2025年4月から、育休給付金の月額支給上限(442,800円)が廃止されます。これにより、特に月収が高い方を中心に受給額が大幅に増加する可能性があります。しかし「自分はいくら増えるのか」「そもそも対象になるのか」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、新制度の全体像から適用条件、そして実際の賃金を使った追加給付額の試算方法まで、順を追ってわかりやすく解説します。育休取得を検討している方も、人事担当者として制度把握が必要な方も、ぜひ最後までお読みください。
2025年4月から何が変わる?月額上限廃止の全体像
| 項目 | 現行制度(〜2025年3月) | 新制度(2025年4月〜) |
|---|---|---|
| 月額支給上限 | 442,800円 | 上限なし |
| 給付率 | 給付額の67%(育休開始後6ヶ月) | 給付額の67%(上限廃止) |
| 適用対象者 | 全育休取得者 | 2025年4月以降に育休開始した者 |
| 高額賃金者への影響 | 上限で受給額が抑制される | 賃金に応じた増額を受給可能 |
現行制度(〜2025年3月)の上限額の仕組み
現行の育休給付金(育児休業給付金)は、雇用保険法第67条に基づき、以下の計算式で支給額が決まります。
【現行の計算式】
育休給付金(月額)= 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 給付率
給付率:育休開始から180日目まで = 67%
181日目以降 = 50%
ただし、月額上限:442,800円(2024年度)
ここで重要なのが「ただし書き」の部分です。計算式上はいくら高い給与であっても、実際に受け取れる金額は月442,800円が天井となっていました。
たとえば月収80万円の方が育休を取得した場合、計算上は「80万円 × 67% = 536,000円」となるはずですが、現行制度では442,800円までしか受け取れません。高収入の方ほど「本来もらえるはずの給付金」が大きくカットされてきたわけです。
休業開始時賃金日額とは、育休開始前の賃金をもとに算出された1日あたりの金額です。具体的には、「育休開始前6か月間の賃金総額 ÷ 180日」で計算されます(雇用保険法施行規則第71条以下)。
| 項目 | 計算方法 |
|---|---|
| 賃金日額 | 育休開始前6か月の賃金総額 ÷ 180 |
| 支給日数 | 原則30日(各支給単位期間) |
| 給付率 | 67%(180日まで)/50%(181日以降) |
| 月額上限 | 442,800円(2024年度) ← 廃止へ |
新制度(2025年4月〜)で何がどう変わるか
2025年4月以降に育休を開始する方に適用される新制度の核心は、シンプルです。
「計算式は変わらず、月額上限だけが廃止される」
給付率(67%・50%)はそのままです。大きく変わるのは、上限のキャップがなくなる点のみ。つまり、実際の賃金に給付率をかけた金額がそのまま受け取れるようになります。
【新制度(2025年4月以降)の計算式】
育休給付金(月額)= 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 給付率
給付率:変更なし(67% / 50%)
月額上限:廃止(上限なし)
この変更は令和6年改正雇用保険法によるものです。少子化対策の一環として、育休中の所得保障を手厚くし、特に収入の高い層が育休を取得しやすい環境を整える目的があります。
「増えるのは金額だけで、率は変わらない」という点を押さえておくことが、新制度を正しく理解するうえで最も重要なポイントです。
あなたは対象?新制度が適用される条件を確認しよう
育休給付金の基本受給要件(変更なし)
月額上限の廃止は大きな変更ですが、育休給付金を受け取るための基本的な受給要件は変わりません。以下の条件を満たしているかどうか、まず確認しましょう。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険の被保険者 | 雇用保険に加入している必要がある |
| 育児休業中であること | 育児・介護休業法第2条に基づく育休を取得していること |
| 被保険者期間 | 育休開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あること |
| 就業日数の制限 | 育休中の就業日数が月10日以下(または就業時間80時間以下)であること |
| 賃金の制限 | 育休中に支払われた賃金が、休業前賃金の80%以下であること |
派遣社員・パート・有期契約社員であっても、雇用保険に加入しており上記要件を満たしていれば対象になります。ただし、自営業者や公務員(別制度あり)は対象外です。
2025年4月以降に育休を開始する方が対象
新制度(月額上限廃止)の適用を受けるためには、2025年4月1日以降に育休を開始することが条件です。
| 育休開始日 | 適用制度 | 月額上限 |
