育休を取ろうとしたら「契約が終わるから」と言われた——。契約社員・パート・派遣社員の方からこんな相談が後を絶ちません。結論から言えば、育休取得を理由にした雇い止めは原則として違法です。法律は雇用形態にかかわらず、育休中の労働者を確実に守っています。
本記事では、育児・介護休業法・労働契約法・厚生労働省告示の3本柱をわかりやすく解説し、「自分は本当に守られているのか」という疑問にシナリオ別で答えます。2025年時点の最新ルールをもとに、有期雇用で育休取得を検討している方が知っておくべきことをすべて網羅しました。
目次
- 有期雇用でも育休中の雇い止めは「原則違法」――法律が守る3つの権利
- 有期雇用労働者が育休を取得するための3つの条件
- 育休中に契約期間が満了した場合――更新・雇い止めの判断基準
- 育休給付金と雇用継続――有期雇用で受け取るための条件整理
- 雇い止めされそうになったら――すぐに使える対処法と相談先
- 無期転換ルールとの組み合わせ――育休中でも無期化は進む
- よくある質問(FAQ)
有期雇用でも育休中の雇い止めは「原則違法」――法律が守る3つの権利
「有期雇用だから育休が終わったら更新されないのでは?」という不安は多くの労働者が抱きます。しかし日本の法律は、育休・産休を理由とした雇い止めを明確に禁止しています。保護の根拠は次の3本柱です。
┌─────────────────────────────────────────────────────┐
│ 有期雇用労働者を守る法律の3本柱 │
├───────────────┬─────────────────────────────────────┤
│ ①育介法第16条 │ 育休申出・取得を理由とした解雇・不利益扱いの禁止 │
│ ②労働契約法19条│ 合理的期待がある場合の雇止め制限 │
│ ③育介法第15条 │ 育休に関連するあらゆる不利益取扱いの禁止 │
└───────────────┴─────────────────────────────────────┘
育児・介護休業法第16条が禁じていること
育児・介護休業法第16条は、「育児休業の申出または取得を理由として、労働者を解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」 と定めています。「その他不利益な取扱い」には次のものが含まれます。
| 禁止される行為 | 具体例 |
|---|---|
| 解雇・雇い止め | 「育休を取るなら次の契約はない」と言われる |
| 降格・減給 | 育休復帰後に役職を外される、時給を下げられる |
| 不利益な配置転換 | 通勤困難な遠方拠点へ異動させられる |
| 契約更新拒否 | 育休取得者だけ次回契約を打ち切る |
| 自己都合退職の強要 | 「育休後は居場所がない」と退職をほのめかす |
法律は「理由」を問います。仮に雇い止め通知の文面に「育休」の言葉がなくても、時期的なつながりや経緯から育休が動機と認められれば違法となります。
労働契約法第19条「更新の合理的期待」とは何か
労働契約法第19条は、契約期間が満了しても更新が合理的に期待できる場合、客観的・合理的な理由なく雇い止めをすることを禁じています。
「合理的な期待」とは次の2タイプです。
- 19条1号:過去に反復更新された有期労働契約で、その実態が期間の定めのない契約と実質的に異ならないとき
- 19条2号:雇用継続を期待させる使用者の言動・慣行・業務の性質があるとき
育休中に契約満了日が来た場合、育休がなければ更新されていたかどうかがポイントになります。これまで更新を繰り返してきた実績があれば、育休中であることを理由に更新を拒む行為は第19条違反に該当します。
不利益取扱い禁止(第15条)で守られる具体的な権利
育児・介護休業法第15条は、育休に関連するあらゆる不利益取扱いを禁止しています。2022年(令和4年)改正では、ハラスメント防止措置の義務化(第25条)も強化され、育休取得を妨げる言動自体を会社が予防する義務が明確になりました。
第15条が守る具体的な権利の例:
- 育休中の賞与算定基礎から育休期間を不合理に除外すること → 禁止
- 復帰後に合理的な理由なく時短の申請を拒むこと → 禁止
- 育休取得者だけ人事考課を最低評価にすること → 禁止
有期雇用労働者が育休を取得するための3つの条件
育休を取得したい有期雇用労働者がまず確認すべきは「そもそも申請できるか」です。2022年改正により条件は大幅に緩和されましたが、要件は雇用形態によって異なります。
雇用形態別チェックリスト
| チェック項目 | 正社員 | 契約社員 | 派遣社員 | パート・アルバイト |
|---|---|---|---|---|
| 雇用継続1年以上 | 不要(※1) | 必要 | 必要 | 必要 |
| 育休開始日から18か月後も雇用継続見込み | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 週3日以上の勤務 | 不要 | 不要(※2) | 不要(※2) | 不要(※2) |
