試用期間中の従業員から育休の申請が来た——そんなとき、「試用期間中だから認めなくて大丈夫?」と迷う人事担当者は少なくありません。
結論から言えば、試用期間中であっても育休の申請は原則として認めなければならず、正当な理由なく拒否することは違法です。 これは育児・介護休業法により、勤続年数や雇用形態にかかわらずすべての労働者に保障された権利です。
本記事では、育児・介護休業法の法的根拠をもとに、企業が試用期間中の労働者に対してとるべき正しい対応・手続き・必要書類・給付金の仕組みを、2025年の法改正ポイントも含めて体系的に解説します。人事担当者や経営者向けに、実務的かつ法令遵守の観点から、試用期間と育休の関係を整理してお伝えします。
試用期間中の労働者は育休を取得できるのか?
| 項目 | 試用期間中の育休申請 | 通常期間中の育休申請 |
|---|---|---|
| 取得の可否 | 原則として認めなければならない | 認めなければならない |
| 法的根拠 | 育児・介護休業法(勤続年数・雇用形態不問) | 育児・介護休業法 |
| 拒否が認められる条件 | 正当な理由がある場合のみ(例外的) | 正当な理由がある場合のみ(例外的) |
| 給付金の対象 | 育児休業給付金の対象となる場合あり | 育児休業給付金の対象 |
| 企業の義務 | 正当な申請を受け入れ、必要な手続きを進める | 正当な申請を受け入れ、必要な手続きを進める |
育児・介護休業法が定める「試用期間中の扱い」の原則
育児・介護休業法は、「労働者」であれば原則として育児休業を取得できる権利を保障しています。この「労働者」に、試用期間中の従業員が含まれることは法律上明確です。
育児・介護休業法の条文を確認しましょう。
育児・介護休業法第5条第1項
「労働者は、その養育する1歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる。」
この条文には「試用期間中を除く」という例外規定は一切存在しません。つまり、試用期間という雇用上の身分は、育休取得権という法律上の権利を何ら制限するものではないのです。
厚生労働省も「試用期間中の労働者であっても、育児・介護休業法に基づく権利は保障される」という解釈を示しており、これは行政指導の場でも一貫した立場です。また、育児・介護休業法第10条では、育休の申出・取得を理由とした不利益取扱いを明確に禁止しており、試用期間中の労働者であっても同様に適用されます。
企業が「試用期間だから認めない」と言えない理由
「まだ試用期間なので…」という理由での育休拒否は、法的に通用しません。以下の3つの違法パターンとして整理できます。
| 違法パターン | 企業の行為 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| 拒否 | 試用期間を理由に育休申請を却下する | 育児・介護休業法第5条 |
| 無給扱い | 「試用期間中の育休は無給」と誤った運用をする | 雇用保険法(給付金受給権の侵害) |
| 期間除外 | 試用期間を勤続年数にカウントしないとして適用除外とする | 育児・介護休業法の解釈 |
さらに、育休申請を理由に本採用を拒否することも「不利益取扱い」に該当し、マタハラ・パタハラとして違法となります。試用期間中の本採用拒否は、通常の解雇よりは使用者側の裁量が広いとされますが、育休申請を理由にした場合はその裁量の外に置かれることを人事担当者は必ず認識してください。
実際の裁判例でも、育休申請を機に本採用拒否を行った企業に対して、数百万円規模の損害賠償命令が下されたケースが複数存在します。
育休取得の対象となる試用期間中の労働者の条件
正社員・契約社員それぞれの適用条件の違い
試用期間中の従業員が育休を取得するために必要な要件は、雇用形態によって異なります。以下の表で確認しましょう。
| 雇用形態 | 育休取得要件 | 試用期間の扱い |
|---|---|---|
| 正社員(期間の定めなし) | 原則として要件なし(※1) | 勤続年数にカウントされる |
| 契約社員(有期雇用) | 契約期間が1年以上 かつ 子が1歳6ヶ月(または2歳)までに契約が満了しないこと | 同左 |
| パートタイム労働者 | 上記有期雇用と同様 | 同左 |
※1:2022年4月の法改正により、「入社1年以上」の勤続要件は原則として撤廃されました。現在は、労使協定を締結した場合にのみ、入社1年未満の労働者を適用除外にできます。
