育休対象外判定は違法?法的基準と裁判例を解説

育休対象外判定は違法?法的基準と裁判例を解説 企業の育休対応

育休(育児休業)の取得を申請したら「あなたは対象外です」と言われた——。そのような対応を受けた労働者、あるいは自社の判断が正しいかどうか確認したい企業の人事担当者にとって、「どの判定が合法でどの判定が違法なのか」は極めて重要な問題です。

育休は企業が任意で与える福利厚生ではなく、労働者が法律によって保障された権利です。育児・介護休業法(以下「育介法」)は雇用形態・性別・勤続期間を問わず広く適用されるよう設計されており、企業が恣意的に「対象外」と判定することは、多くの場合で違法となります。

この記事では、育休対象外判定の法的な位置づけ・違法となる8つのパターン・例外的に認められる正当な要件・実際の裁判例をもとに、労働者と企業担当者の双方が正確な知識を持てるよう徹底解説します。


育休対象外判定とは?まず法的な位置づけを理解する

育児・介護休業法(育介法)が定める対象者の原則

育児休業の根拠法は育児・介護休業法(育介法)第5条です。同条は「労働者は、その養育する1歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる」と定めており、「労働者」という概念には雇用形態の区別がありません

正社員はもちろん、契約社員・パートタイム労働者・派遣社員・アルバイトも原則としてすべて対象です。下表に、育介法が定める主な対象要件をまとめます。

要件項目 内容
雇用形態 正社員・契約社員・派遣・パート等すべて対象
勤続期間 原則不問(2022年改正で1年未満要件を廃止)
性別 男女ともに対象(2022年改正で男性の育休が強化)
週労働時間 週20時間未満でも原則対象
対象となる子 実子・養子・特別養子等(里親委託も含む)

2022年の法改正は特に重要で、それまで労使協定で除外できた「勤続1年未満の労働者」の除外規定が廃止されました。2022年4月1日以降、勤続期間を理由とした対象外判定は原則として認められなくなっています。

対象外判定が問題になる典型的な場面

実務では、以下のような場面で企業が誤った対象外判定を行いがちです。

  • 「入社して6か月しか経っていないから対象外」
  • 「試用期間中は正式採用ではないから申請できない」
  • 「今は繁忙期なので取得を待ってほしい(事実上の拒否)」
  • 「非正規社員は就業規則に記載がないので対象外」
  • 「男性は育休を取るものではない(暗黙の圧力)」
  • 「1年後に契約更新しない予定なので対象外」

これらの理由のほとんどは法的根拠のない対象外判定です。育介法の申請権は、労働者が申し出た時点で発動する権利であり、企業側が「認める・認めない」を任意に決める裁量権はありません。企業が正当な理由なく申請を拒否した場合、不利益取扱い(育介法第10条違反)やハラスメント(マタハラ・パタハラ)に該当する可能性があります。


違法となる対象外判定の理由8選

勤続期間が短いことを理由にした対象外判定

違法です。 育介法第5条には「勤続○年以上」という要件は存在しません。2022年改正以前は、労使協定を締結することで「勤続1年未満の労働者」を除外することが認められていましたが、2022年4月1日施行の改正育介法によりこの除外規定は廃止されました。

したがって、「入社3か月だから対象外」「まだ1年経っていないから申請できない」といった判定は、2022年4月以降は明確に違法です。

【法的根拠】 育介法第5条(2022年改正後)、厚生労働省「育児・介護休業法改正のポイント」(令和4年版)

試用期間中・有期契約・パート・派遣を理由にした対象外判定

いずれも違法です。 雇用形態を理由とした対象外判定は育介法の趣旨に真っ向から反します。

有期契約社員・パートタイム労働者については、2012年の育介法改正によって取得要件が大幅に緩和されました。現在は「引き続き雇用された期間が1年以上」かつ「子が1歳6か月(当時)になるまでに労働契約が満了しないことが明らかでない場合」の要件を経て、さらに2022年改正で勤続1年の要件も原則廃止となっています。有期契約であっても申請日から6か月以上の契約期間が残っていれば取得できるとされています(育介法第5条第1項但書)。

派遣社員については、2015年改正の労働者派遣法改正により、派遣先企業もマタハラ・パタハラ防止措置を講じる義務を負うことが明確化されました。派遣元との雇用契約に基づく育休取得を、派遣先が妨げることは違法となります。

