育休申請を業務繁忙で却下は違法?判例と対処法【2025年版】

育休申請を業務繁忙で却下は違法?判例と対処法【2025年版】 企業の育休対応

育休を申請したら「今は繁忙期だから」「人手が足りない」と却下された——そんな経験をした方や、同じ状況に直面している方に向けて、結論から明確にお伝えします。

業務繁忙を理由とした育休申請の却下は、法律違反です。

育児・介護休業法第6条は強行規定として、事業主が育休申請を拒否できる事由を限定的に列挙しており、業務繁忙はその事由のどこにも記載されていません。この記事では、その違法性の法的根拠・実際の判例・却下された場合の具体的な対処手順を詳しく解説します。


育休申請を「業務が忙しい」と却下するのは違法か?

拒否事由 法的効力 説明 業務繁忙に該当
雇用期間1年未満 合法 育児・介護休業法で明示 いいえ
週労働時間が不規則 合法 育児・介護休業法で明示 いいえ
事業の継続が困難 要件厳格 極めて限定的に認められ、単なる繁忙では該当しない いいえ
業務繁忙・人手不足 違法 法定拒否事由に該当しない はい(違法)

育児・介護休業法が定める「拒否できない原則」とは

育児・介護休業法(以下「育介法」)第6条は、事業主(会社)が育休申請を拒否できる場面を限定的に列挙しています。その条文は次のとおりです。

「事業主は、労働者からの育児休業の申出があった場合において、当該申出が次の各号のいずれかに該当する場合を除き、育児休業の申出を拒むことができない。」
——育児・介護休業法 第6条第1項

この規定の重要な点は、「次の各号のいずれかに該当する場合を除き」という文言です。つまり、法律が明文で列挙した事由以外は、一切の理由で拒否できないという構造になっています。

業務繁忙・人手不足・繁忙期であること——これらはいずれも、この「各号」のどこにも書かれていません。したがって、これらを理由とした却下は、条文の構造からして当然に違法となります。

業務繁忙・人手不足は法定の拒否事由に該当しない理由

「会社の業務が回らなくなる」「代替要員がいない」という主張は、労働者側からみれば切実な職場の実態として理解できる面もあります。しかし、法律はこの点について明確な立場をとっています。

育介法が制定された趣旨は、「育児や介護を担う労働者が、雇用の継続と生活の安定を図りながら働き続けられる環境を整備すること」にあります(育介法第1条)。もし「忙しいから」「人がいないから」という理由で却下が許されれば、この趣旨は完全に骨抜きになってしまいます。

厚生労働省の『育児・介護休業法のあらまし(2022年改正対応版)』においても、「業務の繁忙や人手不足は、育休申請を拒否する正当な理由には一切該当しない」という趣旨が明示されています。


法律が認める「育休申請を断れる事由」は4つだけ

雇用期間・労働時間など合法的拒否事由

育介法第6条および関連政令が定める、事業主が申請を拒否できる事由は、下記の4つに完全に限定されています。

拒否事由 具体的な要件 業務繁忙での却下に該当するか
雇用期間が6ヶ月未満 申出時点で継続雇用期間が6ヶ月未満である ❌ 該当しない
週所定労働時間が10時間未満 雇用契約上、週10時間未満と定められている ❌ 該当しない
同一の子について1年以上育休を取得済み 累積取得期間が1年以上に達している ❌ 該当しない
労使協定による除外対象者 有効な労使協定で対象外と定められた範囲内(ただし業務繁忙は該当しない) ❌ 業務繁忙は該当しない

⚠️ 2022年10月の法改正(産後パパ育休制度の創設)以降、期間雇用者が育休を取得できる要件も一部緩和されており、「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件は、2022年10月1日以降は労使協定がない限り適用されない点にも注意が必要です。

この4つ以外の理由で却下した場合、それはすべて違法な拒否に該当します。

「事業の継続が困難」はどこまで認められるか?

