育休中は給与が停止し、収入構造が大きく変わります。「この機会に親を扶養に入れられるのでは?」と気づく方は少なくありません。しかし、税務上の扶養控除と育休制度は直接リンクしていないため、要件や手続きを正確に理解しないと申請ミスや税務上のトラブルにつながります。
この記事では、2025年時点の税制に基づき、育休中に親を扶養に入れる条件・控除額・申請手続き・注意点を網羅的に解説します。年末調整や確定申告の前に、ぜひチェックしてみてください。
そもそも育休中に「親を扶養に入れる」とは何か
| 扶養の種類 | 所得要件 | 控除額(2025年) | 申請先 |
|---|---|---|---|
| 一般扶養親族 | 年間所得48万円以下 | 38万円 | 税務署(年末調整) |
| 老年扶養親族(70歳以上) | 年間所得48万円以下 | 48万円 | 税務署(年末調整) |
| 社会保険上の扶養 | 年間収入130万円未満(60歳以上は180万円) | 保険料負担なし | 勤務先の健保組合 |
| 育児休業給付金受給時の注意 | 給付金は所得に非該当(所得要件に含まない) | 影響なし | 該当なし |
育休中の収入はどう変わるか(給与・育児休業給付金の扱い)
育休取得中の収入は、通常の勤務時と大きく異なります。まずその変化を整理しましょう。
育休中の収入構造
| 収入の種類 | 育休前 | 育休中 | 課税・非課税 |
|---|---|---|---|
| 給与(月額) | 発生 | 原則停止 | 課税 |
| 育児休業給付金 | なし | 給与の67%(180日以内)または50%(181日目〜) | 非課税 |
| 賞与 | 発生 | 原則停止 | 課税 |
育児休業給付金は雇用保険法第61条に基づいて支給されますが、所得税・住民税の課税対象外です。つまり、育休期間中の課税所得は大幅に減少、場合によっては年間課税所得がゼロになるケースもあります。
具体例: 月給30万円の方が1月から12月まで育休を取得した場合
– 給与収入:0円(給与停止)
– 育児休業給付金:約181万円(非課税)
– 課税所得:0円
この所得の激減が、親の扶養控除を検討するきっかけとなります。ただし、重要なのは「育休を取った人の所得」ではなく、「扶養に入れる親の所得」と「扶養者側の課税所得」です。この点が混同されやすいので後述します。
「扶養に入れる」が持つ2つの意味(税務上・社会保険上)
「扶養に入れる」という言葉には、まったく異なる2つの制度が混在しています。混同すると手続き漏れや誤申告につながるため、最初に明確に区別しておきましょう。
| 区分 | 税務上の扶養(扶養控除) | 社会保険上の扶養(被扶養者) |
|—|—|—|—|
| 根拠法 | 所得税法第63条・第76条 | 健康保険法第3条 |
| 目的 | 扶養者の税負担を軽減 | 親の医療保険料を無料にする |
| 所得要件 | 年間所得48万円以下(給与のみなら年収103万円以下) | 年収130万円未満(60歳以上は180万円未満) |
| 申請先 | 勤務先(年末調整)または税務署(確定申告) | 扶養者の勤務先または健康保険組合 |
| 75歳以上の親 | 扶養控除48万円が適用可能 | 後期高齢者医療制度に移行するため対象外 |
⚠️ 重要:75歳以上の親は社会保険上の扶養に入れません。 後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合が運営)に自動的に加入するためです。一方、税務上の扶養控除は75歳以上でも適用可能です。この2つの制度の違いを必ず理解してください。
この記事では主に税務上の扶養控除(所得税・住民税)を対象として解説します。
親を税務上の扶養に入れる3つの要件
扶養控除を受けるためには、所得要件・親族関係・居住要件の3つをすべて満たす必要があります。所得税法第63条に定める扶養親族の定義を基に、順を追って確認しましょう。
所得要件|年収103万円・年間所得48万円の壁
親を扶養親族として認定してもらうために、親の収入が一定以下でなければなりません。
所得要件の判定基準(2025年適用)
親の収入の種類
