育休中に副業を始めたい、あるいはすでにフリーランスや個人事業として収入があるという方から、「育児休業給付金が減額・停止されてしまうのでは?」という不安の声をよく聞きます。
結論から言えば、2024年現在、副業の収入額そのものが原因で給付金が減額されることはありません。 給付金への影響が生じるのは、あくまで「就業日数や就業時間」が一定の基準を超えた場合に限られます。
ただし、「何をしても大丈夫」というわけでもなく、報告義務や確定申告上の注意点は存在します。この記事では、2022年改正で大きく変わった判定ルールの仕組み、具体的なボーダーライン、申請・報告手続きの実務まで、順を追って詳しく解説します。
育休中の副業で給付金が「減額・停止」されるケースはある?
2022年改正で何が変わったか:旧ルールとの比較
育児休業給付金の副業・就業に関するルールは、2022年10月1日施行の改正で大幅に緩和されました。改正前と改正後の違いを以下の表で確認してください。
| 比較項目 | 改正前(〜2022年9月) | 改正後(2022年10月〜) |
|---|---|---|
| 就業の判定基準 | 月10日超で就業とみなす | 月10日超、かつ就業時間80時間超の場合に就業とみなす(どちらか一方でもOK) |
| 給付金への影響 | 10日超で支給対象外 | 上記基準未満なら給付金に一切影響なし |
| 副業収入額の扱い | 一部調整の余地あり | 収入額は給付金計算に直接影響しない |
| 支給停止の条件 | 月10日超の就業 | 10日超かつ80時間超(いずれか一方を超えた場合も対象) |
改正の背景には、育休中の就労を柔軟に認め、職場復帰の準備や自己成長の機会を確保しやすくしたいという政策的意図があります。育児・介護休業法の同時改正(産後パパ育休の創設など)と合わせて、育休をより取得しやすくするための一連の措置のひとつです。
ポイント: 改正後のルールでは「10日・80時間」という二重の基準が設けられているため、たとえ就業日数が10日を超えなくても、就業時間の合計が80時間を超えると給付金支給が「当該支給対象期間は不支給」となりえます。逆に10日を超えても80時間未満であれば、原則として支給されます。
副業の「収入額」ではなく「就業日数・時間」が判定基準になる理由
なぜ収入額ではなく、就業の「実態」で判定されるのでしょうか。その根拠は雇用保険法第61条の4にあります。
同条は、育児休業給付金の支給要件として「育児休業期間中に就業していないこと(または就業日数・時間が一定以下であること)」を定めています。育児休業給付金は、仕事を休んでいることへの所得補償という性質を持つため、「どれだけ稼いだか」ではなく「どれだけ働いたか」が問われる制度設計になっています。
具体的な計算方式を補完する雇用保険法施行規則第75条でも、副業所得の金額を給付金額から差し引く仕組みは定められていません。つまり、ネットショップの売上が月50万円あっても、就業日数・時間が基準内に収まっていれば、給付金は満額受給できるのが原則です。
ただし後述するように、確定申告での扱いや会社への報告義務は別の話として存在します。収入額が給付金に直接影響しない一方で、適切な手続きを怠ると思わぬトラブルに発展することもあるため、制度の全体像を正確に把握することが重要です。
給付金への影響が生じる具体的な条件(就業日数・時間の上限)
月10日・80時間のカウント方法と判定フロー
育児休業給付金は「支給対象期間」ごとに申請します。通常、1か月ごとの期間(育休開始日から1か月単位)が1支給対象期間となり、各期間ごとに就業日数・時間を確認します。
「1日」のカウントルール
- 1日のうち少しでも就業した場合(たとえ1時間でも)、その日は「就業1日」としてカウントされます
- 深夜や早朝など時間帯は問いません
- 在宅でのリモートワーク、ライブ配信、コンサルティング対応なども「就業」に含まれます
「時間」のカウントルール
- 実際に働いた時間の合計が対象です
- 待機時間・準備時間の扱いは業務の実態によりますが、実質的な業務遂行があれば就業時間に含まれます
- 複数の副業・事業を掛け持ちしている場合は、すべての就業時間を合算します
判定フロー
1か月の支給対象期間内の就業実績
↓
[就業日数] 10日以下 かつ [就業時間] 80時間以下
↓ ↓
給付金に影響なし どちらか一方でも超過
↓
当該支給対象期間は不支給
注意: 「10日」と「80時間」はどちらか一方を超えただけでも不支給になり得ます。両方を同時に超える必要はありません。就業実態がある場合は、日数と時間の両方を常にトラッキングする習慣をつけましょう。
同一勤務先での一時的な就業と、他社・個人事業の副業での扱いの違い
