出産予定日より早く生まれた場合、事前に提出していた育休申出の内容と実際の状況にズレが生じます。「手続きを何から始めればいい?」「育休開始日はいつになる?」「給付金への影響は?」——そうした疑問に、法的根拠とともに実務的な手順を解説します。本記事では、育児・介護休業法に基づいた早産時の育休開始ルール、必要な変更届の書き方、ハローワーク手続きのスケジュール、育児休業給付金への影響まで、労務管理の実務を踏まえて網羅しています。
早産した場合、育休開始日はいつから?原則ルールを確認
出産予定日と実出産日がズレた場合の法的取り扱い
育児・介護休業法(以下「育介法」)では、育児休業の開始日について「申出の日から始まる育児休業期間」を定めており、その起算となる「子の出生日」は実際に出産した日(実出産日)を基準とします。
予定日より前に出産が起きた場合、育介法第5条・第6条の規定に基づき、実出産日が新たな育休申出・開始の基点となります。つまり、事前に「〇月△日から育休を取得する」と届け出ていた場合でも、早産によって実出産日が先行したときは、実出産日を基準に育休開始日を前倒しする手続きが必要になります。
具体的には、以下の関係性で考えると整理しやすいです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 育休開始可能日 | 実出産日(産後休業の規定を除く) |
| 育休期間の上限起算日 | 子の実出産日 |
| 事前申出との差分 | 「育児休業開始予定日変更届」で修正 |
なお、育休期間の上限(原則として子が1歳になるまで)も実出産日を基準に計算されます。予定日ベースで計算していた終了日は自動的には変わりませんので、変更届提出時に終了予定日も併せて確認しましょう。
女性(母親)の場合|産後休業と育休の境界線
母親の場合、出産後すぐに育児休業が始まるわけではありません。労働基準法第65条第2項により、産後8週間は「産後休業」として就業が原則禁止されています(医師が認めた場合は産後6週間経過後から就業可能)。
産後休業と育休の関係は下記のとおりです。
【実出産日】
↓
産後休業(産後8週間)← 労働基準法による強制休業
↓
育児休業(産後8週間翌日〜子が原則1歳になるまで)
つまり、早産によって出産日が前倒しになった場合、産後休業の8週間も実出産日から起算して前倒しになります。育休の実質的な開始日は「実出産日から産後8週間を経過した翌日」となります。
早産による入院・治療が長引いた場合も同様に、産後休業明けから育休が始まる流れは変わりません。ただし、産後休業期間中に給付されるのは健康保険の「出産手当金」であり、育児休業給付金ではありません。給付の種類が切り替わる時期を正確に把握しておくことが大切です。
男性(父親)の場合|産後パパ育休・育休の開始タイミング
父親には産後休業の規定がないため、子の出生日(実出産日)当日から育休取得が可能です。
育介法に基づく父親の育休制度は、大きく2種類あります。
① 産後パパ育休(出生時育児休業)
– 対象期間:子の出生後8週間以内
– 取得可能日数:最大28日(2回まで分割取得可)
– 申出期限:原則として取得希望日の2週間前まで
② 通常の育児休業
– 対象期間:子が1歳になるまで(延長要件を満たせば最長2歳まで)
– 申出期限:原則として取得希望日の1ヶ月前まで
早産が発生した場合、産後パパ育休の「出生後8週間以内」という期間制限は実出産日から起算されます。予定日ベースで申出を行っていた場合、実出産日が早まることで開始日が繰り上がり、取得できる期間が当初の想定より短くなるケースがあります。
また、通常の育休についても申出期限(取得1ヶ月前)が問題になることがあります。早産は突発的なため、「1ヶ月前」という申出期限を満たせないケースも多いです。この場合、育介法第6条第3項の規定により、会社は申出を受け付けた日から1ヶ月後を育休開始日として指定できる場合がありますが、実務上は会社側が柔軟に対応するケースがほとんどです。速やかに会社へ連絡することが最善策です。
早産が発生したら何をすべき?手続きの全体スケジュール
早産後の手続きは、「会社への報告→変更届提出→ハローワーク届出→給付金申請」という流れで進みます。時系列を把握して、抜け漏れなく対応しましょう。
STEP 1|出産後すみやかに会社へ早産の報告(目安:出産後7日以内)
