育休中のボーナス・年末年始手当カットは違法?支給条件を解説

育休中のボーナス・年末年始手当カットは違法?支給条件を解説 育児休業制度

育休の取得を決めた瞬間、多くの方が真っ先に気になるのが「ボーナスや年末年始手当はどうなるの?」という疑問です。「育休中にボーナスをカットされた」「年末年始手当が出なかった」という声はSNSでも頻繁に見かけますが、これは違法なのか、それとも適法なのか、明確に理解している方は多くありません。

本記事では、育休中のボーナス・年末年始手当の扱いについて、法的根拠から就業規則の確認ポイント、不利益取扱いの判断基準まで、育休取得者・企業の人事担当者の双方が正確に理解できるよう徹底解説します。


育休中にボーナス・年末年始手当がカットされるのはなぜか

「育休中にボーナスがなかった」「年末年始手当が支給されなかった」という経験をした方は少なくありません。しかし、これが「違法」かどうかを判断するには、まず法律がどのような構造になっているかを正しく理解することが不可欠です。

育児・介護休業法第12条が定める「無給の原則」とは

育児休業中の賃金について、育児・介護休業法第12条は次のような原則を定めています。

「育児休業期間中、企業は労働者に対して給与を支払う法的義務を負わない」

つまり、育休中は「ノーワーク・ノーペイの原則」が適用されるため、基本給はもちろん、各種手当についても企業が支払わないことは法律上許容されています。

では、育休中の収入はゼロになるのかというと、そうではありません。雇用保険から支給される育児休業給付金が補填の役割を果たします。

育児休業給付金の基本概要

項目 内容
支給機関 ハローワーク(公共職業安定所)
支給額(育休開始から180日まで) 休業開始前賃金の67%
支給額(181日目以降) 休業開始前賃金の50%
支給上限(2024年度) 67%の場合:約310,143円/月、50%の場合:約231,450円/月
申請先 事業主経由でハローワークへ申請
申請期限 支給単位期間終了翌日から2ヶ月以内

重要: 育休給付金はあくまで「雇用保険」からの給付であり、企業が支払う「給与・賞与・手当」とは完全に別の制度です。給付金が出るからといって、ボーナスや手当の扱いが変わるわけではありません。

ボーナス・年末年始手当は「法律保護外」の独立した待遇

育休中の給与支払い義務がないことは分かりましたが、ではボーナスや年末年始手当はどのように位置づけられるのでしょうか。

結論から言えば、賞与(ボーナス)も年末年始手当も、労働基準法・育児・介護休業法のいずれにも「支給を義務づける規定」は存在しません。

具体的な法的根拠の整理は以下の通りです。

項目 根拠法令 育休中の扱い
育児休業中の給与支払い 育児・介護休業法第12条 企業の給与支払い義務なし(無給が原則)
賞与の支給義務 労働基準法・育介法 法定要件なし=就業規則・給与規程で規定
年末年始手当の支給義務 労働基準法・育介法 法定要件なし=就業規則・給与規程で規定
割増賃金の基礎算定 労働基準法第37条第5項 育休期間は計算対象に含めないことが認められる

さらに、厚生労働省の通知(平成21年9月14日)でも以下のように明示されています。

「賞与について、育休取得者に対してどのような扱いをするかについては、各企業の判断に委ねられている

つまり「育休中だからボーナスをカットされた」という状況は、就業規則の規定に従った適法な処置である場合がほとんどです。ただし、後述するように「不利益取扱い」に該当するケースは別問題として扱われます。


ボーナス(冬季賞与)と年末年始手当の違いを正しく理解する

育休中の待遇を正確に把握するには、ボーナス(冬季賞与)と年末年始手当を混同しないことが重要です。企業によっては一体的に扱われることもありますが、本来は異なる性質を持ちます。

年末年始手当とは?一般的な支給額・支給時期の目安

年末年始手当とは、年末年始の繁忙期や特別休暇に対する労をねぎらう目的で支給される特別手当の一種です。

年末年始手当の一般的な概要

項目 内容
支給額の目安 3,000円〜10,000円程度(企業規模・業種によって異なる)
支給時期 12月上旬〜中旬が多い(冬季賞与と同時支給の場合もあり)
支給対象 就業規則に明記された在籍社員(正社員限定が多い)
法的根拠 なし(完全に企業裁量)
性質 業績連動ではなく「時期・在籍」による固定的手当

年末年始手当の特徴は、業績評価とは連動しない固定金額型が多い点です。冬季賞与が「評価・業績によって変動する」のに対し、年末年始手当は「在籍していれば一律支給」という設計の企業が多く見られます。

在籍条件の例: 「12月1日時点で在籍している者」「支給日において在籍中の者」など

この「支給日在籍要件」が育休取得者に影響することがあります。育休中でも在籍状態は継続しているため、支給日在籍要件のみが条件の場合は支給対象となり得ます。

冬季賞与との連動・非連動ケースと就業規則上の記載例

企業によって、冬季賞与と年末年始手当の規程の組み方は大きく2パターンに分かれます。

パターンA:賞与規程と手当規程が一体化しているケース

【就業規則記載例(一体型)】
第○条(賞与)
会社は毎年12月に冬季賞与を支給する。
支給額は基本給の●ヶ月分を基準とし、年末年始手当として
一律5,000円を加算する。なお、算定期間中に育児休業を
取得した者については、実労働日数に応じて按分計算する。