|---|---|---|
| 2025年3月31日まで | 現行制度 | 442,800円 |
| 2025年4月1日以降 | 新制度 | 上限なし |
注意すべきポイント:
- 同一の子について複数回育休を取得する場合、最初の育休開始日で制度の適用が判定されます。たとえば第1回目の育休を2025年3月に開始し、第2回目を4月以降に取得する場合でも、現行制度が適用される可能性があります。
- 既に育休給付金を受給している方が、新制度による追加支給を受ける仕組みではありません。あくまで2025年4月以降に新たに育休を開始する方が対象です。
- 「産後パパ育休(出生時育児休業)」についても同様の基準が適用されます。2025年4月1日以降に取得する分から新制度の恩恵を受けられます。
追加給付額の試算方法:計算式と具体例
追加給付額の計算ステップ
新制度で「いくら増えるか」を試算するには、次の3ステップで計算します。
ステップ1:休業開始時賃金月額を確認する
休業開始時賃金月額 = 育休開始前6か月の賃金合計 ÷ 6
給与明細や源泉徴収票を使って、基本給・各種手当(残業代を除くことが多い)を含めた月額賃金を算出します。
ステップ2:現行制度での支給額を計算する
計算上の支給額 = 賃金月額 × 給付率(67%または50%)
現行制度の実支給額 = min(計算上の支給額、442,800円)
ステップ3:追加給付額を計算する
追加給付額 = 計算上の支給額 − 現行制度の実支給額
計算上の支給額が442,800円以下の場合、追加給付額はゼロです。現行制度でも上限に引っかかっていなかった方は、新制度になっても受給額は変わりません。
追加給付額の具体例:月収別シミュレーション
育休開始から180日以内(給付率67%)を想定した試算です。
ケース1:月収50万円の場合
計算上の支給額 = 500,000円 × 67% = 335,000円
現行制度の実支給額 = 335,000円(上限に未達)
新制度の支給額 = 335,000円
追加給付額 = 0円
月収50万円の場合、計算上の支給額335,000円は上限の442,800円を下回るため、新制度になっても変化なしです。
ケース2:月収70万円の場合
計算上の支給額 = 700,000円 × 67% = 469,000円
現行制度の実支給額 = 442,800円(上限適用)
新制度の支給額 = 469,000円
追加給付額 = 469,000円 − 442,800円 = 26,200円/月
育休180日(約6か月)取得した場合の追加給付総額:約157,200円
ケース3:月収100万円の場合
計算上の支給額 = 1,000,000円 × 67% = 670,000円
現行制度の実支給額 = 442,800円(上限適用)
新制度の支給額 = 670,000円
追加給付額 = 670,000円 − 442,800円 = 227,200円/月
育休180日(約6か月)取得した場合の追加給付総額:約1,363,200円
ケース4:月収150万円の場合
計算上の支給額 = 1,500,000円 × 67% = 1,005,000円
現行制度の実支給額 = 442,800円(上限適用)
新制度の支給額 = 1,005,000円
追加給付額 = 1,005,000円 − 442,800円 = 562,200円/月
育休180日(約6か月)取得した場合の追加給付総額:約3,373,200円
月収と追加給付額の早見表(育休開始180日以内・給付率67%)
| 月収 | 計算上の支給額 | 現行制度 | 新制度 | 月の追加給付額 |
|---|---|---|---|---|
| 40万円 | 268,000円 | 268,000円 | 268,000円 | 0円 |
| 55万円 | 368,500円 | 368,500円 | 368,500円 | 0円 |
| 66万円 | 442,200円 | 442,200円 | 442,200円 | 0円 ※上限にわずかに未達 |
| 67万円 | 448,900円 | 442,800円 | 448,900円 | +6,100円 |
| 80万円 | 536,000円 | 442,800円 | 536,000円 | +93,200円 |
| 100万円 | 670,000円 | 442,800円 | 670,000円 | +227,200円 |
| 120万円 | 804,000円 | 442,800円 | 804,000円 | +361,200円 |
| 150万円 | 1,005,000円 | 442,800円 | 1,005,000円 | +562,200円 |
※月収は「休業開始時賃金月額」の目安として記載。実際の賃金日額ベースで計算するため、端数等が生じる場合があります。
上限の”分岐点”は月収約66万1,200円です。この金額を超える月収の方は、新制度で受給額が増加します。
上限分岐点の計算:
442,800円 ÷ 0.67 ≒ 661,194円(月収約66万1,000円が境界線)
181日目以降(給付率50%)の場合はどうなる?