※1 入社直後でも申請可能(労使協定で1年未満を除外することは2022年改正で廃止)
※2 2022年改正前は週3日要件があったが廃止
ポイント:有期雇用労働者に課される実質的な要件は「①雇用継続1年以上」と「②育休終了予定日から18か月後まで雇用継続見込み」の2点です。
「雇用継続見込み」の判断基準
「18か月後まで雇用継続見込み」の判断は、次の点を総合して行います。
- 雇用契約書に更新条項(「更新する場合がある」等)が記載されている
- 過去に一度以上契約が更新されている実績がある
- 業務の継続性・恒常性が認められる
これらのいずれかが当てはまれば、継続見込みありと判断されます。「まだ更新されたことがない」という方でも、更新条項があれば要件を満たす可能性があります。
2022年法改正で撤廃された「労使協定による除外規定」
2022年(令和4年)10月施行の育児・介護休業法改正前は、労使協定を結ぶことで以下の労働者を育休の対象から除外できました。
- 雇用継続1年未満の労働者
- 申出日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者
- 週の所定労働日数が2日以下の労働者
2022年10月以降、この除外規定は廃止されました。ただし「申出の日から8週間以内に雇用関係が終了することが明らかな場合」のみ引き続き除外対象です。
育休取得できない場合の例外ケースと対処法
以下の場合は育休申請が認められないことがあります。
| 例外ケース | 内容 | 対処法 |
|---|---|---|
| 雇用継続が1年未満 | 入社から1年経過していない | 産後パパ育休(出生時育休)を検討。また雇用継続年数を満たすまで育休開始を調整 |
| 雇用終了が8週以内に確定している | 契約満了日が育休申出から8週以内に到来し、不更新合意がある | 雇用継続交渉・労働局あっせん制度を活用 |
| 労働者が申出を撤回した場合 | 自分で撤回したケース | 一定要件のもと再申出が可能(同一子について2回まで) |
育休中に契約期間が満了した場合――更新・雇い止めの判断基準
最も多い疑問は「育休中に契約の満了日が来たらどうなるのか」です。この問いに対し、法律・告示・判例の3つを軸に解説します。
厚生労働省告示第356号が定める育休中の更新ルール
「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(厚生労働省告示第356号)は次のように定めています。
育児休業中の期間は、雇止め通知に係る「契約期間」として算定しない。
つまり、育休期間中に契約満了日を迎えても、雇い止め通知の起算点が育休期間中にかかる場合、その期間は「満了」とみなされず、実質的に契約が継続する扱いになります。
さらに告示は、育休取得中の労働者を含む有期雇用労働者に対して雇い止めをする場合、30日前の予告を原則として求めており、予告なき突然の雇い止めは告示違反となります。
「合理的期待」が認められる契約更新パターン3例
労働契約法第19条の「合理的期待」が認められやすいパターンを整理します。
パターン①:複数回の更新実績がある
例:1年契約を3回更新(通算4年)→ 育休中に5年目の契約満了
→ 反復更新の実績あり → 合理的期待が強く認められる
→ 育休理由の雇い止めは原則無効
パターン②:更新条項+口頭での継続約束がある
例:「問題なければ続けてもらう予定です」と上司から口頭で言われていた
→ 雇用継続への期待を使用者が生じさせている
→ 文書がなくても期待は成立しうる(録音・メモが重要)
パターン③:業務が恒常的・定型的である
例:毎年同じ繁忙期対応ではなく、通年継続する経理業務を担当
→ 業務の性質上、継続的雇用が想定される
→ 合理的期待が認められやすい
雇止めが有効と判断される例外条件と裁判例
すべての雇い止めが無効になるわけではありません。次の条件が揃うと雇い止めが有効となる場合があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 明確な不更新条項の合意 | 「次回は更新しない」という書面上の合意が事前に存在する |
| 業務量の客観的な減少 | 育休とは無関係に事業縮小・部署廃止が証明できる |
| 更新実績がなく更新条項もない | 初回契約の満了で、使用者が継続を示唆したことがない |
法定の裁判例として、丸子警備保障事件では育休から復帰予定の有期雇用労働者に対する雇い止めについて、育休制度の実効性を損なうとして制限されるべきと判断されました。育休申出が雇い止めの動機と認定されやすい傾向にあります。また、ハマキョウレックス事件(最高裁2014年)は有期契約労働者に対する不合理な労働条件の差別を問題にしつつ、労働契約法19条による更新期待保護の重要性を示した重要判例です。
育休給付金と雇用継続――有期雇用で受け取るための条件整理
育児休業給付金の受給要件(有期雇用の場合)