├─ 給与収入のみの場合
│ └─ 年収103万円以下
│ (給与所得控除55万円+基礎控除48万円)
│
├─ 年金収入のみの場合(65歳以上)
│ └─ 年金収入158万円以下
│ (公的年金等控除110万円+基礎控除48万円)
│
└─ 給与・年金・その他の混合の場合
└─ 合計所得金額48万円以下
📌 2020年税制改正で変更点があります: 基礎控除が38万円から48万円に引き上げられたため、「年間所得38万円以下」という旧基準ではなく、現在は「合計所得48万円以下」が正確な要件です。ただし、給与収入のみの場合の「103万円以下」という基準は変わっていません。
年金受給中の親の扶養控除判定シミュレーション
| 親の年齢 | 年金収入 | 公的年金等控除 | 合計所得 | 扶養対象? |
|---|---|---|---|---|
| 65歳未満 | 100万円 | 60万円 | 40万円 | ✅ 対象 |
| 65歳以上 | 150万円 | 110万円 | 40万円 | ✅ 対象 |
| 65歳以上 | 200万円 | 110万円 | 90万円 | ❌ 非対象(48万円超) |
| 70歳以上 | 158万円 | 110万円 | 48万円 | ✅ 対象(ギリギリ) |
親族関係の要件|血族・姻族と生計一体の証明方法
対象となる親族の範囲(所得税法第2条)
- 六親等内の血族(父母・祖父母・兄弟姉妹など)
- 三親等内の姻族(配偶者の父母・配偶者の兄弟姉妹など)
「父母」「祖父母」「配偶者の父母」はすべて対象です。
「生計を一にする」とは何か
扶養控除の要件のなかでも特に誤解が多い「生計一体(生計を一にする)」の解釈を整理します(所得税基本通達2-43)。
| 居住状況 | 生計一体の認定 | 必要な証明資料 |
|---|---|---|
| 同居 | 原則として認定 | 住民票(続柄記載) |
| 別居(仕送りあり) | 認定可能 | 銀行振込記録・現金書留の控え |
| 別居(仕送りなし) | 原則として非認定 | 生活費の共同管理を証明する資料が必要 |
| 海外在住 | 認定可能(要件あり) | 国外居住親族に係る確認書類(親族関係書類・送金関係書類) |
💡 実務ポイント: 別居している親への仕送りは振込方式が推奨されます。現金手渡しは証明が困難なため、税務調査時に生計一体性を否認されるリスクがあります。月1回・定期的な送金記録が最も説得力を持ちます。
居住要件と年齢要件|老年扶養親族の特例
扶養控除には、親の年齢に応じた特例があります。これが控除額の違いに直結します。
年齢別扶養控除額一覧(2025年適用)
| 区分 | 年齢 | 控除額(所得税) | 控除額(住民税) |
|---|---|---|---|
| 一般の扶養親族 | 16歳以上70歳未満 | 38万円 | 33万円 |
| 老年扶養親族(別居) | 70歳以上 | 48万円 | 38万円 |
| 老年扶養親族(同居老親等) | 70歳以上・同居 | 58万円 | 45万円 |
📌 70歳以上の親を同居で扶養すると、所得税で最大58万円の控除が受けられます。税率20%の方であれば年間11.6万円の節税効果です。
育休中に親を扶養に入れるメリットと注意点
育休中の所得減少と扶養控除の節税効果
育休取得者が親を扶養に入れることで節税効果が得られるのは、育休取得年に給与収入がある場合に限られます。年間を通じて育休であっても、育休開始前の給与収入があれば課税所得が発生するため、扶養控除の効果があります。
節税シミュレーション(2025年税制)
前提:育休取得者(30代)の課税所得200万円
親(72歳・別居・年金収入150万円)を扶養に追加
扶養控除額:48万円(老年扶養親族・別居)
所得税の節税額:48万円 × 10%(税率)= 4.8万円
住民税の節税額:38万円 × 10%(税率)= 3.8万円
合計節税額:約8.6万円
一方で、育休中に給与収入がまったくなく、課税所得がゼロの場合は、扶養控除を申告しても節税効果は生まれません。なぜなら、非課税である育児休業給付金に対して控除は適用されないためです。
75歳以上の親を扶養に入れるときの注意点
