育休給付金の月額上限廃止(2022年10月以降)により、新規取得者と既取得者で毎月最大8万7,000円以上の給付金差が生じています。さらに2025年4月の改正が加わることで、制度の全体像が複雑化しています。
本記事では、月額上限廃止の背景から具体的な計算例・激変緩和措置・2025年改正への対応まで、育休取得を検討している労働者および企業の人事担当者が実務で即活用できる情報を網羅的に解説します。
育休給付金の月額上限廃止とは【制度概要】
育児休業給付金(以下「育休給付金」)は、育児休業中の収入減少を補填する雇用保険の給付制度です。育児・介護休業法に基づく育児休業を取得した場合、雇用保険に加入している労働者が受給できます。
長年にわたり、この育休給付金には月額27万600円という上限が設けられていました。しかし2022年10月1日の法改正により、新規に育児休業を開始する労働者については月額上限が廃止されました。この変更は、高賃金労働者の育休取得を促進するための重要な政策転換です。
月額上限廃止が決定した背景と施行日
月額上限廃止が議論された背景には、高所得者ほど育休取得を避ける傾向があるという実態がありました。月収40万円・50万円といった比較的高い賃金層では、上限規制のために実際の賃金の半分以下しか給付されないケースがあり、育休取得の経済的ハードルとなっていたのです。
厚生労働省の調査でも、男性の育休取得率が伸び悩む要因として「収入減少への不安」が上位に挙げられており、上限廃止はこの障壁を取り除く施策として位置づけられています。
施行日は2022年(令和4年)10月1日です。この日以降に育児休業を開始した労働者(新規取得者)には上限なしの新制度が適用されます。一方、同日より前に育児休業を開始していた労働者(既取得者)については、激変緩和措置として旧制度(月額上限27万600円)が継続適用されます。
法的根拠となる関連法規の確認
育休給付金の制度全体は、以下の法令を根拠としています。
| 法令 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険法第61条の4 | 育児休業給付の支給要件・給付額の計算根拠 |
| 育児・介護休業法第1条 | 育児休業制度の目的と基本的な権利の根拠 |
| 雇用保険法施行規則第100条〜第107条 | 申請手続き・支給日数・賃金日額の算定方法 |
| 厚生労働省告示 | 賃金日額の上限・下限額(毎年8月1日改定) |
月額上限廃止は雇用保険法第61条の4の改正によるものであり、賃金月額の上限(旧制度では330万円相当)を撤廃することで、実際の賃金に基づいた給付を実現しています。
旧制度(月額上限あり)との違い
旧制度と新制度の違いを一覧で整理します。
| 項目 | 旧制度(〜2022年9月30日) | 新制度(2022年10月1日〜) |
|---|---|---|
| 月額給付上限 | 27万600円 | 上限なし |
| 賃金月額上限 | 約33万円(賃金日額上限1万1,000円×30日換算) | 撤廃 |
| 支給率(前半6ヶ月) | 67% | 67%(変更なし) |
| 支給率(後半) | 50% | 50%(変更なし) |
| 対象者 | 全取得者 | 2022年10月1日以降の新規取得者 |
支給率自体は変更されていませんが、計算の基礎となる賃金月額の上限が撤廃されたことで、高賃金層の実際の受取額が大幅に増加しています。
新規取得者の給付金額【2022年10月1日以降の開始者】
2022年10月1日以降に育児休業を開始した労働者は、月額上限なしの新制度が適用されます。ここでは具体的な計算方法と、旧制度との給付金差を詳しく解説します。
新規取得者の給付金計算式
育休給付金の基本的な計算式は以下のとおりです。
育休給付金(月額)= 賃金日額 × 支給日数 × 支給率
・賃金日額 = 育休開始前6ヶ月間の賃金総額 ÷ 180日
・支給日数 = 原則30日(月末の場合)または実際の休業日数
・支給率 = 育休開始から180日間:67%
181日目以降:50%
旧制度では「賃金日額の上限×30日×支給率」という形で事実上の月額上限が生じていましたが、新制度ではこの上限計算が撤廃されています。
具体例:月額40万円の場合の給付金額
月収40万円(賃金日額:40万円÷30日≒1万3,333円)の労働者が育休を取得した場合の比較です。
育休開始から180日間(支給率67%)
| 制度 | 計算式 | 月額給付金 |
|---|---|---|
| 旧制度(上限あり) | 27万600円 × 67% | 約18万1,000円 |
| 新制度(上限なし) | 40万円 × 67% | 約26万8,000円 |
| 差額 | +約8万7,000円 |
育休181日目以降(支給率50%)
| 制度 | 計算式 | 月額給付金 |
|---|---|---|
| 旧制度(上限あり) | 27万600円 × 50% | 約13万5,000円 |
| 新制度(上限なし) | 40万円 × 50% | 約20万円 |
| 差額 | +約6万5,000円 |
新制度では、月収40万円の場合でも最大月8万7,000円の増額となることがわかります。
高賃金者ほどメリットが大きい理由
旧制度では月額27万600円という絶対的な上限があったため、賃金月額が約33万円(賃金日額換算で1万1,020円×30日)を超える部分については給付の対象外となっていました。
