育休承認書の発行義務と法的効力|企業担当者向け完全ガイド

育休承認書の発行義務と法的効力|企業担当者向け完全ガイド 企業の育休対応

育休の申請を受けた企業担当者から、「承認書を発行しなければならないのか」「そもそも承認書と受理通知書はどう違うのか」という疑問をよく耳にします。この疑問の背景には、育休が「企業が承認する制度」ではなく「労働者が申し出る制度」という法的な本質への理解不足があります。

実は、育児・介護休業法第6条では、労働者が育休を申し出た時点で、企業の判断を経ずに法的な休業権が自動的に発生することが定められています。つまり、「承認」という概念自体が法律上存在しないのです。

本記事では、育児・介護休業法の条文を軸に、「承認書」と「受理通知書」の違い、書面発行の義務の有無、発行しなかった場合のリスク、そして実務で使える通知書の書き方まで、企業の人事担当者が知るべき情報を体系的に解説します。


育休の「承認書」とは何か?そもそも企業が承認する制度ではない

項目 承認書 受理通知書
法的性質 法律上存在しない概念 法律で発行が義務付けられている
根拠法令 なし 育児・介護休業法第6条
権利発生のタイミング 企業の承認時 労働者の申出時(自動発生)
企業の義務 法的義務なし 発行義務あり
発行しない場合のリスク 法的リスク低い 指導・勧告・罰金のリスク

まず最初に、育休制度の法的本質を正確に理解することが重要です。育休は「企業が承認してはじめて取得できる制度」ではありません。労働者が申し出た時点で、法律上の休業権が自動的に発生する「申出制度」です。

この点を誤解していると、企業側が「申請を検討します」「上長の承認が必要です」などと不適切な対応を取ってしまうリスクがあります。また、担当者が「承認書を発行しなければならないのか」と迷う原因にもなります。

「承認書」と「受理通知書(申出受理通知書)」の違い

実務の現場では「承認書」と「受理通知書(育児休業申出受理通知書)」が混同されるケースが多く見られます。しかし、この2つは法的な意味がまったく異なります。

書類名 法的位置づけ 意味
承認書 法定外の書類 「企業が許可した」という意味合いを持ち、育休の法的性質と矛盾する
受理通知書(育児休業申出受理通知書) 法令上推奨される書類 「申出を受け付けた」という事実確認の書類であり、法的に適切な名称

「承認書」という名称自体が問題になりえます。承認という言葉は「企業の裁量で許可する」という意味を含むため、育休取得が労働者の権利であるという法的性質と矛盾します。実務では「育児休業申出受理通知書」または「育児休業開始通知書」という名称を使うことが適切です。

厚生労働省が公表している就業規則のモデル様式でも、「受理通知書」という名称が採用されており、行政の立場からも「承認書」という表現は使われていません。

育児・介護休業法 第6条が定める「申出」の仕組み

育休の取得を支える根拠法令は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」です。

第6条第1項では、事業主は労働者からの育児休業の申出を拒否できないことが原則として定められています。具体的には、次の場合にのみ申出を拒否(不受理)できます。

  • 雇用された期間が1年未満の労働者(労使協定を締結している場合)
  • 申出の日から1年(1歳6か月・2歳の場合は6か月)以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者
  • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者(労使協定を締結している場合)

これら以外の申出は、企業は受理しなければなりません。法律の構造上、「企業が承認する・しない」という判断の余地はなく、要件を満たした労働者の申出は自動的に効力を発生させます。

つまり、育休申出受理通知書は「承認した証明」ではなく、「法的権利の行使を受け付けた事実の確認」にすぎません。この本質的な違いを企業担当者は必ず理解しておく必要があります。


企業に「承認書」の発行義務はあるか?法律上の正確な解釈

「受理通知書を必ず発行しなければならないのか」という疑問は、多くの企業担当者が持つ核心的な問いです。結論から言えば、法律の条文上は書面発行を「義務」と明記した規定は存在しません。しかし、実務上は発行しないことに大きなリスクが伴います。

育児・介護休業法上の書面化義務の有無

育児・介護休業法の条文を精査すると、「企業は受理通知書を書面で交付しなければならない」という直接的な義務規定は見当たりません。

ただし、厚生労働省の「育児・介護休業等に関する規則の規定例」および行政の指針では、申出を受理した際に書面で通知することが強く推奨されています。また、育児・介護休業法施行規則では、事業主は労働者からの申出に対し、申出を受けた旨を記録しておく義務が実質的に課されていると解釈されます。

