雇用契約の更新タイミングと育休開始日が重なると、「どちらの給与を基準に育休給付金が計算されるの?」という疑問が生じます。給与が上がった直後に育休を取れば給付金も増えるのか、あるいは旧契約の金額で計算されてしまうのか——この判断は、受け取れる給付金の総額に数十万円単位で差をつける可能性があります。
本記事では、雇用契約更新直後に育休を申請した場合の平均賃金計算ルールを法的根拠に基づいて解説します。パターン別の具体的な計算例、必要書類、ハローワークへの申請手順まで網羅しているので、契約社員・パートタイマー・正社員を問わず、育休取得を検討しているすべての方にお役立ていただけます。
育休給付金の基本制度と平均賃金計算の法的根拠
育児休業給付金は、雇用保険法第61条の4を根拠とする給付制度です。育児休業中の収入減少を補い、育休後の職場復帰を支援することを目的としています。本制度の計算基準となる平均賃金は労働基準法第12条に基づいており、安定的な給付を実現するために厳密に定められています。
育休給付金の対象者と基本要件
受給するためには以下の要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険の加入 | 育休開始日時点で被保険者であること |
| 被保険者期間 | 育休開始前2年以内に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上あること |
| 育休取得の事実 | 子が原則1歳(最長2歳)になるまでの育児休業を取得すること |
| 休業中の就業制限 | 休業期間中の就業が月10日以下(または80時間以下)であること |
ここで重要なのは、雇用契約を更新している労働者も対象になるという点です。契約社員やパートタイム労働者であっても、上記の要件を満たせば育休給付金を受給できます。なお、育休給付金は産後パパ育休(出生時育児休業)の給付金と制度が異なり、本記事では通常の育児休業給付金を対象としています。
平均賃金計算の基準となる3ヶ月とは
育休給付金の支給額を決める「賃金日額」は、育休開始前の3ヶ月間に支払われた賃金の合計額を、その期間の暦日数で割る方法で算出します。これは労働基準法第12条の平均賃金の計算方法に準拠しています。
具体的には以下のとおりです。
賃金日額 = 育休開始前3ヶ月間の賃金合計 ÷ 育休開始前3ヶ月間の暦日数
「育休開始前3ヶ月間」は、育休を開始した日の前日から遡って3ヶ月分が対象です。たとえば2025年4月1日から育休を開始した場合、2025年1月1日〜3月31日の3ヶ月間が計算対象となります。
ただし、月の途中から育休を開始した場合は注意が必要です。開始月の賃金が不完全になるため、完全に賃金が支払われた直近3ヶ月を遡って計算します。育休開始日が月の途中(例:4月15日)であれば、完結した月として1月・2月・3月の3ヶ月分が対象月になります。
この「過去3ヶ月の平均賃金」が育休給付金の土台となるため、契約更新によって給与が変わった場合、どの月の給与がこの3ヶ月に含まれるかが給付額を大きく左右します。
雇用契約更新直後に育休申請した場合の平均賃金計算
ここが本記事の核心となるパートです。契約更新のタイミングと育休開始日の関係によって、計算に用いる賃金のベースが変わります。以下、代表的な3つのパターンに分けて解説します。
パターン① 契約更新前の給与のみが3ヶ月に含まれる場合
例:旧契約(月給20万円)が2025年3月31日終了、新契約(月給25万円)が4月1日開始、育休開始は4月15日
この場合、育休開始前の「完結した3ヶ月」は1月・2月・3月になります。この3ヶ月はすべて旧契約期間中であるため、賃金日額の計算に使われるのは旧契約の月給20万円ベースの賃金です。
賃金日額 =(20万円 × 3ヶ月)÷ 90日(1月〜3月の暦日数)
= 60万円 ÷ 90日
≒ 6,667円
育休開始後6ヶ月間の給付率は67%、その後は50%です。
最初の6ヶ月の月額給付金 ≒ 6,667円 × 30日 × 67% ≒ 134,007円
新契約で給与が上がっていても、計算対象の3ヶ月が旧契約期間中であれば、新給与は反映されません。これはハローワークの実務でも同様の取り扱いとなっています。
パターン② 契約更新後の給与が3ヶ月に含まれる場合
例:新契約(月給25万円)が2025年1月1日開始、育休開始は4月1日
育休開始前の3ヶ月(1月・2月・3月)は全期間が新契約期間に当たります。
賃金日額 =(25万円 × 3ヶ月)÷ 90日
= 75万円 ÷ 90日
≒ 8,333円
最初の6ヶ月の月額給付金 ≒ 8,333円 × 30日 × 67% ≒ 167,493円
パターン①と比べると月額で約3万3,000円の差が生じます。6ヶ月間の累計では約20万円の違いになります。育休開始日を新契約開始から3ヶ月以上経過したタイミングに設定できれば、新給与ベースで計算されます。これは育休開始日の設定戦略として非常に重要なポイントです。
パターン③ 旧契約と新契約の給与が3ヶ月に混在する場合
例:新契約(月給25万円)が2025年2月1日開始、育休開始は4月1日
計算対象の3ヶ月(1月・2月・3月)のうち、1月分は旧契約(月給20万円)、2月〜3月分は新契約(月給25万円)が混在します。
この場合、ハローワークは各月の実際の支払い賃金をそのまま合算して計算します。
賃金合計 = 20万円(1月)+ 25万円(2月)+ 25万円(3月)
= 70万円
賃金日額 = 70万円 ÷ 90日 ≒ 7,778円
最初の6ヶ月の月額給付金 ≒ 7,778円 × 30日 × 67% ≒ 156,439円
旧給与と新給与が混在する月があっても、月単位でそれぞれの実支給額を用いるのが原則です。「給与が変わった月は除外する」「どちらかに統一する」といった特別な処理は行われません。
