育休給付金を申請しようとしたとき、「通勤手当や住宅手当は計算に入るの?」と疑問に思う方は少なくありません。給与明細を見ると基本給のほかにさまざまな手当が並んでいますが、どれが育休給付金の計算に影響するのかが分かりにくいのが現状です。
結論から言えば、通勤手当も住宅手当も、実際に支払われた実績があれば賃金月額に含まれます。ただし「含まれる条件」と「含まれないケース」が存在するため、細かなルールを正確に理解することが重要です。
この記事では、育休給付金の仕組みを熟知した人事実務の専門家の視点から、賃金月額の算定ルール、通勤手当・住宅手当それぞれの取扱い、具体的な計算例、申請に必要な書類まで、実務で役立つ情報をまとめて解説します。
通勤手当と住宅手当は育休給付金の計算に含まれるのか【結論】
育休給付金の給付額を決める「賃金月額」は、基本給だけで計算するわけではありません。育児休業開始前6ヶ月間に実際に支払われたすべての賃金が対象になります。通勤手当・住宅手当・皆勤手当・資格手当など、名称を問わず「実際に支給された金額」が積み上げられて賃金月額が算定されます。
重要なのは「実際に支払われたかどうか」という一点です。育休中に支給が止まる手当があっても、育休前の支給実績に基づいて計算するため、育休後の支給状況は原則として無関係です。
ただし、手当の種類や就業形態によって細かな取扱いの違いがありますので、以下で一つずつ確認していきましょう。
通勤手当が育休給付金に含まれるケースと含まれないケース
通勤手当の取扱いで最も多く寄せられる疑問は「育休中は通勤しないのに、通勤手当は計算に入るのか」というものです。
含まれるケース:育休開始前に実際に支給されていた通勤手当
賃金月額の算定対象となるのは、育児休業開始日前の6ヶ月(正確には「直前の完全な6ヶ月」)に実際に支払われた賃金です。この期間に通勤手当が支給されていれば、その金額は賃金月額の計算に算入されます。毎月一定額が支給される場合はそのまま加算、3ヶ月ごとにまとめて支給される場合は合計額を支給月数で割り戻して各月に配分して扱います。
含まれないケース:産前休業中や欠勤で支給がなかった月の通勤手当
賃金月額の算定には「賃金支払基礎日数が11日以上ある月」という条件が設けられています。産前休業に入った月や、長期欠勤で11日未満しか出勤実績がなかった月は算定から除外されます。その月に通勤手当が支給されていなければ、当然ながら計算に含まれません。
また、実費精算型(実際に交通機関を利用した日数分だけ支給)の通勤手当の場合、支給実績がそのまま賃金月額に反映されます。テレワーク等で出勤日が少なく通勤手当が減額されていた期間がある場合は、その実績額が算定の基礎になる点に注意が必要です。
3ヶ月・6ヶ月単位の定期代支給の場合
定期券代として3ヶ月または6ヶ月まとめて支給される場合は、その合計額を支給対象月数で割った金額が各月の通勤手当として賃金月額に算入されます。たとえば6ヶ月定期代として12万円が支給されていれば、月あたり2万円として計算されます。
住宅手当が育休給付金に含まれる理由
住宅手当は「通勤の有無」に関係なく生活費の補助として支給される性格が強い手当です。このため、通勤手当のように「育休中は支給されないから除外される」という考え方にはなりません。
育休給付金の賃金月額は、あくまでも育児休業開始前の6ヶ月間の実際の支給実績を基準に算定されます。住宅手当は、育休開始後に支給が続くかどうかにかかわらず、育休前の6ヶ月間に実際に支給されていれば賃金月額に算入されます。
つまり、育休中も住宅手当が支給されている企業もあれば、育休中は停止する企業もありますが、いずれの場合も育休給付金の賃金月額の計算には「育休前6ヶ月間の支給実績」だけを用います。育休後の手当支給の有無は、育休給付金の計算には影響しません。
育休給付金の「賃金月額」とは何か
育休給付金の支給額は次の式で計算されます。
支給額 = 賃金月額 × 給付率(67%または50%)
この「賃金月額」がどのように算定されるかを正確に理解することが、給付額を正しく把握するための第一歩です。
賃金月額の算定方法
賃金月額は、雇用保険法の「みなし賃金日額」の算定ルールに基づいて計算されます。計算の流れは以下のとおりです。
ステップ1:対象となる月を特定する
育児休業開始日の直前の「完全な月」から遡って6ヶ月分を特定します。「完全な月」とは月の初日から末日までの全期間が含まれる月のことです。育休開始日が月の途中の場合、その月は「完全な月」に該当しないため、その前の月から6ヶ月分を数えます。
ステップ2:11日以上の支払基礎日数がある月を選ぶ
選び出した月のうち、「賃金支払基礎日数が11日以上」の月だけを算定対象とします。欠勤・産前休業などで11日に満たない月は除外されます。もし6ヶ月以内に11日以上の月が6ヶ月分集まらない場合は、遡ってさらに過去の月を加えて合計6ヶ月分を確保します。