加えて、2022年の育児・介護休業法改正では、産後パパ育休(出生時育児休業)の創設に伴い、申出期限や手続きの書面化に関する要件が強化されました。申出受付に関する事業主の対応記録を整備することは、法令遵守の観点からも不可欠になっています。

労使協定を締結している場合には、その内容を書面で管理・保存する義務があり、これも実質的に書面管理の重要性を高めています。

書面を発行しなかった場合の企業リスク

書面(受理通知書)を発行しない場合、企業には次のようなリスクが生じます。

①労使トラブルのリスク

「休業を申し出た」「申し出ていない」という事実認定を巡るトラブルが発生しやすくなります。書面がなければ、申出の日時・休業開始予定日・期間などの合意内容を立証できず、労働者側に有利な判断が下されるリスクがあります。

②行政指導のリスク

都道府県労働局や労働基準監督署による立入調査・指導の対象となった場合、申出受理の記録がなければ「育児・介護休業法に基づく適切な手続きが実施されていない」として行政指導を受ける可能性があります。厚生労働省は育休取得率の向上を国策として推進しており、企業の手続き不備に対する行政の目は年々厳しくなっています。

③損害賠償リスク

書面による確認がないために育休開始日や復帰予定日に関して認識のズレが生じ、結果として労働者に不利益が生じた場合(例:給付金受給の遅延、社会保険の手続きミス)、企業は損害賠償請求を受けるリスクがあります。

④ハローワーク手続きへの影響

育児休業給付金の申請には、雇用保険の手続きとして「育児休業給付受給資格確認票」の提出が必要です。この手続きを正確に進めるためにも、休業期間・開始日・終了予定日が書面で確定していることが前提となります。

2022年育児・介護休業法改正で変わった企業の対応義務

2022年4月・10月の段階的施行により、育児・介護休業法は大幅に改正されました。企業の手続き負担に直結する主な変更点は以下のとおりです。

①個別周知・意向確認義務の新設(2022年4月施行)

妊娠・出産の申出をした労働者に対し、事業主は育休制度に関する情報を個別に周知し、取得の意向を確認する義務が課されました。この対応は書面・面談・電子メール等の方法で行う必要があり、対応記録の保存が実務上不可欠です。

②産後パパ育休(出生時育児休業)の創設(2022年10月施行)

子の出生後8週間以内に最大4週間取得できる新制度が創設されました。申出期限は原則として休業の2週間前まで(通常の育休は1か月前)と短縮されており、企業が迅速に受理通知書を発行できる体制を整える必要があります。

③育休取得率の公表義務(2023年4月施行・常時1,000人超企業)

従業員1,000人超の企業は、育休取得率を毎年公表することが義務付けられました。書面による申出管理が適切でないと、取得実績の正確な把握・公表が困難になります。


育休申出受理通知書の必須記載事項と書き方

ここからは、実際に受理通知書を作成する際に押さえるべき記載事項を解説します。厚生労働省が公表しているモデル様式を参考にしながら、企業独自の様式を作成することが一般的です。

記載必須の7項目

受理通知書には最低限、以下の7項目を記載することが推奨されます。

① 申出者の氏名・所属
誰が申し出たかを明確にします。社員番号や所属部署も記載すると管理しやすくなります。

② 申出日(受理日)
育休の申出が行われた日付を記録します。申出期限(通常は休業開始予定日の1か月前)の確認にも活用されます。

③ 育児休業の対象となる子の情報
子の氏名(または出生予定日)・続柄を記載します。

④ 休業開始予定日と終了予定日(休業期間)
この2点は最も重要な記載事項です。後述する給付金申請・社会保険手続きの基準となるため、正確に記載してください。

⑤ 休業中の給与の扱い
原則として無給である旨(または有給の場合はその条件)を明記します。ここが曖昧だと労使トラブルの原因になります。

⑥ 社会保険料の免除について
育休期間中は健康保険・厚生年金保険の保険料が免除されます(事業主・労働者の両方)。この旨を記載し、労働者に情報提供することが親切な対応です。

⑦ 育児休業給付金に関する案内
雇用保険の被保険者である労働者は、育児休業給付金を受給できます。受給手続きについて案内する旨を記載し、ハローワークへの届出スケジュールを共有しておきましょう。

