育休給付金(育児休業給付金)の給付額を計算する際、交通費や通勤手当が「賃金月額」から除外されることをご存知でしょうか。この仕組みを正確に理解していないと、給付額の計算が合わない、申請書の記入を誤るといったトラブルにつながります。
本記事では、雇用保険法施行規則と厚生労働省通知に基づく交通費除外の法的根拠から、具体的な計算方法、企業の申請手続きまでを実務目線で詳しく解説します。人事担当者はもちろん、育休取得を検討中の従業員本人にも役立つ内容です。
交通費が育休給付金から除外される法的根拠
雇用保険法施行規則第23条の規定内容
育休給付金の給付額は「賃金月額」を基準に算出されますが、その賃金月額の計算方法は雇用保険法および関連する施行規則によって厳格に定められています。
雇用保険法施行規則第23条第1項は、「賃金日額」の計算から除外される賃金を列挙しています。具体的には、以下の3つのカテゴリが除外対象となります。
- 臨時に支払われる賃金:見舞金、祝い金など
- 3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金:ボーナス、決算手当など
- 実費弁償的な給付:交通費、通勤手当、出張旅費など
交通費・通勤手当は、このうち「実費弁償的な給付」に該当するとして除外されます。
実費弁償的な給付とは:労働者が業務や通勤のために実際に支出した費用を補填する目的で支給されるものを指します。交通費はあくまで「通勤にかかった費用の払い戻し」であり、労働の対価として支払われる賃金とは性質が異なります。
この考え方は非常に重要です。給与明細上で「手当」という名称がついていても、その実態が実費弁償であれば除外されます。逆に「交通費補助」という名称であっても、一律定額で支給され実費との関連がない場合は除外されない可能性もあります。
法的枠組みを整理すると以下のとおりです。
| 法律・規則 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 雇用保険法 | 第13条 | 失業等給付(育児休業給付を含む)の基本的枠組み |
| 雇用保険法施行規則 | 第23条第1項 | 賃金日額の計算から除外される賃金の規定 |
| 厚労省通知 | 基発第0725001号 | 賃金月額の計算方法と交通費等の取扱い |
厚生労働省基発第0725001号通知(令和4年最新版)
令和4年7月25日付の厚生労働省通知「基発第0725001号」は、育休給付金の算定に関する企業・ハローワーク双方の運用基準を示す重要な公式文書です。
この通知において、交通費などの「実費弁償的な給付」は賃金月額の計算対象外とすることが明確に示されています。企業の人事担当者はこの通知を実務の基準として参照することが法的に求められます。
実務上の2つの重要なポイント:
- 交通費・通勤手当の除外は任意ではなく強制:企業が「含めたい」と思っても、実費弁償的な給付に該当する場合は必ず除外しなければなりません
- 給与明細上の項目名ではなく、支給の実態で判断する:名称だけで判断するのではなく、実際の支給内容・支給根拠を確認することが必要です
育休給付金の計算対象となる「賃金月額」の定義
賃金月額に含まれる給与項目(基本給・手当など)
育休給付金の算定基礎となる「賃金月額」は、育児休業開始前6ヶ月間の賃金の合計÷180日×30日によって求められます(雇用保険の「みなし賃金日額」方式)。
この賃金月額に含まれる(計算対象となる)主な給与項目は以下のとおりです。
| 項目 | 具体例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 基本給 | 月給・日給・時間給 | 労働の直接的対価 |
| 職務関連手当 | 職務手当・技術手当・専門職手当 | 職務に応じた給与 |
| 役職手当 | 管理職手当・係長手当・主任手当 | 役職に応じた給与 |
| 生活関連手当 | 家族手当・扶養手当・住宅手当(定額支給の場合) | 生活保障的給与 |
| 勤務関連手当 | 時間外手当・休日出勤手当・深夜手当 | 勤務条件に応じた給与 |
| その他 | 精勤手当・皆勤手当・地域手当 | 勤続性や地域を考慮した給与 |
これらは「労働の対価」として支払われる性格を持つため、賃金月額の計算に含まれます。
賃金月額から除外される給与項目
一方、賃金月額の計算から除外される(計算対象外となる)項目は以下のとおりです。