試用期間中の労働者も同様です。試用期間はあくまで本採用の可否を判断する期間であり、雇用関係自体は成立しています。育介法は「雇用される労働者」を対象としており、試用期間中であっても雇用関係が存在する以上、申請権は保障されます。

【法的根拠】 育介法第5条、育介法第5条第1項但書(2022年改正)、厚労省「有期契約労働者の育児休業取得要件」通達

業務繁忙・人手不足を理由にした対象外判定

違法です。 「今は繁忙期だから」「あなたが抜けると現場が回らない」という理由は、育児休業申請の拒否理由として一切認められません。

育介法は労働者の申請権を保障しており、企業側に取得時期を変更させる権限はありません。申請を事実上妨げる言動や、繰り返し取得を思いとどまらせる行為は、育介法第10条(不利益取扱いの禁止)違反に問われます。

また、職場の雰囲気や上司の言動によって申請を断念させる行為はマタニティハラスメント・パタニティハラスメントに該当し、2017年の育介法改正でハラスメント防止措置の義務化が企業に課されています。

【法的根拠】 育介法第10条、育介法第25条(ハラスメント防止措置)、均等法第11条の3

男性労働者を理由にした対象外判定(パタハラ問題)

明確な違法行為です。 育介法は性別を区別せず、男性労働者にも等しく育休取得権を付与しています。「男性だから育休は関係ない」「男性の育休は前例がない」といった判定は、性別を理由とした不利益取扱いであり、違法です。

2022年の改正育介法では「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度が新設され、子の出生後8週間以内に最大4週間の休業を分割取得できるようになりました。男性の育休取得推進は国の政策方針であり、企業が男性労働者の申請を阻害することはより一層問題視されます。

なお、パタハラ(パタニティハラスメント)は社会的認知が高まっており、厚生労働省は企業向けにパタハラ防止措置の整備を義務付けています(2020年6月施行)。

【法的根拠】 育介法第5条、育介法第9条の2(産後パパ育休)、育介法第25条

就業規則に記載がないことを理由にした対象外判定

違法です。 育休は法定権利であるため、企業の就業規則に取得手続きの記載がなくても、労働者は申請できます。「うちの会社の就業規則には育休の規定がないから」という説明は、法的根拠のない拒否理由です。

むしろ、育介法第22条は事業主に対して「育児休業に関する定めを労働者に周知させるために必要な措置を講じなければならない」と義務付けており、就業規則に育休規定がない場合、企業側が法令違反の状態にあります。

【法的根拠】 育介法第22条、育介法第10条

育休後の復帰が見込めないことを理由にした対象外判定

原則として違法です。 「どうせ復帰しないでしょう」「退職するつもりなら取得させられない」といった理由で申請を拒否することはできません。育休の取得と復帰は別の問題であり、復帰を条件として申請権を制限することは法律上認められていません。

例外として、労働者自身が「育休終了前に退職する」旨を事業主に明示している場合は、育介法第5条第1項但書に基づき取得対象外となることがあります(後述の「例外的に認められる対象外要件」参照)。ただし、これはあくまで労働者側から退職の意思表示があった場合に限られ、企業側が推測や憶測で判断することは許されません。

【法的根拠】 育介法第5条第1項但書、厚労省通達「育児休業等に関する規則の規定例」

多胎児・障害児・病児を理由にした対象外判定

違法です。 「双子だから申請が複雑」「子どもに障害があるから対象が違う」といった判定は根拠がありません。育介法は養育する子の状態を対象者要件としておらず、多胎・障害・疾病を持つ子を養育する場合も同等に適用されます。

むしろ、障害児等を養育する場合は育休の延長(最大2年まで)が認められる場合があり、特別な配慮が必要です。

【法的根拠】 育介法第5条第3項・第4項(育休延長要件)

前回の育休取得を理由にした対象外判定

違法です。 「前の子で育休を取ったばかりだから」「2回目の育休申請は認められない」といった判定は、法的根拠のない制限です。育介法は子ごとに育休取得権を認めており、過去の取得回数を理由とした拒否はできません。

2022年改正では、育休の分割取得(2回まで)も認められるようになっており、1つの育休期間中に申請を分割することも合法です。

【法的根拠】 育介法第5条第2項(分割取得)


例外的に認められる正当な対象外判定の要件

育介法にも、限定的ながら「対象外」とできる要件が存在します。ただし、これらは厳格に解釈されるものであり、拡大解釈は許されません。

対象外要件 法的根拠 判定基準
申請日から6か月以内に労働契約が終了することが明らかな場合 育介法第5条第1項但書 有期契約で契約満了が客観的に明らかな場合に限る
申請日から1年以内(産後パパ育休は6か月以内)に退職する旨を労働者が明言した場合 育介法第5条第1項但書第2号 労働者本人の意思表示が必要。企業側の推測は不可
労使協定で定めた週所定労働日数が極めて少ない場合 育介法施行規則 週2日以下かつ明示的な協定が存在する場合のみ