育児休業給付金の計算式と支給額の目安

受理通知書の発行と並行して、労働者に育児休業給付金の概要を案内することが実務上重要です。

期間 支給率(休業開始前の賃金日額×支給日数)
育休開始から180日(約6か月)まで 67%
181日目以降(最大1歳まで) 50%

計算例:
休業開始前の月収が30万円の場合
– 最初の6か月:30万円 × 67% = 201,000円/月
– 6か月以降:30万円 × 50% = 150,000円/月

なお、2025年4月以降(施行時期は確認が必要)、一定の条件を満たす場合に給付率が最大80%に引き上げられる予定です(両親ともに育休を取得し、一定期間育休を取得した場合)。

支給要件として、育休開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上の月が12か月以上あることが必要です。ハローワークへの申請は、休業開始日から4か月を経過する月の末日が期限となります。

記載で注意すべき3つのポイント

注意点① 休業期間の延長手続きを明記する

1歳到達日以降も保育所に入所できない等の事情がある場合、育休を最大2歳まで延長できます。この場合は改めて申出が必要である旨を通知書内に記載しておくと、労働者と企業双方の認識齟齬を防げます。

注意点② 社保の免除申請は企業が行う

育休期間中の社会保険料免除は、事業主が年金事務所(または健康保険組合)に「育児休業等取得者申出書」を提出することで適用されます。労働者が自ら手続きするものではないため、受理通知書で「会社が手続きします」と明記しておくと親切です。

注意点③ 電子メール等での交付も可

2022年の改正対応として、書面の交付に加え、電子メール・SNS等による通知も認められています(労働者が同意した場合)。ただし、送受信記録が残る方法を選ぶことが重要です。


育休申請を受理できないケースと不受理の手続き

「申出を拒否できる場合はあるのか」という疑問も、企業担当者から多く寄せられます。前述のとおり、法律上は限定的な場合にのみ不受理が認められます。

適法な不受理事由

以下の条件をすべて満たす場合のみ、申出を拒否することができます。

条件①:労使協定の締結が前提
不受理を行うためには、事前に労使協定(労働組合または労働者代表との書面協定)を締結していることが必要です。労使協定なしに申出を拒否することは違法です。

条件②:対象となる労働者の範囲
以下の労働者については、労使協定がある場合に申出を拒否できます。
– 雇用された期間が1年未満の労働者
– 申出日から1年以内(1歳6か月・2歳延長の場合は6か月以内)に雇用関係が終了することが明らかな労働者
– 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

不受理通知書の発行

申出を不受理とする場合も、書面による不受理通知書の発行が強く推奨されます。口頭での拒否は後日のトラブル原因となるため、以下の内容を明記した書面を交付してください。

  • 不受理の理由(具体的な法的根拠・労使協定の存在)
  • 対象となる法令条文(育児・介護休業法第6条第1項)
  • 労働者が異議を申し出る窓口(都道府県労働局 雇用環境・均等部)

不当な不受理は、育児・介護休業法違反となり、都道府県労働局長による勧告・公表の対象となります。悪質な場合は過料の制裁も設けられています。


育休手続きの全体フローと企業担当者のチェックリスト

企業担当者が迷わずに動けるよう、申出受付から復職まで全体の流れを整理します。

申出受付から受理通知書発行までの標準フロー

STEP 1:労働者から育児休業申出書を受領
         ↓ 受領日を必ず記録する
STEP 2:対象者要件の確認(雇用期間・所定労働日数等)
         ↓ 不受理事由の有無を確認
STEP 3:休業開始予定日・終了予定日の確認・調整
         ↓ 原則として希望どおりに認める
STEP 4:育児休業申出受理通知書の作成・交付
         ↓ 申出日から2週間以内が目安
STEP 5:社会保険料免除の申出(年金事務所等)
         ↓ 休業開始月中に手続き
STEP 6:雇用保険の育児休業給付の申請
         ↓ ハローワークへ(休業開始後4か月以内)
STEP 7:復職前の連絡・復帰日の確認
         ↓ 復帰1か月前を目安に確認

担当者チェックリスト

  • [ ] 育児休業申出書を書面で受領し、受領日を記録した
  • [ ] 対象者要件・不受理事由を確認した
  • [ ] 育児休業申出受理通知書を作成・交付した
  • [ ] 受理通知書に7項目(期間・給与・社保・給付金等)を記載した
  • [ ] 社会保険料免除の申出を年金事務所(または健康保険組合)に行った
  • [ ] ハローワークへの育児休業給付の申請書類を準備した
  • [ ] 個別周知・意向確認の記録を保存した(2022年改正対応)
  • [ ] 就業規則・育児休業規程が最新の法令に対応しているか確認した

よくある質問と担当者が迷いやすいポイント

Q1. 育休の申出があった場合、上司の承認を得る内部手続きは必要ですか?