たとえば月収50万円の場合、旧制度では月収33万円相当と同じ給付額しか受け取れませんでした。新制度ではこの格差が解消され、月収が高いほど旧制度との差額が拡大します。
| 月収(賃金月額) | 旧制度(67%) | 新制度(67%) | 増加額 |
|---|---|---|---|
| 30万円以下 | 月収 × 67% | 月収 × 67% | 0円(影響なし) |
| 40万円 | 約18万1,000円 | 約26万8,000円 | 約+8万7,000円 |
| 50万円 | 約18万1,000円 | 約33万5,000円 | 約+15万4,000円 |
| 60万円 | 約18万1,000円 | 約40万2,000円 | 約+22万1,000円 |
月収30万円以下の層は旧制度でも上限に達しておらず、新制度適用による増額効果はありません。月収33万円超の労働者に対してのみ上限廃止の恩恵が生じます。
支給率67%が適用される条件
支給率67%が適用されるのは、育児休業開始日から起算して180日間(約6ヶ月)です。この期間を「前半支給率適用期間」と呼びます。
67%の支給率が適用される主な条件は以下のとおりです。
- 雇用保険の被保険者であること
- 育児休業開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上あること
- 育児休業中に就業した日数が、対象期間(1ヶ月)に10日以下(または80時間以下)であること
- 育児休業中に事業主から賃金が支払われている場合は、その額が休業前賃金の80%未満であること
181日目以降は支給率が50%に下がりますが、「出生時育児休業(産後パパ育休)」を取得して父母が交互に育休を取得した場合は、改めて67%の支給率が適用される仕組み(「育休給付金の手取り実質10割給付」の要件)もあります。
既取得者の給付金額【令和4年9月30日以前の開始者】
令和4年(2022年)9月30日以前に育児休業を開始した労働者は、旧制度の月額上限(27万600円)が継続して適用されます。これは「激変緩和措置」として設けられた経過規定です。
激変緩和措置の適用対象と期間
激変緩和措置の対象となるのは、2022年(令和4年)9月30日以前に育児休業を開始した労働者です。
重要なポイントは、「育休開始日」が基準となる点です。10月1日の直前に育休を開始した方は、たとえ育休の終了が2022年10月1日以降になったとしても、旧制度(月額上限あり)が適用され続けます。
| 育休開始日 | 適用制度 | 月額上限 |
|---|---|---|
| 2022年9月30日以前 | 旧制度(激変緩和措置) | 27万600円 |
| 2022年10月1日以降 | 新制度(上限廃止) | 上限なし |
激変緩和措置に期間の定めは特に設けられておらず、育休期間が終了するまで旧制度が継続適用されます。途中で新制度に切り替えることはできません。
既取得者が月額上限27万600円で計算される理由
月額上限27万600円は、旧制度における「賃金日額の上限額」から導き出される数字です。
旧制度では、賃金日額の上限が1万1,020円(2022年7月31日以前の上限額)に設定されていました。
旧制度の月額上限計算
賃金日額の上限:1万1,020円
月額換算(×30日):33万600円
支給率67%適用後:33万600円 × 67% = 約22万1,000円
※正確には月額給付の上限が「賃金月額の80%相当まで含めた調整額」で
計算されるため、実際の上限は27万600円となる
端的にいえば、旧制度では月収が約33万円(賃金日額1万1,020円換算)を超えると、それ以上の賃金部分は給付計算に算入されず、結果的に月額27万600円が実質的な上限となっていました。
既取得者の給付金計算例と新規取得者との差額
同じ月収40万円の労働者でも、育休開始日によって給付金に大きな差が生じます。
育休開始から180日間(支給率67%)の比較
【既取得者(2022年9月30日以前に開始)】
給付金 = 27万600円(旧制度の上限額) × 67%
= 約18万1,000円 / 月
【新規取得者(2022年10月1日以降に開始)】
給付金 = 40万円 × 67%
= 約26万8,000円 / 月
【月額差】
約26万8,000円 − 約18万1,000円 = 約8万7,000円
同じ月収・同じ支給率であるにもかかわらず、育休開始日が1日違うだけで月額約8万7,000円の差が生じるわけです。育休期間6ヶ月で試算すると、合計で約52万円の給付差となります。
この格差に対して「不公平ではないか」という声もありますが、制度変更による急激な財政負担増を防ぐための経過措置として位置づけられており、現状では制度上の変更は予定されていません。
2025年4月改正による給付率の変更【最新情報】
2025年(令和7年)4月1日より、育休給付金の支給率に関する新たな変更が導入されます。これは月額上限廃止とは別の改正であり、既取得者・新規取得者の双方に影響を与える可能性があります。
2025年改正の主な変更ポイント
2025年4月1日施行予定の主な改正内容は以下のとおりです。
| 改正項目 | 改正前 | 改正後(2025年4月〜) |
|---|---|---|
| 第1子・第2子の支給率 | 67%(前半6ヶ月) | 67%(据え置き) |