ステップ3:6ヶ月分の賃金合計を計算する
対象となった各月の「実際に支払われた賃金の合計額」を算出します。この際、基本給・通勤手当・住宅手当・その他の各種手当がすべて含まれます(賞与は原則として含まれません)。
ステップ4:1日あたりの賃金額を算出する
6ヶ月分の賃金合計を180(日)で割り、「みなし賃金日額」を算出します。
みなし賃金日額 = 6ヶ月分の賃金合計 ÷ 180
ステップ5:賃金月額を算出する
みなし賃金日額に30を乗じて「賃金月額」を算出します。
賃金月額 = みなし賃金日額 × 30
計算を簡便にまとめると以下のとおりです。
賃金月額 = 6ヶ月分の賃金合計 ÷ 180 × 30
= 6ヶ月分の賃金合計 ÷ 6
つまり実質的には、対象6ヶ月間の月平均支給額が賃金月額になります。
賃金月額の上限と下限
賃金月額には毎年8月に見直される上限・下限が設定されています。2025年度(令和7年度)の参考値は以下のとおりです(毎年8月1日に改定されるため、申請前にハローワークまたは厚生労働省のウェブサイトで必ず確認してください)。
| 項目 | 金額(参考) |
|---|---|
| 賃金月額の上限額 | 約484,500円 |
| 賃金月額の下限額 | 約80,210円 |
上限を超える賃金月額は上限額に切り下げて計算されます。下限を下回る場合は下限額が賃金月額として扱われます。
給付率の変化による支給額の変動
2025年4月の育児介護休業法改正の施行状況も踏まえると、給付率は以下のとおりです。
| 育休期間 | 給付率 |
|---|---|
| 育休開始から180日目まで | 67% |
| 育休開始181日目以降 | 50% |
したがって、育休開始当初の6ヶ月間(180日間)は賃金月額の67%、それ以降は50%が支給されます。
実際に通勤手当・住宅手当を含めた計算例
具体的な数字を用いて、通勤手当・住宅手当を含む賃金月額の計算をシミュレーションしてみましょう。
計算例:毎月支給型の通勤手当と住宅手当がある場合
モデルケース
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 基本給 | 250,000円 |
| 職務手当 | 20,000円 |
| 通勤手当 | 15,000円 |
| 住宅手当 | 25,000円 |
| 月収合計 | 310,000円 |
育児休業開始前6ヶ月間がすべて上記の条件で支給されていた場合、計算は以下のとおりです。
6ヶ月分の賃金合計 = 310,000円 × 6ヶ月 = 1,860,000円
賃金月額 = 1,860,000円 ÷ 180 × 30 = 310,000円
育休開始から180日間の給付額(月額)
= 310,000円 × 67% = 207,700円
181日目以降の給付額(月額)
= 310,000円 × 50% = 155,000円
通勤手当(15,000円)と住宅手当(25,000円)を合わせた40,000円が毎月の賃金月額に上乗せされており、これが給付額に反映されています。もし手当が除外されていれば、基本給+職務手当の270,000円が賃金月額となり、給付額は月約180,900円(67%)と約26,000円の差が生じることになります。
計算例:3ヶ月まとめて支給される定期代がある場合
モデルケース(定期代は3ヶ月に1回支給)
- 基本給:240,000円/月
- 住宅手当:20,000円/月
- 通勤手当(定期代):3ヶ月に1回 45,000円(月あたり15,000円相当)
この場合、通勤手当は月あたり15,000円に換算して各月に配分したうえで合計します。
1ヶ月あたりの支給額 = 240,000 + 20,000 + 15,000(按分後)= 275,000円
6ヶ月合計 = 275,000円 × 6 = 1,650,000円
賃金月額 = 1,650,000 ÷ 180 × 30 = 275,000円
育休開始から180日間の給付額(月額)
= 275,000円 × 67% = 184,250円
申請手続きと必要書類
育休給付金の申請は事業主(会社)を経由してハローワークに提出するのが一般的です。会社の人事・総務担当者が手続きを代行しますが、労働者側も仕組みを理解しておくと確認作業をスムーズに行えます。
初回申請の流れ
育児休業開始後、原則として育児休業開始日から約1ヶ月が経過した後に申請が行われます。ハローワークでの審査を経て、初回給付金は育休開始から約1.5〜2ヶ月後を目安に受け取れます。
育児休業開始
↓
事業主が申請書類を準備・提出
(育休開始から10日以内が提出目安)
↓
ハローワークで受給資格確認・賃金月額算定
↓
支給決定通知
↓
