有期契約・パートタイム・派遣社員であっても、育児休業は原則として取得できます。しかし「雇用期間が短い」「更新回数が少ない」といった理由で育休の申請をためらっているケースは少なくありません。
2022年の育児・介護休業法改正により、旧来の「更新回数2回以上・継続雇用1年以上」という要件は撤廃されました。ただし、雇用契約書の記載内容によっては今でも対象外と判定される条件が残っています。
本記事では、育休対象外になる具体的な3つの判定条件を法的根拠とともに整理し、自分が対象かどうかを自己判定できるフローも提供します。有期契約労働者本人の判断材料として、また人事担当者が適切な説明を行うための実務参考資料としてご活用ください。
育休は有期契約でも原則取得できる——2022年改正で何が変わったか
育児休業制度は、育児・介護休業法(以下「育介法」)に基づく法定権利です。2022年4月に施行された改正育介法により、雇用形態を問わずすべての労働者が原則として育休を取得できる制度へと大きく転換しました。
改正以前は、有期契約労働者が育休を取得するためにいくつかの高いハードルが設けられていました。「同一の使用者に引き続き雇用された期間が1年以上であること」「子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでないこと」に加え、労使協定によって「更新回数2回以上」「引き続き雇用された期間が1年以上」といった要件を設定することが認められていたためです。
改正後は、この労使協定による「更新回数・継続雇用1年以上」という除外要件が撤廃されました。これによって、初めての更新を迎えていない有期契約労働者であっても、一定の条件を満たせば育休を取得できる道が開かれています。
改正前と改正後の対象要件を表で比較
| 項目 | 2022年3月以前(旧基準) | 2022年4月以降(現行基準) |
|---|---|---|
| 継続雇用1年以上の要件 | 必須(労使協定で設定可) | 廃止 |
| 更新回数2回以上の要件 | 必須(労使協定で設定可) | 廃止 |
| 雇用継続見込み | 子が1歳6か月までに満了が明らかでないこと | 子の2歳誕生日までに労働契約が満了しないこと(後述) |
| 対象外とできる期間制限 | 労使協定で多数設定可 | 原則対象、除外は限定的 |
| 出生時育児休業(パパ育休) | 制度なし | 2022年10月新設 |
この表からわかるとおり、改正後は「更新回数」は育休の可否に直接影響しないことが明確になっています。雇用契約書に更新回数の記載があるからといって、自動的に対象外になるわけではありません。
有期・パート・派遣——雇用形態別の原則対象範囲
2022年改正後の現行制度において、以下のすべての雇用形態が原則として育休の対象となっています。
| 雇用形態 | 育休対象 | 備考 |
|---|---|---|
| 正社員 | ✅ 原則対象 | 申出期限の遵守が必要 |
| 契約社員 | ✅ 原則対象 | 雇用継続見込みの確認が必要 |
| パートタイマー | ✅ 原則対象 | 所定労働時間に関わらず対象 |
| 派遣社員 | ✅ 原則対象 | 派遣元への申出が必要 |
| 嘱託職員 | ✅ 原則対象 | 有期契約と同様に判定 |
| 日雇い労働者 | ❌ 対象外 | 法律上明示的に除外 |
「自分はパートだから育休は取れない」「派遣だから申請できない」という認識は、2022年改正後においては誤りです。ただし、以下のセクションで説明する除外条件に該当する場合は、対象外となります。
育休対象外になる3つの判定条件(雇用期間・更新回数・契約書記載)
有期契約労働者が育休対象外となるのは、育介法第5条第2項に定められた除外要件に該当する場合です。現行法では大きく3つの軸で判定が行われます。
条件①:同一使用者との雇用期間が1年未満——起算日の正しい数え方
有期契約労働者の場合、「子の出生予定日の1年前の時点」において同一の使用者に引き続き雇用されている期間が1年未満である場合、育休の対象外となる可能性があります。
「引き続き雇用された期間」の起算点は、直近の雇用開始日です。契約の更新がある場合は、更新前の期間も通算して計算します。重要なのは「出生予定日の1年前」という基準日であり、育休申出日や出産日ではない点に注意してください。
具体的な計算例
ケース①: 2024年1月15日に入社した有期契約労働者が、2025年3月10日出産予定の場合
→ 出生予定日の1年前=2024年3月10日時点での雇用期間は約2か月