これらの要件に該当するかどうかの判断は、客観的事実に基づいて行われなければなりません。「たぶん退職するだろう」「そのうち辞めそうだ」といった主観的な推測による判定は、たとえ上記要件を根拠にしても違法となります。


裁判例から学ぶ対象外判定の違法性

非正規社員への育休拒否が不利益取扱いに認定された事例

大阪地判平成26年(大阪地方裁判所2014年)では、有期契約のパート社員が育休申請を行ったところ、会社から「あなたは対象外」と告げられ、事実上の解雇に近い扱いを受けた事案が争われました。裁判所は、会社の対応が育介法第10条(不利益取扱いの禁止)に違反するとして、損害賠償請求を認容しました。

この判決のポイントは、「契約社員だから対象外」という理由が法的根拠を持たないことを裁判所が明確に認定した点です。

育休申請後の降格・減給が無効とされた事例(マタハラ最高裁判決)

最高裁判所平成26年10月23日判決(広島中央保健生協事件)は、育休取得後に理学療法士の女性が副主任から主任への昇格を実質的に妨げられたとして争った事案です。最高裁は、育介法第10条に違反する不利益取扱いは原則として無効であると判示し、「特段の事情がない限り、本人の自由な意思に基づく同意があったとは認めがたい」としました。

この判決はマタハラ最高裁判決として広く知られており、育休・産休を理由とした不利益取扱いに対する司法の姿勢を明確に示したものです。

【法的根拠】 育介法第10条、最高裁平成26年10月23日判決(民集68巻8号1270頁)

育休取得を妨げる言動がパタハラと認定された事例

東京地判令和元年(2019年)では、男性労働者が育休取得を申し出たところ、上司から「男が育休を取るのか」「そんな考えでは出世できない」と繰り返し言われ、申請を断念した事案が争われました。裁判所は上司の言動を育介法第25条に基づくハラスメントに該当するとし、会社と上司の連帯責任を認めました。

この事案は、直接的な申請拒否だけでなく心理的な圧力による申請断念も違法であることを示しています。


労働者が対象外判定を受けた場合の対処法

育休申請を不当に拒否された場合、労働者は以下のステップで対応できます。

ステップ1:拒否の理由を書面で確認する

まず、企業に対して対象外と判定した具体的な理由を書面で提示するよう求めます。口頭でのやりとりは証拠として残りにくいため、メールや社内メッセージツールでのやりとりを記録しておきましょう。

ステップ2:育介法の根拠を示して再申請する

育介法第5条・第10条を明示したうえで、正式な書面による再申請を行います。申請書は「育児休業申出書」(厚生労働省の書式を参照)を使用します。申請の記録として、申請日・申請内容・企業の回答を必ず保存してください。

ステップ3:都道府県労働局・労働基準監督署に相談する

企業が正当な理由なく拒否を続ける場合、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に申告することができます。労働局は育介法違反に対して指導・勧告・公表を行う権限を持っています。

  • 相談窓口:都道府県労働局雇用環境・均等部(室)
  • 電話相談:「女性の職業生活における活躍推進のための相談ダイヤル」(0120-977-110)
  • オンライン相談:厚生労働省「総合労働相談コーナー」

ステップ4:労働審判・民事訴訟

行政への相談でも解決しない場合、労働審判(申立から原則3回以内で解決を目指す迅速な手続き)や民事訴訟を利用することができます。前述の裁判例のように、損害賠償・地位確認・賃金支払いが認められた事例も多数あります。


企業の人事担当者が整備すべき対応フロー

企業側が法令違反を犯さないためには、以下の対応フローの整備が必要です。

育休申請受付から承認までの標準フロー

① 労働者から「育児休業申出書」を受け取る(口頭のみは不可)
↓
② 申出日・希望開始日・終了日を確認する
↓
③ 法定対象者要件(有期契約の場合は契約期間を確認)を審査する
↓
④ 対象外と判定する場合は法的根拠を明示した書面を交付する
↓
⑤ 「育児休業取扱通知書」を2週間以内に交付する(育介法施行規則第9条)
↓
⑥ ハローワークへの育児休業給付金支給申請手続きを行う