育休中の「就業」には大きく2種類あり、それぞれ手続き・報告先が異なります。
①同一勤務先での一時的な就業(就業可能日制度・産後パパ育休)
2022年10月から創設された産後パパ育休(出生時育児休業)では、労使協定を締結した企業において、育休中に一定日数だけ就業することが認められています。通常の育児休業中の就業(いわゆる「就業可能日制度」)も以前から存在します。
- 報告先: 元の勤務先(人事・労務部門)
- 手続き: 勤務先と就業日・時間について事前合意 → 就業実績を勤務先が記録 → 給付金申請時に「育児休業給付金支給申請書」へ就業日数を記載
- 給与の発生: 就業した日数・時間分の賃金が発生する場合、給与と給付金の合計が「休業開始時賃金日額×支給日数×80%」を超えると給付金が調整(減額)されます。これは就業日数・時間に加えた別の調整ルールです
②他社・個人事業・フリーランスとしての副業
- 報告先: 会社の人事部門(副業開始の報告)+ハローワーク(給付金申請時に就業実績を申告)
- 収入の扱い: 前述の通り、収入額は給付金に直接影響しない(就業日数・時間が基準内の場合)
- 注意点: 会社の就業規則で副業が禁止されている場合は、育休中であっても就業規則違反となりえます。必ず事前に確認・報告を行ってください
| 就業の種類 | 主な報告先 | 給付金への直接的な影響 |
|---|---|---|
| 同一勤務先での就業(就業可能日) | 勤務先 | 賃金+給付金の合計額で調整あり |
| 他社・副業・個人事業 | 勤務先+ハローワーク | 就業日数・時間のみで判定(収入額不問) |
就業日数が上限を超えてしまった場合にどうなるか
就業日数が10日超、または就業時間が80時間超になってしまった支給対象期間については、その期間の育児休業給付金は支給されません(不支給)。
ただし、不支給となるのはその支給対象期間(1か月)のみです。翌月の支給対象期間で基準内に収まれば、再び給付金を受給できます。「1か月超えたら育休全体が終わり」ということはありません。
また、超過が判明した場合は速やかにハローワークに報告する義務があります。虚偽申告や報告漏れは不正受給とみなされ、給付金の返還(最大3倍の返還)や刑事罰の対象となり得ます。「少しくらい超えていても申告しなくていいだろう」という判断は絶対に避けてください。
申請手続きと必要書類:ステップ別ガイド
副業開始前にやるべきこと
ステップ1:会社の就業規則を確認する
副業を始める前に、まず自社の就業規則で「副業・兼業に関する規定」を確認します。
- 副業禁止の規定がある → 人事部門に相談・許可申請が必要
- 副業届出制の規定がある → 副業開始前に届出書を提出
- 特に規定がない → 念のため人事部門に口頭・メールで確認を
ステップ2:会社(人事・労務部門)への報告
| 報告タイミング | 副業開始前または開始時 |
|---|---|
| 報告先 | 人事部門・直属の上長 |
| 報告内容 | ①副業の種類・内容、②想定される就業日数・時間(月10日・80時間を超えないことを伝える)、③副業先の名称(会社によっては必要) |
| 提出書類 | 会社所定の副業届出書(ある場合) |
ステップ3:就業実績の記録を始める
副業開始時から、以下の内容を日ごとに記録しておきます。
- 就業日付
- 就業開始・終了時刻
- 業務内容の概要
- 1日の就業時間合計
月ごとに集計し、「就業日数」と「就業時間合計」を把握できる状態にしておくことが、後述する給付金申請時の申告を正確に行うための基本です。
給付金申請時(2か月ごと)の手続き
育児休業給付金は、通常2か月に1回、事業主(会社)を通じてハローワークに支給申請を行います。
必要書類(育休中の副業がある場合)
| 書類名 | 用途・備考 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | 就業日数を記入する欄あり。副業分も含めて正確に記載 |
| 賃金台帳(勤務先分) | 会社が用意。同一勤務先での就業があった場合 |
| 出勤簿・タイムカードの写し | 同一勤務先就業があった場合に添付 |
| 副業収入の証明(必要に応じて) | ハローワーク窓口で求められた場合に備えて準備 |
| 育児休業取扱通知書 | 育休開始時に会社から交付されたもの(初回申請時) |
申請書への就業日数の記入方法
「育児休業給付金支給申請書」の「就業日数」欄には、その支給対象期間中に就業したすべての日数(同一勤務先・副業・個人事業を合算)を記載します。時間についても「就業時間」として記入する欄があります。
