2024年10月1日、育休給付金の制度に大きな変更が加わりました。長年にわたって設けられていた月額上限370,110円が廃止され、高収入の労働者にとっても実際の収入に見合った給付が受けられるようになっています。
育休給付金(正式名称:育児休業給付金)は、雇用保険から支給される育児休業中の収入補償制度です。2024年10月の改正では、賃金日額の上限が約2倍に引き上げられ、月収60万円を超える層にも大幅な給付増が実現しました。この記事では、改正の背景から新しい計算方法、月収別のシミュレーション、申請手続きまでを図解を交えて体系的に解説します。「自分はいくらもらえるのか」「手続きはどうすればいいのか」という疑問を、この1記事で解消できるよう構成しています。
育休給付金の月額上限廃止とは?2024年10月改正のポイント
育休給付金は、育児休業中の収入減少を補うために雇用保険から支給される給付です。支給額は「休業前の賃金をもとに算出した一定割合」で決まりますが、以前は月額の上限が370,110円に固定されており、月収が高い人ほど制度の恩恵を受けにくい構造になっていました。
2024年10月の改正はこの不公平さを解消するための制度見直しです。
改正前の上限額と問題点
改正前の月額上限370,110円は、休業開始時賃金日額の上限(15,190円)×30日×81.34%という計算式によって算出されていました(端数処理後の概算値)。
この上限額を収入に換算すると、月収約55万円以上の人が影響を受けることになります。たとえば月収80万円の労働者が育休を取得しても、給付金は上限の370,110円どまり。これは月収の約46%にすぎず、「育休を取ると生活が厳しい」と感じる高収入層が育休取得を敬遠する一因となっていました。
特に顕著だったのは管理職や専門職として高収入を得ている女性、および近年育休取得促進が叫ばれているパパ育休(産後パパ育休を含む)における男性です。会社の主要な担い手である人材が「上限のせいで損をする」という状況は、育休取得率向上の妨げになっていました。
2024年10月1日以降の新ルール概要
2024年10月1日を施行日として、雇用保険法施行規則の改正により賃金日額の上限が引き上げられました。これにより事実上の「月額上限廃止」と同等の効果が生まれています。
具体的には、従来15,190円だった賃金日額の上限が30,450円へと約2倍に引き上げられました。これによって月収に換算すると約61万円相当まで上限の影響を受けなくなり、さらに高収入層でも給付額が大幅に増加します。
| 項目 | 改正前(〜2024年9月) | 改正後(2024年10月〜) |
|---|---|---|
| 賃金日額の上限 | 15,190円 | 30,450円 |
| 月額給付の実質上限(67%の場合) | 約370,110円 | 約612,000円 |
| 影響を受ける月収の目安 | 約55万円以上 | 約91万円相当まで |
法的根拠は雇用保険法第61条の4および同法施行規則第100条〜第104条です。2023年に改正された育児・介護休業法の施行に合わせ、給付面でも実効性を高める措置として位置づけられています。この改正により、より多くの労働者が育休を取得しやすい環境整備が進められています。
【2025年最新】育休給付金の新基準における給付額の計算方法
上限が変わったことで「自分の給付額はいくらか」を正確に把握することが重要です。ここでは計算式の仕組みから、具体的なシミュレーションまでを丁寧に解説します。
基本計算式(67%・50%の仕組み)
育休給付金の計算は、育休開始からの期間によって給付率が異なります。
■ 計算の基本ステップ
① 賃金日額を算出する