賃金日額の上限・下限と給付額の目安
賃金日額には法令で定められた上限・下限があります。2024年8月1日現在の参考値は以下のとおりです(毎年8月1日に改定)。
| 項目 | 金額(目安) |
|---|---|
| 賃金日額の下限 | 約2,700円 |
| 賃金日額の上限(30歳未満) | 約13,890円 |
| 賃金日額の上限(30〜44歳) | 約15,430円 |
| 賃金日額の上限(45〜59歳) | 約16,980円 |
上限に達している場合、それ以上の給与が反映されないため、高収入層は特に注意が必要です。最新の上限額はハローワークのウェブサイトまたは厚生労働省の告示で確認してください。
申請手続きの流れと必要書類
育休開始前〜開始後の手続きスケジュール
育休給付金の申請は主に事業主(会社)を経由して行います。労働者が直接ハローワークに出向く必要は原則ありませんが、手続きのスケジュールと内容を把握しておくことが重要です。
【育休開始の1ヶ月前まで】
└─ 事業主へ育休取得の申し出
└─ 雇用契約書(更新前・更新後の両方)を整理
【育休開始前(または開始後速やかに)】
└─ 事業主がハローワークへ
「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」を提出
【育休開始後2ヶ月以内(初回申請)】
└─ 育児休業給付金支給申請書(様式第6号)の提出
└─ 平均賃金計算の根拠書類を添付
【審査・振込】
└─ ハローワーク審査(約2〜4週間)
└─ 指定口座への給付金振込
初回申請以降は2ヶ月ごとに支給申請を行います。支給申請期間を過ぎると受給できなくなる場合があるため、事業主とのスケジュール管理が重要です。
雇用契約更新時に必要な書類一覧
通常の育休給付金申請書類に加え、契約更新があった場合は更新前後の雇用契約書を両方提出することがポイントです。
必須書類:
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書(様式第6号) | ハローワーク所定様式 |
| 雇用保険被保険者証 | または被保険者番号が確認できるもの |
| 賃金台帳(3ヶ月分) | 計算対象期間の原本または写し |
| 出勤簿またはタイムカード(3ヶ月分) | 賃金支払基礎日数の確認に使用 |
| 母子健康手帳(出生届出済証明のページ) | 子の出生確認のため |
| 旧雇用契約書(更新前) | 給与条件・契約期間の確認 |
| 新雇用契約書(更新後) | 新給与条件・開始日の確認 |
| 振込先口座の通帳またはキャッシュカードのコピー | 初回申請時 |
雇用契約書が見当たらない場合は、労働条件通知書や辞令・給与改定通知書で代替できる場合があります。事前にハローワーク担当者へ確認することをおすすめします。
ハローワーク審査でよくある確認事項
契約更新が絡む申請では、ハローワークから以下の点について追加確認を求められることがあります。
- 旧契約と新契約で雇用主が同一であることの確認
- 契約更新前後の賃金支払基礎日数(11日以上)の確認
- 給与変更が辞令や契約書に明記されているかの確認
- 計算対象3ヶ月のうち、給与未払い月・欠勤控除月がないかの確認
これらに備えて、事業主の人事担当者と事前に情報共有し、必要書類を漏れなく準備しておくことが審査をスムーズに進める鍵です。
給付金額を最大化するための実務的な注意点
育休開始日の設定が給付額を左右する
パターン②で示したとおり、新契約開始から3ヶ月以上が経過した後に育休を開始することで、計算対象の3ヶ月すべてが新給与ベースになります。
たとえば昇給や契約更新で給与が増加した場合、育休開始日を少し後ろにずらすだけで給付金が増える可能性があります。産前休業(産休)の開始タイミングとも連動するため、出産予定日から逆算しながら産婦人科や会社と相談することをおすすめします。
ただし、育休開始日を遅らせることで産後の無収入期間が長くなるリスクもあります。健康保険の出産手当金(産休中の給付)との兼ね合いも踏まえて総合的に判断してください。
賃金支払基礎日数11日の確認
計算対象の3ヶ月は、各月とも賃金支払基礎日数が11日以上あることが必要です。パートタイム労働者や短時間勤務者が契約更新のタイミングで勤務日数を変更した場合、11日を下回る月が生じる可能性があります。
11日未満の月がある場合、その月は計算対象から外れ、さらに前の月に遡って補完されます。賃金台帳と出勤簿を事前に確認し、各月の実労働日数を把握しておきましょう。
育休給付金と社会保険料免除の組み合わせ
育休期間中は、健康保険・厚生年金保険の社会保険料が免除されます(健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条の2)。この免除と育休給付金を合わせると、手取りベースでは休業前の実収入の実質80〜85%相当をカバーできると試算されています(給付率67%の期間)。
契約更新後の給与が高い場合、社会保険料の免除額も大きくなるため、新給与ベースで給付金が計算されるタイミングを狙うメリットはさらに大きくなります。
人事担当者が押さえるべき申請実務ポイント
企業の人事担当者として、契約更新直後に育休申請する従業員をサポートする際のチェックリストです。
- [ ] 旧契約・新契約の雇用契約書を双方コピーして保管
- [ ] 賃金台帳・出勤簿を計算対象期間分(最低3ヶ月)揃える
- [ ] 賃金支払基礎日数が各月11日以上であることを確認
- [ ] ハローワークへの受給資格確認票を育休開始前または開始直後に提出
- [ ] 給与変更の辞令・通知書を書類として保管
- [ ] 賃金日額の上限額を確認し、従業員に給付金見込み額を共有
よくある質問(FAQ)
Q1. 契約更新と同時に育休を開始した場合、どちらの給与が使われますか?
