育休中に通信教育の受講を考えているけれど、「給付金に影響するのでは?」と不安を感じていませんか。
結論からお伝えすると、通信教育の受講は、それ自体が育児休業給付金の支給を直接停止させる事由にはなりません。 ただし、受講の内容や頻度によっては「就業可能性あり」と判定され、給付に影響するケースがあります。
この記事では、育休中の通信教育受講が給付金に与える影響の仕組み・ハローワークの判定基準・申請上の注意点を、法的根拠とともにわかりやすく解説します。育休中のスキルアップを検討している方、人事担当者として従業員から質問を受けた方、どちらにも役立つ内容です。
育休給付金と通信教育受講の関係を正しく理解しよう
育休給付金の基本的な支給要件とは
育児休業給付金は、雇用保険法第61条の4に基づく給付です。子どもを養育するために育児休業を取得した労働者が、仕事を休んでいる間の生活費を支援することを目的としています。
給付を受けるための基本的な要件は次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険への加入 | 育休開始時点で雇用保険の被保険者であること |
| 勤続・保険料納付期間 | 育休開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上あること |
| 休業期間 | 原則として子が1歳になるまでの育児休業(保育所未入所などの場合は最長2歳まで延長可) |
| 休業中の就業制限 | 支給単位期間(ひと月ごとの期間)中の就業日数が10日以下、かつ就業時間が80時間以下であること |
給付額は、育休開始から180日目までは休業開始時賃金の67%、181日目以降は50%が支給されます。たとえば休業開始時の月額賃金が30万円の場合、最初の180日間は月額換算で約20万1,000円、181日目以降は約15万円が目安となります(上限額あり、2025年時点)。
この制度の本質は「就業不可能な状態にあることへの生活保障」です。育児に専念しているために働けない状態を補償するものですから、就業と同視できる活動が伴う場合は制度の趣旨に反する可能性が生じます。
「通信教育の受講=給付金停止」は必ずしも正しくない
「育休中に通信教育を受けると給付金が止まる」という話を耳にすることがありますが、これは正確ではありません。
雇用保険法の条文上、支給停止事由として直接列挙されているのは「育児休業期間中に就業した場合」です(雇用保険法第61条の7)。通信教育の「受講」は、就業(労務提供による賃金収入)そのものではないため、受講した事実だけで給付が停止されるわけではありません。
厚生労働省が示す育児休業給付関係のQ&Aでも、次の趣旨が確認されています。
「育児に加えて他の活動(教育訓練を含む)を行っている場合でも、育児が主たる活動であり、就業可能性が認められない場合は給付の対象となる。」
つまり判断の軸は「就業可能性があるか否か」です。通信教育の受講がその判断に影響するかどうかは、受講の内容・頻度・形態によって変わります。次のセクションで、この判定基準を詳しく見ていきましょう。
給付金に影響する「就業可能性」の判定基準とは
ハローワークが確認する3つのポイント
育児休業給付金の支給申請を受け付けるハローワーク(公共職業安定所)は、申請内容を審査する際に受給者の「就業状況」を確認します。通信教育受講が絡む場合、実務上は主に以下の3点がチェックポイントとなります。
① 学習時間・受講頻度
自宅で教材を読む、動画を視聴するといった学習活動は、時間帯や頻度を自分でコントロールできます。育児の合間に少しずつ学ぶ程度であれば、就業可能性の判定に直接影響しないと考えられます。一方、毎日数時間にわたり学習に集中できる状況であれば、「育児が主たる活動である」という前提と矛盾が生じる可能性があります。
② スクーリング・実習の有無
通信教育の多くは自宅学習が中心ですが、一部のコースにはスクーリング(対面授業)や実習が含まれます。これらは特定の日時に特定の場所へ出席する必要があるため、ハローワークは「就業に準ずる活動」と評価する可能性があります。
スクーリングの日数が1ヶ月あたり10日を超える場合は、就業日数制限(月10日以下)に抵触するリスクが高まります。ただし、スクーリングが賃金を伴わない教育活動であれば、機械的に就業日数にカウントされるわけではなく、個別に判断されます。
③ 受講が「就業に準ずる活動」か否か
受講が報酬を伴う場合(例:資格取得後に業務委託契約を前提とした研修など)や、事業主から業務の一環として指示を受けた研修・資格取得の場合は、「就業に準ずる活動」と見なされる可能性があります。この場合は事業主確認書類にも記載が求められることがあり、実質的な就業とみなされるリスクが高まります。
問題になりにくい受講形態と注意が必要な形態
判定の結果が分かれやすい受講形態を整理すると、次のようになります。
給付に影響しにくいケース
- 自宅で時間を自由に調整しながら学ぶ通信制講座(放送大学、資格予備校のeラーニング等)
- スクーリングが年に数日程度で、月10日を大幅に下回るもの
- 賃金や報酬が一切発生しない純粋な自己啓発
- 育児の合間に取り組む学習で、子の世話が最優先されている状況