初回給付金の振込
(育休開始から約1.5〜2ヶ月後)
↓
2回目以降は2ヶ月ごとに支給申請
初回申請時の必要書類
| 書類名 | 作成・用意する人 | ポイント |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書(初回) | 事業主(ハローワーク様式) | 賃金月額の記載欄に通勤手当・住宅手当を含めた金額を記入 |
| 賃金台帳または給与明細書 | 事業主 | 手当の内訳が明確に記載されているもの(通勤手当・住宅手当が別掲されているか確認) |
| 出勤簿または勤務表 | 事業主 | 育休前12ヶ月分の出勤状況が確認できるもの |
| 育児休業開始予定日が記載された書類 | 事業主 | 育児休業申出書など |
| 母子健康手帳のコピー | 本人 | 出産日・子どもの氏名が確認できるページ |
| 個人番号(マイナンバー)確認書類 | 本人 | マイナンバーカードまたは通知カード+本人確認書類 |
2回目以降の申請書類
2回目以降は2ヶ月ごとに支給申請を行います。
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | 各支給対象期間の終了後に提出 |
| 賃金台帳・出勤簿(該当期間分) | 育休中の就業があった場合に支給調整のため必要 |
給与明細書の確認ポイント
申請前に、過去6ヶ月分の給与明細書で以下を確認しておきましょう。
- 通勤手当が毎月記載されているか、まとめて支給されているか
- 住宅手当の金額は一定か、変動があるか
- 産前休業や欠勤で支給額が減った月がないか
- 11日以上の出勤実績がない月はないか
これらを事前に人事担当者と共有しておくと、申請書類の準備がスムーズになります。
人事担当者が注意すべき実務ポイント
企業の人事・総務担当者が申請手続きを行う際に、特に注意が必要なポイントを整理します。
通勤手当の記載方法を明確にする
給与明細書や賃金台帳に「通勤費込み」といった形で基本給に含めて記載している場合、ハローワークの審査で内訳の説明が求められることがあります。可能であれば手当ごとに別掲する形式に整えると、申請がスムーズになります。
定期代の支給月に注意する
3ヶ月または6ヶ月の定期代を一括支給している場合、算定対象の6ヶ月期間内に支給月が入っていないケースがあります。この場合、按分して各月に分配する処理が必要です。按分の考え方についてはハローワークに事前に相談することをおすすめします。
産前休業の開始月は注意が必要
産前休業が月の途中から始まった月は、賃金支払基礎日数が11日未満になる場合があります。その月が算定から除外されると、より前の月に遡って対象月が補完されます。賃金台帳を少なくとも12〜14ヶ月分手元に準備しておくと安心です。
育休中に一部就業があった場合の給付調整
育休中に会社の求めで一時的に就業した日がある場合、その月の給付金が調整(減額または不支給)されることがあります。就業日数が10日(または80時間)を超えると給付金が支給されない月も発生します。就業実績は出勤簿等で正確に管理してください。
育休中の手当支給と給付金の関係
育休中も一部の手当(住宅手当など)を支給し続ける企業があります。この場合、給付金との調整が発生するケースがあるため注意が必要です。
育児休業期間中に事業主から賃金(給与)が支払われた場合、その月の育休給付金は次のように調整されます。
| 支給賃金の水準 | 育休給付金の扱い |
|---|---|
| 休業前賃金の13%以下 | 給付金は満額支給 |
| 休業前賃金の13%超〜80%未満 | 給付金は減額して支給 |
| 休業前賃金の80%以上 | 給付金は不支給 |
住宅手当を育休中も支給する会社では、この調整ルールが適用されます。社員が経済的な見通しを立てられるよう、人事担当者は事前に丁寧な説明を行うことが大切です。
賃金月額に含まれない主なもの
通勤手当・住宅手当は含まれる一方で、含まれないものも確認しておきましょう。
| 含まれないもの | 理由 |
|---|---|
| 賞与(ボーナス) | 臨時・一時的に支払われる賃金として除外 |
| 3ヶ月を超える期間ごとに支払われる手当 | 賞与と同様の扱い |
| 実費弁償的な費用(業務上の実費交通費等) | 賃金に該当しないため除外 |
| 育休中に初めて支給された手当 | 算定対象期間外のため対象外 |
賞与や決算手当は、たとえ高額であっても賃金月額には算入されません。給与明細上の各項目が「賃金」に該当するか「実費弁償」に該当するかの判断が難しい場合は、ハローワークに事前確認することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 通勤手当が月によって異なる場合はどうなりますか?
