育休給付金を計算する際、「交通費や住宅手当は含まれるの?」という疑問を持つ方は非常に多いです。結論からお伝えすると、交通費(通勤手当)・住宅手当(家賃補助)はいずれも育休給付金の計算対象外です。
給付金額を左右する「賃金日額」の計算では、労働の対価ではなく実費を補填する手当が除外されます。この記事では、なぜこれらの手当が含まれないのかという法的根拠から、実際の計算方法・申請時の注意点まで、育休取得を検討している方や人事担当者に向けてわかりやすく解説します。
育休給付金の基本構造|何に基づいて計算されるのか
育児休業給付金(以下「育休給付金」)は、育児休業中の所得を保障することを目的とした雇用保険の給付制度です。育児・介護休業法に基づく育児休業を取得し、一定の要件を満たした場合に、ハローワーク(公共職業安定所)から支給されます。
法的根拠
育休給付金の根拠法令は以下のとおりです。
| 法令・規則 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険法第61条の4〜第61条の9 | 育児休業給付の規定 |
| 雇用保険法施行規則第99条〜第107条 | 申請手続き・支給要件の詳細 |
| 厚生労働省令(育児休業給付の省令)第8条 | 賃金日額の計算方法・除外項目 |
給付金額は「賃金日額」がベース
育休給付金の支給額は、「賃金日額」×日数×給付率によって算出されます。
育休給付金(月額)= 賃金日額 × 30日 × 給付率
給付率の目安
- 育休開始から180日目まで:賃金日額の67%
- 181日目以降:賃金日額の50%
ポイント:育休給付金の給付率は段階的に改正されており、最新情報はハローワークまたは厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
賃金日額とは、育休開始前の6か月間の賃金合計額を180で割った金額です(雇用保険法第17条)。この「賃金合計額」に何が含まれ、何が含まれないかが、給付金額を大きく左右するポイントになります。
育休給付金の計算対象「外」|交通費・住宅手当が含まれない理由
育休給付金の計算において、交通費・住宅手当などの手当が除外される理由は、「実費弁償的性質」にあります。厚生労働省令第8条第1項に基づき、労働の対価ではなく「実際にかかった費用の補填」として支給される手当は、賃金日額の算定基礎に含まれません。
計算対象外となる手当の一覧
| 手当の種類 | 含まれるか | 除外の理由 |
|---|---|---|
| 交通費・通勤手当 | ❌ 含まれない | 実費弁償的性質 |
| 住宅手当・家賃補助 | ❌ 含まれない | 実費弁償的性質 |
| 食事手当 | ❌ 含まれない | 実費弁償的性質 |
| 被服費 | ❌ 含まれない | 実費弁償的性質 |
| 福利厚生費 | ❌ 含まれない | 実費弁償的性質 |
| 賞与・ボーナス(年2回以下の支給) | ❌ 含まれない | 月ごとの支給でない |
「実費弁償的性質」とは、働くためにかかる実費を補填する目的で支給される手当であり、労働そのものの対価ではないという考え方です。育児休業中はそもそも通勤も就労もしないため、これらの費用は実際には発生しません。そのため、給付金の計算に含めることは制度の趣旨に合わないとされています。
交通費(通勤手当)が含まれない理由
通勤手当は、従業員が職場へ通うために要する交通費を会社が補助するものです。その性質は「通勤という実費の弁償」であり、労働そのものへの対価ではありません。
育児休業中は、当然ながら通勤が発生しないため、通勤手当の支給も停止されるのが通常です。
雇用保険上の取り扱いとして、通勤手当は「賃金」に含まれないものとして省令で明確に除外されています。したがって、たとえ育休前に毎月高額の通勤手当を受け取っていたとしても、その金額は賃金日額の算定基礎には反映されません。
実務上の注意点:通勤手当が非課税の上限額(月15万円)を超えて支給されていた場合も同様に除外です。ただし、給与明細上で「通勤手当」と明記されていない場合は、その手当の性質を個別に確認する必要があります。
住宅手当(家賃補助)が含まれない理由
住宅手当・家賃補助も、「住居にかかる費用の一部を補助する」という実費弁償的な性質を持つ手当です。
育児休業の取得前後で、従業員の家賃や住宅コストが変化するわけではありません。そのため、住居費の補助を給付金の計算に含めることは制度の趣旨から外れるとされ、除外の対象となっています。
