育休給付金は、育児休業中の大切な収入源です。しかし、時短勤務を開始すると支給率が低下したり、場合によっては支給が打ち切られることがあります。「時短に入ったら手取りがどう変わるの?」「申請はどうすればいい?」という疑問を持つ方に向けて、計算式・金額シミュレーション・申請手続きをわかりやすく解説します。
本記事は、育児休業給付金制度に携わる社会保険労務士の監修のもと、2025年の最新制度改正に対応した内容でお届けします。
育休給付金の支給率とは?基本の仕組みを整理する
育休給付金(正式名称:育児休業給付金)は、雇用保険法第61条の4・第61条の5に基づく制度で、育児休業中の所得を補償するために支給されます。支給率の基本は以下の通りです。
| 期間 | 支給率 |
|---|---|
| 育休開始から通算180日(約6か月)以内 | 休業開始時賃金日額 × 67% |
| 通算181日以降 | 休業開始時賃金日額 × 50% |
支給額の上限・下限は年度ごとに改定されており、2025年度の上限額(180日以内)は約313,000円/月、180日以降は約233,000円/月が目安となっています(雇用保険料率の改定により変動あり)。
ここで重要なのは、「育休中に就業(時短勤務を含む)があると、この支給率に影響が出る」という点です。時短勤務が「就業あり」とみなされると、計算式が変わり、受け取れる金額が変わります。
育休開始から6か月以内・以降で支給率が変わる理由
育休給付金の支給率が180日を境に67%→50%へ下がる背景には、「育休取得初期はより手厚く保護する」という政策的意図があります。
この「180日カウント」は、同一の子に対する育休期間を通算して計算されます。たとえば、パパ・ママ育休プラス制度を使って交互に育休を取得する場合でも、それぞれ個別にカウントされます。
時短勤務との関係でいうと、育休中に時短で働いた日(就業日)も「180日カウント」に含まれます。ただし、後述する「就業あり」の日数・時間の要件を満たした範囲での就業であれば、育休期間自体は継続しているとみなされます。
「就業あり」とみなされる日数・時間の判定基準
育休中の時短勤務が「就業あり」として扱われる場合、以下の基準が適用されます。
就業可能な上限(育休給付金を受け続けられる範囲)
| 判定基準 | 上限 |
|---|---|
| 就業日数(月単位) | 月10日以下 |
| 就業時間(月単位)※就業日数が10日を超える場合 | 月80時間以下 |
この上限を超えた月は、原則として育休給付金の支給対象外となります。たとえば、月11日以上かつ80時間超で時短勤務した場合は、その月の給付金はゼロになります。
また、育休中に時短勤務で賃金が発生している場合、賃金と給付金を合算した金額が「休業開始時賃金月額の80%」を超えると、超えた分だけ給付金が減額・または不支給になる仕組みもあります。
時短勤務を開始すると支給率はどう変わるのか
育休中に時短勤務を開始した場合、支給率そのものが67%→50%のように変わるわけではありません。正確には、就業による賃金が発生したことで「調整計算」が入り、実質的な受取額が減るという仕組みです。
法的根拠は雇用保険法第61条の5で、「育児休業給付金の支給額は、賃金が支払われた場合に減額調整する」旨が規定されています。
支給率が低下する3つのケース
時短勤務によって育休給付金が実質的に減額・停止されるパターンは、大きく3つあります。
ケース① 就業日数・時間が基準を超えた場合
月の就業日数が10日を超え、かつ就業時間が80時間を超えた月は、その月の育休給付金は全額不支給になります。「少しだけ働いたつもりが、気づいたら給付が止まっていた」という事例が多いため、日数・時間の管理は非常に重要です。
ケース② 復帰後の賃金と給付金の合計が休業前の80%を超えた場合
就業日数・時間が基準内であっても、時短勤務で支払われた賃金と給付金の合計額が「休業開始時賃金月額の80%」を超えると、超過分だけ給付金が減額されます。
具体的な計算式は次のセクションで詳しく説明します。
ケース③ 育休給付金の支給可能期間を満了した場合
育休給付金の支給期間は、原則として子が1歳になるまで(保育所未入園等の要件を満たせば最長2歳まで延長可)です。この期間を満了した後に時短勤務を継続しても、育休給付金は支給されません。この場合は後述の「育児時短就業給付金」への移行を検討します。
支給が継続される条件と打ち切られる条件の違い
時短勤務をしながら育休給付金を受け続けられるかどうかの判断基準を、対比表でまとめます。
| 条件 | 支給継続 | 支給停止・打ち切り |
|---|---|---|
| 月の就業日数 | 10日以下 | 10日超(かつ80時間超) |
| 賃金+給付金の合計 | 休業前月額の80%未満 | 80%以上(超過分は調整減額) |
| 育休の法的継続 | 育休届が有効 | 育休を終了・復職手続き済み |
| 支給可能期間 | 子が2歳未満(延長条件あり) | 期間満了後 |
⚠️ 注意点: 時短勤務に入ったからといって自動的に給付が止まるわけではありません。就業日数・賃金額を管理しながら申請を続けることが重要です。
