妊娠中から育休給付金の手続きを進められることをご存じでしょうか。「仮申請制度」を活用すると、出産前に申請を済ませておくことで、出産後の手続きを大幅に簡素化できます。本記事では、制度の概要から申請手順・必要書類・給付金額の計算方法まで、2025年最新情報をもとに徹底解説します。
育休給付金の「仮申請制度」とは?出産前に申請できる理由を解説
育児休業給付金の仮申請制度とは、妊娠中(出産前)に育休給付金の申請を事前に済ませておき、出産後に確定申請を行うことで迅速な給付を受けられる制度です。
従来の育休給付金は、育児休業が実際に開始された後でなければ申請できませんでした。しかし、出産直後はただでさえ体力的・精神的な負担が大きい時期です。そうした時期に複雑な書類手続きを行うのは、当事者にとって大きなストレスとなっていました。
この課題を解消するために、令和4年(2022年)4月1日より仮申請制度が正式に運用開始されました。さらに令和5年(2023年)4月1日の改正では手続きがさらに簡素化され、企業側の事務負担も軽減されています。
「出産前なのになぜ申請できるのか」と疑問に思う方も多いでしょう。これは、出産予定日と育休開始予定日が事前に確定していれば、給付の支給可能性を一定程度見込めるため、仮の支給決定を先行して行う仕組みが認められているからです。出産後に実態が確定した時点で確定申請を行い、差額がある場合は調整(追加支給または返納)が行われます。
従来の申請との違い(仮申請 vs 出産後通常申請)
仮申請制度を活用するかどうかで、手続きの流れや給付開始までの時間は大きく変わります。以下の比較表をご確認ください。
| 比較項目 | 仮申請制度 | 出産後通常申請 |
|---|---|---|
| 申請タイミング | 出産前(妊娠中) | 育休開始後 |
| 初回給付の目安 | 確定申請から約2週間 | 申請から1〜2か月後 |
| 出産後の手続き | 確定申請のみ(書類追加) | 申請手続き全て |
| 書類準備の余裕 | 妊娠中に余裕をもって準備可能 | 産後の体調不良時に準備が必要 |
| 給付遅延リスク | 低い | 書類不備があると遅延しやすい |
| メリット | 給付開始が早い・手続きが分散できる | 特になし(仮申請のほうが有利) |
仮申請制度は特別な要件を満たさないと使えないわけではなく、対象者の条件を満たすほとんどの方が活用できます。後述する対象者要件を確認した上で、積極的に利用することをおすすめします。
法的根拠(雇用保険法・育児介護休業法)
仮申請制度の法的根拠を整理しておきましょう。制度の信頼性を確認するうえでも重要な情報です。
| 根拠法令 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 雇用保険法 | 第61条の4 | 育児休業給付金の支給要件・算定基準 |
| 雇用保険法施行規則 | 第103条の5 | 仮給付金の支給要件・申請手続き |
| 雇用保険法施行規則 | 第103条の6 | 確定申請の手続き・差額調整の方法 |
| 育児・介護休業法 | 第14条〜第16条 | 育児休業の請求・期間・取得要件 |
| 厚生労働省通達 | 令和4年4月版・令和5年4月版 | 仮申請制度の詳細な運用基準 |
令和5年の改正によって、事業主が行う申請代行の手続きがさらにシンプルになりました。申請書類の様式変更も行われているため、2023年以前の様式を使用している場合は最新版を必ず確認してください。
仮申請できる人・できない人|対象者の条件を完全チェック
仮申請制度を利用するには、複数の要件を全て満たす必要があります。一つひとつ確認していきましょう。
仮申請の対象となる条件(全て満たす必要があります)
① 雇用保険の被保険者であること
育休給付金はあくまでも雇用保険の給付です。雇用保険に加入していない方(自営業者・個人事業主・業務委託契約者など)は対象外です。会社員・パート・アルバイトであっても、週の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合は、原則として雇用保険に加入しています。
② 育休開始予定日において被保険者の資格を有していること
仮申請時点だけでなく、育休を開始する予定日においても雇用保険の被保険者であり続けることが必要です。
③ 雇用保険への加入期間が1年以上あること
育休開始日前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あることが要件です。育休開始日前2年間だけでなく、前職の雇用保険加入期間も通算できる場合があります。
④ 育児・介護休業法の対象者であること
同一の事業主に1年以上継続雇用されていること、または雇用契約に更新規定があり雇用継続が見込まれることが必要です。日雇い契約や明確な雇用終了日があり更新が見込まれない場合は対象外となります。
⑤ 出産予定日が確定していること
仮申請は出産予定日が確定していることを前提とした制度です。産科医などから交付された「出産予定日証明書」や母子健康手帳の記載をもとに申請します。
⑥ 育休開始予定日が明確であること
育休をいつから取得するかについて、事業主への申請(育児休業取得申出)が完了している必要があります。口頭ではなく、書面での申出が望ましいです。
