育休を取得すると「年金が減ってしまうのでは?」と不安に感じる方は少なくありません。しかし、育休中の厚生年金保険料免除制度を正しく理解すれば、その心配は大きく払拭されます。本記事では、育休中の厚生年金の仕組み・老齢給付への影響・申請手続き・年金記録の確認方法まで、実務的な情報をわかりやすく解説します。
育児休業中に保険料が免除される仕組みは、育児・介護休業法と厚生年金保険法に基づいており、多くの子育て世帯が活用できる重要な制度です。育休中の厚生年金記録がどのように老齢給付に反映されるかを具体的なシミュレーション付きで理解することで、人生全体の資産形成計画を立てることができます。
育休中の厚生年金保険料免除とは?制度の基本仕組み
育児休業中は、事業主と被保険者(労働者)の双方について厚生年金保険料が免除されます。これは育児に伴う経済的負担を軽減するための制度であり、法律に明確な根拠が設けられています。
制度の法的根拠
| 法律 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 厚生年金保険法 | 第43条 | 育児休業中の保険料免除 |
| 厚生年金保険法 | 第13条第1項 | 免除期間を保険料納付済期間として扱う |
| 育児・介護休業法 | 第5条 | 育児休業の取得要件 |
| 国民年金法 | 第90条の3 | 第2号被保険者の保険料免除 |
育休中に保険料が免除されると「年金が減るのでは?」と心配する声がありますが、厚生年金保険法第13条第1項により、免除期間中も保険料を納付したものとして年金加入期間に算入されます。これが制度の最も重要なポイントです。
保険料免除の対象期間と金額
免除が適用される期間は以下のとおりです。
| 状況 | 免除対象期間 |
|---|---|
| 通常の育休 | 子が満2歳になるまで |
| 保育所入所待機などの延長 | 子が満3歳になるまで |
月額30万円の標準報酬月額を例にした試算
| 項目 | 金額(月) |
|---|---|
| 被保険者負担分(保険料率9.15%) | 約27,450円 |
| 事業主負担分(同率) | 約27,450円 |
| 合計免除額(育休1か月あたり) | 約54,900円 |
育休が12か月間であれば、被保険者側だけで年間約32万9,400円の保険料が免除されます。給与への保険料控除がなくなるため、育休中に一部給与が支払われている場合はその手取りも増えることになります。
ポイント: 免除期間中も「被保険者期間」であることに変わりはなく、将来の老齢年金の計算上、保険料を払い続けていた期間と同じ扱いになります。
「保険料免除」と「保険料納付済期間」の違い
ここで混同されやすい2つの概念を整理します。
【保険料免除(国民年金の免除制度)】
・所得が低い等の理由で保険料を全額または一部免除
・老齢基礎年金は「免除割合に応じた減額」で受給
・納付済期間と比べ給付額が下がる場合がある
【育休中の保険料免除(厚生年金保険法第43条)】
・保険料は免除されるが「納付済み」と同等に扱われる
・老齢年金の計算において減額されない
・事業主・被保険者ともに全額免除
つまり、育休中の保険料免除は、国民年金の「保険料免除申請」とは根本的に異なる有利な仕組みです。育休期間中は一切の保険料負担なく、満額と同等の年金加入期間として計上されます。
国民年金第2号被保険者(厚生年金加入者)は、厚生年金の被保険者である限り自動的に国民年金の第2号被保険者にもなります。育休中も第2号被保険者の資格は継続されるため、基礎年金(老齢基礎年金)についても加入月数としてカウントされます。
育休中の年金記録が老齢給付に与える影響【シミュレーション付き】
育休期間が年金加入期間として計算されることは分かりましたが、では実際の老齢年金額にはどのくらい影響があるのでしょうか。計算式と具体例を使って確認しましょう。
老齢年金額の計算方法と育休期間の扱い
老齢厚生年金(報酬比例部分)の計算式は以下のとおりです(2003年4月以降の加入期間の場合)。
老齢厚生年金(報酬比例部分)
= 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数
育休月数は「加入月数」に含まれます。ただし、育休期間中は給与が無給または大幅に減額されるため、その月の標準報酬月額は0円または低い金額として記録されます(給与支払いがない月は0円)。
これが「老齢年金額への影響」として残る主な要因です。
育休取得による年金額への影響シミュレーション
以下の条件で比較してみます。
前提条件
– 標準報酬月額:30万円
– 育休取得期間:1年間(12か月)
– 育休中の給与:無給(標準報酬月額0円として扱う)
– 総加入期間:480か月(40年)
| ケース | 育休なし | 育休あり(1年) |
|---|---|---|
| 育休期間の報酬 | 30万円/月(仮定) | 0円/月 |
| 報酬比例部分への影響 | 基準 | 育休12か月分の報酬が0円 |
| 月額年金額の差(概算) | 基準 | 約▲1,000〜2,000円程度 |
重要: 育休期間は加入月数にカウントされるため、「年金受給資格(原則10年以上)」を満たしやすくなるメリットがあります。一方で、育休中の報酬が0円になることで、生涯の平均報酬が若干低下し、報酬比例部分の年金額が微減する可能性があります。ただしその差は数千円〜数万円程度(育休期間による)であり、育休を取得しないことによる仕事・健康へのリスクと比べれば軽微といえます。
育休期間と「みなし標準報酬月額」の考え方
育休中に一部給与が支払われている場合(例:会社独自の育休手当など)は、その金額に応じた標準報酬月額が記録されます。育児休業給付金(ハローワークからの給付)は厚生年金の標準報酬月額計算には含まれません。