給付への影響が懸念されるケース
- スクーリングや実習が月に複数回以上あり、1ヶ月の出席日数が就業日数制限に近づくもの
- 事業主の業務命令・指示に基づく社内研修や資格取得支援プログラム(業務上の研修は就業とみなされる可能性あり)
- 報酬・謝礼が支払われる形での受講や発表活動
- 受講がきっかけで副業収入が発生している場合
「就業日数・時間」の具体的な計算方法
育児休業給付の支給単位期間(1ヶ月ごとの期間)において、就業日数が10日超、または就業時間が80時間超になると、支給額が減額または支給停止となります。
スクーリング等の出席日が就業日数にカウントされるかどうかは、事業主が記載する「就業日数確認欄」の内容に依存します。会社を介した業務研修であれば就業日数に含まれますが、個人の自由意思による教育訓練であれば通常は含まれません。
申請前に事業主(会社の人事担当者)と認識を合わせておくことが非常に重要です。
通信教育受講時の申請手続きと必要書類
申請の全体的な流れ
育児休業給付金の申請は、育休取得者本人ではなく事業主(会社)がハローワークに代行して行うのが原則です。個人で直接申請することも可能ですが、事業主を通じた申請が一般的です。
【育休開始前:育休開始1ヶ月前を目安】
事業主が「育児休業取得予定者報告書」をハローワークへ提出
↓
【育休開始後:初回申請】
育休開始翌月から2ヶ月以内に初回申請書を提出
↓
【以降:2ヶ月ごとの定期申請】
支給単位期間2ヶ月分をまとめて申請(申請期限:支給単位期間末日の翌日から起算して2ヶ月以内)
↓
【ハローワークの審査】
就業日数・就業時間・就業可能性の確認
↓
【給付金の振込】
審査通過後、指定口座に振込
申請に必要な主な書類
初回申請時に必要な書類
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書(雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書と兼用様式) | ハローワーク所定様式(事業主が記載) |
| 賃金台帳・出勤簿(タイムカード)の写し | 賃金額・勤務状況の確認用 |
| 母子健康手帳(出生確認ページ)の写し | 子の出生日確認 |
| 育児休業申出書の写し(社内書類) | 育休開始日・期間の確認 |
2回目以降(定期申請)に必要な書類
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | 事業主が就業日数・就業時間を記載・確認 |
| 賃金台帳・出勤簿の写し(該当期間分) | 就業の有無・日数の確認 |
通信教育受講時に追加で確認・準備すること
通信教育を受講している場合、申請書類そのものが増えるわけではありません。ただし、次の点を事前に整理しておく必要があります。
事業主への事前報告と確認
社内研修・資格取得支援制度を利用する場合は、育休中の活動として事業主が把握することになります。会社の判断によっては就業日数に算入される可能性があるため、人事担当者に受講の位置づけを事前に確認してください。
受講記録・申込書の保管
通信教育の申込書・受講証明書・スクーリング出席記録などは、万が一ハローワークから問い合わせがあった際の説明資料として保管しておくと安心です。「自己啓発として受講しており、報酬は発生していない」ことを示せる書類があると、判定がスムーズになります。
教育訓練給付金との併給について
通信教育の費用について教育訓練給付金(雇用保険法第60条の2)の申請を検討している場合は注意が必要です。教育訓練給付金を受給するためには原則として修了時点で被保険者(または離職後1年以内)である必要があります。育休中は雇用保険の被保険者資格を維持していますので申請自体は可能ですが、育児休業給付金と教育訓練給付金は同一の訓練に対して同時受給できない場合があります。申請前に管轄のハローワークへ確認することを強くおすすめします。
対象者別チェックポイント
育休取得中の従業員本人へ
通信教育受講に関して自分でできる確認事項をまとめます。
- 受講の動機が自己啓発であることを明確にしておく(社命研修との混同を避ける)
- スクーリング・実習の月あたり日数を事前に確認し、月10日・80時間の目安を超えないかチェックする
- 受講料・受講証明書など関連書類はすべて保管しておく
- 受講によって報酬・収入が発生しないことを確認する
- 不安な場合は、申請を代行している会社の人事担当者または管轄のハローワークに直接相談する
人事担当者・会社側へ
従業員から育休中の通信教育受講について相談を受けた場合のポイントを整理します。
- その受講が業務命令・会社の指示によるものか、個人の自由意思によるものかを明確にする
- 業務命令による研修・資格取得の場合は、就業日数として計上されうることを従業員に伝える
- 就業日数の記載は正確に行い、虚偽記載は雇用保険法上の不正受給に該当するリスクがあることを認識する
- 従業員が個人的に通信教育を受講している場合でも、会社側が申請書類に記載する内容(就業日数・就業時間)に誤りがないか確認する
- 判断に迷う場合は、事業所を管轄するハローワークの給付担当窓口に相談する
