育休を取りたいけれど、育休給付金は受給しなくていい——そんな状況は意外と多く存在します。しかし「給付金なしでも育休は取れるのか?」「申請手続きは給付金ありと何が違うのか?」といった疑問を持つ方は少なくありません。
結論から言えば、育休給付金を受けなくても育休を取得することは完全に可能です。育休の取得権と給付金の受給権は、法律上まったく別の権利として設計されています。
本記事では、育休給付金を受けずに育休を取る場合の申請手続き・必要書類・注意点を、労働者・企業の人事担当者の両方の視点から詳しく解説します。
育休給付金を受けずに育休を取ることはできる?基本知識を整理
育休の根拠法(育児・介護休業法)と給付金の根拠法(雇用保険法)の違い
育休と育休給付金は、それぞれまったく異なる法律に根拠を置いています。この点を理解するだけで、多くの疑問が解消されます。
| 項目 | 根拠法 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 育休の取得 | 育児・介護休業法 | 第5条 | 労働者が事業主に育休を申し出る権利 |
| 育休給付金の受給 | 雇用保険法 | 第61条の4〜第61条の7 | 雇用保険被保険者に支給される給付金 |
| 給付金の詳細規定 | 雇用保険法施行規則 | 第94〜99条 | 支給額・申請方法・期限など |
育休の取得は「育児・介護休業法」が定める労働者の権利であり、雇用保険の加入状況や給付金の受給とは無関係です。一方、育休給付金は「雇用保険法」が定める給付制度であり、一定の受給要件を満たした場合にはじめて受け取れるものです。
つまり、「育休を取得すること」と「給付金を申請すること」は完全に独立した行為であり、育休を取得しながら給付金の申請をしないという選択は、法律上まったく問題ありません。
給付金を受けないことを選ぶ主なケースとは
実際に育休給付金の受給を希望しない、あるいは受給できないケースにはどのようなものがあるでしょうか。主な例を整理します。
配偶者の扶養に入る予定の場合
育休中は無収入(または低収入)になることから、配偶者の社会保険上の扶養に入るケースがあります。このとき、育休給付金を受給すると収入とみなされ、扶養認定の基準(年間130万円未満など)に影響が出る場合があります。給付金を受給しないことで、扶養に入りやすくなるケースがあります。
育休中の就業で十分な収入が見込まれる場合
産後パパ育休(出生時育児休業)などを活用しながら、育休中に一定時間就業する予定がある場合、給付金の受給要件が複雑になることを嫌って、あえて申請しないケースもあります。
雇用保険の受給要件を満たしていない場合
育休給付金を受給するためには、「育休開始前の2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あること」などの要件があります。この要件を満たさない場合、給付金は受け取れませんが、育休自体は取得できます。
税務・行政手続きの煩雑さを避けたい場合
給付金受給に伴う確定申告・扶養控除の見直しなど、税務処理の複雑さを避けるため、あえて受給しない選択をする方もいます。
育休を取得できる労働者の条件(給付金の有無にかかわらず)
育休取得に必要な3つの要件
育休給付金の有無にかかわらず、育休を取得するためには以下の要件を満たす必要があります。
要件①:雇用形態・性別を問わず取得可能
正社員だけでなく、パート・アルバイト・派遣社員・契約社員も取得できます。2022年の育児・介護休業法改正により、男性も含めすべての労働者が育休を取得する権利を持っています。
要件②:同一事業主に1年以上継続して雇用されていること
申出時点で、同じ事業主のもとで1年以上継続して雇用されている必要があります。ただし、2022年の法改正後、有期雇用労働者については「1年以上継続雇用」要件が原則廃止され、取得しやすくなっています。
要件③:申出時点で雇用契約が存続していること
育休の申出をする時点で、雇用契約が継続していることが必要です。すでに退職が決まっている状態では、原則として取得できません。
育休を取得できないケース(除外要件)
以下に該当する場合は、育休の取得が認められないことがあります。
- 雇用契約期間が明示されており、かつ1年以内に契約終了が予定されている場合(有期雇用労働者の一部)
- 育休終了予定日から2週間以内に退職する予定がある場合
- 週の所定労働時間が20時間未満の勤務者(一部例外を除く)