まず最初にすべきことは、勤務先の人事部門または直属の上司への連絡です。入院中や体調が万全でない場合でも、できる限り早めに一報を入れることが、その後の手続きをスムーズにする鍵になります。
報告すべき内容
- 実際の出産日(実出産日)
- 母子の健康状態の概況
- 育休開始日の変更希望(前倒しの意向)
- 当面の連絡可能な方法(本人が難しければ家族代理も可)
電話・メール・チャットなど、状況に応じた方法で構いませんが、後から証跡を残す意味で書面(メール等)でも正式に報告することをお勧めします。
STEP 2|「育児休業開始予定日変更届」を会社へ提出
早産により実出産日が変わった場合、事前に提出した育休申出書の内容と実態に差異が生じます。この差異を正式に修正するために提出するのが「育児休業開始予定日変更届」(企業によっては「育児休業申出(変更)書」とも呼ばれます)です。
記載が必要な主な項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名・所属部署 | 申出者本人の情報 |
| 変更前の育休開始予定日 | 当初届け出た開始日 |
| 変更後の育休開始予定日 | 実出産日基準で算出した新開始日 |
| 変更理由 | 早産(実出産日)による変更 |
| 実出産日 | 出生証明書等で確認できる日付 |
| 育休終了予定日 | 実出産日基準で再計算した終了日 |
提出期限について、育介法上は「速やかに」とされていますが、実務的には変更後の開始日前日までに会社へ届け出ることが必要です。会社側も変更届を受けてハローワークへの届出を行うため、できるだけ早期の提出が望まれます。
提出に必要な添付書類(一般的な例)
- 母子健康手帳(出産日の記載ページのコピー)
- 出生証明書(または出生届受理証明書)のコピー
- 会社所定の変更届様式(フォームは人事部門から取得)
STEP 3|ハローワークへの届出(会社経由)
育児休業開始日変更の情報は、会社の人事部門がまとめてハローワーク(公共職業安定所)へ届け出ます。労働者本人が直接ハローワークへ行く必要は通常ありません。
会社がハローワークへ提出する主な書類は以下のとおりです。
- 育児休業等取得者申出書(新規・延長・終了):育休の開始・終了に関する届出
- 育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書:給付金申請に必要
早産が発生し育休開始日が前倒しになった場合、会社はできるだけ速やかにハローワークへ変更内容を届け出る義務があります。人事担当者に「ハローワークへの届出はいつ頃行いますか?」と確認しておくと安心です。
STEP 4|育児休業給付金の申請スケジュール確認
育児休業給付金は、雇用保険から支給されます。支給申請のスケジュールを確認しておきましょう。
支給申請の流れ
育休開始日
↓
【初回】育休開始日から約2ヶ月後にハローワークへ申請
(会社経由で提出)
↓
【2回目以降】原則2ヶ月ごとに申請
↓
育休終了日(子が1歳になるまで等)
早産で育休開始日が前倒しになった場合、初回申請のタイミングも前倒しになります。会社と連携して申請漏れが起きないよう、スケジュールを事前に共有しておくことが重要です。
変更届の記載例と提出先・提出方法
変更届は企業ごとに書式が異なりますが、一般的に以下のような内容を記入します。
記載例(イメージ)
育児休業開始予定日変更届
申出者氏名:山田 花子
所属:○○部 ○○課
変更前:育休開始予定日 2025年9月1日
変更後:育休開始予定日 2025年8月10日(実出産日:2025年8月2日)
変更理由:早産のため(出産予定日 2025年8月31日に対し、
実出産日が2025年8月2日となったため)
育休終了予定日(変更後):2026年8月1日
添付書類:母子健康手帳(出産日記載ページ)コピー
書式がない場合は、上記項目を網羅した任意の書面でも受理されるケースが多いです。ただし、会社の就業規則や育児休業規程の様式に従うことが優先されます。
育児休業給付金への影響と計算方法
給付金額の基本計算
育児休業給付金の支給額は、休業開始前の賃金日額を基準に計算されます。
| 育休開始からの期間 | 給付率 | 手取り換算の目安 |
|---|---|---|
| 育休開始〜180日目まで | 休業前賃金の67% | 手取りの約80%相当 |
| 181日目以降 | 休業前賃金の50% | 手取りの約60%相当 |