かつての育介法には「事業の正常な運営を妨げる場合」という規定が存在した時期もありましたが、現行法はこの文言を用いておらず、拒否事由は上記の表に示した事由に限定されています。

現行の労使協定による除外においても、「業務が忙しい」「代替人員がいない」「繁忙期にあたる」という事情は、除外事由として労使協定に盛り込むこと自体が許されません。厚生労働省のモデル労使協定においても、業務繁忙を理由とした除外は記載されておらず、そのような協定条項は公序良俗違反として無効となります。


業務繁忙での却下が「違法」となる3つの法的根拠

育児・介護休業法第6条「強行規定」としての効力

育介法第6条は強行規定です。強行規定とは、当事者間の合意や就業規則の定めによっても排除・変更できない規定を指します。

たとえ就業規則に「業務繁忙時には育休申請を認めない」と書かれていたとしても、その規定は無効です。労使間の合意があったとしても同様です。強行規定に反する部分は、民法第90条の公序良俗違反として法律上の効力を持ちません。

また、育介法には事業主に対する義務として以下が課されています。

  • 第21条:育休に関する事業主の措置義務(周知・雇用環境整備)
  • 第22条:育休取得しやすい雇用環境整備の努力義務(2022年改正で義務化)
  • 第25条:ハラスメント防止措置の義務

育休申請を業務繁忙で却下する行為は、第6条違反に加え、これらの義務にも反する複合的な違反を構成します。

男女雇用機会均等法・労働基準法との複合的違反

業務繁忙を理由にした育休の却下は、育介法違反にとどまらず、他の法律にも抵触します。

男女雇用機会均等法第9条(妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いの禁止)

同法第9条第3項は、妊娠中の労働者または産後1年を経過しない労働者への解雇その他の不利益取扱いを原則として違法と推定します。育休申請の却下は「不利益取扱い」に該当し、育休を申請した女性労働者については均等法違反も成立し得ます。

労働基準法第3条(均等待遇)

労基法第3条は、「使用者は、労働者の国籍、信条または社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない」と定めています。育休申請を理由とした不利益な扱いは、広義の「差別的取扱い」として同条の精神にも反します。

厚生労働省が示す公式見解と行政指導の実態

厚生労働省は、育休申請を拒否した事業主に対して、都道府県労働局長による指導・勧告の権限を持っています(育介法第56条・第56条の2)。

実際に、厚労省が公表している資料においても次のような見解が示されています。

  • 業務繁忙・人手不足を理由とした育休申請の却下は、育介法の明確な違反
  • 違反があった場合、労働局は是正指導・勧告・公表を行うことができる
  • 企業名の公表は社会的信用に直接影響するため、実務上の抑止力として機能

2022年の育介法改正では、常時雇用する労働者数が1,000人超の企業に対し、育休取得率の公表義務が課されました(育介法第22条の2)。これは、育休取得を阻害する企業行為に対する社会的監視を強化する狙いを持っています。


業務繁忙での却下に関する実際の判例・裁判例

育休ハラスメント(パタハラ・マタハラ)として認定された事例

【事例1】コナミスポーツクラブ事件(東京地裁 平成26年判決)

育休取得後に降格・賃金減額が行われた事案で、裁判所は「育休取得を理由とした不利益取扱いは育介法第10条に違反する」と明示し、会社側の行為を違法と認定しました。業務繁忙を背景とした職場復帰後の不利益扱いについても、育介法の保護が及ぶことを確認した重要判例です。

【事例2】広島中央保健生活協同組合事件(最高裁 平成26年10月判決)

妊娠中の軽易業務転換を契機とした降格について、最高裁は「原則として均等法第9条第3項の禁止する不利益取扱いにあたる」と判断しました。育休申請・取得を理由とした不利益取扱いに対しても、この最高裁の判断基準が広く援用されています。

【事例3】育休申請に対する「忙しいからダメ」発言をハラスメントと認定した事例(複数の労働審判)

全国の労働審判・労働局紛争解決手続きにおいて、「繁忙期だから待ってほしい」「今は困る」「人がいないから取れない」といった発言が育休ハラスメント(パタハラ)として認定されるケースが増加しています。2022年の法改正以降、事業主のハラスメント防止措置義務が強化されたことで、こうした認定はより厳格化する方向にあります。