- 労使協定によって除外されている、入社1年未満の有期雇用労働者
なお、「給付金の受給要件を満たさない」こと自体は、育休取得の除外要件にはなりません。たとえ給付金がもらえない状況でも、上記の取得要件を満たしていれば育休は取得できます。
給付金受給要件と育休取得要件の違いを比較
混乱しやすい両者の要件を、一覧で整理します。
| 要件の種類 | 育休取得(育介法) | 給付金受給(雇用保険法) |
|---|---|---|
| 雇用形態 | 正規・非正規問わず | 雇用保険被保険者であること |
| 雇用期間 | 原則1年以上(有期は例外あり) | 育休前2年間で11日以上の月が12か月以上 |
| 申出先 | 事業主 | ハローワーク(事業主経由) |
| 申請義務 | 取得を希望する場合は申出必要 | 任意(取得しても申請しなくてよい) |
| 受給の有無 | 取得権に影響しない | 要件を満たすかどうかで決まる |
育休給付金なしで育休を取る場合の申請手続き
事業主への育休申出の流れ
給付金を受けない場合でも、育休の取得手続きそのものは変わりません。育児・介護休業法に基づき、事業主への申出を行います。
【申出の流れ】
STEP 1:育休開始予定日の1か月前(産後パパ育休は2週間前)までに
事業主(会社)に書面で申出を行う
↓
STEP 2:事業主は申出を受け付ける
(育児・介護休業法第6条に基づき、原則として拒否できない)
↓
STEP 3:申出後、育休取得権が成立
(重大な事情変更がない限り撤回不可)
↓
STEP 4:予定日に育休開始
↓
STEP 5:育休終了後、職場復帰
給付金を受けない場合の最大の違いは、STEP 4以降にハローワークへの給付金申請手続きが発生しない点です。通常、給付金を受ける場合は育休開始から2か月ごとにハローワークへの申請(事業主経由)が必要ですが、受給しない場合はこの手続きが一切不要になります。
必要書類の一覧
育休給付金を受けない場合に、事業主(会社)に提出する書類は以下の通りです。
| 書類名 | 提出先 | 提出時期 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 育児休業申出書 | 事業主 | 育休開始予定日の1か月前まで | 法定様式なし。会社の書式でも可 |
| 出生証明書類の写し | 事業主 | 申出時または出生後速やかに | 母子健康手帳の子の出生記録欄など |
| 育休期間変更申出書(必要な場合) | 事業主 | 変更予定日の2週間前まで | 期間を変更する場合のみ |
| 育休終了申出書(必要な場合) | 事業主 | 育休終了日の1か月前まで | 途中終了する場合のみ |
給付金を受ける場合と異なり、ハローワーク関連の書類(育児休業給付受給資格確認票、育児休業給付金支給申請書など)は一切不要です。
会社によっては独自の様式や社内手続きが定められている場合があります。人事部・総務部に確認してください。
申出書の記載例・ポイント
育児休業申出書には一般的に以下の内容を記載します。
- 申出年月日
- 申出者の氏名・所属・社員番号など
- 子の氏名・生年月日(または出生予定日)
- 育休開始予定日
- 育休終了予定日(最長で子が1歳に達する日の前日。パパ・ママ育休プラス制度利用時は1歳2か月まで可能)
- 給付金申請を希望しない旨(会社が確認するための記載。必須ではないが明記しておくとトラブルを防げる)
給付金を受けない場合に変わること・変わらないこと
変わらないこと(育休取得権は完全に保護される)
給付金を受けないからといって、育休取得に関わる権利が損なわれることはありません。以下はすべて給付金の有無にかかわらず保障されます。
社会保険料の免除
育休中は、健康保険・厚生年金保険の保険料が被保険者・事業主双方について免除されます(健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条の2)。これは育休給付金の受給とは無関係に適用される制度です。育休開始月から終了月の前月まで、または終了日が属する月の翌月から保険料の納付義務が発生します。
育休中の雇用保険被保険者資格の継続
育休中も雇用保険の被保険者資格は維持されます。給付金を受けないことで被保険者資格が失われることはありません。
不利益取扱いの禁止
事業主は育休取得を理由に、解雇・降格・減給などの不利益な取扱いをしてはなりません(育児・介護休業法第10条)。給付金を受けない場合も同様に保護されます。