検索ニーズが高い「75歳以上 親 扶養」について、メリット・デメリットを正確に整理します。
【税務上:メリットあり】
税務上は、75歳以上の親も70歳以上の老年扶養親族として48万円(同居なら58万円)の扶養控除を受けられます。税務上のデメリットはありません。
【社会保険上:重要な注意点】
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 健康保険の扶養 | 75歳以上は後期高齢者医療制度に強制加入のため、健康保険の被扶養者にはなれない |
| 医療費負担 | 後期高齢者医療制度の保険料は本人負担(所得に応じて月数千円〜数万円) |
| 介護保険 | 40歳以上は介護保険料を別途負担(後期高齢者医療制度から天引き) |
⚠️ よくある誤解: 「75歳以上の親を税務上の扶養に入れると、親の後期高齢者医療の保険料が上がる」という情報は誤りです。 税務上の扶養認定と後期高齢者医療制度の保険料は連動しません。ただし、後期高齢者医療の保険料は親自身の所得に基づいて算定されるため、親の所得が扶養控除の要件(合計所得48万円以下)を満たしていれば保険料は低水準に抑えられています。
申請手続きの完全ガイド
年末調整での申請方法(会社員・育休中の方)
育休中でも雇用関係は継続しているため、勤務先での年末調整で扶養控除を申請できます。
必要書類チェックリスト
- [ ] 扶養控除等申告書(勤務先から配布)
- [ ] 続柄を証明する書類(戸籍謄本・住民票など)
- [ ] 親の所得証明書類(源泉徴収票・年金振込通知書・確定申告書の写しなど)
- [ ] 生計一体の証明(別居の場合:銀行振込記録のコピー)
- [ ] 国外居住親族に係る確認書類(海外在住の場合)
申請のタイムライン
10月下旬〜11月
└─ 勤務先から「扶養控除等申告書」が配布される
11月中旬〜12月初旬
├─ 申告書に親の情報を記入
├─ 必要書類を準備・添付
└─ 勤務先の締切日までに提出
12月
└─ 年末調整が完了(源泉徴収票に反映)
確定申告での申請方法(年末調整が間に合わなかった場合)
年末調整で申告し忘れた場合、または育休中に退職した場合は確定申告で扶養控除を申請できます。
申告期間: 翌年2月16日〜3月15日
確定申告書への記載箇所
- 確定申告書(第一表)の「扶養控除」欄に控除額を記入
- 確定申告書(第二表)の「扶養親族に関する事項」欄に親の氏名・続柄・生年月日・控除額を記入
- 必要書類を添付または提示
💡 e-Taxを活用すれば添付書類の一部省略が可能です。マイナンバーカードを持っている方は、スマートフォンからも申告できます。
住民税への反映
所得税の確定申告または年末調整で扶養控除を申告すると、自動的に住民税にも反映されます。住民税の税務署への別途申告は不要です。
住民税への反映タイミングは翌年6月の住民税決定通知書から確認できます。
配偶者控除・配偶者特別控除との関係も整理する
親の扶養控除と混同しやすい配偶者控除・配偶者特別控除についても整理しておきます。
育休中の配偶者控除の適用要件
配偶者控除は、「あなた自身の配偶者」の所得が一定以下の場合に受けられる控除です。
| 区分 | 要件 | 控除額(所得税) |
|---|---|---|
| 配偶者控除 | 配偶者の合計所得48万円以下 | 38万円(申告者の所得900万円以下の場合) |
| 配偶者特別控除 | 配偶者の合計所得48万円超〜133万円以下 | 1万円〜38万円(段階的に減少) |
育休中に配偶者が育児休業給付金のみを受け取っている場合、育児休業給付金は非課税のため、配偶者の合計所得は0円と計算されます。つまり、配偶者控除の要件を満たす可能性があります。
⚠️ 注意: 配偶者控除を申告するのは「所得のある側(会社員など)」です。育休中の配偶者が配偶者控除を申告するのではなく、育休を取っていない側の配偶者が申告します。
親の扶養控除と配偶者控除は併用可能か
結論:原則として同一年に両方申告することは可能です。 ただし、同一の人物を「親の扶養控除の扶養親族」と「配偶者控除の配偶者」として同時に申告することはできません。