→ 対象外の可能性あり(ただし雇用継続見込みによって判断が異なる)ケース②: 2023年6月1日に入社し、6か月更新を経て2024年12月1日出産予定の場合
→ 出生予定日の1年前=2023年12月1日時点での雇用期間は6か月
→ 更新実績・更新予定の記載によって対象か否かが分かれる
「同一の使用者」の解釈に注意
事業所が異なっていても、法人として同一の使用者であれば雇用期間は通算されます。一方、グループ企業間の転籍や出向の場合は、出向先・転籍先との雇用関係が新たに開始した日が起算日となります。派遣社員の場合、雇用関係は派遣元との間にあるため、派遣先企業が変わっても派遣元が同じであれば期間は通算されます。
条件②:雇用契約書の「不更新条項」——契約書の記載が対象外を決める
2022年改正後も、雇用契約書または労働条件通知書に「更新しない」旨が明記されている場合は、育休対象外と判定される最も重要な除外要件として残っています。これが現行制度における「雇用継続見込みなし」に基づく除外です。
育介法第5条第2項が定める要件は「子が1歳に達する日(または1歳6か月・2歳に達する日)までに、労働契約が満了することが明らかでないこと」です。逆を言えば、「この契約は更新しない」という条項が明示されている場合は、「満了することが明らか」と判定され、対象外となります。
不更新条項の記載パターンと判定
| 雇用契約書の記載内容 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 「契約期間満了をもって雇用終了とする(更新なし)」 | ❌ 対象外 | 満了が明らかなため |
| 「更新の可能性あり(更新は保証しない)」 | ✅ 条件付き対象 | 明確な不更新ではない |
| 「更新する場合がある」 | ✅ 原則対象 | 継続見込みありと解釈 |
| 記載なし(自動更新慣行あり) | ✅ 原則対象 | 実態で判断 |
| 「更新上限:3回まで」(上限に達していない) | ✅ 原則対象 | 上限到達前は継続見込みあり |
| 「更新上限:3回まで」(上限に達している) | ❌ 対象外 | 実質的に満了が明らか |
2024年問題:労働条件明示義務と不更新条項の関係
2024年4月施行の労働基準法改正により、有期契約の更新上限の有無・通算契約期間または更新回数の上限を労働条件通知書に明示する義務が新設されました。これにより、「更新上限回数」が契約書に明記されるケースが増加しています。
上限回数に達していない段階では育休の対象となりますが、「この契約が最後の更新です」と明示されている場合は不更新条項と同等の効力を持ちます。人事担当者は、更新上限の記載が育休申出の可否に影響することを認識した上で、丁寧な説明が求められます。
条件③:雇用継続の見込みがないと客観的に判断される場合
雇用契約書に明示的な不更新条項がなくても、客観的な事実から雇用継続の見込みがないと合理的に判断される場合は、育休対象外となることがあります。これは育介法の解釈運用上の判断基準であり、以下のような状況が該当します。
- 使用者が口頭または書面で「次の更新はない」と明確に伝えている
- 契約した業務・プロジェクトが育休期間中に終了することが確定している
- 有期雇用の通算期間が5年を超えており、無期転換申込みを行っていない(雇止めの実質的リスクがある場合)
ただし、使用者が「育休を取得させないため」に意図的に雇用継続見込みなしとする措置を取ることは、育介法第16条の育休申出・取得を理由とした不利益取扱いの禁止に抵触する可能性があります。厚生労働省のガイドラインでは、育休申出後に不更新とする通知を行うことは不利益取扱いとみなされるおそれがあると明記されています。
自己判定フロー——私は育休対象か、対象外か
以下のフローチャートで、自分が育休の対象となるか否かを確認してください。
STEP 1:日雇い労働者ですか?
→ YES → ❌ 法律上の対象外(育介法第2条)
→ NO → STEP 2へ
STEP 2:雇用契約書に「更新しない」「契約満了で終了」と
明記されていますか?
→ YES → ❌ 対象外(雇用継続見込みなし)
→ NO → STEP 3へ
STEP 3:雇用契約書に更新上限回数が記載されており、
その上限に達していますか?
→ YES → ❌ 対象外(実質的に満了が明らか)
→ NO → STEP 4へ
STEP 4:子の出生予定日の1年前時点で、同一使用者との
雇用期間が1年未満ですか?
→ YES → STEP 5へ
→ NO → ✅ 育休対象(申出手続きへ進む)
STEP 5:契約書に更新予定が明記、または過去の更新実績
から1年以上の継続が見込まれますか?