| 第3子以降の支給率 | 67%(前半6ヶ月) | 80%(前半6ヶ月) |
| 後半(181日目以降) | 50% | 50%(据え置き) |
この改正で最大のポイントは、第3子以降を育てる労働者の育休給付金支給率が67%から80%に引き上げられることです。少子化対策の一環として、多子世帯の経済的支援を強化する目的があります。
第3子以降の給付金計算例(2025年4月以降)
月収40万円の労働者が第3子の育休を2025年4月1日以降に開始した場合の計算例です。
【2025年4月以降・第3子・支給率80%】
給付金 = 40万円 × 80% = 32万円 / 月
【2025年3月以前・第3子・支給率67%】
給付金 = 40万円 × 67% = 約26万8,000円 / 月
【増額効果】
32万円 − 約26万8,000円 = 約5万2,000円 / 月の増加
既取得者への2025年改正の適用可否
2025年4月改正においても、既取得者(2022年9月30日以前に育休開始)への適用については激変緩和措置が継続される可能性が高いとされています。ただし、厚生労働省からの最終確定通知が必要であり、2025年改正で第3子以降の給付率引き上げが既取得者に適用されるかどうかは、最新の行政通達を必ず確認してください。
給付金申請の手続きと必要書類【実務対応】
育休給付金の受給には、正確な申請手続きが必要です。新制度・旧制度いずれの場合も、基本的な申請フローは同じです。
申請の流れ
①育児休業の取得申出(育休開始日の1ヶ月前までに事業主へ)
↓
②事業主が公共職業安定所(ハローワーク)へ被保険者休業開始時賃金月額証明書を提出
(育休開始後10日以内)
↓
③育児休業給付受給資格確認票・初回支給申請書を提出
(育休開始から4ヶ月後の月末まで)
↓
④2回目以降の支給申請(2ヶ月ごと)
↓
⑤ハローワークが支給決定・給付金振込
必要書類一覧
初回申請時に必要な書類
| 書類名 | 準備者 | 備考 |
|---|---|---|
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | 事業主 | 育休開始日の翌日から起算して10日以内に提出 |
| 育児休業給付受給資格確認票・初回支給申請書 | 事業主または被保険者 | 育休開始日から最大4ヶ月後の月末まで |
| 母子健康手帳の写し(出生日確認) | 被保険者 | 子の出生日が確認できるページ |
| 育児休業取得の確認書類(育休通知書等) | 事業主 | 会社発行の育休承認通知書など |
2回目以降(2ヶ月ごと)の申請時
| 書類名 | 準備者 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | 事業主または被保険者 |
| 就業状況確認のための資料(就業した日数の記録) | 被保険者 |
申請期限と注意事項
- 初回申請:育児休業開始日から起算して4ヶ月後の月末が期限
- 2回目以降:支給単位期間(2ヶ月)ごとに、対象期間末日の翌日から起算して2ヶ月以内
- 期限を過ぎると給付が受けられない場合があるため、早めの手続きを推奨します
新規取得者・既取得者別チェックリスト
制度の違いを踏まえ、自分がどちらの制度に該当するかを確認するためのチェックリストです。
あなたの制度区分を確認する
Step 1:育児休業の開始日を確認
- [ ] 2022年(令和4年)9月30日以前 → 既取得者(旧制度適用)
- [ ] 2022年(令和4年)10月1日以降 → 新規取得者(新制度適用)
Step 2:既取得者の場合(旧制度適用)
- [ ] 月額給付上限27万600円が適用されることを確認
- [ ] 賃金月額が33万円超の場合は上限に達していることを確認
- [ ] 2025年4月以降の改正適用については最新情報を確認
Step 3:新規取得者の場合(新制度適用)
- [ ] 賃金月額の上限なしで67%(または50%)が適用されることを確認
- [ ] 月収33万円超の場合は旧制度より給付が増える
- [ ] 2025年4月以降:第3子以降の場合は80%適用になるか確認
人事担当者向け:制度運用の実務ポイント
企業の人事担当者が押さえておくべき実務上の注意点をまとめます。
既取得者と新規取得者の管理区分の明確化
社内で育休取得者の管理を行う際は、育休開始日を必ず記録し、2022年10月1日を境に制度区分を明確に分けて管理してください。同じ賃金水準でも給付額が異なるため、給付金計算の際に混乱を招く原因となります。
賃金月額証明書の正確な作成
育休給付金の計算基礎となる「賃金月額」は、育休開始前6ヶ月間の賃金総額から算定されます。この計算を誤ると、労働者が受け取る給付金額に直接影響します。特に交通費・時間外手当・賞与の扱いについては、ハローワークの確認を取りながら正確に記載してください。
2025年4月改正への対応準備
2025年4月から第3子以降の支給率が80%に引き上げられる場合、社内の育休取得者数・対象者の子の出生順序などを事前に把握しておく必要があります。人事システムの給付金試算機能がある場合は、改正内容に対応したアップデートが必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 2022年9月30日に育休を開始しました。10月1日以降も上限なしの新制度に切り替えることはできますか?