| 項目 | 除外理由 | 例 |
|---|---|---|
| 交通費・通勤手当 | 実費弁償的な給付 | 定期代、ガソリン代、駐車場代 |
| 出張旅費・日当 | 実費弁償的な給付 | 出張時の交通費、宿泊費 |
| 賞与・ボーナス | 3ヶ月超の期間ごとに支払われる賃金 | 夏・冬ボーナス、決算手当 |
| 退職金 | 退職時に一時的に支払われる賃金 | 勤続年数に応じた一時金 |
| 見舞金・祝い金 | 臨時に支払われる賃金 | 慶事祝い金、弔事見舞金 |
| 慶弔費用補助 | 臨時に支払われる賃金 | 結婚祝い金、出産祝い金 |
特に注意が必要なのは賞与(ボーナス)です。毎月支給される基本給などとは異なり、3ヶ月を超える期間ごとに支払われるという理由で除外されます。「夏・冬のボーナスが多い人ほど給付金が増える」という誤解がありますが、実際にはボーナスは計算に入りません。
交通費・通勤手当が除外対象となる具体例
実務では「どの交通費が除外されるのか」という判断に迷うケースが多く見られます。ここでは典型例から判断が難しい事例まで、具体的に解説します。
完全に除外される交通費の具体例
以下に挙げる交通費・通勤手当は、実費弁償的な給付として例外なく除外されます。
①公共交通機関の定期代
最も典型的な除外事例です。通勤に使用する電車・バスなどの定期券代を会社が支給・立替する場合、その全額が賃金月額から除外されます。1ヶ月定期・3ヶ月定期・6ヶ月定期のいずれも対象です。6ヶ月定期を一括支給している場合は、月割り計算した金額も含めて除外となります。
②自動車通勤のガソリン代
車通勤者に実際の走行距離に応じて支給するガソリン代(燃料費補助)も除外対象です。距離に応じた単価×距離で計算される方式が一般的です。
③駐車場代の補助
通勤のために利用する駐車場の費用を会社が補助・負担する場合も、実費弁償的な給付として除外されます。
④高速道路料金・有料道路代
通勤経路に有料道路が含まれる場合の料金補助も同様に除外対象となります。
⑤新幹線・特急料金(通勤定期分)
長距離通勤者に新幹線定期や特急定期を支給している場合も、その実費相当分は除外されます。
判断に迷いやすい「グレーゾーン」事例
交通費関連手当のなかには、除外されるかどうかの判断が難しいケースもあります。
「一律定額」の交通費補助
たとえば、通勤手段や距離に関わらず全従業員に「交通費補助 月2万円」を一律支給するケースです。この場合、実態が実費弁償かどうかが判断の鍵となります。
- 実際の通勤費用と明らかに連動していない一律支給であれば、「賃金」として扱われ、賃金月額に含める可能性がある
- 一方、実費を上限として申請ベースで支給する場合は除外
実務では、就業規則・給与規程の記載内容と支給の実態を照合してハローワークと相談することが推奨されます。
テレワーク手当に含まれる通信費・光熱費補助
在宅勤務(テレワーク)推進に伴い支給される「テレワーク手当」のうち、通信費や光熱費の実費補填分も実費弁償的な給付に該当し、除外の対象となる場合があります。ただし、手当の設計や就業規則の記載によって扱いが異なるため、個別に確認が必要です。
社有車通勤者の経費処理
会社の車両を使って通勤する場合は、個人への支給ではなく会社の経費処理となるため、そもそも給与明細に現れないケースが多いです。ただし、ガソリン代の一部を給与に含めて処理している場合は実費弁償として除外となります。
給与明細の記載と申請書への反映方法
給与明細において交通費を明確に区分して記載することは、申請上非常に重要です。
【給与明細の望ましい記載例】
基本給 250,000円 ← 計算対象
職務手当 20,000円 ← 計算対象
住宅手当 15,000円 ← 計算対象
通勤手当(定期代) 12,000円 ← 計算対象外(除外)
────────────────────────────
支給合計 297,000円
※賃金月額算定対象:285,000円(通勤手当を除く)
この区分が曖昧だと、ハローワークへの申請時に追加の確認書類を求められたり、計算の修正が生じたりする可能性があります。
賃金月額の具体的な計算例
基本的な計算式
育休給付金の賃金月額は次の式で算出します。
賃金月額 =(育休開始前6ヶ月間の賃金合計 ÷ 180)× 30
※賃金合計には交通費・通勤手当を含めない
計算した賃金月額には上限・下限が設定されています。2024年8月以降の基準では以下のとおりです。
