給与振込遅延は違法?育休中の給与支払い義務と企業の対応方法【2026年版】

給与振込遅延は違法?育休中の給与支払い義務と企業の対応方法【2026年版】 企業の育休対応

育休中に「今月の給与がまだ振り込まれていない」「金額がいつもと違う」といったトラブルを経験したことはありませんか?また、人事担当者として「育休中の給与処理をどう管理すればよいか」と頭を抱えている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、給与振込遅延が発生する原因・対処法・法的根拠・必要書類を、労働者・企業担当者の双方向けに完全解説します。育休中の給与支払いについて正確に理解し、トラブルを未然に防ぎましょう。


目次

  1. 育休中の給与振込は企業の法的義務である
  2. 育休中の給与支払い対象者を確認する
  3. 給与振込遅延が発生する主な原因と予防策
  4. 育休中の給与手続きに必要な書類と提出期限
  5. 育児休業給付金と給与の併給調整ルール
  6. 給与振込遅延が発生した場合の対応フローチャート
  7. よくある質問(FAQ)

育休中の給与振込は企業の法的義務である

「育休中は休んでいるのだから給与は出なくて当然」と思っている方もいるかもしれません。しかし、これは大きな誤解です。育休中の給与支払いの有無と、企業の義務の範囲を正確に理解しておきましょう。

労働基準法における給与支払い義務の根拠

労働基準法第89条は、企業に対して就業規則に賃金の決定・計算・支払いの方法を明記する義務を課しています。また、同法第24条では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めており、支払いのルールそのものを法定しています。

重要なのは、育休中に給与を支払うかどうかは、原則として企業と従業員の間の「労働契約・就業規則の定め」によって決まるという点です。法律上、育休中の給与支払いは必ずしも義務づけられているわけではありませんが、就業規則や労働協約に支払い規定がある場合、それを守らないことは労働基準法違反となります。

ポイント: 就業規則に「育休中は無給」と明記されていない限り、従来の給与支払い義務は継続します。

育児・介護休業法では「無給休暇」を認めているのか

育児・介護休業法(第8条・第12条)は、労働者が育休を取得する権利を保障していますが、休業中の賃金支払いについては規定を設けていません。つまり、同法上は育休を「無給」とすることも「有給」とすることも、企業の就業規則に委ねられています。

ただし、大多数の企業では育休中は「無給または減給」としており、その代わりに雇用保険から育児休業給付金が支給される仕組みが整備されています。

根拠法令 給与支払いへの影響
労働基準法第24条 賃金全額払いの原則(就業規則どおりに支払う義務)
労働基準法第89条 就業規則への賃金規定の明記義務
育児・介護休業法第8条 育休取得権の保障(賃金規定は就業規則に委任)
労働基準法第115条 賃金請求権の消滅時効は3年

給与未払い時の企業側の法的責任と罰則

就業規則に給与支払い規定がある場合、育休中に給与を支払わなかった企業には以下の法的リスクが生じます。

  • 労働基準法第120条違反:就業規則違反により30万円以下の罰金
  • 延滞利息の発生:未払い賃金には年6%の遅延損害金(賃金の支払の確保等に関する法律第6条)が加算される可能性
  • 労働基準監督署への申告:従業員から申告を受けた場合、是正勧告・立入調査の対象となる
  • 民事訴訟リスク:未払い賃金の請求訴訟(時効は3年)

育休中の給与支払い対象者を確認する

給与振込トラブルを防ぐためには、まず誰が給与支払いの対象なのかを正確に把握しておく必要があります。

正社員・契約社員の給与支払い対象要件

以下の条件を満たす労働者は、育休中の給与支払い(または給付金受給)の対象となります。

要件 内容
雇用形態 正社員・有期契約社員(継続雇用が見込まれる者)
勤続年数 原則として同一事業主のもとで1年以上
労働時間 週20時間以上(雇用保険加入要件)
育休取得期間 子が1歳(最長2歳)に達するまで
雇用保険加入 加入していること(給付金受給の前提)

有期契約社員やパートの場合はどうなるのか

2022年の育児・介護休業法改正により、有期契約社員やパートタイム労働者への育休適用要件が大幅に緩和されました。

改正前(〜2022年3月):
– 引き続き雇用された期間が1年以上
– 子が1歳6ヶ月に達する日までに労働契約が満了しないことが明らかである

改正後(2022年4月〜):
– 「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件が撤廃(労使協定による除外設定は可能)
– 子が1歳6ヶ月に達する日までに労働契約が満了しないことが明らかである条件のみ

重要: パートや有期契約でも、契約更新が見込まれる場合は育休取得権が認められ、給与または給付金の受給対象となります。

「給与支払い対象外」と判断される除外ケース

以下に該当する場合は、育休中の給与支払い対象外となる可能性があります。

  • 育休開始時点で契約期間の終了が確定している者
  • 雇用保険に未加入の者(給付金も受給不可)
  • 就業規則に「育休中は無給」と明記されており、労働者が同意している場合
  • 育休申請書を正式に提出していない者