= 育休開始前6か月間の賃金合計 ÷ 180日
② 月あたりの給付額を算出する
= 賃金日額 × 30日 × 給付率
■ 給付率の区分
| 期間 | 給付率 | 手取り換算の目安 |
|---|---|---|
| 育休開始〜180日(約6か月)以内 | 67% | 実質約80%相当※ |
| 育休開始181日目〜 | 50% | 実質約60%相当※ |
※社会保険料・雇用保険料の支払いが免除されるため、手取りベースでの実質給付率は見かけより高くなります。
■ 賃金日額の上限(2024年10月以降)
- 上限:30,450円(改正後)
- 上限を超える賃金日額は、この上限額で計算されます
- 下限は2,746円(基本手当日額の最低額に準拠)
たとえば月収50万円の場合、賃金日額は約16,667円(500,000円÷30日)となり、上限の30,450円を下回るため全額が計算に反映されます。
月収別シミュレーション早見表
以下の表は、育休開始から180日以内(給付率67%)の月額給付額を月収別に試算したものです。賞与・残業代を除いた基本月収で計算しています。
| 基本月収 | 賃金日額(概算) | 月額給付(67%) | 改正前との差額 |
|---|---|---|---|
| 30万円 | 10,000円 | 約201,000円 | 変化なし |
| 40万円 | 13,333円 | 約268,000円 | 変化なし |
| 50万円 | 16,667円 | 約335,000円 | 変化なし |
| 60万円 | 20,000円 | 約402,000円 | +約32,000円 |
| 70万円 | 23,333円 | 約469,000円 | +約99,000円 |
| 80万円 | 26,667円 | 約536,000円 | +約166,000円 |
| 100万円 | 30,450円(上限) | 約612,000円 | +約242,000円 |
| 120万円 | 30,450円(上限) | 約612,000円 | +約242,000円 |
※月収100万円以上は賃金日額が上限(30,450円)に達するため給付額は同一になります。
※実際の支給額は端数処理・算定方法により若干異なる場合があります。
パパ育休(産後パパ育休)の場合、育休開始から28日間は特例として給付率が実質100%相当(給付率67%+社会保険料免除)になる場合があります(2022年10月〜の制度)。詳細は勤務先の人事部門や社会保険労務士に確認することをおすすめします。
賞与・残業代は計算に含まれるか?
育休給付金の算定基礎となる「賃金日額」の計算方法は、含まれる賃金の範囲が重要です。
Q. 賞与(ボーナス)は賃金日額に含まれますか?
→ 含まれません。 賞与は賃金日額の算定から除外されます。育休開始前6か月の「月例賃金」のみが対象です。ただし育休開始月の賞与支給日によっては調整が必要な場合があります。
Q. 残業代(時間外手当)は含まれますか?
→ 含まれます。 毎月支払われる残業代・深夜手当・休日手当などは賃金日額の算定に含まれます。ただし算定対象は育休開始前の6か月間に実際に支払われた分に限られるため、育休前の残業時間が少なかった場合は給付額に反映されません。
Q. 通勤手当・住宅手当は含まれますか?
→ 含まれます。 毎月定期的に支払われる手当は原則として賃金日額の算定対象に含まれます。
Q. 育休期間中に賞与が出た場合は?
→ 育休期間中に支給される賞与は給付金の計算には影響しません。ただし育休中も在籍している場合、会社の就業規則によっては賞与が支給されることがあります(支給の有無は会社の裁量)。
上限廃止による影響:誰がどれだけ得をするのか?