育休開始日当日に契約が更新された場合、計算対象の「育休開始前3ヶ月」は更新前の旧契約期間に当たります。育休開始日は新契約の初日ですが、計算に用いるのは前3ヶ月(すなわち旧契約期間中)の賃金です。新給与を反映させたい場合は、新契約開始から少なくとも3ヶ月経過後に育休を開始する必要があります。
Q2. 契約更新時に給与が下がった場合も同じ計算方法ですか?
はい、同じ方法です。給与が下がった場合でも、実際に支払われた賃金の実額を月単位で合算して計算します。給与が減少した月が計算対象に入ると、その分給付金も減少します。産前休業の開始を給与変更前に設定できる場合は、変更前の3ヶ月のみを計算対象にすることも選択肢の一つです。
Q3. パートタイムで週3日勤務ですが、受給できますか?
週3日勤務であっても、賃金支払基礎日数が月11日以上あれば受給要件を満たす可能性があります。また、週の所定労働時間が20時間以上であれば雇用保険に加入でき(パートタイマーも対象)、被保険者期間の要件を満たせば受給できます。まずは事業主に雇用保険の加入状況を確認してください。
Q4. 育休給付金の申請はいつまでにすればよいですか?
初回申請は育休開始から2ヶ月以内が目安です。ただし、事業主が「育児休業給付受給資格確認票」をハローワークへ提出する期限が育休開始前後に設定されているため、育休開始前から事業主と連携して手続きを進めてください。2回目以降は2ヶ月ごとの支給申請が必要で、申請期間を過ぎると受給できないため注意が必要です。
Q5. 雇用契約更新のたびに育休給付金の手続きをやり直す必要がありますか?
育休中に契約更新が到来した場合でも、給付金の手続きをやり直す必要はありません。育休給付金は育休開始時点の賃金日額を基に継続して支給されます。ただし、育休中に雇用契約が更新されず、雇用が終了する場合は給付金の支給も停止されますので注意してください。
Q6. ハローワークでの審査期間はどのくらいかかりますか?
通常の審査は申請受理から約2〜4週間が目安です。ただし、契約更新が絡む案件や書類の不備がある場合はさらに時間を要することがあります。審査完了後、指定口座へ振込まれます。初回の振込みが遅れた場合でも、受給資格が確認されれば遡って支給されます。
育休給付金の手続きについてご不明な点がある場合は、お近くのハローワークまたは社会保険労務士へご相談ください。早期の相談が手続きの効率化と給付金の確実な受給につながります。
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まとめ
雇用契約更新直後に育休を申請する際の平均賃金計算のポイントを整理します。
- 計算の基準は「育休開始前の完結した3ヶ月間」の実支給賃金であり、旧契約か新契約かに関係なく、その期間に実際に支払われた賃金が用いられる
- 新給与を給付金に反映させたいなら、新契約開始から3ヶ月以上経過した後に育休を開始する
- 旧・新の給与が混在する月がある場合は、月単位の実支給額をそのまま合算して計算する
- 契約更新があった場合は旧契約書と新契約書の両方をハローワークへ提出する
- 賃金支払基礎日数が各月11日以上あることを事前に確認する
育休給付金の計算は一見複雑に見えますが、「育休開始前3ヶ月の実賃金を使う」という原則を軸に考えると整理しやすくなります。契約更新のタイミングで不安や疑問がある場合は、早めにハローワーク(公共職業安定所)または社会保険労務士へご相談ください。適切な時期に手続きを進めることで、受給資格の確認から給付金受け取りまでをスムーズに進められます。