判例から読み取れる法的リスク

これらの判例から、以下の点が明確になっています。

  1. 育休申請の却下だけでなく、申請への圧力・不快発言・復職後の不利益扱いもすべて違法
  2. 損害賠償請求が認容されるケースが増加しており、慰謝料・逸失利益の合計が数十万〜数百万円に及ぶ事例がある
  3. 個人(上司)の発言も会社の使用者責任として問われる可能性がある

育休を業務繁忙で断られた場合の具体的な対処法

まず「口頭ではなく書面で却下理由を求める」

口頭で「忙しいから」と言われた場合、まず書面(メール・内容証明)で却下理由の明示を求めてください

この手順が重要な理由は2つあります。

  • 証拠の確保:後の労働局申告や法的手続きで、会社が違法な拒否をした事実を示す証拠になる
  • 会社への牽制:書面で残ることを認識した会社が、方針を変える可能性がある

メールで送る場合は件名に「育児休業申請の却下理由に関する確認」と明記し、申請日・申請内容・却下された日付を記載した上で、「育介法第6条に基づく合法的な拒否事由を書面でご回答ください」と請求します。

都道府県労働局への申告・紛争解決援助制度の活用

会社が拒否を撤回しない場合、都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))への申告が有効な手段です。

手続きの流れ

  1. 居住地または勤務地を管轄する都道府県労働局に連絡
  2. 「育児・介護休業法に関する相談・申告」として申し出る
  3. 担当官が事情を聴取し、事業主への助言・指導・勧告を実施
  4. 必要に応じて紛争解決援助制度(調停)の申請が可能

この手続きは無料で利用でき、弁護士費用も不要です。労働局は匿名での相談も受け付けており、申告者のプライバシーに配慮した対応が行われます。

申告先の目安(全国共通の電話番号)

  • 総合労働相談コーナー:0120-811-610(平日8:30〜17:15)
  • 各都道府県労働局の「雇用環境・均等部(室)」

労働基準監督署・弁護士・社労士への相談

相談先 対応内容 費用
都道府県労働局(雇用環境・均等部) 育介法・均等法違反の指導・勧告 無料
労働基準監督署 労基法違反の調査・是正指導 無料
法テラス(日本司法支援センター) 弁護士費用の立替制度あり 条件により無料〜
社会保険労務士(社労士) 手続きの整理・書類作成支援 有料(相談のみ無料のケースあり)
弁護士 損害賠償請求・労働審判の代理 有料

育休申請を「なかったことに」されないための申請記録の残し方

育休申請は書面または電磁的方法(メール等)で行い、以下を必ず記録・保存してください。

  • 申請日時(スクリーンショット・メール送信日時)
  • 却下の通知を受けた日時・方法・担当者名
  • 却下の際に言われた発言内容(日時・場所・発言者を含むメモ)
  • その後の業務上の扱いの変化(配置転換・評価・発言など)

これらは、後に法的手続きを取る際の重要な証拠となります。


企業(人事担当者)が今すぐ見直すべき対応

就業規則・育休規程の法令適合性チェック

就業規則または育休規程に「業務繁忙時は育休申請を制限する」「繁忙期は対象外」等の条項がある場合、それは無効な規定です。直ちに削除・修正が必要です。

また、以下の点も確認してください。

  • 育休取得の申請窓口と手順が明確に周知されているか
  • 育休を申請した労働者への不利益取扱いを禁止する条項が明記されているか
  • ハラスメント防止規程に「育休ハラスメント(パタハラ・マタハラ)」が明示されているか

2022年改正法で義務化された企業の対応事項

2022年4月・10月の育介法改正で、企業に課された主な義務は以下のとおりです。

施行時期 義務内容 対象
2022年4月 妊娠・出産を申し出た労働者への個別周知・意向確認 全事業主
2022年4月 育休取得しやすい雇用環境整備の義務化 全事業主
2022年10月 産後パパ育休(出生時育児休業)制度の創設 全事業主
2023年4月 育休取得率の公表義務 常時雇用1,000人超の企業