収入水準別の影響度
上限廃止の恩恵を受けるのは、主に月収55万円以上の労働者です。月収55万円以下の方は改正前後で給付額は変わりません。
影響が大きい層を整理すると以下のとおりです。
| 収入水準 | 影響の有無 | 主な該当者 |
|---|---|---|
| 月収〜40万円 | 影響なし | 一般的な会社員・パート社員 |
| 月収40〜55万円 | 影響なし〜軽微 | 中堅〜ベテラン層 |
| 月収55〜80万円 | 給付増加(月2〜17万円) | 管理職・専門職・共働き世帯の一方 |
| 月収80〜100万円 | 給付増加(月17〜24万円) | 高収入専門職・役員クラス |
| 月収100万円以上 | 給付増加(月約24万円) | 上位所得者(上限30,450円で頭打ち) |
パパ育休への影響
特に注目されているのが男性の育休取得(パパ育休)への影響です。男性が育休を取りにくかった要因の一つに「収入減が大きすぎる」という経済的理由がありました。
月収70万円の男性が育休を取得した場合、改正前は月約37万円の給付にとどまっていたのが、改正後は月約47万円と10万円近くの増額になります。育休中の実質的な家計への影響が小さくなることで、男性育休取得の心理的ハードルが下がることが期待されています。
厚生労働省の調査によれば、給付額の増加は実際に男性の育休取得希望率を高める要因となっており、2024年以降の育休取得率の向上に寄与すると見込まれています。
パート・有期契約社員への影響
2024年10月の改正では、有期契約社員・パートタイム労働者の受給要件も緩和されました。
改正前は「同一事業主に継続して1年以上雇用されていること」に加え、「子が1歳6か月まで雇用継続の見込みがあること」という要件が必要でしたが、改正後はこの要件が廃止(労使協定で除外する場合を除く)されました。
これにより、有期契約社員でも基本的な在籍要件を満たせば育休給付金を受け取りやすくなっています。育児と仕事の両立支援が、より幅広い雇用形態の労働者に広がることになります。
申請手続きと必要書類
申請の流れ(ステップ別)
育休給付金の申請は、基本的に事業主(会社)がハローワークに代理申請します。労働者本人が直接申請するケースは少ないですが、流れを理解しておくことが重要です。
STEP 1:育休開始前の準備(育休開始1か月前まで)
- 会社に「育児休業申出書」を提出(育児・介護休業法に基づく)
- 育休開始日・終了予定日を確定する
- 給与明細・賃金台帳で直近6か月の賃金を確認しておく
STEP 2:受給資格確認・初回申請(育休開始後2か月以内)
- 事業主がハローワークに「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」を提出
- 必要に応じて被保険者本人も書類に署名・捺印
- ハローワークが賃金日額・給付額を確定する
STEP 3:2回目以降の支給申請(2か月に1回)
- 認定対象期間ごとに2か月に1回、事業主が支給申請を行う
- 申請期限(認定日)を過ぎると給付が受けられなくなる場合があるため注意が必要です
STEP 4:給付金の振込
- 申請から約1〜2週間で被保険者(労働者)本人の口座に振込
- 支給明細は事業主を経由して労働者に通知される
必要書類一覧
| 書類名 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・支給申請書(様式第2号-2) | ハローワーク・厚労省HP | 事業主が作成 |
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | ハローワーク・厚労省HP | 賃金を証明する書類 |
| 賃金台帳(直近6か月分) | 会社の経理・人事部門 | コピー可 |
| 母子健康手帳(出生証明部分) | 本人 | 子の生年月日の確認用 |
| 育児休業申出書のコピー | 会社 | 育休取得を証明 |
| 振込先口座確認書類 | 本人 | 通帳・キャッシュカードのコピー等 |
電子申請(e-Gov)の利用
2024年現在、育休給付金の申請はe-Gov電子申請にも対応しています。電子申請を利用すると以下のメリットがあります。
- 窓口に出向く必要がなく、時間・場所を選ばない
- 申請状況をオンラインで確認できる
- 書類の郵送・紛失リスクを低減できる
中小企業でも社会保険労務士に委託することで電子申請に対応できます。人事担当者は早めに対応を確認しておくことをおすすめします。
申請期限・認定日の注意点
育休給付金の申請には厳格な期限があります。
- 初回申請:育休開始日から2か月を経過する日の属する月の末日まで
- 2回目以降:認定対象期間の末日翌日から4か月以内
期限を過ぎた場合、原則として給付は受けられません。会社の担当者任せにせず、スケジュールを自分でも把握しておきましょう。
受給要件の確認:対象者・対象外の条件
受給できる主な要件
育休給付金を受け取るには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険への加入 | 雇用保険の被保険者(一般被保険者)であること |
| 勤続期間 | 育休開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あること |
| 育休の取得 | 育児・介護休業法に基づく育休を取得していること |
| 就業制限 | 育休期間中に就業している日数が10日以下(または就業時間が80時間以下) |
| 賃金の低下 | 育休中の賃金が休業前賃金の80%未満であること |
受給できないケース
- 雇用保険に未加入(個人事業主・フリーランスなど)
- 育休中に10日超または80時間超の就業がある
- 育休前に退職や離職の予定が明らかな場合(ただし例外あり)
- 同一の子について既に育休給付金を受け終わっている場合
よくある質問と手続き上の注意点
Q1. 夫婦で同時に育休を取った場合、両方が給付金をもらえますか?