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 賃金月額の上限 | 471,600円 |
| 賃金月額の下限 | 78,330円 |
計算例で理解する交通費除外の影響
以下の条件で計算してみましょう。
【前提条件】
– 基本給:25万円/月
– 職務手当:2万円/月
– 通勤手当(定期代):1万2,000円/月
– 過去6ヶ月間、給与変動なし
【交通費を含めてしまった場合(誤り)】
月収合計 = 250,000 + 20,000 + 12,000 = 282,000円
6ヶ月合計 = 282,000 × 6 = 1,692,000円
賃金月額 =(1,692,000 ÷ 180)× 30 = 282,000円
【交通費を除外した場合(正しい計算)】
月収合計(交通費除外)= 250,000 + 20,000 = 270,000円
6ヶ月合計 = 270,000 × 6 = 1,620,000円
賃金月額 =(1,620,000 ÷ 180)× 30 = 270,000円
【給付額への影響】
育児休業開始から180日以内の給付率は67%、181日目以降は50%です。
| 期間 | 誤った賃金月額 | 正しい賃金月額 | 差額(月あたり) |
|---|---|---|---|
| 0〜180日(67%) | 188,940円 | 180,900円 | 8,040円 |
| 181日〜(50%) | 141,000円 | 135,000円 | 6,000円 |
この例では月1万2,000円の通勤手当を含めるか除くかで、給付額に約6,000〜8,000円の差が生じます。申請書への記載を誤ると、給付金の過払いが発生し、後から返還を求められるリスクがあります。
企業の申請手続きと必要書類
申請フローの全体像
育休給付金の申請は原則として事業主(会社)がハローワークに行う手続きです。
STEP 1|育児休業開始
↓
STEP 2|事業主が「受給資格確認票・(初回)支給申請書」を提出
【提出先】管轄のハローワーク
【期限】原則、育休開始から2ヶ月以内
↓
STEP 3|賃金月額の確認・計算(ハローワークが実施)
※交通費除外を含む算定がこの段階で行われる
↓
STEP 4|支給決定・給付金の振込
(2ヶ月に1回の申請が基本)
↓
STEP 5|育休終了まで「支給申請書」を継続提出
必要書類の一覧と準備のポイント
| 書類名 | 作成・準備者 | 主な目的 | 交通費に関する注意点 |
|---|---|---|---|
| 育児休業給付金受給資格確認票・(初回)支給申請書 | 事業主 | 受給資格の確認と初回申請 | 賃金月額記載欄への記入に注意 |
| (変更)支給申請書 | 事業主 | 2ヶ月ごとの継続申請 | 休業中の部分就業がある場合の賃金も交通費除外で記載 |
| 給与明細書(直近6ヶ月分) | 事業主が提示 | 賃金額の根拠確認 | 通勤手当が明細上で明確に区分されているか確認 |
| 出勤簿・タイムカード | 事業主 | 勤務実績の確認 | 被保険者期間の確認に使用 |
| 就業規則・給与規程 | 事業主 | 交通費の支給ルール確認 | 実費弁償か否かの根拠として提出を求められる場合あり |
| 母子健康手帳(写し) | 被保険者(本人) | 出産・子の生年月日確認 | 初回申請時に添付 |
人事担当者が申請前に確認すべきチェックリスト
申請書を作成・提出する前に、以下の項目を確認してください。
✅ 給与明細の確認
– 交通費・通勤手当が基本給・その他手当と明確に分離して記載されているか
– 支給根拠(実費支給か一律支給か)が就業規則・給与規程に明記されているか
✅ 6ヶ月間の賃金記録の確認
– 産前休業(産休)に入る前の6ヶ月が対象となるため、産前休業開始月の前月まで遡って確認
– 途中で昇給・降給があった場合は月ごとに正確に記録
✅ 除外項目の洗い出し
– 賞与・決算手当など3ヶ月超の周期で支給された賃金がないか
– 慶弔見舞金など臨時給付がないか
✅ 申請書の記載ミス防止
– 受給資格確認票と支給申請書の「賃金月額」欄に、交通費除外後の金額を記入しているか
申請の実務上の注意点と対応策
ハローワークへの事前相談が重要な理由
「この手当は賃金月額に含めるべきか」という判断に迷った場合、申請前にハローワークへ相談することを強く推奨します。