賃金日額の計算式:
賃金日額 = 育休開始前6ヶ月間の賃金総額 ÷ 180
早産によって育休開始日が変わっても、この計算式自体は変わりません。ただし、育休開始日が前倒しになることで「育休開始前6ヶ月」の範囲が変わる点に注意が必要です。産休前の給与をベースに計算されるため、急病や産前休業を多く取得していた場合、基礎賃金が低く算定される可能性があります。不安な方は、ハローワークまたは社会保険労務士に相談することをお勧めします。
支給上限額・下限額(2025年度現在)
育児休業給付金には支給の上限・下限が設定されています。
| 区分 | 金額(2ヶ月分の目安) |
|---|---|
| 支給上限額(開始〜180日) | 約310,143円 × 2ヶ月 ÷ 30 × 日数 |
| 支給上限額(181日以降) | 約231,450円 × 2ヶ月 ÷ 30 × 日数 |
| 支給下限額 | 約50,694円 × 2ヶ月 ÷ 30 × 日数 |
※賃金日額の上限・下限は毎年8月1日に改定されます。最新の金額はハローワークの公式サイト、または会社の人事担当者に確認してください。
産後パパ育休(出生時育児休業給付金)の計算
父親が取得する産後パパ育休には、「出生時育児休業給付金」が支給されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 給付率 | 休業前賃金の67% |
| 対象期間 | 出生後8週間以内の最大28日 |
| 申請先 | ハローワーク(会社経由) |
| 申請タイミング | 育休終了後すみやかに(期限:育休終了日の翌日から2ヶ月を経過する日の属する月の末日まで) |
有期契約社員・派遣社員の場合の注意点
有期契約社員(契約社員・パートタイム等)が育休を取得するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 同一企業に継続雇用1年以上(2022年4月法改正前の要件が変更された点に注意)
- 子が1歳6ヶ月になる日までの間に、労働契約の満了が明らかでないこと
2022年4月の育介法改正により、「引き続き雇用された期間が1年以上」という労使協定による適用除外の仕組みが残ってはいますが、適用除外の存在は会社ごとに異なります。自社の就業規則を確認するか、人事担当者に照会してください。
早産が発生した場合でも、これらの要件を満たしていれば通常と同様に育休・給付金の申請が可能です。
切迫早産で入院していた場合の給付金の取り扱い
切迫早産などで出産前に入院・休業していた場合、その期間の給付は育児休業給付金ではなく健康保険の「傷病手当金」の対象となります。
| 区分 | 給付制度 | 給付率 |
|---|---|---|
| 切迫早産による就労不能(産前) | 健康保険 傷病手当金 | 標準報酬日額の約67% |
| 産前42日間(多胎98日)の産前休業 | 健康保険 出産手当金 | 標準報酬日額の約67% |
| 産後8週間の産後休業 | 健康保険 出産手当金 | 標準報酬日額の約67% |
| 産後休業終了後の育児休業 | 雇用保険 育児休業給付金 | 賃金日額の67%または50% |
傷病手当金と出産手当金は重複して受給できません(同一期間については出産手当金が優先)。どの期間にどの給付が適用されるかを事前に整理しておきましょう。申請漏れを防ぐため、会社の健康保険担当者や加入している健康保険組合に相談することをお勧めします。
企業の人事担当者が対応すべきポイント
従業員から早産の報告を受けた際、人事担当者として対応すべき事項をまとめます。
① 速やかな受理と変更処理
– 育児休業開始予定日変更届を受理し、社内システムへ反映
– 給与計算・社会保険手続きへの影響を確認
② ハローワークへの届出
– 育休開始日の変更をハローワークへ届け出る
– 育児休業給付受給資格確認・支給申請の手続きスケジュールを再設定
③ 社会保険料免除手続き
– 育休期間中の社会保険料(健康保険・厚生年金)免除申請を日本年金機構へ届け出る
– 免除開始月が変更になる場合は修正届が必要
④ 当該従業員への情報提供
– 変更後の育休期間・給付金スケジュールを書面で案内
– 復職予定日の確認(早産の場合、子の1歳誕生日が早まるため)
よくある疑問(FAQ)
Q1. 早産で出産予定日より4週間早く生まれました。育休申出の変更届はいつまでに出せばいいですか?