これらの義務を果たさない場合、厚労省からの指導・勧告・企業名公表の対象となり得ます。


育休取得中の給付金(参考)

育休申請が適法に認められた場合、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。

給付額の目安(2025年時点)

期間 給付率 計算式の基本
育休開始から180日目まで 休業開始時賃金日額の67% 月給30万円の場合:約201,000円/月
181日目以降 休業開始時賃金日額の50% 月給30万円の場合:約150,000円/月

📌 2025年度からの給付率引き上げ予定:政府は、育休開始後一定期間(28日間)について給付率を最大80%に引き上げる方向で制度改正を進めています(両親ともに育休取得の場合)。最新情報は厚生労働省・ハローワークの公式情報をご確認ください。

給付金を受け取るためには、育休開始日から2ヶ月ごとにハローワークへの申請(事業主経由)が必要です。申請期限(支給単位期間の終了日翌日から2ヶ月以内)を必ず守ってください。


よくある質問(FAQ)

Q1. 「今だけは待ってほしい」という会社の要求に応じる義務はありますか?

ありません。育介法は申請から原則として「申出の日の翌日から起算して1ヶ月を経過する日(出生時育児休業の場合は2週間)の後」から休業を開始することを認めており、会社が繁忙期を理由に開始時期の無期限延期を求めることは違法です。合理的な理由のない延期要求には応じる必要はありません。

Q2. 上司に「育休を取ると評価が下がる」と言われました。これは違法ですか?

違法の可能性が高いです。育介法第10条は「育休の申出・取得を理由とした解雇その他の不利益取扱い」を明示的に禁止しています。「評価が下がる」という発言は、育休取得を抑制する目的でなされた場合、育休ハラスメント(パタハラ・マタハラ)に該当します。発言の日時・内容・発言者を記録し、労働局に相談することをお勧めします。

Q3. 男性の育休申請も同じ法的保護を受けられますか?

はい、まったく同様です。育介法は性別を問わず適用されます。男性が育休申請を業務繁忙で却下された場合も、女性と同一の法的保護(育介法第6条違反・パタハラ)が適用されます。2022年の産後パパ育休(出生時育児休業)制度の創設により、男性の育休取得をめぐる法的環境はさらに強化されています。

Q4. 会社が育休を認めず、そのまま退職に追い込まれた場合はどうなりますか?

退職の勧奨・強要が行われた場合は、違法な退職強要(不当解雇に準ずる行為)として損害賠償請求の対象になり得ます。また、育休取得を理由とした解雇は育介法第10条が明示的に禁止しており、解雇無効の主張が可能です。速やかに労働局・弁護士・法テラスに相談してください。

Q5. 申請を口頭で却下された場合、証拠がなくても相談できますか?

相談自体はできます。労働局への申告に際して、証拠がなくても受け付けてもらえます。ただし、申告後の指導・調査を有効に進めるためにも、今後の発言・やり取りはすべて記録しておくことを強くお勧めします。また、相談した内容・日時・担当者名も控えておくと後の手続きに役立ちます。


まとめ

業務繁忙・人手不足・繁忙期——これらは、育休申請を断る理由として法律上、一切認められていません

育児・介護休業法第6条は強行規定であり、会社の就業規則や上司の口頭指示によっても覆すことはできません。もし育休申請を業務繁忙で却下された場合は、次のステップを実行してください。

  1. 却下の事実と理由を書面・メールで記録する
  2. 都道府県労働局(雇用環境・均等部)に無料相談・申告する
  3. 必要に応じて弁護士・社労士・法テラスに相談する

育休は、働くすべての人に平等に保障された法的な権利です。「忙しいから」という言葉に、あなたの権利をあきらめる必要はありません。


【免責事項】 本記事は2025年時点の法令・厚生労働省の公式情報に基づく一般的な解説です。個別の事案については、都道府県労働局・社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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