【育休中の収入と標準報酬月額の整理】
育児休業給付金(雇用保険) → 標準報酬月額に含まれない
会社独自の育休手当(給与扱い) → 標準報酬月額に含まれる
無給期間 → 標準報酬月額 = 0円
申請手続きの流れと必要書類
育休中の保険料免除は、基本的に事業主が年金事務所へ申請する仕組みです。労働者本人が直接年金事務所へ申請する必要は原則ありません。ただし、手続きが正しく行われているか確認することが重要です。
申請の全体フロー
STEP 1 育休取得の意向を事業主に報告
↓
STEP 2 事業主が「育児休業等取得者申出書」を年金事務所へ提出
↓
STEP 3 保険料免除が適用(翌月分より)
↓
STEP 4 育休中は育児休業給付金の申請(ハローワーク経由)
↓
STEP 5 育休終了・職場復帰
↓
STEP 6 事業主が「育児休業等終了時月額変更届」を必要に応じて提出
↓
STEP 7 ねんきん定期便・ねんきんネットで記録確認
手続きに必要な書類一覧
事業主が年金事務所へ提出する書類
| 書類名 | 提出タイミング | 提出先 |
|---|---|---|
| 育児休業等取得者申出書 | 育休開始後速やかに(翌月の保険料から免除開始) | 年金事務所または事務センター |
| 育児休業等取得者終了届 | 育休終了日から速やかに | 同上 |
| 育児休業等終了時月額変更届 | 職場復帰後の報酬に変化がある場合 | 同上 |
労働者本人が事業主へ提出する書類
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 育児休業申出書 | 育休取得の正式申出(社内書式) |
| 母子健康手帳のコピー | 子の生年月日確認のため |
| 育児休業給付金支給申請書(ハローワーク用) | 事業主を通じて提出 |
注意点: 育休開始月の翌月から保険料が免除されます。月の途中から育休を開始した場合、開始月は対象外になるため、できるだけ月初から育休を開始するとよいでしょう(2022年10月からの改正で、同一月内に14日以上育休を取得した場合も当月分免除の対象になりました)。
育児休業給付金の申請(ハローワーク)
保険料免除とは別に、育休中の収入を補う育児休業給付金(雇用保険)の申請も必要です。こちらはハローワークへの申請となり、事業主経由で行います。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 給付率 | 育休開始から180日間:休業前賃金の67% |
| 給付率(以降) | 181日目以降:休業前賃金の50% |
| 申請期日 | 育休開始日から4か月を経過する日の属する月末まで(初回) |
| 必要書類 | 育児休業給付受給資格確認票、賃金台帳、出勤簿、母子健康手帳のコピーなど |
年金記録の確認方法と管理のポイント
育休中の保険料免除が正しく処理されているか、年金記録を定期的に確認することが重要です。
ねんきんネットによる確認方法
ねんきんネット(日本年金機構の公式サービス)を利用すれば、スマートフォンやパソコンからいつでも年金記録を確認できます。
【ねんきんネットで確認できる情報】
・月別の標準報酬月額の記録
・保険料納付済期間・免除期間の内訳
・老齢年金の見込み額(試算)
・育休期間が正しく記録されているかどうか
利用手順
1. 日本年金機構のサイトにアクセス(https://www.nenkin.go.jp/)
2. 「ねんきんネット」へログイン(マイナンバーカードまたはIDとパスワード)
3. 「年金記録を確認する」から月別の記録を照会
4. 育休期間中の月の記録が「免除」として反映されているか確認
ねんきん定期便の読み方
毎年誕生月に送付されるねんきん定期便でも確認できます。
| 年齢 | 記載内容 |
|---|---|
| 35歳・45歳・59歳 | 全期間の年金記録(加入月数・標準報酬月額の履歴) |
| それ以外 | 直近13か月分の記録と年金見込み額 |
育休を取得した翌年以降のねんきん定期便で、育休期間が「被保険者期間」として計上されているかを確認してください。
記録に誤りがあった場合の対処法
もし育休期間が年金記録に正しく反映されていない場合は、以下の手順で対応します。
- 事業主の人事・総務担当に確認:育児休業等取得者申出書が年金事務所に提出されているか確認
- 年金事務所への問い合わせ:最寄りの年金事務所に記録の訂正を申し出る
- 「年金記録の訂正申立て」制度の利用:記録が誤っている場合は正式に申立て可能
職場復帰後に注意すべき年金手続き
育休終了後も、適切な手続きを行うことで年金記録を守れます。
育児休業等終了時の月額変更
育休後に時短勤務などで給与が下がった場合、標準報酬月額が変わることがあります。通常、標準報酬月額の変更(随時改定)は3か月の報酬平均で判断しますが、育休終了時には特例として2等級以上の差がなくても改定申請が可能です。
これにより、時短勤務期間中の保険料負担が軽くなります。
| 手続き | 内容 | 申請者 |
|---|---|---|
| 育児休業等終了時月額変更届 | 復帰後3か月の平均給与で標準報酬月額を見直し | 事業主経由で年金事務所へ |
| 養育期間標準報酬月額特例申出書 | 子が3歳になるまで復帰前の標準報酬月額で年金を計算 | 事業主経由で年金事務所へ |
養育期間の特例制度(重要)
時短勤務などで給与が下がった場合でも、「養育期間標準報酬月額特例」を申請すると、子が3歳になるまでの期間は育休前(育児前)の高い標準報酬月額を年金計算に使用できます。
【養育期間標準報酬月額特例の効果】
申請なし:時短後の低い報酬額で老齢年金を計算
申請あり:育休前の高い報酬額で老齢年金を計算
→ 将来受け取る老齢厚生年金が増える!