このケースでは、年末年始手当も「賞与の一部」として減額・不支給の対象となる可能性があります。

パターンB:賞与規程と手当規程が別立てのケース

【就業規則記載例(分離型)】
第○条(賞与)
冬季賞与は毎年12月に支給する。支給額は人事考課および
会社業績に応じて決定する。育児休業取得者については
算定期間の実出勤率を乗じた額を支給する。

第○条(年末年始手当)
毎年12月15日に、支給日時点で在籍する全従業員に対し
一律8,000円を支給する。

このケースでは、賞与は減額されても、年末年始手当は別途支給される可能性があります。

実務ポイント: 自社の就業規則・賞与規程・給与規程を確認し、「年末年始手当」が賞与規程の中に含まれているか、独立した手当規程として存在するかを必ず確認しましょう。


育休中のボーナス・年末年始手当、支給されるための条件

「では、育休中でもボーナスや年末年始手当を受け取ることはできるのか?」という疑問に対し、法律上の保護規定は存在しません。しかし、就業規則の内容次第では支給対象となるケースもあります。

支給対象となるための主な要件パターン

育休取得者がボーナス・年末年始手当の支給対象となりやすいケースを整理します。

① 支給日在籍要件のみが条件の場合

就業規則に「支給日時点で在籍している者に支給する」とのみ記載されている場合、育休中でも在籍状態は継続しているため、支給対象となります。

② 算定期間の出勤率要件がある場合

「算定期間の出勤率が○%以上」という要件がある場合、育休中は出勤していないため、要件を満たせず不支給または減額となる可能性があります。

ただし、産前産後休業(産休)期間については、労働基準法上の「出産に関する休業」として取り扱い方が異なる場合があるため、産休と育休を分けて確認することが重要です。

③ 算定期間の一部のみ育休を取得した場合

算定期間(例:6月〜11月)の一部のみ育休を取得している場合は、実労働期間に応じた按分支給を行う企業が多く見られます。

【計算式例】
支給額 = 本来の賞与額 × (実労働日数 ÷ 算定期間の総労働日数)

例)算定期間120日のうち60日間育休取得の場合
  200,000円 × (60日 ÷ 120日) = 100,000円

不支給・減額が「不利益取扱い」に当たるケースとは

育休取得を理由とした不利益取扱いは、育児・介護休業法第10条によって明確に禁止されています。

育児・介護休業法第10条
「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇、降格、減給その他不利益な取扱いをしてはならない」

ただし、賞与のカット・減額がすべて「不利益取扱い」に当たるわけではありません。厚生労働省のガイドラインでは、以下のような基準が示されています。

不利益取扱いに該当しないと考えられるケース

  • 就業規則・賞与規程に基づき、育休期間を算定対象外として按分計算した結果の減額
  • 算定期間中の実績・評価に基づく合理的な減額
  • 支給日在籍要件の不充足による不支給(ただし規程が適切に整備されている場合)

不利益取扱いに該当する可能性が高いケース

  • 育休取得を申し出た直後から賞与額が突然大幅に減額された
  • 同一評価・同一期間の他の社員と比較して育休取得者だけ著しく不利な扱いを受けた
  • 育休取得者を対象に賞与規程を事後的に不利益変更した
  • 「育休を取ったから」と明示的に説明を受けて不支給とされた

⚠️ 注意点: 不利益取扱いかどうかの判断は個別事案の事実関係によります。疑問がある場合は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)または社会保険労務士に相談することをお勧めします。


就業規則・給与規程の確認ポイント【チェックリスト付き】

育休取得前に必ず確認しておくべき書類と確認ポイントをまとめます。

育休取得者が確認すべき5つのポイント

📋 確認チェックリスト

  • [ ] ①賞与規程の算定期間を確認する
  • 算定期間はいつからいつまでか?育休がその期間に重なるか?

  • [ ] ②算定方法の記載を確認する

  • 「実出勤日数按分」か「一律全額支給」か「支給日在籍要件のみ」か?

  • [ ] ③年末年始手当が賞与規程と一体か別立てかを確認する

  • 別立てであれば支給条件が異なる可能性が高い

  • [ ] ④支給日と育休期間の重なりを確認する

  • 支給日に育休中であっても、「在籍」は継続しているため規程次第では対象となる

  • [ ] ⑤社会保険料免除の確認

  • 育休中は社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されるため、賞与が支給された場合の手取り額は通常より高くなる可能性がある

企業の人事担当者が整備すべき規程のポイント

企業側も、育休取得率向上に向けた環境整備の観点から、規程の透明化が求められています。

整備ポイント 具体的な内容
賞与規程の明確化 育休取得者に対する扱いを具体的に明記する
不利益取扱いの排除 育休取得を理由とした恣意的な減額を排除するルールの設定
周知徹底 育休取得予定者に事前に規程内容を案内する
産休・育休の区別 産前産後休業と育児休業で扱いが異なる場合は明確に区別して記載

よくある疑問を事例で解説

Q1:算定期間の全期間を育休で取得していた場合、賞与はゼロになる?