→ YES → ✅ 育休対象(雇用継続見込みありと判定)
→ NO → ❌ 対象外の可能性あり(使用者と要確認)
STEP 5で「NO」となった場合でも、使用者との協議や社会保険労務士への相談を通じて、雇用継続見込みの有無を再確認することをお勧めします。自己判断のみで育休申出を諦めないことが重要です。
育休給付金の受給資格——対象者でも「もらえない」ケースがある
育休の取得資格がある場合でも、育児休業給付金(雇用保険)の受給要件は別途確認が必要です。育休取得=給付金受給ではない点に注意してください。
育児休業給付金の受給要件
育児休業給付金(雇用保険法第61条の7)を受け取るには、育休取得資格に加えて以下の要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 内容 | 補足 |
|---|---|---|
| 雇用保険の被保険者 | 被保険者であること | 週20時間以上・31日以上雇用見込みで加入義務あり |
| 被保険者期間 | 育休開始前2年間に、賃金支払基礎日数11日以上の月が12か月以上 | 産前産後休業期間は算入可能 |
| 育休中の就業制限 | 支給単位期間(1か月)の就業日数が10日以下(または就業時間が80時間以下) | 超えると不支給 |
| 育休の継続 | 育休を継続して取得していること | 途中終了した期間は対象外 |
給付金の支給額の計算方法
育児休業給付金の支給額は以下のとおりです。
【支給開始から180日間(6か月)】
給付額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
【181日目以降】
給付額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50%
なお、2025年度以降は育休取得率向上策として段階的な給付率引き上げが検討されており、最新情報は厚生労働省または最寄りのハローワークでご確認ください。
計算例
月収30万円(日額換算:30万円 ÷ 30日 = 10,000円)の労働者が育休を取得した場合
– 開始〜180日:10,000円 × 30日 × 67% = 201,000円/月
– 181日〜:10,000円 × 30日 × 50% = 150,000円/月
有期契約労働者の場合、「賃金支払基礎日数11日以上の月が12か月以上」の要件を満たしているか事前に確認することが特に重要です。週3日勤務のパートタイマーなど、勤務日数が少ない場合は要件を満たさないケースがあります。
育休申出の手続きと必要書類
育休対象と確認できたら、速やかに申出手続きを進めます。
申出期限
| 育休の種類 | 申出期限 |
|---|---|
| 通常の育児休業 | 育休開始予定日の1か月前まで |
| 出生時育児休業(パパ育休) | 育休開始予定日の2週間前まで |
| 育休の延長(1歳→1歳6か月) | 育休終了予定日の1か月前まで |
| 育休の再延長(1歳6か月→2歳) | 育休終了予定日の1か月前まで |
有期契約労働者の場合は、申出期限に特に注意してください。申出が遅れると、使用者が育休開始日の調整を求めることができるため、実質的に取得できる期間が短くなる場合があります。
必要書類
使用者(会社)への提出書類
- 育児休業申出書(会社所定の様式、または厚生労働省のモデル様式)
- 母子健康手帳の写しまたは出産予定を証明する書類
- 有期契約の場合:雇用契約書の写し(雇用継続見込みの確認のため)
ハローワーク(給付金申請)への提出書類
育児休業給付金の申請は、原則として使用者(会社)を通じてハローワークに提出します。
- 育児休業給付金支給申請書(初回・以降2か月ごと)
- 育児休業給付受給資格確認票(初回のみ)
- 賃金台帳の写し・出勤簿(被保険者期間確認用)
- 母子健康手帳の写し(子の生年月日確認)
- 振込先口座の通帳の写し
有期契約労働者の場合、初回申請時にハローワークから雇用継続見込みの確認を求められることがあります。使用者が雇用継続見込みを証明する書類(更新通知書など)を準備しておくとスムーズです。
企業の人事担当者が注意すべきポイント
育休申出を断ることができる条件の厳格化
2022年改正により、使用者が育休申出を拒否できる条件は大幅に限定されました。有期契約労働者からの申出を断れるのは、前述の法定除外要件に該当する場合のみです。
「有期契約だから」「更新回数が少ないから」という理由だけでは申出を拒むことはできません。誤って断った場合、育介法違反として都道府県労働局の指導対象となり、企業名の公表(育介法第56条の2)につながる可能性があります。
雇用契約書の整備と不更新条項の取り扱い
2024年4月の労働条件明示義務の強化に伴い、更新上限の記載が増加していますが、この記載が育休申出に与える影響を人事担当者は正しく理解する必要があります。
育休申出を受けた後に不更新通知を行うことは、不利益取扱いとして問題となる可能性があります。育休申出の前後で雇用条件の扱いに差が生じないよう、就業規則・雇用契約書の整合性を社会保険労務士と定期的に確認することを強く推奨します。
育休取得の促進と職場環境の整備
2023年4月以降、常時雇用労働者数が1,000人超の企業には育休取得率等の公表義務が課されています(育介法第22条の2)。有期契約労働者の育休取得実績も取得率の算定に含まれるため、正確な運用が求められます。
企業が育休申出を適切に受け付け、法定要件に基づいた判断を行うことは、法的リスク低減だけでなく、採用・定着の競争力向上にもつながります。人事部門での体制整備を今一度確認することをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 入社して6か月のパートですが、育休を申請できますか?