重要なポイントとして、試用期間は勤続年数に算入されます。 入社直後から試用期間が始まっている場合でも、その期間は「勤続期間」としてカウントされます。「試用期間だからまだ在籍していないも同然」という解釈は完全な誤りです。勤続年数の計算において、試用期間を除外することは許されません。
育休取得ができないケース(労使協定による適用除外)
以下の条件をすべて満たす場合に限り、労使協定の締結によって育休の適用を除外できます。
労使協定による適用除外が認められる条件(入社1年未満の労働者)
- 事業主と過半数組合(または過半数代表者)が書面による労使協定を締結している
- 対象となる労働者の入社から1年未満であること
- 協定の内容が就業規則等に適切に反映されていること
⚠️ 注意: 労使協定がない状態で「入社1年未満だから」と拒否することは、たとえ試用期間中であっても違法です。必ず労使協定の有無を確認してください。
なお、2022年4月改正前は「入社1年以上」の要件がデフォルトでしたが、改正後は労使協定がなければ入社直後でも育休取得が可能になっています。法改正の認識が古いまま対応している企業は、早急に運用を見直す必要があります。
試用期間中の育休申請を受けた企業の対応フロー
申請受理から育休開始までのステップ
試用期間中の従業員から育休の申出を受けたとき、企業(人事担当者)はどのように対応すればよいのでしょうか。以下に、法律が求める正しい手順を示します。
ステップ1:育休申出を受理する
↓ (申出期限の目安:育休開始の1ヶ月前まで。出生時育児休業は2週間前まで)
ステップ2:育児休業申出書を受け取る・保管する(保管義務:3年間)
↓ (申出を受けてから1週間以内)
ステップ3:育児休業承認通知書を発行・交付する
↓
ステップ4:社会保険料免除の手続きを行う(日本年金機構へ申出)
↓
ステップ5:ハローワークへ「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」を提出
↓
ステップ6:育休開始
↓
ステップ7:2ヶ月ごとにハローワークへ育児休業給付金の支給申請を継続
ステップ3の「承認通知書」は義務です。 申出を受けたことを口頭だけで済ませている企業がありますが、書面(または電磁的方法)で通知することが法律上求められています。
企業側で整備・保管すべき書類一覧
試用期間中の労働者の育休対応においても、必要書類は通常の育休対応と変わりません。以下の書類を確実に整備してください。
企業内書類
| 書類名 | 作成者 | 保管期間 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 育児休業申出書 | 労働者(企業が様式を提供) | 3年間 | 子の氏名・生年月日、休業開始日・終了予定日を記載 |
| 育児休業承認通知書 | 企業(人事担当者) | 3年間 | 申出受理から1週間以内に発行 |
| 雇用契約書(写し) | ― | 育休終了後も保管 | 試用期間の明記があるものを保管 |
| 就業規則(育児休業規程) | ― | 常時 | 試用期間中の扱いを明記しているか確認 |
ハローワーク提出書類
| 書類名 | 提出タイミング | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書 | 育休開始日の翌日から4ヶ月以内 | 事業主が代理申請するのが一般的 |
| 育児休業給付金支給申請書(2回目以降) | 2ヶ月ごと(支給単位期間ごと) | 期限厳守 |
| 母子手帳(出生証明部分)のコピー | 初回申請時 | 子の出生を証明するため |
| 賃金台帳・出勤簿 | 申請時に添付 | 直近6ヶ月の賃金実績を確認するため |
育児休業給付金の計算方法と支給スケジュール
給付金額の計算式
育児休業給付金は、ハローワーク(雇用保険)から支給されます。試用期間中の労働者も、雇用保険の被保険者であれば受給できます。給付金の支給率は育休開始後の経過期間によって異なります。
給付金の支給率と金額の計算式
| 育休期間 | 支給率 | 計算式 |
|---|---|---|
| 育休開始から180日目まで | 休業前賃金の67% | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67% |
| 181日目以降 | 休業前賃金の50% | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50% |
「休業開始時賃金日額」 とは、育休開始前の6ヶ月間の賃金総額を180で割った額です。
計算例: 月給25万円の場合