給与振込遅延が発生する主な原因と予防策

実際に育休中の給与振込遅延が起きるのは、多くの場合企業の事務手続き上のミスが原因です。主な原因と予防策を確認しましょう。

給与計算システムへの登録漏れによる遅延

育休取得者の情報を給与計算システムに反映し忘れるケースは、中小企業を中心に頻繁に発生します。特に、育休開始日・終了予定日・支払い区分の変更を手動で入力している場合は、ヒューマンエラーが起きやすい傾向があります。

予防策:
– 育休申請受理後、翌営業日以内にシステムへの反映を義務化
– 担当者と確認者のダブルチェック体制を導入
– 育休開始月の給与確定前に「育休者一覧」で照合する

振込口座情報の未確認・変更による送金先エラー

育休中に従業員が銀行口座を変更した、または引越しに伴い口座情報が変わった場合、以前の口座に振込が続けられてしまうトラブルが発生します。

予防策:
– 育休開始前に振込口座の最新情報を書面で再確認
– 口座変更があった場合は速やかに届け出るよう従業員に周知
– 育休期間中は3ヶ月に1回程度、口座情報の確認連絡を実施

育休申請書の提出遅延が引き起こす連鎖トラブル

育休申請書が提出されていないと、給与計算の変更処理が行われず、通常通りの給与が支払われたり、あるいは逆に完全に支払いが止まったりするケースがあります。育休申請は原則として育休開始予定日の1ヶ月前までに提出が必要です。

予防策:
– 妊娠報告を受けた時点で、申請書提出スケジュールを共有
– 申請期限の2週間前にリマインド通知を送る
– 書類が揃っていない場合でも仮申請制度を設けておく

企業が実施すべき事前チェックリスト

□ 育休申請書を1ヶ月前までに受理したか
□ 給与計算システムに育休開始日・終了予定日を入力したか
□ 振込口座情報を最新のものに更新したか
□ 社会保険料免除の申請をしたか(育休中は免除対象)
□ ハローワークへの育児休業給付金申請書類を準備したか
□ 育休中の給与支払い有無を就業規則に基づいて確認したか
□ 担当者・確認者のダブルチェックを実施したか
□ 従業員に給与支払いスケジュールを事前通知したか

育休中の給与手続きに必要な書類と提出期限

書類の不備や提出漏れが、給与振込遅延の大きな原因になります。従業員側・企業側それぞれの必要書類を整理します。

従業員が企業に提出する書類

書類名 発行元 提出期限 用途
育休申請書 企業ひな形 育休開始の1ヶ月前まで 育休期間の確認
出生届受理証明書 市区町村役所 出生後速やかに 子の出生日確認
母子健康手帳(写し) 医療機関・役所 育休申請時 出産予定日・出生日の確認
給与振込口座届 金融機関 育休開始2週間前まで 振込先の確認・更新
雇用保険被保険者証 ハローワーク 給付金申請時 雇用保険加入確認

企業がハローワークに提出する書類

書類名 提出期限 備考
育児休業給付受給資格確認票 育休開始日から10日以内 初回のみ必要
育児休業給付金支給申請書 2ヶ月ごと(支給単位期間終了後10日以内) 継続して申請が必要
賃金台帳・出勤簿 申請書と同時提出 給与支払い実績の証明

注意: 育児休業給付金の申請が遅れると、給付金の支給が遅延し、従業員の生活に支障が出ます。申請期限を社内カレンダーに登録して管理しましょう。


育児休業給付金と給与の併給調整ルール

育休中に企業から給与が支払われている場合、育児休業給付金との併給調整が発生します。このルールを理解していないと、給付金が減額または支給停止になるケースがあります。

給付金の基本支給額

育児休業給付金の支給額は以下の通りです。

育休期間 支給率 計算式
育休開始〜180日目まで 休業開始時賃金日額×67% 例)日額1万円×67%×30日=約20万円/月
181日目以降 休業開始時賃金日額×50% 例)日額1万円×50%×30日=約15万円/月

※上限額あり(2026年現在:67%支給の場合は月額約32万円が上限目安)

給与との併給調整の計算方法

育休中に企業から給与が支払われている場合、給与額と給付金の合計が休業前賃金の80%を超えると給付金が減額されます。

【調整ルール】
給与 + 給付金 ≦ 休業前賃金の80% → 給付金は全額支給
給与 + 給付金 > 休業前賃金の80% → 超過分が給付金から差し引かれる
給与が休業前賃金の80%以上 → 給付金は支給停止

具体例:
– 休業前月収:30万円
– 育休中の給与:15万円(50%相当)
– 給付金(67%適用):約20万円
– 合計:35万円 > 30万円×80%(24万円)
超過分11万円が給付金から差し引かれ、給付金は約9万円に減額