育休開始から181日目以降は給付率が50%に下がります。この場合の上限分岐点と追加給付額も確認しておきましょう。
181日目以降の上限分岐点:
442,800円 ÷ 0.50 = 885,600円(月収約88万5,600円が境界線)
181日目以降は給付率が低くなるため、現行の上限額442,800円にぶつかるラインが上がります。月収88万5,600円を超えていない方は、181日目以降は新制度になっても受給額は変わりません。
| 月収 | 計算上の支給額(50%) | 現行制度 | 新制度 | 月の追加給付額 |
|---|---|---|---|---|
| 80万円 | 400,000円 | 400,000円 | 400,000円 | 0円 |
| 88万5,600円 | 442,800円 | 442,800円 | 442,800円 | 0円(境界) |
| 100万円 | 500,000円 | 442,800円 | 500,000円 | +57,200円 |
| 120万円 | 600,000円 | 442,800円 | 600,000円 | +157,200円 |
| 150万円 | 750,000円 | 442,800円 | 750,000円 | +307,200円 |
申請手続きと必要書類:新制度での手続きの流れ
申請の全体フロー
育休給付金の申請は、原則として事業主(会社)がハローワークに対して行います。本人が直接申請するわけではない点に注意が必要です。
STEP1:育児休業の開始
↓
STEP2:会社(事業主)が「育児休業給付受給資格確認票・初回支給申請書」を作成・提出
└ 提出期限:育休開始日から最初の支給単位期間末日の翌日から起算して4か月以内
↓
STEP3:ハローワークが受給資格の確認・認定を実施
↓
STEP4:以降の支給申請(2か月ごとに申請)
└ 会社が「育児休業給付金支給申請書」をハローワークへ提出
↓
STEP5:給付金の振込(申請から概ね2週間程度)
必要書類一覧
| 書類名 | 準備者 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・初回支給申請書 | 事業主 | ハローワーク所定様式 |
| 育児休業給付金支給申請書 | 事業主 | 2か月ごとに提出 |
| 賃金台帳・労働者名簿・出勤簿 | 事業主 | 賃金確認のため |
| 母子健康手帳(写し) | 労働者→事業主へ提出 | 出生日・子の確認 |
| 育児休業申出書(社内書類) | 労働者→事業主へ提出 | 育休の開始・終了日を明記 |
| 雇用保険被保険者証 | 事業主で管理 | 被保険者番号の確認 |
新制度(2025年4月以降)において、申請様式や手続きの大枠は変わりません。ただし、上限廃止に伴いシステム上の処理や支給決定通知書の記載内容が変更される可能性があるため、ハローワークの最新情報や厚生労働省の告示を随時確認することを推奨します。
人事担当者が注意すべきポイント
- 支給申請の期限厳守: 申請期限を過ぎると給付金が受け取れなくなるケースがあります。育休開始後、速やかにスケジュールを管理しましょう。
- 賃金台帳の整備: 新制度では上限なしで実際の賃金が反映されるため、賃金台帳の正確な記録がこれまで以上に重要です。
- 育休取得者への事前説明: 「いくら受け取れるか」の見通しを事前に伝えることが、育休取得促進にもつながります。給付額のシミュレーションを面談時に活用しましょう。
手取り額への影響:税金・社会保険との関係
育休給付金は非課税
育休給付金(育児休業給付金)は、所得税・住民税の課税対象外です。受け取った金額がそのまま手元に残ります。これは現行制度・新制度ともに変わりません。
社会保険料は育休中も免除
育休中は、社会保険料(健康保険・厚生年金)の本人負担分・事業主負担分ともに免除されます(健康保険法第159条・厚生年金保険法第81条の2)。この免除制度も新制度で変更はありません。
つまり、育休給付金を受け取りながら、社会保険料の負担もなく生活できるという点は引き続き継続されます。
実質的な手取り代替率
現行制度でも育休中の実質的な所得代替率(手取りに対する比較)は約80%と言われてきましたが、これは社会保険料免除の効果を含めた数字です。新制度で給付金額が増加することにより、高収入層ではこの代替率がさらに高まる効果が期待されます。
よくある疑問をQ&A形式で解説
Q1. 2025年3月末から育休を開始し、4月以降も継続している場合は新制度が適用されますか?