– 賃金日額 = 250,000円 × 6ヶ月 ÷ 180日 = 約8,333円
– 最初の180日の給付額(月換算)= 8,333円 × 30日 × 67% ≒ 167,493円/月
– 181日以降の給付額(月換算)= 8,333円 × 30日 × 50% ≒ 124,995円/月
ただし、育休中に就労して賃金が発生した場合は、給付金が減額または停止されるルールがあります。詳細はハローワークで確認してください。
2025年改正で変わる給付金の拡充ポイント
2025年施行予定の改正により、以下の点が拡充される方向で調整が進められています(施行時期は政令で定められるため、最新の情報を厚生労働省で確認してください)。
- 育児休業給付の実質10割支給(手取りベース): 両親ともに育休を14日以上取得するなど一定要件を満たす場合、育休開始28日間について給付率が引き上げられ、社会保険料免除と合わせて実質的に手取りの100%程度が保障される方向性
- 育休取得の柔軟化: 育休の分割取得・出生時育児休業(産後パパ育休)の活用がさらに推進される予定
企業が絶対にやってはいけない違法対応とリスク
違法対応のリスクと罰則
試用期間を理由に育休を拒否・妨害した場合、企業は以下のリスクを負います。
行政指導・勧告(育児・介護休業法第56条の2)
厚生労働大臣は、育児・介護休業法違反の事業主に対して報告を求め、指導・勧告を行うことができます。勧告に従わない場合は企業名が公表されることもあります。
損害賠償請求
育休の申出を理由に本採用を拒否した場合など、労働者から民事上の損害賠償請求を受けるリスクがあります。裁判例でも、マタハラ・育休妨害に対して企業に数百万円規模の損害賠償が命じられた事例があります。
労働局・ハローワークへの申告
労働者が都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に申告した場合、行政指導の対象となります。2022年以降、育休取得に関する相談・申告件数は増加傾向にあり、行政の監視も強化されています。
就業規則の整備:試用期間中の育休に関する規定例
育休対応の基本は、就業規則(育児休業規程)の整備です。試用期間中の扱いを明記しておくことで、現場での混乱を防げます。
就業規則への記載例
(育児休業の対象者)
第○条 育児休業の対象となる従業員は、1歳に満たない子を養育する従業員とする。
ただし、労使協定により除外する場合を除き、試用期間中の従業員についても
育児・介護休業法の定めに基づき育児休業の申出を認めるものとする。
試用期間は勤続年数に算入する。
この一文を明記することで、「試用期間中だから対象外」という誤った解釈を社内から排除できます。
社会保険料の免除手続き
育休中は、事業主・被保険者双方の社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されます。試用期間中の労働者も、社会保険に加入していれば同様に免除を受けられます。
手続き先と申請方法
- 申請先: 日本年金機構(管轄の年金事務所または健康保険組合)
- 申請書類: 「育児休業等取得者申出書(新規・延長)」
- 申請タイミング: 育休開始後、速やかに(月をまたがないうちに申請することが理想)
- 免除期間: 育休開始月から育休終了日の翌日の属する月の前月まで
⚠️ 免除は自動適用ではありません。 事業主が必ず申出を行う必要があります。申請を忘れると、免除が受けられず後から遡及申請が必要になり、手続きが煩雑化します。
2025年改正対応チェックリスト(人事担当者向け)
2025年の育児・介護休業法改正に対応するため、以下の項目を確認してください。
- [ ] 就業規則(育児休業規程)に試用期間中の育休取得を明記しているか
- [ ] 労使協定の内容が最新の法令に対応しているか(入社1年未満の適用除外要件)
- [ ] 育休申出から承認通知まで1週間以内に対応できる体制があるか
- [ ] 出生時育児休業(産後パパ育休)の申出期限(2週間前)を社内に周知しているか
- [ ] 育児休業給付金の申請をハローワークに適切なタイミングで行える体制があるか
- [ ] 社会保険料免除の申出書を育休開始後速やかに提出できているか
- [ ] 育休取得を理由とした本採用拒否・降格・配置転換等の不利益取扱いがないか
- [ ] 管理職・上司に対して育休取得妨害(マタハラ・パタハラ)の防止研修を実施しているか
- [ ] 2025年改正の給付拡充内容を社員に周知する準備ができているか
よくある質問
Q1. 試用期間中に育休を申請されたら、本採用を見送ってよいですか?