実費精算型で月によって支給額が変動する場合は、各月の実際の支給額をそのまま使用して6ヶ月分を合計します。平均額に均一化するのではなく、実際の支給実績を積み上げる方式です。
Q2. テレワークで通勤手当が減額されていた期間がある場合は?
テレワーク導入によって通勤手当が減額または支給停止されていた期間がある場合、その期間の実際の支給額が算定の基礎になります。テレワーク期間中の通勤手当が少なければ、その分だけ賃金月額が低くなる可能性があります。
Q3. 育休前に産前休業を取っていた場合、賃金月額はどこから計算されますか?
産前休業の開始によって出勤が止まった月以降は、賃金支払基礎日数が11日未満になる月が生じます。そのような月は算定から除外され、11日以上の月が6ヶ月分集まるまで、さらに過去に遡って対象月が補完されます。
Q4. 育休中も住宅手当が支給される場合、育休給付金はどうなりますか?
育休中に会社から支払われる賃金(住宅手当を含む)の合計が、育休前賃金の80%以上に達する場合は育休給付金が支給されません。13%以下であれば満額支給、13%超〜80%未満であれば給付金は減額されます。育休中の手当支給が給付金に影響するかどうかは、金額水準を事前に人事担当者に確認しておきましょう。
Q5. 住宅手当が非課税扱いの場合でも賃金月額に含まれますか?
税務上の非課税・課税の区別は、育休給付金の賃金月額算定には影響しません。税務上非課税とされる住宅手当であっても、実際に支払われた賃金として賃金月額に算入されます。
Q6. 申請を忘れていた場合、さかのぼって請求できますか?
育休給付金の時効は2年です。支給申請を失念していた場合でも、育休終了から2年以内であればさかのぼって請求できます。ただし手続きが遅れると資料の収集に手間がかかるため、できるだけ早めにハローワークに相談することをおすすめします。
Q7. 給与明細書に「通勤費」「交通費」と記載されている場合も含まれますか?
名称が「通勤費」や「交通費」であっても、通勤のために実際に支給されている手当は賃金月額に含まれます。一方、出張や業務上の移動に対する実費精算(経費)は含まれません。同じ「交通費」名目でも性質が異なる場合があるため、給与規程や明細の内訳で確認することが大切です。
育休給付金の申請で損しないためのチェックリスト
申請前に以下の項目をもう一度確認しておきましょう。
- [ ] 過去6ヶ月分の給与明細書で、通勤手当と住宅手当が毎月記載されているか確認した
- [ ] 定期代や各種手当がまとめて支給されている場合は、月額換算できているか確認した
- [ ] 産前休業や欠勤で11日未満の月がないか、または補完月が適切に選ばれているか確認した
- [ ] 育休中に会社から支給される賃金の水準を人事担当者に確認した
- [ ] 給与規程で「通勤手当」「住宅手当」の定義と支給条件を理解した
- [ ] 賃金台帳と給与明細書の記載内容が一致しているか確認した
- [ ] 初回申請時の必要書類をすべて人事担当者に提出できる準備をした
👉 育休中の家計が不安な方は、みんなの生命保険アドバイザーの無料相談で固定費を見直せます![]()
まとめ
育休給付金の賃金月額には、基本給だけでなく通勤手当・住宅手当を含む各種手当が算入されます。重要なのは「育児休業開始前6ヶ月間に実際に支給されたか」という一点です。
- 通勤手当:育休前の6ヶ月に実際に支給されていれば含まれる。まとめて支給の場合は按分して各月に配分
- 住宅手当:育休中の支給の有無にかかわらず、育休前の6ヶ月の支給実績が反映される
- 賃金月額の計算:対象6ヶ月分の合計 ÷ 180 × 30(=月平均)
- 賞与・臨時手当:賃金月額の計算から除外
手当の内訳が正確に記録された給与明細書・賃金台帳を準備することが、適正な給付額を受け取るための第一歩です。自社の支給規程を確認し、不明な点はハローワークに事前に問い合わせることをおすすめします。
法的根拠
本記事の内容は以下の法令・通達に基づいています。
- 雇用保険法 第61条の4(育児休業給付)
- 雇用保険法施行規則 第74条〜第85条
- 厚生労働省「育児休業給付に関する事務取扱い」
- 厚生労働省「育児休業給付に関するQ&A」
※給付額の上限・下限は毎年8月1日に改定されます。申請前には必ずハローワークまたは厚生労働省の公式情報をご確認ください。