育休給付金の減額計算式と具体的な金額シミュレーション
このセクションが、この記事の核心です。実際にいくら受け取れるのかを、計算式と数値例で丁寧に解説します。
減額計算の基本公式(休業開始時賃金日額の算出から)
まず、計算の出発点となる「休業開始時賃金日額」を求めます。
STEP1:休業開始時賃金月額を計算する
休業開始時賃金月額 = 育休開始前6か月の賃金合計 ÷ 180
育休開始前6か月の賃金合計(交通費・残業代・ボーナスを除く基本給ベース)を180で割った数値が「賃金日額」になります。
STEP2:支給単位期間の給付基礎額を計算する
給付基礎額 = 賃金日額 × 支給率(67%または50%) × 支給日数(通常30日)
STEP3:時短勤務賃金による調整計算
就業(時短勤務)による賃金が発生した場合は、以下の調整が入ります。
① 賃金日額 × 80% × 支給日数(=「80%ライン」)
② 80%ライン ー 時短勤務で受け取った賃金 = 調整後の支給可能額
③ 調整後支給可能額 < 給付基礎額 の場合 → 調整後支給可能額が実際の給付金
調整後支給可能額 ≧ 給付基礎額 の場合 → 給付基礎額がそのまま支給
調整後支給可能額 ≦ 0 の場合 → 支給なし(不支給)
時短勤務あり・なしの金額比較シミュレーション
具体的な数値で確認してみましょう。
【前提条件】
– 育休前6か月の賃金合計:180万円(月30万円×6か月)
– 賃金日額:180万円 ÷ 180 = 10,000円/日
– 育休開始から180日以内(支給率67%)
– 支給日数:30日
パターンA:育休中に就業なし(時短なし)の場合
給付金 = 10,000円 × 67% × 30日 = 201,000円
→ 月額201,000円を受給
パターンB:時短勤務あり・月8日・時短賃金50,000円の場合(就業日数が基準内)
①80%ライン = 10,000円 × 80% × 30日 = 240,000円
②調整後支給可能額 = 240,000円 ー 50,000円 = 190,000円
③給付基礎額(201,000円) > 調整後支給可能額(190,000円)
→ 実際の給付金 = 190,000円
→ 月額190,000円を受給(時短賃金50,000円との合計:240,000円)
パターンC:時短勤務あり・月8日・時短賃金80,000円の場合
①80%ライン = 240,000円
②調整後支給可能額 = 240,000円 ー 80,000円 = 160,000円
③給付基礎額(201,000円) > 調整後支給可能額(160,000円)
→ 実際の給付金 = 160,000円
→ 月額160,000円を受給(時短賃金80,000円との合計:240,000円)
パターンD:時短勤務あり・月8日・時短賃金200,000円の場合
①80%ライン = 240,000円
②調整後支給可能額 = 240,000円 ー 200,000円 = 40,000円
③給付基礎額(201,000円) > 調整後支給可能額(40,000円)
→ 実際の給付金 = 40,000円
→ 月額40,000円を受給(時短賃金200,000円との合計:240,000円)
パターンE:時短賃金が80%ラインを超えた場合(時短賃金260,000円)
①80%ライン = 240,000円
②調整後支給可能額 = 240,000円 ー 260,000円 = ー20,000円(マイナス)
→ 支給なし(不支給)
→ 給付金は0円(時短賃金260,000円のみ)
📌 ポイントまとめ: 時短賃金が増えるほど給付金は減りますが、賃金+給付金の合計額は「80%ライン(賃金日額×80%×30日)」の水準で頭打ちになります。80%ラインを超えて時短賃金が発生している場合は、その分だけ手取りが増えていることになります。
育児時短就業給付金との違いと2025年の制度変更
2025年(令和7年)4月から、新たに「育児時短就業給付金」が本格導入されました。これは、育休を終了して職場に復帰し、時短勤務をしながら育児をする労働者を対象とした新しい給付金です。育休給付金との違いを理解しておくことが重要です。
育休給付金と育児時短就業給付金の違い
| 項目 | 育休給付金(育児休業給付金) | 育児時短就業給付金 |
|---|---|---|
| 対象状況 | 育休中(休業している) | 育休終了後(復帰して時短勤務中) |
| 支給率 | 賃金日額の67%または50% | 時短勤務中の賃金の10% |
| 支給期間 | 子が最長2歳になるまで | 子が2歳になるまで |
| 社会保険料 | 育休中は免除あり | 免除なし(通常の賃金として扱う) |
| 申請主体 | 事業主がハローワークに申請 | 事業主がハローワークに申請 |
育児時短就業給付金の計算例
育休を終えて復帰し、時短勤務で月20万円の賃金を受け取っている場合:
育児時短就業給付金 = 200,000円 × 10% = 20,000円
月額20,000円が別途支給されます。
育休給付金(最大67%)と比べると支給率は大きく下がりますが、通常の賃金に上乗せして受け取れる点が異なります。育休の延長か、時短復帰かを検討する際の重要な判断材料となります。