仮申請できないケース
以下に該当する場合は、仮申請の対象外となります。
- 自営業者・個人事業主・業務委託契約者(雇用保険に加入していないため)
- 雇用保険の加入期間が1年未満の方
- 育児休業取得の見込みがない方(雇用契約終了が確定しているなど)
- 週所定労働時間が20時間未満のパート・アルバイト(雇用保険の被保険者資格がない場合)
- 国家公務員・地方公務員(別制度が適用されるため。ただし私立学校教職員は対象)
自分が対象かどうか不明な場合は、勤務先の人事担当者またはハローワークに直接確認しましょう。
申請手続きの流れ|妊娠中から出産後の確定申請まで完全解説
仮申請から確定申請までの全体の流れを、時系列に沿って解説します。
ステップ1:妊娠が確定したら速やかに勤務先へ報告・育休取得申出
まず勤務先の人事担当者に妊娠を報告し、育児休業の取得意思を伝えましょう。育児・介護休業法に基づき、事業主は育休取得を拒否できません。育休開始予定日・終了予定日を記載した「育児休業申出書」を提出します。
このタイミングでやること:
– 人事担当者に育休取得申出書を提出
– 育休開始・終了予定日を確定させる
– 産前産後休業(産休)の予定と育休の開始日の調整
ステップ2:仮申請書類を準備する(出産予定日の概ね2か月前を目安に)
仮申請は出産予定日の2か月程度前から準備を始めるとスムーズです。申請は原則として事業主(会社)がハローワークに対して行います。本人が直接申請することも可能ですが、給与台帳など事業主にしか取得できない書類が必要なため、会社側と連携して進める必要があります。
仮申請に必要な書類(主なもの):
| 書類名 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金仮申請書(雇用保険法施行規則第103条の5様式) | ハローワーク | 最新様式を使用すること |
| 出産予定日証明書 | 産科医・助産師 | 母子健康手帳の記載でも可 |
| 雇用保険被保険者証(写し) | 被保険者本人 | 会社が保管している場合は人事担当者から入手 |
| 賃金台帳(直近6か月分) | 事業主 | 給付金額の算定に使用 |
| 出勤簿・タイムカード(直近6か月分) | 事業主 | 賃金支払基礎日数の確認に使用 |
| 育児休業申出書(写し) | 事業主 | 育休取得申出の証明 |
| 通帳またはキャッシュカード(写し) | 被保険者本人 | 給付金の振込口座確認用 |
書類は漏れなく準備することが重要です。不備があると受理が遅れ、給付開始時期が後ろにずれ込む可能性があります。
ステップ3:ハローワークに仮申請書を提出する
書類が揃ったら、事業所の所在地を管轄するハローワークに書類を提出します。郵送での提出が可能なハローワークもありますが、事前に窓口へ確認することをおすすめします。
書類が受理されると、「仮給付受理票」が交付されます。これは確定申請時に必要となる重要書類ですので、大切に保管してください。
仮申請が受理されてから、仮給付金が指定口座へ振り込まれるまでの目安は約2〜4週間です。
ステップ4:出産後に確定申請書を提出する(出産後56日以内が目安)
出産後、以下の新たな書類を揃えて確定申請を行います。確定申請の期限は厳密には育休開始日から2か月経過した月の末日ですが、実務上は出産後56日以内(産後休業の終了日)を目安に速やかに提出することが推奨されます。
確定申請に必要な追加書類:
| 書類名 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金確定申請書 | ハローワーク | 仮給付受理票とセットで提出 |
| 出生証明書または出生届受理証明書 | 市区町村 | 子の出生事実の証明 |
| 母子健康手帳(出生の記録のページ写し) | 被保険者本人 | 出生日・氏名の確認 |
| 仮給付受理票 | ステップ3で交付 | 必ず持参・添付すること |
確定申請では、仮申請時に見込みで計算された給付金額と、実際の育休開始日・給与実績をもとに再計算した確定給付金額の差額調整が行われます。仮給付金が確定給付金を上回っていた場合は返納、下回っていた場合は追加支給となります。
育休給付金の計算方法|仮給付・確定給付の金額を正確に把握する
育休給付金の金額は、休業開始前の給与をもとに計算されます。以下の計算式を確認しましょう。
給付率と計算式
育児休業給付金の給付率は、育休開始から180日間(6か月)は67%、181日目以降は50%です。
育休給付金(月額)= 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 給付率
休業開始時賃金日額 = 育休開始前6か月間の賃金総額 ÷ 180
支給日数 = 育休取得期間(原則30日)
具体的な計算例
モデルケース:育休前の月収30万円(手取りではなく額面)の方の場合
休業開始時賃金日額 = 30万円 × 6か月 ÷ 180日 = 10,000円
育休開始から180日間の月額給付金:
10,000円 × 30日 × 67% = 201,000円
181日目以降の月額給付金:
10,000円 × 30日 × 50% = 150,000円