雇用保険法第37条に基づく育児休業給付金を受け取るには、以下の要件を満たす必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険の被保険者期間 | 育休開始前2年間に賃金支払い基礎日数が11日以上の月が12か月以上 |
| 育休取得の適法性 | 育介法に基づく育休であること |
| 雇用継続見込み | 育休終了後も引き続き雇用される見込みがあること |
給付金の計算方法
育児休業給付金の支給額は次の通りです(2025年時点)。
【育休開始から180日(6か月)まで】
休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
【育休開始から181日目以降】
休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50%
計算例:月給25万円の契約社員が育休を取得した場合
1日あたりの賃金日額 = 250,000円 ÷ 30日 = 約8,333円
【最初の6か月】
8,333円 × 30日 × 67% ≈ 167,493円/月
【6か月以降】
8,333円 × 30日 × 50% ≈ 124,995円/月
注意:育休中に就業した日がある場合、就業日数に応じて減額されます。また、雇い止めが確定した時点で給付が停止される場合があるため、雇用継続の確認が重要です。
申請先・申請期限
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請先 | 事業主経由でハローワーク(公共職業安定所)に申請 |
| 申請タイミング | 2か月ごとにハローワークへ支給申請(事業主が代行) |
| 支給単位期間 | 育休開始日から2か月ごと |
雇い止めされそうになったら――すぐに使える対処法と相談先
育休中または育休後に雇い止めの動きを感じたら、以下のステップで対応してください。
Step 1:証拠を収集する
雇い止め通知・口頭での発言・メール・契約書・更新の経緯をすべて記録・保存します。
- 雇い止め通知書のコピー
- 上司からの発言の録音またはメモ(日時・発言者・内容)
- 過去の雇用契約書と更新合意書すべて
- 更新に関する業務メールのスクリーンショット
Step 2:会社に書面で確認する
雇い止めの理由を書面で求めます。育介法及び厚生労働省告示は、使用者が書面での理由明示を求められた場合に応じることを求めています。「育休取得が理由ではないか」という観点で理由の整合性を確認しましょう。
Step 3:専門機関に相談する
| 相談先 | 特徴 | 費用 |
|---|---|---|
| 労働基準監督署 | 育介法違反・労基法違反の申告先。調査・勧告が可能 | 無料 |
| 都道府県労働局(雇用環境・均等部) | 育介法の行政指導・あっせん手続き | 無料 |
| 労働相談ホットライン(0120-811-610) | 厚生労働省の総合労働相談コーナー | 無料 |
| 弁護士・社会保険労務士 | 法的手続き・団体交渉・訴訟の代理 | 有料(法テラス利用可) |
| 労働組合(ユニオン) | 団体交渉権を活用した交渉支援 | 組合により異なる |
重要:都道府県労働局の「あっせん制度」は費用がかからず、短期間(数か月)で解決できるケースが多いため、まず活用することをお勧めします。
無期転換ルールとの組み合わせ――育休中でも無期化は進む
労働契約法第18条「無期転換ルール」とは
有期労働契約が同一の使用者との間で通算5年を超えて反復更新された場合、労働者が申込みをすれば期間の定めのない労働契約(無期雇用)に転換されます(労働契約法第18条)。
有期1年 × 5回更新(通算5年超)
↓
無期転換申込み権が発生
↓
申込みをすれば次の契約から無期雇用
育休中の通算期間カウント
育休期間は通算5年の算定期間に含まれます。 つまり、育休中であっても雇用契約上は継続しており、その期間もカウントされます。育休前後で通算5年を超えた場合は、復帰後に無期転換の申込みが可能です。
無期転換申込みのタイミングと手続き
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申込みができる時期 | 通算5年を超えた契約期間中(満了前) |
| 申込み方法 | 書面・口頭どちらでも可(書面推奨) |
| 効力発生時期 | 申込み時の有期契約が終了した翌日から |
| 労働条件 | 原則として直前の有期契約の条件が引き継がれる(別段の定めがある場合を除く) |
注意:使用者が「クーリング期間(6か月超の空白)」を意図的に設けて通算リセットを図る行為は、脱法的行為として問題視されています。育休復帰後の雇い止め→再雇用という形でのリセットも不利益取扱いに該当する可能性があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中に「次の契約は更新しない」と言われました。これは合法ですか?