厚生労働省の通達や、ハローワークが提供する「育児休業給付金支給要件確認票記入例」においても、住宅手当は賃金日額の算定基礎から除く手当として明示されています。
よくある誤解:「住宅手当は毎月定額で支給されているので基本給の一部では?」と考える方もいますが、支給の形式(定額か変動額か)ではなく、支給の目的(実費弁償か労働対価か)で判断されます。定額支給の住宅手当であっても、実費弁償的性質を持つ場合は除外されます。
その他の除外手当
交通費・住宅手当以外にも、以下の手当が計算対象から除外されます。
食事手当・食事補助
職場での食事にかかる費用を補助するもの。育休中は職場での食事が発生しないため、実費弁償的性質として除外。
被服費・制服代
業務に必要な制服・作業着の購入費用や貸与にかかる費用。労働の対価ではなく、業務遂行に必要な実費として除外。
福利厚生費
従業員の福祉向上を目的とした各種費用(レクリエーション費用、慶弔見舞金など)。
賞与・ボーナス(年2回以下の支給)
賞与は月ごとの支払いではないため、賃金日額の算定基礎に含まれません(ただし、3か月以内の期間ごとに支給される場合は含まれます)。
除外される手当の共通基準:実費弁償的性質
除外される手当に共通しているのは、「労働そのものの対価ではなく、働くためにかかる費用の補填」という性質です。この基準を理解することで、個別の手当が含まれるかどうかの判断に迷った際の指針になります。
育休給付金の計算対象「内」|どの給与・手当が含まれるか
計算対象となる賃金は、労働の対価として支払われるものです。以下の表を参考にしてください。
計算対象となる給与・手当の一覧
| 給与・手当の種類 | 含まれるか | 理由 |
|---|---|---|
| 基本給 | ✅ 含まれる | 労働の対価 |
| 職務手当・役職手当 | ✅ 含まれる | 担当職務・役職への対価 |
| 勤続手当 | ✅ 含まれる | 継続雇用への対価 |
| 精皆勤手当 | ✅ 含まれる | 出勤・皆勤への対価 |
| 技能手当・資格手当 | ✅ 含まれる | 保有スキル・資格への対価 |
| 危険手当 | ✅ 含まれる | 危険な業務への対価 |
| 深夜勤務手当・夜勤手当 | ✅ 含まれる | 特定時間帯の労働への対価 |
| 扶養手当・家族手当 | ⚠️ 要確認 | 会社の定め・支給実態による |
扶養手当・家族手当について:扶養手当や家族手当は、支給の目的や会社の規程によって「労働の対価」と見なされる場合と、実費弁償的性質を持つ場合があります。個別に会社または社労士・ハローワークへ確認することをお勧めします。
「3か月以内の期間ごとに支払われる賃金」の特例
賞与であっても、3か月以内の期間ごとに支払われるもの(例:毎月の業績給・月次インセンティブなど)は賃金日額に含まれます。
賃金日額の正確な計算方法|ステップごとに解説
ここでは、実際に賃金日額をどのように計算するかを、具体的な数字を使って解説します。
ステップ1:育休開始前6か月の賃金を確認する
育休開始前の直近6か月分の給与明細を用意します。ここでいう「6か月」とは、完全な暦月(月初から月末まで)の6か月間です。育休開始日の属する月は含みません。
ステップ2:対象となる賃金のみを合計する
各月の給与明細から、計算対象となる賃金(基本給・職務手当・精皆勤手当など)のみを合計します。交通費・住宅手当・食事手当などは除外してください。
計算例
| 月 | 基本給 | 役職手当 | 通勤手当(除外) | 住宅手当(除外) | 対象賃金合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1か月目 | 250,000円 | 30,000円 | 15,000円 | 20,000円 | 280,000円 |
| 2か月目 | 250,000円 | 30,000円 | 15,000円 | 20,000円 | 280,000円 |
| 3か月目 | 250,000円 | 30,000円 | 15,000円 | 20,000円 | 280,000円 |
| 4か月目 | 250,000円 | 30,000円 | 15,000円 | 20,000円 | 280,000円 |
| 5か月目 | 250,000円 | 30,000円 | 15,000円 | 20,000円 | 280,000円 |
| 6か月目 | 250,000円 | 30,000円 | 15,000円 | 20,000円 | 280,000円 |