はい、受け取れます。夫婦がそれぞれ育休を取得している場合、それぞれの雇用保険から独立して給付金が支給されます。ただしそれぞれが受給要件を満たしている必要があります。2024年10月以降の改正により、夫婦で高収入の場合でも給付額が増加するため、育児と仕事の両立がより現実的になりました。
Q2. 育休を途中で切り上げた場合、給付金はどうなりますか?
育休を終了した日で給付も終了します。ただし育休開始から180日以内であれば給付率67%が適用された分は受け取れます。復職日を会社に伝え、速やかにハローワークへの届出が必要です。手続きの遅延により給付を失うケースもあるため、早めの報告を心がけましょう。
Q3. 2人目の育休でも給付金はもらえますか?
もらえます。1人目の育休給付金と同様の要件を満たしていれば、2人目・3人目の育休でも受給可能です。ただし、1人目の育休期間が長く、雇用保険の加入実績が12か月に満たなくなる場合は要注意です。この場合は最初からやり直しになる可能性があります。
Q4. 産前産後休業(産休)中も給付金はもらえますか?
産休中は育休給付金ではなく、健康保険から「出産手当金」が支給されます(標準報酬日額の3分の2相当)。育休給付金は産休後に育休に入ってから支給が始まります。出産手当金の支給期間を確認し、育休の開始日と重ならないよう調整することが重要です。
Q5. 月途中から育休を開始した場合、給付額はどう計算されますか?
育休開始月・終了月は「実際の育休日数」に応じた日割り計算になります。支給単位期間(1か月)が30日に満たない場合は、実際の育休日数で比例計算されます。初月は減額になることが多いため、事前にハローワークで試算を依頼することをおすすめします。
Q6. 上限廃止は2024年9月以前に育休を開始した人にも適用されますか?
いいえ、2024年10月1日以降に育休を開始した方が対象です。それ以前に育休を開始した方には従来の上限が適用されます。ただし、2024年10月1日以降に育休を延長・再取得する場合は新基準が適用される可能性があります。詳細はハローワークにご確認ください。
Q7. 給付金を受け取った場合、所得税や住民税への影響はありますか?
育休給付金は非課税所得です。所得税・住民税の課税対象にはなりません。そのため所得控除の対象にもなりませんが、税負担が増えることもありません。
まとめ:2025年に向けて押さえるべきポイント
2024年10月の改正により、育休給付金の月額上限は事実上廃止され、より多くの労働者が実際の収入に見合った給付を受けられるようになりました。
改正のポイントをおさらい
- 賃金日額の上限が15,190円→30,450円に引き上げ(実質上限廃止)
- 月額給付の上限が約37万円→約61万円に拡大
- 有期契約社員の受給要件が緩和され、パートも取得しやすく
- 対象は2024年10月1日以降に育休を開始した方
高収入の方ほど恩恵が大きい改正ですが、月収55万円以下の方でも有期雇用の要件緩和など制度全体の利便性が向上しています。
申請は基本的に会社が代行しますが、計算方法・必要書類・申請期限を本人も把握しておくことが、取りこぼしなく給付を受けるための最善策です。疑問がある場合は、最寄りのハローワーク、または会社の社会保険労務士に早めに相談することをおすすめします。2025年に育休の取得を検討している方は、改正内容を十分に理解した上で、制度を最大限に活用することが大切です。
参考法令・情報源
- 雇用保険法 第61条の4
- 雇用保険法施行規則 第100条〜第104条
- 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
- ハローワークインターネットサービス(公式)