いいえ、できません。育休の申請・取得を理由とした本採用拒否は、育児・介護休業法第10条が禁ずる「不利益取扱い」に該当します。本採用拒否が適法となるのは、育休取得とは無関係の客観的・合理的な理由がある場合のみです。育休申請が直接・間接の動機となっている場合は違法と判断されるリスクが非常に高く、損害賠償請求の対象となりえます。
Q2. 入社してすぐに妊娠が判明した場合でも、育休は取得できますか?
はい、原則として取得できます。2022年の法改正以降、勤続1年以上という要件はデフォルトでは存在しません。労使協定で入社1年未満の労働者を適用除外にしていない限り、入社直後であっても育休の申出は認めなければなりません。
Q3. 試用期間中の従業員は育児休業給付金を受け取れますか?
雇用保険の被保険者資格を満たしていれば受け取れます。具体的には、育休開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上(または就業時間が80時間以上)の月が通算12ヶ月以上あることが要件です。入社直後で12ヶ月に満たない場合は、前職での被保険者期間を通算できる場合があります。
Q4. 試用期間が延長されている場合、育休取得にどう影響しますか?
試用期間の延長自体は育休取得権に影響しません。延長された試用期間も勤続年数にカウントされます。ただし、試用期間の延長が育休申請への報復・妨害目的で行われた場合は、不利益取扱いとして違法となります。
Q5. 育休申出書を受け取った後、企業はどれくらいで承認通知を出す必要がありますか?
法律上、申出を受理してから1週間以内に書面(または電磁的方法)で通知する義務があります。この期限を守らないこと自体が法令違反となります。速やかな対応体制を整えておくことが重要です。
Q6. 就業規則に「試用期間中は育休を認めない」と書いてあった場合はどうなりますか?
就業規則のその規定は無効です。就業規則の内容が育児・介護休業法の基準を下回る場合、その部分は法律によって無効とされ(強行法規性)、法律の定めが適用されます。早急に就業規則を改定してください。そのまま放置して育休を拒否した場合は、法令違反として指導・勧告の対象になります。
まとめ:試用期間中の育休は「認める」が企業の正解
本記事の要点を整理します。
- 試用期間中であっても、育休取得権は法律上保障されており、拒否は原則違法
- 企業が適用除外できるのは、労使協定がある場合に限り、入社1年未満の労働者のみ
- 試用期間は勤続年数にカウントされる(除外不可)
- 育休申請を理由とした本採用拒否・降格・試用期間延長は不利益取扱いとして違法
- 企業は申出受理後1週間以内に承認通知書を発行する義務がある
- 社会保険料免除・育児休業給付金の手続きは企業が主体的に進める
- 2025年改正により給付の実質拡充が予定されており、就業規則・労使協定の見直しが必要
試用期間中の育休対応は、「拒否できるかどうか」ではなく、「どう円滑に支援するか」が企業に求められる姿勢です。法令を正しく理解し、適切な手続きを整備することが、企業のリスク管理と従業員エンゲージメント向上の両方につながります。
制度の詳細や個別ケースへの対応については、社会保険労務士や最寄りの都道府県労働局(雇用環境・均等部)にご相談ください。

