育休中に突然「解雇する」と言われたら、あなたはどう対応しますか?結論から伝えると、育休中の解雇予告は法律で明確に禁止されており、違反した企業は刑事罰の対象となります。本記事では、育休中の従業員を守る法的根拠、解雇予告を受けたときの確認事項、そして5つの対抗手段を実践的に解説します。
育休中の解雇は違法—法的保護の仕組み
育児・介護休業法第10条の全条文と解釈
育休中の従業員を守る主要な法律は、育児・介護休業法第10条(解雇の制限)です。条文の内容は以下のとおりです。
育児・介護休業法 第10条
事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
この条文が保護する期間は、大きく分けて3つのフェーズに対応しています。
| 保護フェーズ | 内容 |
|---|---|
| ① 育休申出をしたこと | 申出をした時点から保護開始 |
| ② 育休中であること | 育休取得中は全期間対象 |
| ③ 育休終了後30日以内 | 復職後30日間も引き続き保護 |
さらに重要なのが罰則規定です。同法第65条により、違反した使用者には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。これは単なる行政指導にとどまらず、刑事罰として機能する強力な規定です。
産休と育休の解雇禁止期間の違い
産休と育休では、根拠法律と保護の範囲が異なります。混同しやすいポイントを整理します。
| 比較項目 | 産休(産前・産後休業) | 育休(育児休業) |
|---|---|---|
| 根拠法律 | 労働基準法第19条第1項 | 育児・介護休業法第10条 |
| 保護期間 | 産前6週間+産後8週間 | 育休申出時~育休終了後30日 |
| 例外(解雇可能) | 天災地変等やむを得ない事由のみ | 天災地変等やむを得ない事由のみ |
| 罰則 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
産休から育休に移行する場合、産後8週間は労働基準法、その後の育休期間は育児・介護休業法と、異なる法律が連続して適用されます。いずれの期間においても解雇は原則禁止であり、保護は途切れなく継続します。
強行法規—企業との契約で免除不可の理由
育児・介護休業法第10条は強行法規です。これは、企業と従業員が「育休中でも解雇できる」と書いた雇用契約を結んでいたとしても、その契約条項は無効になることを意味します。
たとえば、以下のような契約・通知は法的効力を持ちません。
- 「育休取得者は自動退職とする」という就業規則の規定
- 「育休中に業績悪化があれば解雇対象とする」という個別合意書
- 「試用期間中のため育休保護は適用されない」という会社側の主張
試用期間中の従業員も含め、正社員・契約社員・パート・派遣を問わず、育休を申し出た全ての労働者がこの保護の対象となります。
解雇予告を受けたら—まず確認すべき3つのポイント
ポイント①:解雇予告の日付と育休申出日を照合する
解雇の違法性を判断する最初のステップは、日付の確認です。以下のチェックリストを活用してください。
【緊急チェックリスト】
□ 解雇予告通知書に記載された解雇予定日の確認
□ 自分が育休を申し出た日付(書面・メール等)の確認
□ 育休開始日と終了予定日の確認
□ 育休終了後30日以内かどうかの確認
□ 解雇理由が書面で明示されているかの確認
□ 会社からの通知書類を全て保存済みかの確認
解雇予告通知書を口頭で告知された場合、その日のうちにメモを作成し日付・場所・発言者・発言内容を記録してください。後の証拠として重要な意味を持ちます。
ポイント②:「やむを得ない事由」の認定基準と事例
育休中でも解雇が例外的に認められるのは、天災地変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能になった場合に限られます。ただし、この例外は極めて狭く解釈されています。
| 認められる可能性がある事由 | 認められない事由 |
|---|---|
| 地震・洪水による工場の全壊滅 | 業績不振・赤字 |
| 感染症による事業所の強制閉鎖命令 | 組織再編・部署廃止 |
| 代替不可能な唯一の取引先の消滅 | 会社都合のリストラ |
さらに、やむを得ない事由による解雇であっても、労働基準監督署長の認定を受けなければ解雇することができません(労働基準法第19条第2項準用)。企業側がこの認定を取得せずに解雇した場合は、依然として違法となります。
ポイント③:有期雇用契約者と契約更新拒否の判別
有期雇用契約者(契約社員・パートなど)の場合、育休中の解雇と契約期間満了による雇い止めは別々に判断されます。
- 育休期間中の解雇:育児・介護休業法第10条により禁止(有期雇用者も同様)
- 契約期間満了による雇い止め:育休取得を理由とした更新拒否であれば、「不利益取扱い」として同法第10条違反になる可能性があります
特に、育休申出前に契約更新の期待があった場合や、同様の契約社員で育休未取得者は更新されている場合は、雇い止めが違法と認定されるケースが多数あります。
違法な解雇予告への5つの対抗手段
対抗手段①:内容証明郵便で異議申し立てをする
最初のアクションとして最も有効なのが、内容証明郵便による異議申立書の送付です。内容証明郵便は、「いつ・誰が・どのような内容の書面を送ったか」を郵便局が公的に証明するため、後の法的手続きで強力な証拠となります。