実務上のポイント: 申請は通常、会社の担当者が代行・確認します。副業がある場合は担当者に就業実績(日数・時間)を必ず事前に伝え、申請書の記載に漏れがないよう確認してもらいましょう。
確定申告での注意点
副業・事業所得がある場合、翌年の2月16日〜3月15日の確定申告が必要になることがほとんどです。
確定申告が必要になるケース
- フリーランス・個人事業主として事業所得がある場合(金額に関わらず原則申告必要)
- 給与所得以外の所得(副業の雑所得・事業所得)が年間20万円超の場合
- ネットショップ・YouTube・せどりなど各種副業収入が一定額を超える場合
育児休業給付金は非課税
育児休業給付金は所得税・住民税が非課税です(雇用保険法第12条)。確定申告の収入欄に給付金を記載する必要はありません。給付金の受給が副業収入の確定申告に影響することもありません。
住民税の注意点
副業の事業所得・雑所得に対して住民税が課税されます。育休終了後の住民税額(翌年6月以降の特別徴収分)が増加する場合があるため、育休復帰後の手取り額に影響が出ることを把握しておきましょう。
育休中の副業・事業所得が給付金計算に与える具体的な影響
給付金の基本的な計算式
育児休業給付金の基本的な計算方法は以下の通りです。
育休開始から180日(6か月)まで:
休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
181日目以降:
休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50%
「休業開始時賃金日額」は、育休開始前の6か月間の賃金合計を180で割った額です。
同一勤務先就業による「賃金との調整」
育休中に同一勤務先で就業し、賃金が発生した場合は以下の調整が入ります。
就業で賃金を受け取った場合の判定式:
[育休中に受け取った賃金] + [給付金]
≦ 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 80% → 給付金は満額
> 80% → 超過分だけ給付金が減額
≧ 100%(賃金のみで80%を超える場合) → 給付金は不支給(0円)
この調整はあくまで同一勤務先からの賃金に適用されるものです。別会社や個人事業からの収入(副業収入)は、この計算式には含まれません。
計算例:副業収入がある場合のシミュレーション
前提条件:
– 休業開始時賃金日額:1万円
– 支給対象期間:30日
– 育休期間:育休開始から6か月以内(給付率67%)
パターンA:副業収入あり、就業日数8日・就業時間60時間
育児休業給付金 = 1万円 × 30日 × 67% = 201,000円(満額)
副業収入(例:15万円)→ 給付金に影響なし
受け取れる金額 = 201,000円 + 副業収入150,000円 = 351,000円
→ 就業が基準内のため、給付金は満額受給可能。副業収入はそのまま手元に残ります。
パターンB:就業日数12日・就業時間90時間(基準超過)
当該支給対象期間の育児休業給付金 = 0円(不支給)
副業収入(例:20万円)→ 給付金なしで副業収入のみ
→ 就業が基準を超えたため、その1か月分の給付金は不支給。翌月が基準内なら翌月は受給再開可能。
申告漏れ・不正受給を防ぐための実務チェックリスト
育休中の副業にまつわるトラブルの多くは、「報告すべき就業実績を申告しなかった」「就業日数のカウントが曖昧だった」というケースです。以下のチェックリストを活用してください。
副業開始前のチェック
- [ ] 会社の就業規則で副業の可否を確認した
- [ ] 人事部門に副業開始の報告・届出を行った
- [ ] 月の就業日数・時間の上限(10日・80時間)を把握している
- [ ] 就業実績を記録するノート・アプリ等を用意した
毎月のチェック
- [ ] 就業日数の合計を確認した(10日以下か)
- [ ] 就業時間の合計を確認した(80時間以下か)
- [ ] 翌月の予定も含めて基準超過のリスクがないか確認した
給付金申請時のチェック
- [ ] 就業日数・時間を申請書に正確に記載(または会社担当者に伝えた)
- [ ] 同一勤務先での就業がある場合は賃金額も報告した
- [ ] 申請書の「就業日数」欄に副業分を含めてすべて記入した
年末・確定申告時のチェック
- [ ] 副業・事業所得を正確に集計した
- [ ] 雑所得・事業所得として適切な所得分類を確認した
- [ ] 育児休業給付金は非課税のため申告不要と確認した
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中にブログや動画投稿で収入を得ても大丈夫ですか?