| 合計 | 1,680,000円 |
ステップ3:賃金日額を計算する
賃金日額 = 6か月の対象賃金合計 ÷ 180
= 1,680,000円 ÷ 180
= 9,333円(端数切り捨て)
ステップ4:育休給付金(月額)を計算する
育休給付金(月額・育休開始180日まで)
= 賃金日額 × 30日 × 67%
= 9,333円 × 30日 × 67%
= 187,593円(端数切り捨て)
育休給付金(月額・181日目以降)
= 賃金日額 × 30日 × 50%
= 9,333円 × 30日 × 50%
= 139,995円(端数切り捨て)
上限額に注意:賃金日額には上限・下限が設定されています(毎年8月に改定)。2024年度の賃金日額の上限は15,430円です。これを超える場合は上限額を使って計算します。
申請手続き|必要書類と申請の流れ
育休給付金を受け取るための基本要件
育休給付金を受給するには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 雇用保険の被保険者であること
- 育児・介護休業法に基づく育児休業を取得していること
- 育休開始前の2年間に、賃金支払い基礎日数が11日以上の月が12か月以上あること
- 育休中に就業している場合、休業期間中の就業日数が10日(または就業時間が80時間)以下であること
- 育休前の賃金の80%以上の賃金が支払われていないこと(支払われている場合は支給停止)
申請に必要な書類
| 書類名 | 取得先 |
|---|---|
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | 会社が作成(ハローワーク様式) |
| 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書 | ハローワーク窓口または電子申請 |
| 育児休業給付金支給申請書(2回目以降) | ハローワーク窓口または電子申請 |
| 母子健康手帳(子の生年月日確認) | 自治体窓口で取得 |
| 賃金台帳・出勤簿 | 会社が用意 |
申請の流れ
1. 育休開始(出産予定日の8週前〜)
↓
2. 育休開始から2週間以内に会社がハローワークへ受給資格確認申請
↓
3. 以後、2か月に1回(支給単位期間ごと)に申請
↓
4. ハローワーク審査後、指定口座に振り込み(申請から約2週間後が目安)
申請期限:育休終了日の翌日から2か月以内に申請が必要です。期限を過ぎると受給できなくなる場合があるため、必ず会社の人事・総務担当者に確認しましょう。
人事担当者向け実務ポイント
賃金月額証明書の作成時:通勤手当・住宅手当を賃金から除外して記載することが必須です。記載誤りは給付額の過不足につながるため、省令の除外項目リストを参照しながら慎重に作成してください。賃金月額証明書は給付額を決定する最重要書類であり、厚生労働省が提供する記入例に沿って正確に作成する必要があります。
電子申請の活用:e-Gov(イーガブ)経由でオンライン申請が可能です。紙での手続きよりも処理が迅速になる場合があり、リアルタイムで進捗確認も可能です。
社労士への委託:申請手続きを社会保険労務士に委任することで、記載ミス・提出漏れを防ぐことができます。特に複雑な給与体系の企業においては、専門家の関与を推奨します。
給付額の試算と手取りへの影響
交通費・住宅手当の有無による給付額の差
交通費・住宅手当が月額合計3万5,000円(通勤手当15,000円+住宅手当20,000円)ある場合、その分は計算から除外されます。
| 交通費・住宅手当を「含む」場合(誤った計算) | 交通費・住宅手当を「含まない」場合(正確な計算) | |
|---|---|---|
| 6か月の賃金合計 | 1,890,000円 | 1,680,000円 |
| 賃金日額 | 10,500円 | 9,333円 |
| 月額給付金(67%) | 211,050円 | 187,593円 |
| 差額 | ▲23,457円/月 |
このように、交通費・住宅手当を誤って含めると、実際より月2万円以上多く見積もってしまう可能性があります。育休前に正確な給付額を把握しておくことが、家計設計において非常に重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 通勤手当が給与明細に「交通費補助」と記載されている場合も除外ですか?