送付すべき内容の骨子:
【異議申立書 記載事項】
1. 受領した解雇予告通知の日付と内容の確認
2. 現在育児休業中(または育休終了後30日以内)である旨
3. 育児・介護休業法第10条により解雇は無効である旨
4. 解雇予告の撤回と雇用継続を求める旨
5. 回答期限(7~10日以内が目安)の設定
内容証明郵便の費用は1通あたり約1,000~1,500円程度(書留・配達証明含む)であり、弁護士に依頼しなくても郵便局の窓口から自分で送付できます。
対抗手段②:労働基準監督署への申告
解雇が撤回されない場合、次の手段は労働基準監督署(労基署)への申告です。
申告に必要な証拠品リスト:
| 証拠の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 書面証拠 | 解雇予告通知書、雇用契約書、育休申出書(写し) |
| 記録証拠 | 口頭による解雇告知のメモ(日時・場所・発言者) |
| 通信記録 | 解雇に関するメール・チャット・SMS |
| 給与証明 | 直近3ヶ月分の給与明細(損害額計算のため) |
申告の手順:
1. 最寄りの労働基準監督署に電話または直接訪問
2. 「申告したい」と伝え、担当監督官との面談を予約
3. 上記証拠品を持参して申告書を提出
4. 監督官が企業に対して是正勧告または司法警察権に基づく捜査を実施
労基署への申告は無料であり、申告者の氏名は原則として企業に開示されません(ただし匿名での申告は受理されないケースもあるため確認が必要です)。
対抗手段③:都道府県労働委員会のあっせん制度
あっせん制度は、労働委員会の調停委員(あっせん委員)が間に入り、労使間の話し合いによる解決を促す制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 費用 | 無料 |
| 期間 | 申請から解決まで約1~3ヶ月 |
| 強制力 | なし(合意があれば和解成立) |
| 利用条件 | 在職・元職員問わず申請可能 |
| メリット | 非公開・迅速・費用不要 |
あっせんは法的強制力を持たないため、会社側が応じない場合は次のステップに進む必要があります。ただし、早期解決・精神的負担の軽減という観点から、訴訟前の選択肢として有効です。
対抗手段④:労働審判—期間と実績
労働審判は、地方裁判所が関与する裁判外紛争解決手続きであり、原則3回以内の期日で解決を目指す制度です。
| 比較項目 | 労働審判 | 通常訴訟 |
|---|---|---|
| 申立先 | 地方裁判所 | 地方裁判所 |
| 解決期間 | 平均70~90日 | 平均1~2年 |
| 費用(申立手数料) | 1万円~数万円(請求額による) | 同左 |
| 弁護士費用 | 着手金15~30万円程度 | 着手金20~40万円程度 |
| 強制力 | あり(審判に強制執行力) | あり |
厚生労働省のデータによれば、労働審判の調停成立率は約70~80%と高く、解雇無効・地位確認・バックペイ(育休中の給与相当額の損害賠償)の請求に有効な手段です。
対抗手段⑤:民事訴訟による損害賠償請求
5番目の手段として、民事訴訟による解雇無効確認と損害賠償請求があります。
請求できる主な内容は以下のとおりです。
- 解雇無効確認:解雇を無効として雇用関係の継続を求める
- バックペイ:解雇されてから判決まで支払われなかった賃金の全額
- 慰謝料:精神的苦痛に対する損害賠償(ケースによって異なる)
- 弁護士費用の一部:認められるケースあり
訴訟の提起前に、法テラス(日本司法支援センター)への無料法律相談を活用することをお勧めします。収入要件を満たす場合は弁護士費用の立替制度も利用可能です。
給付金と経済的保護—育休中の収入確認
解雇予告を受けた際、育休給付金の受給状況も確認しておく必要があります。
| 給付金の種類 | 支給額 | 支給期間 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金(前半) | 休業前賃金の67% | 育休開始~180日目 |
| 育児休業給付金(後半) | 休業前賃金の50% | 181日目~育休終了 |
| 社会保険料免除 | 被保険者・事業主分ともに免除 | 育休期間中 |
※2025年4月時点の制度に基づく
違法解雇により育休が強制終了された場合、雇用保険の給付が中断される可能性があります。ハローワークへの届出と、同時に行う法的対抗措置の両方を並行して進めることが重要です。
相談窓口一覧
| 窓口 | 連絡先 | 費用 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 労働基準監督署 | 0120-753-747(労働条件相談ほっとライン) | 無料 | 法令違反の是正指導 |
| 都道府県労働局・雇用環境均等室 | 各都道府県の労働局 | 無料 | 育介法専門相談窓口 |
| 法テラス | 0570-078374 | 無料(要件あり) | 弁護士費用立替 |
| 都道府県労働委員会 | 各都道府県 | 無料 | あっせん申請 |
| 弁護士会 | 各地の弁護士会 | 初回無料~ | 法的手続き全般 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中にリストラ対象になったと口頭で言われました。これも違法ですか?