コンテンツ作成・投稿の作業が「就業」としてカウントされる場合、就業日数・時間に含まれます。ただし、既存のコンテンツから自動的に広告収入が発生するだけで、その期間に実作業をしていない場合は「就業」に当たらないとされるケースが多いです。継続的に記事執筆・動画編集を行っている場合は就業実績として記録し、日数・時間が基準内かを確認しましょう。判断が難しい場合は管轄のハローワークに相談することをおすすめします。
Q2. ハローワークに副業収入の金額を申告する必要はありますか?
育児休業給付金の申請書において、副業収入の金額を直接申告する欄は通常ありません。申告が必要なのは「就業日数」と「就業時間」です。ただし、同一勤務先での就業がある場合は賃金額も報告が必要です。なお、確定申告は税務署への別途手続きとなります。
Q3. 個人事業主として育休を取得している場合、給付金は受給できますか?
個人事業主(自営業者)は雇用保険の被保険者ではないため、育児休業給付金の受給対象外です。育児休業給付金はあくまで雇用保険制度に基づく給付であり、フリーランス・個人事業主は対象になりません。なお、会社員として雇用保険に加入しながら個人事業も兼業している方は、会社員としての育休取得・給付金受給の対象になり得ます。
Q4. 副業の就業日数が10日を超えてしまいました。すぐに会社やハローワークに伝えるべきですか?
はい、速やかに報告してください。申請書への虚偽記載・報告漏れは不正受給に該当し、給付金の全額返還(場合によっては3倍)や詐欺罪での刑事責任が問われることがあります。「知らなかった」では済まないケースもあるため、超過が判明した時点で会社担当者を通じてハローワークに申し出ることが重要です。
Q5. 育休中に副業を始める場合、育休延長に影響はありますか?
育休延長(保育所に入れないなどの理由による1歳6か月・2歳までの延長)の要件は「育児休業中であること」です。副業・就業の実態があっても育休延長の要件自体は満たせますが、支給対象期間ごとの就業基準(10日・80時間)を超えた月は給付金が支給されません。延長期間中も同様のルールが適用されるため注意が必要です。
Q6. 副業収入が給付金より多くなってしまったら、育休を続ける意味はありますか?
給付金の制度的な意義だけでなく、育休は社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されるメリットもあります(育休期間中は本人負担・会社負担ともに免除)。また育休期間中は雇用保険の被保険者期間として継続しますし、育休後の職場復帰の権利も保護されます。収入面だけでなく、社会保険・雇用上の保護の観点からも育休継続に意味がある場合は多くあります。
まとめ
育休中の副業・事業所得と育児休業給付金の関係を整理すると、以下の通りです。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 収入額の影響 | 副業・事業収入の金額は給付金に直接影響しない |
| 判定基準 | 月10日超 または 80時間超の就業で当該期間は不支給 |
| 報告義務 | 会社への副業届出+給付金申請書への就業実績記載が必須 |
| 確定申告 | 副業収入は申告が必要(給付金は非課税・申告不要) |
| 不正受給 | 申告漏れは返還・刑事罰のリスクあり |
2022年改正により、育休中の就業・副業は以前より柔軟に認められるようになりました。一方で、就業実績の正確な把握と適切な申告はより重要になっています。「就業日数・時間を月単位で確認する習慣をつける」「判断が迷ったらハローワークや社労士に確認する」という2点を守ることで、安心して育休期間を過ごすことができます。
制度の解釈や個別ケースの判断については、管轄のハローワーク(公共職業安定所)または社会保険労務士への相談をおすすめします。
本記事は2024年時点の法令・制度情報に基づいています。制度改正により内容が変更される場合があります。最新情報は厚生労働省・ハローワークの公式情報をご確認ください。