はい、名称にかかわらず、通勤にかかる実費を補助する目的の手当であれば除外の対象です。「交通費補助」「電車代」「定期代補助」などの名称でも同様です。判断に迷う場合はハローワークへ確認することをお勧めします。
Q2. 在宅勤務手当(テレワーク手当)は含まれますか?
在宅勤務手当については、その性質が「通信費・光熱費の実費弁償」であれば除外、「在宅勤務という働き方に対する手当(労働の対価)」であれば含まれる可能性があります。支給規程の内容によって判断が異なりますので、会社の人事担当者またはハローワークに個別確認することをお勧めします。
Q3. 育休中も住宅手当が会社から支払われ続けている場合、給付金に影響しますか?
育休中に支払われた賃金が、育休前の賃金の80%以上になると給付金が停止・減額されます。住宅手当が育休中も支払われ続ける場合、その金額が「育休中の賃金」として計上され、支給上限に影響する可能性があります。会社の人事担当者に確認しておきましょう。
Q4. 育休給付金は非課税ですか?所得税・住民税がかかりますか?
育休給付金(雇用保険の給付金)は非課税です。所得税・住民税はかかりません。ただし、育休中も会社から賃金が一部支払われている場合は、その賃金部分には課税されます。
Q5. 育休給付金はいつ振り込まれますか?
申請書の提出から概ね2週間程度で指定口座に振り込まれます。初回は受給資格確認と申請が同時に行われるため、通常より時間がかかる場合があります(3〜4週間程度)。正確な振込時期については、ハローワークへ確認いただくことをお勧めします。
Q6. 賃金日額の上限・下限はいくらですか?
賃金日額には毎年8月に改定される上限・下限が設定されています。2024年度の上限は15,430円、下限は2,746円です(67%給付の場合の上限月額:約31万円)。正確な数値は毎年変わりますので、ハローワークの公式サイトで最新版をご確認ください。
Q7. パートタイム労働者や派遣社員でも育休給付金を受け取れますか?
雇用保険に加入しており、受給要件(直近2年間に11日以上の月が12か月以上)を満たしていれば、パートタイム労働者・派遣社員でも育休給付金を受給できます。雇用形態による制限はありません。
まとめ|交通費・住宅手当は育休給付金の計算対象外
この記事の要点を整理します。
- 育休給付金は「賃金日額 × 30日 × 給付率」で計算される
- 交通費(通勤手当)・住宅手当(家賃補助)・食事手当・被服費・福利厚生費は実費弁償的性質により計算対象外
- 除外の法的根拠は厚生労働省令第8条第1項
- 基本給・職務手当・精皆勤手当・技能手当・危険手当・深夜勤務手当などは計算対象に含まれる
- 交通費・住宅手当の有無で月額の見込み給付金に数万円の差が生じることも
- 申請は会社経由でハローワークへ、2か月に1回の申請が必要
育休取得を検討している方は、事前に給与明細を確認し、「どの手当が計算対象になるか」を正確に把握したうえで家計設計を行うことが重要です。給付額の試算に誤りがあると、育休期間中の生活費が不足する事態にもなりかねません。判断に迷う場合は、最寄りのハローワーク・社会保険労務士に相談することをお勧めします。
参考リンク
– 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続き」
– ハローワークインターネットサービス「育児休業給付」