A. はい。育児・介護休業法第10条は「解雇その他不利益な取扱い」を禁止しており、口頭による解雇通告も対象となります。発言の日時・内容・場所をすぐにメモし、証拠として保存してください。
Q2. 育休中に会社が倒産した場合はどうなりますか?
A. 天災地変等のやむを得ない事由(倒産もこれに準じることがある)の場合は、解雇制限の例外が認められることがあります。ただし、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)の支払いは別途必要です。また、未払い賃金は未払賃金立替払制度を通じて国から一部補填を受けられる場合があります。
Q3. 育休終了後31日目に解雇予告をされました。これは合法ですか?
A. 育休終了後30日間の保護期間を過ぎた31日目以降の解雇予告は、育児・介護休業法第10条の保護対象外となります。ただし、育休取得が解雇の「実質的な理由」となっている場合は、不当解雇として別途争うことが可能です。
Q4. 解雇予告通知書を受け取ってしまったら、受領=同意になりますか?
A. なりません。受領は「通知を受け取った」という事実の確認に過ぎず、解雇への同意を意味するものではありません。受け取った上で「異議あり」と明記した書面(内容証明郵便)を送ることが最善の対応です。
Q5. 育休中に解雇された場合、失業給付は受け取れますか?
A. 違法解雇であれば、まず解雇無効を争う(雇用関係の継続を主張する)ことが優先されます。解雇を受け入れる場合はハローワークで失業給付の手続きが可能ですが、育休中の解雇は「会社都合退職(特定受給資格者)」に該当するため、給付制限なし・給付日数優遇の対象となります。
まとめ:育休中の解雇は法律で守られています
育休中の解雇予告は、育児・介護休業法第10条という強行法規によって明確に禁止されています。違反した企業には刑事罰も科せられる重大な法律違反です。
取るべき行動を優先順位順に整理します:
- 証拠を保存する(解雇通知書・メール・メモ)
- 内容証明郵便で異議を申し立てる
- 労働基準監督署・雇用環境均等室に相談する
- 弁護士・法テラスに法的手続きを依頼する
- 必要に応じて労働審判・訴訟に進む
育休は従業員の権利であり、取得したことで不利益を被ることがあってはなりません。一人で抱え込まず、公的機関や専門家を積極的に活用してください。あなたの権利を守るための手段は、法律によって確実に保障されています。
本記事は2025年4月時点の法令・制度に基づいて作成しています。法律は改正される場合があるため、具体的なご相談は最寄りの労働基準監督署または弁護士にお問い合わせください。
よくある質問(FAQ)
Q. 育休中に解雇予告を受けました。本当に違法ですか?
A. はい、違法です。育児・介護休業法第10条により育休中の解雇は禁止されており、違反した企業には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
Q. 試用期間中でも育休中の解雇は違法ですか?
A. はい、違法です。育児・介護休業法は強行法規で、雇用形態や試用期間中かどうかを問わず、全ての労働者が育休申出時から保護されます。
Q. 育休終了後に解雇されました。これも違法ですか?
A. 育休終了後30日以内であれば違法です。育児・介護休業法の保護は育休終了後30日間も継続するため、その期間の解雇は禁止されています。
Q. 業績悪化を理由に解雇予告されました。これは認められますか?
A. いいえ、認められません。育休中の解雇が例外的に認められるのは天災地変など事業継続不可能な場合に限定されており、業績不振は該当しません。
Q. 解雇予告を受けたら、まず何をすべきですか?
A. 解雇通知書の日付、育休申出日、育休期間を確認し、全ての書類を保存してください。口頭告知の場合はメモに日時と内容を記録し、労働基準監督署への相談をお勧めします。