できません。育休給付金の適用制度は育休開始日によって決まります。2022年9月30日以前に開始した場合は、育休終了まで旧制度(月額上限27万600円)が適用されます。途中からの新制度切り替えは認められていません。
Q2. パートタイム労働者でも月額上限廃止の恩恵を受けられますか?
上限廃止の恩恵は、賃金月額が実質的な上限(約33万円)を超える場合に生じます。多くのパートタイム労働者の賃金月額はこの水準を下回るため、実際には新制度適用による増額効果はほとんど発生しないケースが大半です。ただし、雇用保険の加入要件(週20時間以上の労働等)を満たせば給付自体は受けられます。
Q3. 2025年4月改正で第3子の支給率80%は、既に育休中の人にも適用されますか?
現時点では、既取得者への適用については激変緩和措置が継続される可能性が高いとされています。2025年4月1日以降に新たに育休を開始する場合は80%が適用されますが、それ以前から育休を取得している方については最新の厚生労働省通達・ハローワークの案内を確認してください。
Q4. 夫婦同時に育休を取得する場合、給付金はそれぞれに支給されますか?
はい、夫婦それぞれが雇用保険の被保険者であれば、それぞれの賃金月額をもとに給付金が計算・支給されます。また、父母が交互に育休を取得する場合(産後パパ育休との組み合わせ等)、一定の要件を満たせば育休前賃金の実質10割相当を受け取れる可能性があります。
Q5. 賞与は育休給付金の計算に含まれますか?
原則として、育休給付金の計算基礎となる賃金日額には賞与は含まれません。毎月の基本給・各種手当(通勤手当を除く)から算出した6ヶ月間の平均賃金が計算の基礎となります。ただし、賞与から雇用保険料が控除されている場合でも、給付計算には算入されない点に注意が必要です。
Q6. 育休給付金は非課税ですか?確定申告は必要ですか?
育休給付金は所得税・住民税の課税対象外です。また、雇用保険料の控除も行われません。したがって、育休中に給与収入がなく育休給付金のみを受け取っている場合は、原則として確定申告は不要です。ただし、育休開始前後に賃金収入がある場合や、副収入がある場合は確定申告が必要となるケースもあるため、税務署または税理士に確認することをお勧めします。
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まとめ:育休給付金の月額上限廃止で変わったこと
本記事の内容を最後に整理します。
月額上限廃止(2022年10月1日〜)の要点
- 新規取得者(2022年10月1日以降に育休開始):月額上限なし。賃金月額×67%が給付される
- 既取得者(2022年9月30日以前に育休開始):旧制度の月額上限27万600円が継続適用
- 月収40万円の場合、新旧で月額最大約8万7,000円の差が生じる
- 2025年4月改正で第3子以降の支給率が80%に引き上げ(新規取得者向け)
育休給付金の制度は年々改正されており、自分が「新規取得者」か「既取得者」かによって受給額が大きく変わります。育休取得を検討している方は、育休開始日を慎重に確認したうえで、ハローワーク・勤務先の人事部門への早めの相談をおすすめします。
また、制度改正の情報は厚生労働省の公式サイト(https://www.mhlw.go.jp/)や最寄りのハローワークで最新情報を確認してください。本記事の情報は2025年5月時点の制度に基づいており、今後の法改正により内容が変更となる場合があります。