なお、育休給付金には上限額・下限額が設定されており、毎年8月1日に改定されます。2024年8月時点での目安は以下の通りです。
| 給付率 | 上限額(月額) | 下限額(月額) |
|---|---|---|
| 67%(育休開始〜180日) | 約310,143円 | 約51,765円 |
| 50%(181日目以降) | 約231,450円 | 約38,625円 |
※上限・下限額は賃金日額の上限・下限をもとに算出されます。最新の金額はハローワークまたは厚生労働省の公式サイトで確認してください。
仮給付金と確定給付金の差額が生じるケース
仮申請時の給付金額は「見込み」の給与実績をもとに計算されます。そのため、以下のような場合に仮給付金と確定給付金の間で差額が生じることがあります。
- 育休開始日が予定より前後した場合(出産日が予定日とずれた場合など)
- 産前産後休業と育休の境界が変更された場合
- 仮申請時の賃金台帳の記載が不完全だった場合
差額が生じた場合でも、ハローワークから通知が届きますので、焦る必要はありません。追加支給の場合は指定口座へ振り込まれ、返納の場合は所定の方法で対応します。
人事担当者向け|仮申請の事務手続きと注意点
育休給付金の仮申請は、原則として事業主(会社)がハローワークに対して申請する仕組みです。人事担当者として知っておくべき実務ポイントを解説します。
事業主が行う主な事務
- 育休取得予定者の確認:対象者の雇用保険加入状況・加入期間・所定労働時間を確認する
- 賃金台帳・出勤簿の準備:直近6か月分を正確に整備する
- 仮申請書の作成:最新様式(令和5年改正対応版)を使用すること
- ハローワークへの提出:管轄のハローワークへ提出(郵送可の場合あり)
- 仮給付受理票の保管・従業員への引き渡し:確定申請時に必要なため
- 確定申請書の準備と提出:出産後56日以内を目安に迅速に対応
令和5年改正による変更点
令和5年改正では、以下の点が変更・簡素化されました。
- 申請書類の様式変更(記載項目の整理・削減)
- 電子申請(e-Gov)への対応強化
- 事業主が代理申請する際の委任状要件の緩和
電子申請(e-Gov)の活用を検討している事業主の方は、ハローワークが提供する申請支援システムも活用できます。紙での申請に比べて処理が早まる場合があります。
よくある事務ミスと防止策
| ミスの内容 | 防止策 |
|---|---|
| 旧様式の申請書を使用してしまった | ハローワークの公式サイトで最新様式を確認する |
| 賃金台帳の期間が不足していた | 直近6か月分を必ず揃える |
| 育休取得申出書を添付し忘れた | チェックリストを作成して確認する |
| 確定申請が遅れた | 出産予定日の1か月前から確定申請スケジュールを設定する |
| 仮給付受理票を紛失した | 受理票は人事担当者がコピーを保管し、従業員にも渡す |
申請しないとどうなる?仮申請を使わない場合のデメリット
仮申請は義務ではありません。従来通り出産後に通常申請を行うことも可能です。ただし、仮申請を活用しない場合には以下のデメリットがあります。
① 給付開始が遅くなる
出産後に全ての書類を一から揃えて申請するため、育休給付金が振り込まれるまでに最大で2か月程度かかることがあります。産後の生活費が不足するリスクがあります。
② 産後の体調不良時に複雑な手続きが重なる
出産直後は体力的・精神的に余裕のない時期です。書類の準備や会社との調整が産後に集中すると、大きな負担になります。
③ 書類不備による申請遅延リスクが高まる
余裕のある妊娠中と異なり、産後は確認作業が疎かになりがちです。書類不備で差し戻しになると、さらに給付が遅れます。
④ 確定申請期限を忘れてしまうリスク
仮申請を行っていないと確定申請の期限管理も出産後に一括で行う必要があり、混乱しやすくなります。申請期限を過ぎると給付金が受け取れなくなる場合もあります。
仮申請制度は活用しない理由がほとんどない制度です。対象者の条件を満たしている場合は、積極的に利用することを強くおすすめします。
パパ育休(産後パパ育休)と仮申請制度の関係
令和4年10月1日から施行された「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度との関係についても整理しておきましょう。
産後パパ育休とは、子の出生後8週間以内に最大4週間取得できる男性向けの育休制度です。この制度では、育児休業給付金(出生時育児休業給付金)が支給されます。
産後パパ育休における仮申請の扱い:
産後パパ育休の給付金については、出生前に仮申請を行うことが可能です。妻の出産予定日をもとに、夫も事前に仮申請を行っておくことで、出生後の手続きを大幅に簡略化できます。
ただし、産後パパ育休は通常の育児休業とは異なる制度のため、申請様式や計算方法が一部異なります。詳細は勤務先の人事担当者またはハローワークに確認してください。
また、「パパ・ママ育休プラス」制度(夫婦両方が育休を取得する場合に育休期間を延長できる制度)を利用する場合も、育休給付金の受給期間に影響が出ますので、事前に確認しておくことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 仮申請はいつまでに行えばよいですか?