2025年の主な制度変更ポイント
2025年の育児・介護休業法改正および雇用保険法改正に伴い、以下の点が変わっています。
- 育児時短就業給付金の正式スタート(2025年4月): 時短勤務で復帰した労働者が新たな給付金を受給できるようになりました
- 育休給付金の支給率引き上げ検討(経過措置あり): 一部のケースで給付率の見直しが進んでいます
- パパ・ママ育休プラスの手続き簡略化: 両親がそれぞれ育休を取得しやすくなる手続き改善が行われています
⚠️ 制度の詳細は改正のタイミングにより変わることがあります。最新情報は必ずハローワークや厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
時短勤務開始時の申請手続きと必要書類
申請の全体的な流れ
時短勤務を開始する際は、事業主を通じてハローワークへの手続きが必要です。以下のフローで進めます。
【育休中】
① 育児休業給付金の定期申請(2か月ごと)
↓
【時短勤務開始が決まったら】
② 事業主・人事担当者に時短勤務開始の申出
↓
【時短勤務開始月】
③ 事業主がハローワークへ就業状況を報告
↓
【以後、月1回程度】
④ 就業日数・賃金額をもとに給付金額が調整・支給
↓
【育休終了・職場完全復帰】
⑤ 育児時短就業給付金の申請(該当する場合)
必要書類一覧
時短勤務開始に伴い、ハローワークに提出が必要な主な書類は以下の通りです。
事業主が準備・提出する書類
| 書類名 | 様式番号 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | 様式第12号 | 毎回の申請時に使用 |
| 育児休業給付受給資格確認票 | 様式第12-2号 | 初回申請時のみ |
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | 様式第10号の3 | 育休開始時に提出済みが多い |
| 就業状況報告(賃金支払い証明) | ハローワーク指定様式 | 時短賃金の実績を記載 |
| 給与明細書(写し) | ー | 時短勤務期間のもの |
| 雇用契約書または就業規則(時短制度部分) | ー | 時短勤務の根拠確認用 |
労働者本人が準備する書類(事業主経由での提出)
- 母子健康手帳(写し):子の生年月日確認用
- 本人の通帳(写し):振込先確認用(初回のみ)
- 保育所不承諾通知書(育休延長申請の場合)
申請時の注意点
申請期限について
育休給付金の申請は、支給単位期間(2か月)の末日翌日から起算して4か月以内に行う必要があります。時短勤務に入っても、この申請期限は変わりません。申請が遅れると受け取れなくなる可能性があるため、事業主と密にコミュニケーションを取ることが重要です。
就業日数の記録管理
月10日(または80時間)という上限は、カレンダー上の就業した日数・時間数で計算されます。「少しだけ出社した」「テレワークで数時間働いた」という場合でも就業日数にカウントされます。出勤簿やタイムカードの記録を正確につけておきましょう。
ハローワークへの事前相談
時短勤務の勤務形態(日数・時間)が複雑な場合は、申請前にハローワークへ相談することを強くお勧めします。管轄のハローワーク窓口では、個別のケースに応じた計算方法を教えてもらえます。
社会保険料免除と手取りへの影響
育休給付金の計算に加えて、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の免除制度も手取りに大きく影響します。
育休中の社会保険料免除
育休中(法律上の育児休業期間中)は、本人分・会社負担分ともに社会保険料が免除されます。これは育休給付金の支給とは別の制度で、「育休中に時短で就業していても、育休期間が法的に継続している限り免除が適用される」のが原則です。
免除の対象期間(2022年10月改正以降)
| 区分 | 免除の条件 |
|---|---|
| 月単位の免除 | 月末時点で育休取得中であること |
| 賞与の免除 | 1か月超の育休を取得した場合 |
⚠️ 注意: 育休を短期間で分割取得する場合(連続5日程度など)は、賞与への社会保険料免除が適用されないケースがあります。
手取り額の総合シミュレーション
前述の「パターンB(時短賃金50,000円・給付金190,000円)」のケースで、手取りを概算してみます。
【収入合計】
時短勤務賃金:50,000円
育休給付金:190,000円
合計収入:240,000円
【社会保険料・税金】
育休中は社会保険料免除 → 0円(健康保険・厚生年金)
住民税:前年所得に基づき通常徴収(仮に約15,000円)
所得税:育休給付金は非課税、時短賃金から少額源泉徴収(仮に約1,000円)
【概算手取り】
240,000円 ー 16,000円 = 約224,000円
※社会保険料の免除が適用されるため、育休前の手取りに近い水準を維持しやすくなっています。
よくある疑問とトラブルシューティング
育休給付金と時短勤務に関して、特によく寄せられる疑問にお答えします。
Q1. 時短勤務に入ったら自動的に給付金が減額されますか?