実費弁償かどうかの判断は、就業規則の記載内容と実際の支給実態の両方を確認したうえで行われます。ハローワークは必要に応じて就業規則の提出を求め、判断を行います。自己判断で申請を行い、後から誤りが発覚した場合は給付金の返還が発生する可能性があるため、不明点は事前に解消しておきましょう。
産前休業期間がある場合の注意点
産前休業(産休)を取得してから育休に移行する場合、賃金月額算定の対象期間は産前休業開始前の直近6ヶ月となります。産前休業中は給与が支払われないケースが多いため、育休に入ってから賃金月額を計算しようとすると計算対象期間がずれるミスが起きやすいです。
産休前の給与明細をあらかじめ6ヶ月分揃えておくことが実務上の鉄則です。
育休中に一部就業した場合の賃金の扱い
育休期間中に事業主の要請・本人の希望により一部就業(短時間勤務など)を行った場合、その際の賃金も申請書に記載する必要があります。このとき支払われた賃金についても、交通費・通勤手当は除外して記載します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 給与明細に「交通費」という項目がなく「諸手当」としてまとめて記載されている場合、どうすればよいですか?
この場合、給与規程を確認して諸手当の内訳を把握し、交通費に相当する部分を除外して賃金月額を計算します。ハローワークから給与規程の提出を求められる場合もありますので、規程で各手当の支給根拠を明確にしておくことが重要です。
Q2. 住宅手当は賃金月額に含まれますか?
原則として、住宅手当が定額支給の場合は労働の対価とみなされ、賃金月額に含まれます。一方、実際の家賃額に応じて実費補填的に支給される場合は除外となる可能性があります。支給の性格に応じてハローワークに確認するのが確実です。
Q3. 6ヶ月の計算期間中に交通費の額が変わった場合はどうなりますか?
月ごとに実際に支給された交通費を除外して計算します。たとえば、引越しにより定期代が変わった月があれば、その月は新しい交通費額を除外します。月ごとの給与明細を正確に保管しておくことが重要です。
Q4. 自転車通勤で会社から交通費補助が出ていない場合、影響はありますか?
自転車通勤で交通費が支給されていない場合、除外する交通費そのものが存在しないため、計算上の影響はありません。基本給と対象手当の合計がそのまま賃金月額の計算に使われます。
Q5. 育休給付金の申請を本人が直接ハローワークに行うことはできますか?
原則として事業主が申請します。ただし、事業主が申請を行わない場合(倒産・行方不明など)や、事業主が申請に協力しない場合は、例外的に被保険者本人が申請できる規定があります。通常はまず会社の人事担当者に相談してください。
Q6. 賃金月額の上限を超えている場合、給付額はどうなりますか?
賃金月額が上限(2024年8月以降:471,600円)を超える場合、上限額を基準に給付額が計算されます。たとえば育休開始から180日以内の場合、上限の67%にあたる約316,000円程度が月額の上限給付額となります。
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まとめ
育休給付金における交通費・通勤手当の除外ルールは、雇用保険法施行規則および厚生労働省通知(基発第0725001号)に基づく明確な制度です。重要なポイントを整理します。
- 交通費・通勤手当は「実費弁償的な給付」として賃金月額から必ず除外される
- 除外の判断は「手当の名称」ではなく「支給の実態」で行う
- 給与明細上で交通費を他の給与項目と明確に分離して記載することが申請をスムーズにする
- 判断に迷う手当はハローワークへ事前相談を行うことでリスクを回避できる
- 申請書の賃金月額欄は交通費除外後の金額を記載する
企業の人事担当者は、申請書の作成前に給与明細・就業規則・給与規程を照合し、正確な賃金月額を算出することが求められます。計算の誤りは給付金の過払い・返還請求につながるリスクがあるため、不明点は必ず管轄のハローワークに確認しながら手続きを進めてください。
参考法令・通知
– 雇用保険法施行規則第23条第1項
– 厚生労働省通知 基発第0725001号(令和4年7月25日)
– 育児休業給付金支給申請書記入要領(ハローワーク)
– 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続について」