法律上は「速やかに」とされていますが、実務的には変更後の育休開始日前日までに会社へ提出することが必要です。入院中など本人が対応困難な場合は、家族が代理で連絡・提出することも認められています。できるだけ早く会社の人事部門へ連絡しましょう。
Q2. 産後パパ育休を予定していましたが、早産で申出が1週間前になってしまいました。取得できますか?
産後パパ育休の原則申出期限は「2週間前まで」です。1週間前の申出は要件を満たさないため、会社側が拒否できる可能性があります。ただし、育介法は最低基準であり、会社が柔軟に対応することは可能です。早産という突発的事情があるため、まず会社に相談してください。なお、通常の育児休業(子が1歳になるまでの育休)であれば別途取得できます。
Q3. 早産で育休開始日が前倒しになると、育児休業給付金の受給終了日も変わりますか?
育休の終了日(給付金の終了日)は原則「子が1歳になる前日まで」であり、これは実出産日基準で計算されます。育休開始日が前倒しになる分、終了日も前倒しになります。変更届提出時に終了予定日を会社と確認しておきましょう。
Q4. 早産で生まれた子が入院(NICU等)している場合、育休は取得できますか?
はい、取得できます。育児休業は「子を養育する場合」に認められており、NICUに入院中であっても子の育児に変わりはありません。また、育介法第5条の2(出生時育児休業)においても、子が病院に入院中の場合でも申出が認められています。育休期間中に子の退院が見込まれる場合は、その後の育休継続も可能です。
Q5. 切迫早産で産前から休業していました。産後の給付金計算に影響しますか?
傷病手当金を受給しながら休業していた期間は「賃金が支払われていない期間」として扱われます。育児休業給付金の計算基礎となる「育休開始前6ヶ月の賃金」に影響する可能性があるため、正確な金額はハローワークに問い合わせるか、社会保険労務士に相談することをお勧めします。
Q6. 早産で双子が生まれた場合、育休の取り扱いはどうなりますか?
双子(多胎児)の場合でも、育休の取得は子1人につき1回が原則です。ただし、2人目の子を養育することを理由に育休を延長・再取得する手続きが可能なケースもあります。また、産前休業(産前42日が原則→多胎は98日)の起算日も変わりますので、早産の場合は産前休業の日数も確認してください。多胎早産は状況が複雑になりやすいため、会社の人事担当者または社会保険労務士に個別相談することを強く推奨します。
まとめ:早産による育休手続きのポイント
早産が発生した場合の育休手続きを整理すると、以下の5点が核心となります。
- 実出産日が新たな育休起算日となる(育介法に基づく)
- 出産後7日以内を目安に会社へ報告し、変更の意向を伝える
- 育児休業開始予定日変更届を速やかに提出し、実出産日・新開始日・終了日を反映させる
- 育児休業給付金の受給開始日・終了日も前倒しになるため、会社と連携してスケジュールを確認する
- 切迫早産による産前休業中の給付は傷病手当金・出産手当金と育児休業給付金は別制度であることを把握する
手続きは複数の制度にまたがり複雑に見えますが、「まず会社の人事部門へ連絡する」ことが最初の一歩です。状況に応じて社会保険労務士やハローワークの窓口も積極的に活用しながら、安心して育児に専念できる環境を整えましょう。