ハラスメント防止措置
事業主は、育休取得に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ)を防止する措置を講じる義務があります。
変わること(主に給付金・手続き関係)
| 項目 | 給付金あり | 給付金なし |
|---|---|---|
| 育休中の収入 | 賃金の最大80%(最初の180日)、その後67% | 原則ゼロ(育休中就業がなければ) |
| ハローワーク手続き | 2か月ごとに申請が必要 | 不要 |
| 確定申告 | 給付金受給状況によって対応が異なる | 給付金に関する申告は不要 |
| 扶養への影響 | 給付金が収入としてカウントされる場合あり | 収入ゼロのため扶養認定を受けやすい場合あり |
企業(人事担当者)が知っておくべき対応ポイント
給付金受給を希望しない従業員への対応
従業員から「育休は取りたいが、給付金は申請しない」という申出があった場合、人事担当者は以下の点を確認・対応する必要があります。
①育休申出の受付と記録
育児・介護休業法第6条に基づき、要件を満たす従業員の育休申出は原則受け付けなければなりません。給付金申請の有無は、受付の可否とは無関係です。申出書を受領したら、日付・内容を記録し、写しを従業員に交付してください。
②社会保険料免除手続き
給付金申請の有無にかかわらず、育休中の社会保険料免除手続きは会社(事業主)が年金事務所・健康保険組合に対して行う必要があります。従業員が給付金を受けない場合でも、この手続きを怠ると従業員が不利益を被るため、必ず対応してください。
③ハローワーク手続きの省略
給付金申請がない場合、事業主はハローワークへの「育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書」の提出が不要になります。その分の事務負担は軽減されます。
④育休取得の意思確認(個別周知・意向確認)
2022年法改正により、事業主は妊娠・出産を申し出た従業員に対して、育休制度の個別周知と育休取得の意向確認を行う義務があります(育児・介護休業法第21条)。この際、給付金の仕組みについても情報提供することが望ましいです。
給付金受給を促すべきか?
人事担当者の立場では、給付金を受給しないことを希望する従業員に対して「本当に受給しなくてよいか」を丁寧に確認することが重要です。
理由として、給付金の受給資格がある場合にあえて受給しないことは、従業員にとって経済的な損失になり得ます。特に、「扶養に入れると思っていたが、実際には入れなかった」「育休中の就業計画が変わり収入がなくなった」などのケースでは、後から給付金申請をしたくなる場合もあります。
なお、育休給付金の申請期限は、育休終了日(子が1歳に達する日の前日など)から2年以内です。育休取得後も一定期間は申請が可能であるため、受給しないと決めた場合でも期限を把握しておくと安心です。
給付金を受けない育休中の家計・生活設計
育休中の収入源を確認する
給付金なしで育休を取る場合、育休中の収入はゼロ(または著しく少なく)なる可能性があります。事前に以下の収入源・支出削減を整理しておきましょう。
収入源の確認
- 配偶者・パートナーの収入
- 育休中の一時的な就業(産後パパ育休期間中の就業上限:最大28日間の半分まで)
- 会社からの育休中手当(法的義務はないが、会社独自制度がある場合あり)
- 貯蓄の取り崩し
支出削減の確認
- 社会保険料の免除(健康保険・厚生年金)
- 所得税・住民税の軽減(収入がなければ翌年の住民税が軽減される可能性あり)
- 育休中の通勤費・外食費の削減
扶養に入る場合の注意点
育休給付金を受けない場合、育休中の収入がゼロになれば配偶者の社会保険上の扶養(健康保険の被扶養者)に入れる可能性があります。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 扶養認定の基準は「今後12か月間の見込み収入が130万円未満」が基本です。育休開始後の見込み収入で判断されます。
- 育休前の給与収入が高い場合、育休開始直後は扶養に入れないケースもあります。
- 配偶者の勤務先の健康保険組合によって基準が異なる場合があります。必ず配偶者の勤務先に確認してください。
- 育休終了後に職場復帰すると、扶養から外れる手続きが必要です。
よくある疑問をQ&Aで解決
Q1. 給付金の受給要件を満たしていても、申請しないことは可能ですか?
