手当・旅費 | ❌ | 実費弁償・臨時支給 |
| 時間外勤務手当(残業代) | ❌ | 変動的な支給(毎月確定しない) |
| 休日出勤手当 | ❌ | 変動的な支給 |
| 深夜手当 | ❌ | 変動的な支給 |
| 賞与・一時金 | ❌ | 臨時・不定期支給 |
| 結婚祝い金・出産祝い金 | ❌ | 臨時・慶弔費 |
| 実費弁償の住宅手当 | ❌ | 実費弁償的な性質 |
「実費弁償」と「変動的支給」が除外される理由
除外される手当には2つのパターンがあります。
① 実費弁償的な支給
通勤手当や出張手当は、労働者が実際に支出した費用を補填するものです。労働の対価ではなく「立替払いの精算」という性質を持つため、雇用保険上の「賃金」には該当しません。
② 変動的・臨時的な支給
残業代・休日手当・賞与などは、毎月の支給額が確定しておらず、労働時間や会社の業績によって変動します。このような不確定な収入は賃金月額の基準として適切でないため、除外されます。
💡 人事担当者向けポイント:賞与(ボーナス)は賃金月額の計算から除外されますが、年間を通じて毎月定額で支払われる場合(いわゆる月割り賞与)は含まれる可能性があります。ハローワークに個別確認することをおすすめします。
賃金月額を使った育休給付金の計算例
実際の計算例を通じて、手当の扱いを確認しましょう。
【前提条件】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 基本給 | 250,000円 |
| 役職手当 | 30,000円 |
| 住宅手当(固定月額) | 20,000円 |
| 家族手当 | 10,000円 |
| 通勤手当 | 15,000円 |
| 残業代(月平均) | 25,000円 |
| 毎月の総支給額 | 350,000円 |
【賃金月額の計算】
含まれる手当のみ合計:
250,000(基本給)+ 30,000(役職手当)+ 20,000(住宅手当)+ 10,000(家族手当)
= 310,000円
※通勤手当(15,000円)と残業代(25,000円)は除外
6ヶ月分の賃金総額:310,000円 × 6ヶ月 = 1,860,000円
賃金月額:1,860,000円 ÷ 6 = 310,000円(千円未満なし)
【給付金額の計算】
| 期間 | 給付率 | 月額給付金 |
|---|---|---|
| 育休開始〜180日目 | 67% | 310,000円 × 67% = 207,700円 |
| 181日目以降 | 50% | 310,000円 × 50% = 155,000円 |
もし通勤手当や残業代を誤って含めて計算した場合(350,000円ベース)、最初の180日は233,450円となり、実際より約25,750円多く見積もってしまうことになります。正確な手当の区分けが重要です。
申請手続き・必要書類・申請期限
申請の流れ
① 育休開始(事業主が確認)
↓
② 事業主がハローワークへ「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」を提出
↓
③ ハローワークが賃金月額を確認・決定
↓
④ 2ヶ月に1回の支給申請(事業主経由)
↓
⑤ 給付金の振込
申請に必要な主な書類
| 書類 | 用途 |
|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票 | 受給資格の確認 |
| 育児休業給付金支給申請書 | 給付金の申請 |
| 賃金台帳・出勤簿(6ヶ月分) | 賃金月額の確認 |
| 母子健康手帳(写し)または出生証明書 | 子の出生確認 |
| 被保険者の通帳(写し) | 振込先確認 |
申請期限
- 初回申請:育休開始日から4ヶ月以内(育休開始日の翌日から起算)
- 2回目以降:支給単位期間(2ヶ月)ごとに申請
⚠️ 注意:申請が遅れても2年以内であれば時効前の申請が可能ですが、速やかな申請を心がけましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 住宅手当は必ず賃金月額に含まれますか?
A. 必ずしも含まれるわけではありません。「毎月固定額を支給」している場合は含まれますが、「実際の家賃の一部を補助(変動あり)」の場合は除外されます。自社の規程を確認し、判断が難しい場合はハローワークに相談してください。
Q2. 残業代が多い月の賃金月額はどう計算しますか?
A. 残業代(時間外勤務手当)は賃金月額の計算から除外されます。基本給や固定的な手当のみを6ヶ月合計し、6で割って賃金月額を算出します。残業の多い月・少ない月があっても、残業代部分は影響しません。
Q3. 育休前に昇給や降給があった場合、賃金月額はどうなりますか?
A. 賃金月額は「育休開始前6ヶ月の実際の支給額」をもとに計算します。育休直前に昇給していれば、昇給後の給与が反映されます。逆に降給があった場合も実際の支給額が基準となります。
Q4. パートタイム労働者も同じ計算方法ですか?
A. 基本的な計算方法は同じですが、パートタイム労働者の場合、賃金支払基礎日数(11日以上)の確認が特に重要です。所定労働時間が短い場合でも、雇用保険に加入していれば同様に計算します。
Q5. 家族手当を途中から支給された場合、賃金月額にどう影響しますか?
A. 6ヶ月の計算期間内に支給された実額が合算されます。たとえば途中3ヶ月分しか家族手当が支給されていなければ、その3ヶ月分の金額のみが賃金総額に含まれます。
Q6. 賞与(ボーナス)が育休前6ヶ月に支払われた場合は?
A. 通常の賞与(年2回や年1回など)は臨時・不定期な支給に当たるため、賃金月額の計算には含まれません。ただし、毎月定額で支払われる形式の賞与(月割り支給)は含まれる可能性があります。
まとめ
育休給付金の賃金月額計算における手当の含有ルールを整理すると、次のとおりです。
✅ 含まれる手当(定期的・固定的支給)
基本給・職務手当・役職手当・資格手当・地域手当・家族手当・住宅手当(固定額)・皆勤手当(固定額)・勤続手当
❌ 含まれない手当(実費弁償・変動的支給)
通勤手当・出張手当・残業代・休日手当・深夜手当・賞与・慶弔費・実費ベースの住宅手当
判断のポイントは「毎月一定額が確定的に支払われているか」です。同じ名称の手当でも支給方法によって扱いが変わるため、自社の給与規程や実際の支給内容を確認することが大切です。
手当の扱いに迷う場合は、最寄りのハローワーク(公共職業安定所)に相談することをお勧めします。担当者が個別の状況に応じて判断してくれます。正確な賃金月額を把握して、育休給付金を適切に受給しましょう。
参考法令・参照先
– 雇用保険法 第17条
– 雇用保険法施行規則 第11条〜第14条
– 育児休業給付の支給に関する指針(厚生労働省)
– 昭和59年労働省告示第119号
– ハローワーク公式サイト(厚生労働省)