企業内部の手続きとして「上長への報告」は問題ありませんが、上司が育休を「不承認」にすることは法的に許されません。上司の承認を育休取得の条件にすることは、育児・介護休業法違反となります。社内規程に「上長承認」と記載している企業は、早急に規程を見直してください。

Q2. 申出の締め切りは?申出が遅れた場合はどうなりますか?

通常の育児休業は休業開始予定日の1か月前までに申し出ることが原則です。産後パパ育休(出生時育児休業)は2週間前までです。ただし、申出が遅れた場合でも、企業は申出を拒否することはできません。申出が遅れた場合は、企業が指定できる休業開始日(最大1か月後に設定できる)のルールが適用される場合があります。

Q3. パートタイム・有期雇用の社員も申出できますか?

2022年の改正により、有期雇用労働者が育休を取得するための要件が緩和されました。改正前は「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件がありましたが、2022年4月1日以降は「雇用期間1年未満」を理由とした不受理は、労使協定がなければ行えません。パートタイム社員も原則として申出権を持ちます。

Q4. 育休中に社会保険料はどうなりますか?企業負担分も免除されますか?

育休期間中(月の末日が育休期間中の場合)は、労働者負担分・事業主負担分の両方が免除されます。免除の手続きは事業主が年金事務所等に「育児休業等取得者申出書」を提出することで行います。免除期間は被保険者の年金加入期間として算入されるため、将来の年金額に影響しません。

Q5. 育休申出受理通知書の様式は決まっていますか?

法定の様式は定められていません。厚生労働省が公表している「育児・介護休業等に関する規則の規定例」のモデル様式を参考に、各企業で独自に作成することが一般的です。記載が必須な7項目(本記事参照)を網羅していれば、書式は自由です。

Q6. 育休を繰り返し取得するケースへの対応は?

2人目・3人目の育休申出も、同じ法的手続きに従って受理する義務があります。また、育休を取得したこと・取得しようとしたことを理由とした不利益取扱いは禁止されています(育児・介護休業法第10条)。繰り返し申出を行う社員に対して昇進・昇給等で不利益な扱いをすると、法律違反となります。

Q7. 受理通知書を発行しないまま育休を開始させた場合、法的問題はありますか?

法的には問題が生じる可能性があります。特に、後日「休業開始日」や「終了予定日」について認識に相違があった場合、給付金申請や復職時点でトラブルが発生します。遡ってでも受理通知書を作成・交付することをお勧めします。


まとめ:企業担当者が押さえるべき3つのポイント

本記事の内容を最後に整理します。

ポイント①:育休は「承認制度」ではなく「申出制度」

育休は労働者が申し出た時点で権利が発生します。「承認書」という名称は法的性質と矛盾するため、正確な名称である「育児休業申出受理通知書」を使用してください。企業の裁量の余地はなく、要件を満たす申出は必ず受理する義務があります。

ポイント②:書面発行は義務ではないが、リスク管理上必須

法律上の明文規定はないものの、書面を発行しないことはトラブル・行政指導・損害賠償リスクに直結します。申出受領後、速やかに受理通知書を交付する運用を確立してください。特に、休業期間・給与・社保・給付金情報の7項目は必ず記載しましょう。

ポイント③:2022年改正で企業の義務が大幅に強化された

個別周知・意向確認義務、産後パパ育休への対応など、企業が対応すべき手続きは増加しています。就業規則・育児休業規程が改正後の法令に対応しているか、今一度確認することをお勧めします。特に「上長承認」などの不適切な条項がないかチェックしてください。

育休手続きの適切な運用は、企業の法的リスクを下げるだけでなく、優秀な人材の定着・採用力の向上にも直結します。本記事が企業担当者の実務の一助になれば幸いです。


関連法令・参考資料

  • 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)
  • 厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例(令和4年10月改定版)」
  • 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続き
  • ハローワークインターネットサービス(雇用保険手続き案内)
  • 都道府県労働局雇用環境・均等部(育児・介護休業法に関する相談窓口)

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