はい、可能です。育休給付金の申請は義務ではありません。受給要件を満たしていても、申請しなければ給付金は支給されません。ただし、育休終了日から2年以内であれば申請できるため、後から気が変わった場合にも対応可能です。
Q2. 育休を取得した後から給付金の申請をすることはできますか?
可能です。給付金の申請期限は、各支給単位期間の末日の翌日から起算して2年以内です。ただし、申請が遅れると受給できなくなる期間が発生する場合があるため、受給を希望する場合は早めに申請することをお勧めします。また、初回申請の際には「育児休業給付受給資格確認票」の提出も必要なため、ハローワークまたは事業主に相談してください。
Q3. 給付金を申請しない場合、育休中の社会保険料免除は受けられますか?
はい、受けられます。社会保険料の免除は育児・介護休業法に基づく育休取得の事実に対して適用されるものであり、給付金の受給とは無関係です。事業主が年金事務所・健康保険組合に申請することで免除が適用されます。
Q4. 会社から「給付金を申請しないなら育休を認めない」と言われました。これは違法ですか?
違法です。育休の取得は育児・介護休業法に基づく労働者の権利であり、給付金の申請有無は取得の条件になりません。このような対応は育介法違反となる可能性があり、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談することができます。
Q5. パパ育休(産後パパ育休)でも給付金なしで取得できますか?
はい、可能です。産後パパ育休(出生時育児休業)も育児・介護休業法に基づく制度であり、給付金(出生時育児休業給付金)の有無にかかわらず取得できます。取得の申出は育休開始予定日の2週間前までに行う必要があります。
Q6. 育休給付金を受けないと、将来の年金に影響しますか?
育休中は社会保険料が免除されますが、厚生年金の被保険者期間としてはカウントされます(免除期間も保険料を納めたとみなされます)。この点は給付金の有無にかかわらず同様です。ただし、育休中の収入がゼロになることで、育休終了後の年金額の計算に影響が出る場合がありますので、長期的な資産計画の観点からも検討してください。
まとめ
育休給付金を受けずに育休を取ることは、法律上まったく問題なく可能です。育休の取得権(育児・介護休業法)と給付金の受給権(雇用保険法)はまったく別の制度であり、一方が他方の前提条件になることはありません。
手続き上の主なポイントを改めて整理します。
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 育休申出 | 開始予定日の1か月前(産後パパ育休は2週間前)までに事業主へ書面で申出 |
| 必要書類 | 育児休業申出書、出生証明書類の写し(給付金申請書類は不要) |
| 社会保険料免除 | 給付金有無にかかわらず適用される。事業主が手続きを行う |
| ハローワーク手続き | 給付金を受けない場合は一切不要 |
| 申請の気変わり | 育休終了から2年以内は申請可能。早期申請が望ましい |
給付金を受けない選択には、扶養への影響・税務処理の簡素化などのメリットがある一方、育休中の収入が大幅に減少するリスクもあります。経済的な計画をしっかり立てた上で判断し、不明点は会社の人事担当者やハローワーク、社会保険労務士に相談することをお勧めします。
参考法令・情報源
- 育児・介護休業法(平成3年法律第76号)
- 雇用保険法(昭和49年法律第116号)
- 雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)
- 厚生労働省「育児・介護休業法について」
- ハローワークインターネットサービス「育児休業給付の内容と支給申請手続き」