明確な締め切りはありませんが、出産予定日の約2か月前を目安に書類の準備を開始し、遅くとも出産予定日の1か月前には提出することをおすすめします。出産が予定より早まるケースもあるため、余裕をもったスケジュールで動くことが重要です。
Q2. 仮給付金が支給されるまでどれくらいかかりますか?
仮申請書が受理されてから、指定口座に仮給付金が振り込まれるまでの目安は2〜4週間程度です。書類に不備がある場合は追加の確認が必要となり、さらに時間がかかることがあります。
Q3. 確定申請の期限(56日以内)を過ぎた場合はどうなりますか?
確定申請の期限を過ぎた場合、給付金の受取りができなくなる可能性があります。ただし、疾病や負傷など「やむを得ない理由」がある場合は期限が延長される場合があります。期限を過ぎてしまった場合は、すぐにハローワークに相談してください。
Q4. 産前休業(産休)中に仮申請はできますか?
はい、できます。産前休業中でも雇用保険の被保険者資格は維持されています。産前休業に入った後、育休開始予定日が確定している状態であれば仮申請を行うことが可能です。
Q5. 仮申請後に育休を取得しないことになった場合はどうなりますか?
仮給付金を受け取った後に育休を取得しないことになった場合は、受け取った仮給付金を全額返納する必要があります。返納の手続きはハローワークから案内されます。取得取りやめが確定した時点で、速やかにハローワークに連絡しましょう。
Q6. 育休給付金は課税されますか?
育児休業給付金は非課税です。所得税の課税対象外となるため、確定申告の必要もありません。ただし、社会保険料(健康保険・厚生年金保険料)については、育休期間中は免除申請を行うことで免除されます(この申請は会社が年金事務所に対して行います)。
Q7. 双子(多胎児)の場合、仮申請の手続きは変わりますか?
双子・三つ子などの多胎児の場合でも、仮申請の基本的な手続きは変わりません。ただし、育休の取得期間に関して特別なルールが適用される場合があります。多胎妊娠の場合は早めにハローワークまたは人事担当者に相談することをおすすめします。
まとめ|妊娠中の仮申請で産後の手続きをスムーズに
育休給付金の仮申請制度は、令和4年に正式運用が開始され、令和5年改正でさらに使いやすくなった制度です。妊娠中に申請を済ませることで、産後の手続き負担を大幅に軽減できます。
仮申請制度のポイントまとめ:
- ✅ 雇用保険の被保険者であれば、多くの会社員・パート・アルバイトが対象
- ✅ 申請は出産予定日の2か月前を目安に準備開始
- ✅ 原則として事業主(会社)がハローワークへ申請
- ✅ 出産後56日以内に確定申請を行い、差額を調整
- ✅ 給付率は育休開始から180日間は67%、181日目以降は50%
- ✅ 令和5年改正で書類様式・手続きが簡素化
育休給付金は家族の生活を支える重要な収入源です。制度を正しく理解し、漏れなく申請することで、安心して育児に専念できる環境を整えてください。不明点があれば、早めにハローワークや勤務先の人事担当者に相談することをおすすめします。
免責事項: 本記事は2025年時点の情報をもとに作成しています。法令・制度の改正により内容が変わる場合があります。最新の情報については、厚生労働省またはハローワークの公式情報をご確認ください。具体的な手続きについては、必ずハローワークまたは社会保険労務士にご相談ください。