現行制度では「更新回数」や「継続雇用1年以上」は除外要件ではありません。雇用契約書に不更新条項がなく、子の出生予定日の1年前時点での雇用期間が1年未満であっても、更新の見込みがあれば対象となる可能性があります。まず雇用契約書を確認し、不明な場合は会社の人事部門または最寄りの都道府県労働局にご相談ください。
Q2. 雇用契約書に「更新は保証しない」と書いてあります。育休は取れますか?
「更新は保証しない」という記載は、「更新しない」という明確な不更新条項とは異なります。この場合、育休の対象外とは判定されず、原則として申出が可能です。ただし、使用者が育休期間中の雇用継続について消極的な態度を示している場合は、ハローワークや労働局への相談をお勧めします。
Q3. 派遣社員です。育休を申請する場合、どこに申し出ればいいですか?
派遣社員の育休申出先は派遣元(派遣会社)です。派遣先企業ではありません。派遣元との雇用契約の内容(不更新条項の有無・雇用期間)に基づいて育休対象かどうかが判定されます。申出後、派遣元が育児休業給付金の申請手続きを代行します。
Q4. 更新上限が「3回」と記載されており、今回が3回目の更新です。育休は取れますか?
3回目の更新が最後の更新であることが契約書に明記されている場合、実質的に雇用満了が明らかな状態とみなされ、育休対象外となる可能性があります。ただし、育休申出後に不更新を通知することは不利益取扱いに当たる可能性があるため、申出前の時点での契約書記載内容が重要です。具体的な判断は社会保険労務士または労働局にご確認ください。
Q5. 育休取得中に契約が満了した場合、給付金はどうなりますか?
育休開始後に有期契約が満了した場合、その時点で育休は終了します。ただし、育休終了前に支給が確定している育児休業給付金については、満了日時点までの期間分が支給されます。雇用が終了するため、以降の給付金は受け取れません。なお、育休取得を理由とした雇止めは育介法に違反するため、理由の確認が必要です。
Q6. 社内の就業規則に「正社員のみ育休対象」と書かれています。法律違反ですか?
育介法は就業規則より上位の法令です。就業規則が「正社員のみ育休対象」と定めていても、法律上の要件を満たす有期契約労働者には育休申出の権利があります。このような就業規則の定めは育介法に違反しており、都道府県労働局への申告の対象となります。
まとめ
2022年の育介法改正により、有期契約労働者の育休取得のハードルは大幅に引き下げられました。「更新回数が少ない」「継続雇用が1年未満」というだけでは育休対象外にはなりません。
現行制度で対象外となる主な条件は以下の3点に整理できます。
- 日雇い労働者(法律上の明示的除外)
- 雇用契約書に不更新条項が明記されている(または更新上限に達している)
- 子の出生予定日1年前時点で雇用期間1年未満かつ雇用継続見込みなし
これらに該当しない限り、契約社員・パート・派遣社員であっても育休を申請する権利があります。「自分は対象外かもしれない」と思い込む前に、まず雇用契約書の記載内容を確認し、不明点は都道府県労働局・ハローワーク・社会保険労務士に相談することを強くお勧めします。
企業の人事担当者は、有期契約労働者からの育休申出に対して、法定除外要件に該当するかどうかを正確に判定し、不当な拒否が不利益取扱いに当たることを十分に認識した上で対応してください。育休申出から取得にいたるプロセス全体を通じて、法令を遵守した適正な対応が求められています。
参考法令・資料
– 育児・介護休業法(令和4年改正版)第2条・第5条・第16条・第22条の2・第56条の2
– 雇用保険法 第61条の7
– 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」(2022年改正対応版)
– 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
– 厚生労働省「有期雇用労働者の育児・介護休業取得に関するQ&A」