A. 育休取得が動機・理由となっている場合は育児・介護休業法第16条違反となり、無効です。過去に更新実績がある場合は労働契約法第19条の保護も受けられます。まず都道府県労働局に相談しましょう。
Q2. 更新は1回しかされていませんが、それでも「合理的期待」は認められますか?
A. 更新回数が少なくても、①更新条項がある、②上司から継続の言動があった、③業務が恒常的である、のいずれかに当てはまれば期待が認められる可能性があります。証拠の収集が重要です。
Q3. 派遣社員が育休を取ると、派遣元か派遣先のどちらが対応しますか?
A. 派遣元(雇用主)が育休の手続き・給付金申請の窓口となります。派遣先は育休取得を理由に派遣契約を解除することは原則できません(派遣法第47条の4)。
Q4. 育休後に復帰したら「別の部署に異動してほしい」と言われました。拒否できますか?
A. 育休復帰後の配置転換は、本人の意思に反する不利益な配置転換であれば、育介法第15条の不利益取扱い禁止に抵触します。異動の理由・内容・労働条件の変化を確認し、不合理と感じたら相談機関に申し出てください。
Q5. 育休給付金の受給中に雇い止めが確定した場合、給付はどうなりますか?
A. 雇い止めにより雇用保険の被保険者資格を失った日(資格喪失日)の前日をもって育児休業給付金の支給は終了します。その後は雇用保険の基本手当(失業給付)の受給要件を確認してください。ただし、雇い止めが違法な場合は地位確認を求める法的手段と並行して対応が必要です。
Q6. 産休中と育休中では保護の範囲は変わりますか?
A. 産休(産前・産後休業)中の解雇は労働基準法第19条により絶対的に禁止(産後8週間は解雇不可)されており、育休よりも強い保護です。産休明けすぐに育休に入る場合は産休保護から育休保護へシームレスに移行します。有期雇用の場合は産休中も雇用継続が保護されます。
まとめ:有期雇用の育休は法律でしっかり守られている
| 確認ポイント | 法的根拠 |
|---|---|
| 育休理由の雇い止めは違法 | 育介法第16条 |
| 更新実績があれば雇い止め制限 | 労働契約法第19条 |
| あらゆる不利益取扱いが禁止 | 育介法第15条 |
| 育休中も5年カウントは進む | 労働契約法第18条 |
| 育休中の契約満了には特別ルール | 厚生労働省告示第356号 |
有期雇用だからといって、育休取得を諦める必要はありません。2022年の法改正により、パート・契約社員・派遣社員の育休取得ハードルは大幅に下がり、保護も強化されています。「雇い止めになるかもしれない」と感じたら、一人で抱え込まず、まず都道府県労働局や労働相談ホットライン(0120-811-610)に無料で相談することをお勧めします。
免責事項:本記事は2025年時点の法令・厚生労働省告示に基づく一般的な解説です。個別の事案については、弁護士・社会保険労務士・労働局に相談のうえ、最新の情報をご確認ください。