給与振込遅延が発生した場合の対応フローチャート

万が一、育休中に給与振込の遅延が発生した場合は、以下のフローに従って対応しましょう。

従業員側の対応手順

STEP 1:就業規則・労働契約書を確認する
          ↓
STEP 2:企業の人事・給与担当部署に連絡(書面で記録を残す)
          ↓
STEP 3:回答期限を設定して確認依頼(例:3営業日以内)
          ↓
【解決した場合】        【解決しない場合】
遅延分の振込と            ↓
遅延損害金の              STEP 4:都道府県労働局・労働基準監督署に相談
確認を行う                ↓
                         STEP 5:労働審判・民事訴訟の検討

企業側の対応手順

STEP 1:遅延の原因を特定する(システム/口座/書類/担当者漏れ)
          ↓
STEP 2:従業員へ状況を説明し謝罪(口頭+書面)
          ↓
STEP 3:速やかに給与を振込む(翌営業日が目安)
          ↓
STEP 4:遅延損害金の支払いを検討する
          ↓
STEP 5:再発防止策を策定し、チェック体制を見直す

労働基準監督署への相談窓口

相談先 対象 連絡方法
各都道府県労働局総合労働相談コーナー 労働者・企業 電話・来所
労働基準監督署 賃金未払いの申告 来所・書面申告
法テラス(日本司法支援センター) 法的手続きの相談 電話:0570-078374

よくある質問(FAQ)

Q1. 育休中は給与をもらえないのですか?

A. 企業の就業規則によります。多くの企業では育休中は「無給」と定めており、その場合は育児休業給付金(雇用保険)が支給されます。ただし、就業規則に給与支払い規定がある場合は、企業に給与支払い義務が生じます。


Q2. 育児休業給付金の振込が遅れている場合はどうすればいいですか?

A. まず企業の人事担当者に申請状況を確認してください。企業がハローワークへの申請を行っていない場合は、至急申請するよう求めてください。ハローワークの処理が原因の場合は、管轄のハローワークに直接問い合わせることができます。


Q3. 育休中に給与振込口座を変更したいのですが、どうすればいいですか?

A. 企業の人事・給与担当部署に「給与振込口座変更届」を提出してください。新しい口座への反映には1〜2ヶ月かかる場合があるため、早めに手続きすることをおすすめします。


Q4. 育休中に少額の給与が振込まれていますが、給付金への影響はありますか?

A. あります。育休中の給与と育児休業給付金の合計が休業前賃金の80%を超えると、超過分が給付金から差し引かれます。詳しくは育児休業給付金と給与の併給調整ルールをご確認ください。


Q5. 給与振込遅延に対して遅延損害金を請求できますか?

A. 請求できる可能性があります。「賃金の支払の確保等に関する法律」第6条に基づき、退職後の未払い賃金には年14.6%の遅延損害金が認められています。在職中の場合は民法の規定(年3%)が適用される場合があります。まずは労働基準監督署に相談することをおすすめします。


Q6. 育休中に会社が倒産した場合、給与は保護されますか?

A. 「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づく未払賃金立替払制度により、一定額まで国が立替払いを行います。労働基準監督署または独立行政法人労働者健康安全機構に相談してください。


まとめ

育休中の給与振込トラブルは、正確な制度理解と事前の準備によって大部分を防ぐことができます。

対象 最重要アクション
労働者 育休申請を1ヶ月前に提出し、口座情報を最新に保つ
企業(人事担当者) 給与計算システムの即時更新とダブルチェック体制の構築
双方 給付金との併給調整ルールを事前に確認する

育休中は収入が安定しているかどうか、精神的な安心感にも直結します。企業側は従業員への定期的な給与支払い状況の通知を行い、従業員側は書類提出期限を守ることで、互いにトラブルを防ぎましょう。

不明な点があれば、労働基準監督署・ハローワーク・社会保険労務士などの専門機関への相談を積極的に活用してください。


※本記事は2026年時点の法令・制度に基づいています。制度は改正される場合がありますので、最新情報は厚生労働省・ハローワークの公式サイトでご確認ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 育休中に給与が支払われないのは違法ですか?
A. 就業規則に育休中の給与支払い規定がある場合、支払わないことは違法です。ただし、規定で「無給」と明記されていれば、支払い義務はありません。

Q. 育休中でも給与をもらえる場合と、給付金だけの場合の違いは?
A. 就業規則の定めによって異なります。給与を支払う企業もあれば、育児休業給付金のみで、給与は無給とする企業もあります。

Q. 給与振込が遅れた場合、利息は付きますか?
A. はい。未払い賃金には年6%の遅延損害金が発生する可能性があります。企業側は支払い遅延に対する法的責任を問われます。

Q. パートや有期契約社員も育休中の給与支払い対象ですか?
A. 雇用保険加入且つ継続雇用が見込まれるパートや契約社員は対象です。2022年の法改正で対象要件が緩和されました。

Q. 育休中の給与振込トラブルを防ぐために企業がやることは?
A. 就業規則の給与規定を明確にし、従業員に周知し、人事部で給与処理を確実に管理することが重要です。

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