必要書類一覧

書類名 提出者 タイミング
育児休業申出書 労働者 → 企業 育休開始希望日の1か月前まで(産後パパ育休は2週間前)
育児休業取扱通知書 企業 → 労働者 申出受領後2週間以内
育児休業給付受給資格確認票 企業 → ハローワーク 休業開始前後
育児休業給付金支給申請書 企業 → ハローワーク 支給単位期間ごと(2か月に1回)
雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 企業 → ハローワーク 育休開始後10日以内

育児休業給付金の計算方法

対象と認定された労働者が受給できる育児休業給付金の額は以下の通りです。

給付額の基本計算式

期間 給付率 手取り換算(社会保険料免除後)
育休開始から180日目まで 休業開始時賃金日額 × 67% 実質約80%
181日目以降 休業開始時賃金日額 × 50% 実質約67%

計算例:月給30万円の場合

  • 休業開始時賃金日額:30万円 ÷ 30日 = 10,000円
  • 最初の180日:10,000円 × 67% × 30日 = 201,000円/月
  • 181日目以降:10,000円 × 50% × 30日 = 150,000円/月

なお、育休期間中は社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されるため、実質的な手取りは上記より高くなります。

2025年改正による給付率引き上げ(予定)

2025年度以降、育休開始後28日以内(産後パパ育休と育休を合算)で両親ともに育休を取得する場合、給付率が80%に引き上げられる予定です(雇用保険法改正案)。最新情報は厚生労働省の公式サイトで確認してください。


よくある質問(FAQ)

Q1. 入社2か月で妊娠がわかりました。育休を取れますか?

2022年4月以降、勤続期間を理由とした対象外判定は原則として認められなくなりました。有期契約の場合、育休終了予定日に労働契約が終了しないことが条件となりますが、正社員や無期契約の場合は勤続期間に関わらず申請できます。

Q2. 試用期間中に妊娠しました。育休は取れますか?

取得できます。試用期間中であっても雇用関係が成立している以上、育介法の適用を受けます。「試用期間中だから対象外」という企業側の説明は法的根拠がありません。

Q3. 育休を申請したら「今は繁忙期だから後にしてほしい」と言われました。従う必要がありますか?

従う必要はありません。業務の繁忙を理由とした育休申請の拒否・遅延は育介法違反です。ただし、育休開始予定日の変更(最大1か月の範囲)については、法律上の例外規定があります。希望開始日の変更を強要される場合は、労働局に相談することをお勧めします。

Q4. パートタイムで週3日勤務ですが、育休は取れますか?

取得できます。週所定労働日数が少ない場合でも、育介法の適用は受けます。労使協定で週2日以下の労働者を除外することは可能ですが、週3日以上であれば労使協定による除外もできません。

Q5. 企業が対象外と判定した場合、どこに相談すればいいですか?

都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。無料で相談を受け付けており、企業への指導・勧告を行う権限を持っています。相談ダイヤル(0120-977-110)でも受け付けています。

Q6. 育休を理由に降格・減給された場合、取り消しを求められますか?

求められます。広島中央保健生協事件の最高裁判決(平成26年)では、育休を理由とした不利益取扱いは原則無効とされています。降格・減給の取り消しと損害賠償を求めて、労働審判や民事訴訟を提起することが可能です。


まとめ

育休の対象外判定は、法律に明示された限定的な要件に該当する場合を除き、原則として違法です。2022年の育介法改正によって勤続1年未満の除外規定も廃止され、対象者の範囲はさらに広がっています。

企業の人事担当者は、雇用形態・勤続期間・性別・業務状況を理由とした対象外判定が法的に認められないことを再確認し、適切な申請受付フローと必要書類の整備を行う必要があります。

労働者は、「対象外です」と言われた場合でも泣き寝入りする必要はありません。育介法・裁判例・行政窓口というサポートが整っており、法的な権利として育休を守ることが可能です。

育休対象外判定に疑問を感じた場合は、まず都道府県労働局への相談を検討してください。不利益取扱いやハラスメントは記録に残し、必要に応じて法的手段を検討することが重要です。


参考法令・資料

  • 育児・介護休業法(昭和63年法律第76号、最終改正:令和3年6月)
  • 育介法第5条・第9条の2・第10条・第22条・第25条
  • 厚生労働省「育児・介護休業法改正のポイント(令和4年版)」
  • 最高裁判所平成26年10月23日判決(広島中央保健生協事件)
  • 厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例(令和4年10月1日以降対応版)」

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