典型的な育休世帯の節税組み合わせ例
【育休中の妻(課税所得200万円)が申告するケース】
├─ 妻の父(72歳・別居・年金収入150万円)→ 老年扶養親族控除48万円
└─ 合計控除額:48万円
【育休中の妻の夫(課税所得400万円)が申告するケース】
├─ 妻(育休中・課税所得0円)→ 配偶者控除38万円
├─ 夫の父(70歳以上・同居)→ 同居老親等控除58万円
└─ 合計控除額:96万円
よくある疑問とトラブルシューティング
Q. 育休中は年末調整の対象になりますか?
A. なります。 育休中でも雇用関係は継続しているため、勤務先での年末調整の対象です。育休前の給与収入がある場合は必ず年末調整を行い、扶養控除等申告書を提出してください。
Q. 親が年金とパートを掛け持ちしている場合の所得計算は?
A. 給与所得と年金所得を合算します。 65歳以上の親が年金150万円とパート収入50万円を得ている場合の計算例:
年金所得:150万円 - 公的年金等控除110万円 = 40万円
給与所得:50万円 - 給与所得控除55万円 = 0円(マイナスは切捨て)
合計所得:40万円 → 扶養控除の要件(48万円以下)を満たす
Q. 育休から途中復帰した場合、扶養認定はどうなりますか?
A. 年間の合計所得で判定します。 扶養親族の判定は1月1日〜12月31日の年間合計所得で行われます(所得税基本通達2-43)。途中復帰により育休前後で所得が変動しても、年間の合計所得で判定されるため、年末に再確認してください。
Q. 親が介護施設に入居している場合も扶養控除を受けられますか?
A. 要件を満たせば可能です。 介護施設への入居中でも、生活費や入居費用の大部分を子が負担している実態があれば「生計を一にする」と認められる場合があります。施設への送金記録を保管しておくことをお勧めします。
Q. 扶養控除の申告を忘れた場合、過去にさかのぼって申請できますか?
A. 5年間さかのぼって申請できます。 更正の請求(所得税法第23条)により、申告期限から5年以内であれば過去の確定申告を修正して還付を受けることができます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 親の収入が年の途中で変わった場合、扶養認定の判定はいつ行いますか?
A. 判定はその年の1月1日から12月31日までの年間合計所得で行います(所得税基本通達2-43)。年途中の収入変動は問いません。
Q2. 配偶者の親(義父・義母)も扶養控除の対象になりますか?
A. はい。三親等内の姻族として対象になります。義父・義母への仕送り等の生計一体性が認められれば、扶養控除を受けることができます。
Q3. 育休中に親を扶養に入れると、親の医療費負担は変わりますか?
A. 税務上の扶養認定は、親の医療保険の保険料には直接影響しません。 70歳未満の親が会社員の健康保険の被扶養者になる場合(社会保険上の扶養)は保険料が無料になりますが、75歳以上は後期高齢者医療制度の保険料が別途発生します。
Q4. 育休中に自分自身が親の扶養に入ることはできますか?
A. 可能です。育休中の方の合計所得が48万円以下(育児休業給付金は非課税のため含まない)であれば、その方の親が「扶養控除を申告する扶養者」になれます。ただし、配偶者がいる場合は配偶者控除との関係も確認が必要です。
Q5. 扶養控除申告書はいつまでに提出すれば良いですか?
A. 勤務先の年末調整の締切(通常11月末〜12月初旬)に合わせて提出します。期限を過ぎた場合は翌年2月16日〜3月15日の確定申告期間に申告できます。
まとめ:育休中に親の扶養控除を活用するためのポイント
育休中に親を税務上の扶養に入れるための重要ポイントを整理します。
✅ 3つの要件を必ず確認する
- 所得要件: 親の合計所得が48万円以下(給与収入のみなら103万円以下)
- 親族関係: 六親等内の血族または三親等内の姻族
- 生計一体: 同居、または仕送りの振込記録がある
✅ 年齢別の控除額を把握する
- 70歳未満の親:38万円(所得税)
- 70歳以上・別居の親:48万円(所得税)
- 70歳以上・同居の親:58万円(所得税)
✅ 手続きのタイミングを逃さない
- 第一選択:勤務先の年末調整(11〜12月)
- 代替手段:確定申告(翌年2月16日〜3月15日)
- 過去分の修正:更正の請求(5年以内)
育休中は収入の変化により税務上の扶養関係が見直せる絶好のタイミングです。この機会に親の収入・年齢・居住状況を整理し、適切な扶養控除の申告を行いましょう。不明点がある場合は、所轄の税務署または会社の担当部署に確認することをお勧めします。
参考法令
– 所得税法 第63条(扶養控除)・第76条(配偶者控除)・第81条の2(配偶者特別控除)
– 所得税基本通達 2-43(扶養親族の判定時期)
– 雇用保険法 第61条(育児休業給付金)
– 育児・介護休業法 第2条(育休制度の定義)
– 高齢者の医療の確保に関する法律 第50条(後期高齢者医療制度)