自動的には減額されません。事業主がハローワークへ就業状況(就業日数・支払賃金)を正確に申告することで、ハローワーク側が計算し、支給額が決定されます。申告内容が不正確だと後で返還を求められるケースもあるため、正確な報告が必要です。
Q2. 月10日の就業日数の「日」はどう数えますか?
実際に出勤・テレワークで業務を行った日数を1日単位でカウントします。半日勤務(午前のみなど)でも「1日」とカウントされる場合があります。ハローワークの判断基準に従い、出勤簿の記録をもとに申告してください。
Q3. 育休給付金をもらいながら育児時短就業給付金ももらえますか?
原則としてできません。育休給付金は「育休中(休業中)」の給付、育児時短就業給付金は「育休終了後・復帰して時短勤務中」の給付です。どちらか一方しか受け取れないため、育休をいつ終了するかの判断が重要になります。
Q4. 夫婦でそれぞれ育休を取得している場合、時短勤務の計算はどうなりますか?
夫婦それぞれが個別に育休給付金を受給しているため、計算も別々に行われます。配偶者の育休・時短状況が自分の給付金計算に影響することはありません。
Q5. 時短勤務中に残業をした場合、就業日数の計算はどうなりますか?
就業日数のカウントに残業の有無は関係ありません。「その日に就業したかどうか」で判定されます。ただし、就業時間の合計が月80時間を超えた場合は、10日の就業日数上限と合わせて要件判定されるため、残業によって時間数が増えることには注意が必要です。
Q6. 育休給付金の計算ミスに気づいたらどうすればいいですか?
まず事業主(人事担当者)に連絡し、申請内容を確認してもらいます。誤った金額が支給されていた場合、ハローワークへの修正申請が必要です。過払いがあった場合は返還を求められることがあります。早めに対応することが大切です。
まとめ:時短勤務と育休給付金の賢い活用ポイント
育休給付金と時短勤務の関係を整理すると、以下のポイントが重要です。
✅ 確認すべき3つのポイント
- 就業日数・時間の管理: 月10日・80時間以内に収めることで育休給付金の受給を継続できます
- 賃金と給付金の合計上限: 「休業前賃金の80%」を超えると調整減額が入ります。超えること自体は問題ありませんが、計算上の給付金が減ります
- 育休終了後は育児時短就業給付金へ: 完全復帰後も時短勤務をする場合は、2025年4月開始の新制度を活用しましょう
育休給付金の計算は複雑に見えますが、「賃金+給付金=最大で育休前の80%」という基本原則を押さえておけば、状況に応じた判断がしやすくなります。
申請手続きは事業主経由で行われますが、自分自身でも計算の仕組みを理解しておくことが、受け取り損ねを防ぐうえでとても重要です。不明点がある場合は、管轄のハローワーク窓口または社会保険労務士への相談を積極的に活用してください。
📋 参考法令・公式情報源
– 雇用保険法 第61条の4・第61条の5
– 育児・介護休業法 第23条
– 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
– ハローワークインターネットサービス(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/)※本記事の内容は2025年4月時点の制度・法令に基づいています。制度改正により内容が変わる場合があります。最新情報は必ず公式機関でご確認ください。