この特例は申請しなければ適用されないため、職場復帰後できるだけ早めに事業主に申出ることが重要です。
配偶者が育休を取得した場合の注意点
育休取得者が配偶者(夫)の場合も、基本的な仕組みは同じです。厚生年金加入者であれば男女を問わず保険料免除・加入期間算入の対象となります。
ただし、配偶者の一方が専業主婦(夫)で国民年金第3号被保険者の場合、その方の年金加入には別の手続きが必要です。育休中の収入減少で配偶者が第3号被保険者になる場合は、配偶者の勤務先の事業主を通じて「第3号被保険者関係届」を提出する必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中は本当に年金保険料を払わなくていいのですか?
はい、厚生年金保険法第43条に基づき、育休期間中(子が2歳になるまで、延長の場合3歳まで)は事業主・被保険者の双方の保険料が全額免除されます。申請は事業主が行うため、労働者本人が直接支払う必要はありません。
Q2. 育休中の保険料免除で年金額は減りますか?
厚生年金保険法第13条第1項により、育休中の免除期間も「保険料を納付したものとして」年金加入期間に算入されます。ただし、育休中の給与が0円(または減額)になる月の標準報酬月額は低く(または0円で)記録されるため、生涯平均の報酬が下がり、報酬比例部分の年金額がわずかに減少する可能性はあります。差は年間数千円〜1〜2万円程度が多く、育休取得による影響は限定的です。
Q3. 育休期間の年金記録はいつ確認できますか?
ねんきんネットでは随時確認可能です。事業主が「育児休業等取得者申出書」を提出した後、数か月以内に記録が反映されます。翌年のねんきん定期便でも確認できます。
Q4. パートタイムでも育休中の保険料免除を受けられますか?
厚生年金保険の被保険者であれば、パートタイム労働者でも対象となります。2022年10月の法改正により、週20時間以上勤務・月額賃金8.8万円以上等の要件を満たす短時間労働者も厚生年金に加入が義務付けられたため、対象者が広がっています。
Q5. 養育期間標準報酬月額特例を申請し忘れたらどうなりますか?
申請忘れでも、遡及して申請することが可能です。ただし、対象期間が子の3歳の誕生月前月までと決まっているため、早めの申請が推奨されます。人事担当者に確認のうえ、「養育期間標準報酬月額特例申出書」を事業主経由で年金事務所へ提出してください。
Q6. 公務員は同じ制度が使えますか?
公務員は共済組合に加入しており、厚生年金保険法の適用を受けますが、育休中の保険料免除の手続き先は各共済組合になります。仕組みは民間の厚生年金と類似していますが、詳細は所属する共済組合に確認してください。
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まとめ
育休中の厚生年金保険料免除制度のポイントを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保険料の負担 | 事業主・被保険者ともに全額免除 |
| 免除期間 | 子が2歳(延長で3歳)になるまで |
| 年金加入期間 | 免除期間も「納付済み」として計算 |
| 老齢年金への影響 | 育休中の低報酬が将来額に微影響(限定的) |
| 申請主体 | 基本は事業主が年金事務所へ申請 |
| 記録確認 | ねんきんネット・ねんきん定期便で随時確認 |
| 復帰後の重要手続き | 養育期間標準報酬月額特例の申請(本人申出が必要) |
育休取得は老後の年金を大幅に損なうものではありません。ただし、職場復帰後の養育期間標準報酬月額特例の申請を忘れると本来受け取れる年金額が減ってしまう可能性があります。必ず事業主(人事担当)に申出を行い、ねんきんネットで定期的に記録を確認する習慣を身につけましょう。
不明な点は、最寄りの年金事務所(全国約312か所) またはねんきんダイヤル(0570-05-1165)にお問い合わせください。