実際にハローワークで確認が入った場合の対応
育児休業給付金の審査において、ハローワークから追加確認の連絡が来るケースは多くありませんが、通信教育受講が申請書類上で確認された場合や、就業日数の記載に不審点がある場合には問い合わせがあることもあります。
その際に求められる可能性がある情報は次のとおりです。
- 受講している通信教育の名称・内容
- 受講の開始日・終了予定日
- スクーリング・実習の有無と頻度
- 受講料の支払い元(自己負担か会社負担か)
- 受講に伴う報酬・手当の有無
- 育児との両立状況(子の保育者は誰か、など)
これらの質問に対して正確かつ一貫した回答ができるよう、受講開始前から記録を整理しておくことが大切です。
重要: 事実と異なる申告は不正受給とみなされ、給付金の返還命令・加算金・場合によっては刑事罰(詐欺罪・雇用保険法違反)の対象となります。少しでも疑義がある場合は、必ずハローワークに事前確認をしてください。
まとめ:育休中の通信教育受講、給付金に影響させないための3原則
育休給付金と通信教育受講の関係について、最終的なポイントを3つに絞ってまとめます。
原則①:通信教育の受講自体は支給停止事由ではない
雇用保険法上、育休中の通信教育受講は直接の給付停止事由に該当しません。育児が主たる活動であり、就業可能性が認められない状況であれば、受講していても給付は継続されます。
原則②:「就業可能性」の判定が鍵になる
スクーリング・実習の頻度、受講の報酬性、業務命令との関連性——これらが「就業可能性あり」と判定される要因です。月10日・80時間の目安を意識しながら、報酬の伴わない純粋な自己啓発であることを明確にしておきましょう。
原則③:不明な点は事前にハローワークへ相談する
判定基準はケースバイケースの部分が大きく、画一的なルールだけで判断するのは危険です。通信教育受講を育休中に始める前に、管轄のハローワーク給付担当窓口または会社の人事担当者に相談し、「問題ないことの確認」を取っておくことが最も確実な対策です。
育休と通信教育の両立は十分に可能ですが、給付金に関する判定は個別性が高く、判断基準が微妙なケースも少なくありません。この記事で述べた3つの原則を念頭に置き、不安なことがあれば管轄のハローワーク窓口へ相談することをおすすめします。正確な情報に基づいた事前準備が、育休期間中の安心した学習環境につながります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中にTOEICや簿記の通信講座を受けても給付金は止まりませんか?
はい、一般的には問題ありません。自宅学習が中心で賃金・報酬が発生せず、スクーリングがない(またはごく少数日程度)の市販通信講座であれば、就業可能性があるとは判定されにくいです。ただし、念のため会社の人事担当者に受講の旨を伝えておくと安心です。
Q2. 会社の資格取得支援制度を育休中に利用したいのですが、注意点はありますか?
会社が費用を負担する社内制度を利用する場合、それが「業務の一環」と見なされる可能性があります。就業日数に算入されると給付額に影響することがあるため、利用前に人事担当者を通じてハローワークに確認することをおすすめします。
Q3. 教育訓練給付金と育児休業給付金は同時に受け取れますか?
同一の講座・訓練に対して両給付を重複して受給することは原則できません。ただし、教育訓練給付金の申請タイミング(修了後1ヶ月以内)と育休給付金の受給期間が重なる場合の取り扱いは、個別の事情によって異なります。管轄のハローワークに詳細を確認してください。
Q4. 育休中に放送大学(通信制大学)に在籍して単位を取得する場合はどうなりますか?
放送大学のように主に自宅視聴・自己学習が中心の通信制大学であれば、基本的には就業可能性の判定に直接影響しないと考えられます。ただし面接授業(スクーリング)が月に複数回発生する場合や、大学院レベルで実験・実習が伴う場合は念のためハローワークへ確認することをおすすめします。
Q5. 育休中の受講が後から問題になることはありますか?
給付金の受給期間終了後であっても、不正受給が発覚した場合は返還命令の対象になります。後からトラブルにならないよう、受講当時の記録(受講申込書・スクーリング出席記録・費用領収書など)は育休終了後も一定期間保管しておくことを推奨します。
Q6. 育休中の通信教育受講について、ハローワークに相談に行く際に準備するものはありますか?
相談時に持参すると話がスムーズになる資料として、①受講予定の通信教育のパンフレット・カリキュラム表、②スクーリングの日程・回数がわかる資料、③会社の育休関連書類(育休期間・申請状況の確認のため)が挙げられます。窓口での相談は無料で受け付けていますので、判断に迷う場合は積極的に活用してください。
参考法令・情報源
- 雇用保険法 第61条の4~第61条の8(育児休業給付)
- 雇用保険法施行規則 第101条の8~第101条の19
- 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続き」
- 厚生労働省「教育訓練給付制度」
- 各都道府県労働局・ハローワーク窓口(個別相談)