いいえ、適用されません。育休の開始日が2025年3月31日以前の場合、その育休全体に現行制度が適用されます。上限廃止の恩恵を受けるには、育休の開始日が2025年4月1日以降である必要があります。
Q2. 月収66万円以下でも、新制度で何か変わることはありますか?
受給額という意味では変わりません。月収約66万1,000円以下(給付率67%の場合)の方は、現行制度でも上限に到達していないため、新制度になっても受給額は同じです。ただし、制度の枠組みとして上限が撤廃されたことは将来的な賃金上昇時の備えにもなります。
Q3. 産後パパ育休(出生時育児休業)も新制度の対象になりますか?
はい、対象になります。2025年4月1日以降に取得する産後パパ育休(出生時育児休業給付金)についても、月額上限廃止の新制度が適用されます。
Q4. 給付金の申請は自分でハローワークに行く必要がありますか?
原則として事業主(会社)が申請を行います。本人が直接ハローワークに出向く必要は通常ありません。ただし、育休申出書の提出や賃金台帳の確認など、会社からの依頼に応じて必要書類を提供することが求められます。
Q5. 育休給付金の支給額が増えると、税金も増えますか?
いいえ。育休給付金は非課税ですので、支給額が増加しても所得税・住民税は増えません。受け取った額がそのまま手元に残ります。
Q6. 育休を分割取得した場合、新制度はどのように適用されますか?
育児・介護休業法の改正により、育休は2回まで分割取得が可能です。この場合も、最初の育休開始日を基準に制度の適用が判定されます。第1回目を2025年3月以前に開始した場合、第2回目が4月以降であっても現行制度が適用される可能性があります。分割取得を予定している方は、育休の開始タイミングを慎重に検討してください。
Q7. 育休給付金の受給手続きは会社と本人、どちらが行うのですか?
原則として事業主(会社)の人事・労務部門が主体となってハローワークへ申請します。本人は事前に育休申出書を提出し、賃金台帳など書類の確認に協力してください。初めての申請時は育休開始日から4か月以内という期限がありますので、会社側が早期に手続きを進めることが重要です。
まとめ:2025年4月以降の育休給付金、ここがポイント
本記事の要点を整理します。
新制度の核心
– 2025年4月1日以降に育休を開始した方から、月額上限(442,800円)が廃止
– 給付率(67%・50%)は変わらず、受け取れる上限だけが撤廃
– 月収約66万1,000円(給付率67%の場合)を超える方は、新制度で受給額が増加
追加給付額の試算ポイント
– 計算式:賃金月額 × 給付率 − 442,800円 = 月の追加給付額
– 月収100万円なら月約22万7,000円増、180日で約136万円の増加
– 月収150万円なら月約56万2,000円増、180日で約337万円の増加
手続きについて
– 申請手続きの枠組みは変わらず、事業主がハローワークに申請
– 育休開始後4か月以内に初回申請が必要
– 給付金は非課税、社会保険料も免除(変更なし)
月額上限の廃止は、高収入の方が育休を取得する経済的なハードルを大きく下げる制度改正です。特に共働き世帯や育休取得を迷っていた方にとって、今こそ制度を正しく理解し活用するタイミングといえるでしょう。
2025年4月以降に育休取得を予定している方は、勤務先の人事担当者や最寄りのハローワークにも相談しながら、申請準備を早めに進めることをお勧めします。
【免責事項】 本記事は2024年時点の情報をもとに執筆しています。制度の詳細・最新情報は、厚生労働省の公式サイト(https://www.mhlw.go.jp/)またはハローワークでご確認ください。法令・告示の改正により、内容が変更される場合があります。育休給付金の試算や具体的な手続きについては、お住まいの地域のハローワークまたは社会保険労務士への相談もお勧めします。