A: 規程次第ですが、算定期間の出勤実績がゼロの場合、不支給となる企業が多いです。ただし「支給日在籍者に一律支給」という規程のみであれば支給対象となります。就業規則・賞与規程の確認が必須です。

Q2:育休中に賞与が支給されたら社会保険料はかかる?

A: 育休中は社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されているため、育休中に賞与が支給された場合、その賞与に係る社会保険料も免除の対象となります。ただし、雇用保険料は賞与にもかかります(免除対象外)。

Q3:年末年始手当だけカットされた。これは違法?

A: 就業規則・給与規程の規定に基づいていれば、原則として違法ではありません。ただし、「育休を取得したこと自体を理由」として他の社員と明らかに異なる不合理な扱いを受けた場合は、育介法第10条の不利益取扱い禁止に抵触する可能性があります。規程内容と実際の処遇を照らし合わせて確認しましょう。

Q4:復職後の最初の賞与は満額支給される?

A: 復職後の賞与については、復職後の算定期間分の実績に基づいて支給されるのが一般的です。ただし「次回の賞与はゼロ」という扱いをする企業もあるため、こちらも規程の確認が必要です。厚生労働省は、育休取得を理由とした復職後の不合理な不支給・減額についても不利益取扱いに当たる可能性があるとしています。

Q5:パートタイム・有期雇用労働者の場合、年末年始手当は支給されますか?

A: パートタイム・有期雇用労働者の場合も、就業規則・雇用契約書に年末年始手当の支給規定があれば対象となります。パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金の原則)により、正規労働者との不合理な待遇差は禁止されているため、同等の業務を行っているにもかかわらず手当が支給されない場合は問題となり得ます。


相談窓口・申請先一覧

育休中のボーナス・年末年始手当に関して疑問や問題が生じた場合の相談先をまとめます。

相談内容 相談窓口 連絡先
育休給付金の申請・手続き ハローワーク(公共職業安定所) 全国のハローワーク窓口または厚労省ポータルサイト
不利益取扱いの相談 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) 各都道府県の労働局
就業規則・規程の解釈 社会保険労務士 各都道府県の社労士会
労働条件全般の相談 労働基準監督署 全国の労基署または労働条件相談ほっとライン(0120-811-610)
法的紛争への対応 弁護士 / 法テラス 法テラスサポートダイヤル:0570-078374

FAQ|よくある質問

Q:育休中にボーナスが全額カットされました。会社に返金を求めることはできますか?

A:就業規則・賞与規程に育休中不支給の旨が明記されていた場合、合法的なカットである可能性が高く、返金請求は困難です。ただし、規程の記載が曖昧であったり、育休取得を理由とした明らかな不利益取扱いが認められる場合は、労働局や弁護士への相談を検討してください。


Q:育休中の賞与に社会保険料はかかりますか?

A:育休中は社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されるため、育休期間中に支給された賞与に係る保険料も免除の対象です。ただし雇用保険料は免除されません。免除の手続きは事業主が年金事務所に申請を行います。


Q:産休中と育休中では賞与の扱いは同じですか?

A:産前産後休業(産休)と育児休業は別の制度であり、就業規則の記載によっては扱いが異なる場合があります。産休期間を「出勤扱い」とする企業も一部あるため、自社の規程を個別に確認してください。


Q:育休中の賞与は育休給付金の計算に影響しますか?

A:育休給付金の支給額は「休業開始前の賃金」(6ヶ月間の平均)を基に計算されるため、育休中に支給された賞与は給付金の計算には影響しません。ただし、育休中の賞与支給が給付金の受給資格に影響する場合(就業日数の要件超過など)があるため、詳細はハローワークに確認してください。


まとめ

育休中のボーナス・年末年始手当のカットは、就業規則・賞与規程の規定に基づいていれば原則として違法ではありません。しかし、育休取得という事実だけを理由とした恣意的・不合理な不支給・減額は、育児・介護休業法第10条の不利益取扱い禁止に抵触する可能性があります。

自身の権利を守るために最も重要なのは、育休取得前に自社の就業規則・賞与規程を必ず確認することです。記載内容が不明確な場合は、人事担当者または社会保険労務士に相談し、書面で確認しておくことを強くお勧めします。

企業の人事担当者にとっても、規程の透明化と育休取得者への丁寧な説明は、育休取得率の向上と優秀な人材の定着に直結する重要な取り組みです。本記事が、労使双方にとって適切な制度運用の参考になれば幸いです。


【参考法令・ガイドライン】
– 育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)第10条・第12条
– 労働基準法第37条第5項
– 厚生労働省通知(平成21年9月14日)「育児・介護休業法の改正について」
– パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)
– 厚生労働省「育児・介護休業等に関するハラスメント対策のための指針」

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