2025年4月から育児休業給付金の支給率が引き上げられたことに伴い、すでに育休給付金を受け取った方(既取得者)も差額給付を受けられる可能性があります。この「遡及給付」制度は、対象者であっても申請しなければ給付されません。本記事では、対象者の判定から申請書類の準備、ハローワークでの手続きまでをステップごとに完全解説します。
2025年4月の支給率引き上げと遡及給付制度の全体像
2025年4月の制度変更|支給率が50%から55%に引き上げ
2025年4月1日より、育児休業給付金の支給率が育休前賃金の50%から55%へ引き上げられました。これは雇用保険法第61条の4の改正に基づく措置であり、育児休業給付金の算定基礎となる支給率が変更されています。
この変更は新規取得者だけでなく、すでに育休を取得・終了していた方にも差額分として遡及給付が行われる点が大きな特徴です。
| 項目 | 変更前 | 変更後(2025年4月以降) |
|---|---|---|
| 育休給付金の基本支給率 | 最大50% | 最大55% |
| 支給率引き上げ幅 | — | +5% |
| 遡及給付の対象期間 | — | 原則、給付終了から2年以内 |
| 法的根拠 | 雇用保険法第61条の4 | 同改正規定・厚生労働省告示 |
なお、育休開始後6ヶ月以内かつ夫婦両方が育休を取得している場合に適用される出生後休業支援給付金(最大13%上乗せ)は別制度となります。本記事では基本支給率50%→55%の引き上げに伴う遡及給付にフォーカスして解説します。
遡及給付とは何か|既に受け取った方も対象
「遡及給付」とは、制度改正以前に給付を受けた期間について、新しい支給率との差額を後から受け取れる仕組みです。
2025年4月以降に育休給付金を新たに申請する方は自動的に新支給率が適用されますが、それ以前に給付を受けていた方は自分でハローワークへ差額請求の申請を行う必要があります。
ポイント:遡及給付は「自動振込」ではありません。申請しないと受け取れない給付です。
対象となる主なケースは次の3パターンです。
- 2025年3月31日以前に育休を開始し、旧支給率(50%)で給付を受けていた方
- 育休期間が2025年4月1日をまたいで継続中の方(2025年4月以降の期間について差額請求)
- 2025年3月31日以前に育休・給付が終了しているが、終了から2年以内の方
支給率引き上げの背景|男性育休取得推進の施策
今回の支給率引き上げは、男性の育児休業取得率を高めるための国の施策の一環です。厚生労働省の調査では、男性の育休取得をためらう理由として「収入が大きく減少する」ことが上位に挙げられており、給付率の引き上げによって経済的ハードルを下げることが狙いです。
育児・介護休業法の改正と連動し、企業には育休取得の促進・周知義務も課されています。今後もこうした制度整備が続く見込みであり、制度の改正情報を定期的に確認することが重要です。
遡及給付の対象者判定チェックリスト
遡及給付対象者の基本要件5つ
遡及給付を申請するには、以下の5つの要件をすべて満たしている必要があります。
| 番号 | 要件 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| ① | 雇用保険の被保険者であること | 育休取得時点で雇用保険に加入していること |
| ② | 被保険者期間の充足 | 育休開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上あること |
| ③ | 一定期間の育児休業取得 | 連続して1ヶ月以上の育児休業を取得していること |
| ④ | 賃金要件の充足 | 育休中の賃金が、休業開始時賃金月額の20%を超えていないこと |
| ⑤ | 申請期限内であること | 給付終了日(または支給率変更日)から2年以内に申請すること |
対象となる労働者|3つのパターン別判定
パターン①:2025年3月31日までに育休を開始・終了した方
育休中に旧支給率(50%)が適用されていた全期間分について、差額(5%相当)を遡及給付として申請できます。給付を終了していても、終了日から2年以内であれば申請可能です。
例:2024年10月〜2025年2月に育休取得→2025年4月以降2年以内に差額申請可
パターン②:育休期間が2025年4月1日をまたいでいる方
育休が継続中で、2025年3月31日以前の期間について旧支給率で受給していた場合、2025年3月31日以前の期間分の差額を別途申請できます。2025年4月以降の期間は自動的に新支給率が適用されます。
例:2025年1月〜2025年7月まで育休取得→2025年3月31日以前の期間(1〜3月分)について差額申請
パターン③:2025年4月1日以降に新規で育休を開始した方
新支給率(55%)が自動的に適用されるため、遡及給付の申請は不要です。ただし支給申請書類の記載内容は従来と異なる部分があるため、ハローワークや会社の人事担当者へ確認しましょう。
対象外となる労働者|注意すべきケース
以下に該当する場合は、残念ながら遡及給付の対象外となります。
- 給付終了から2年を超えている場合:時効が成立しており申請できません
- 雇用保険の被保険者要件を満たしていなかった場合:アルバイトや短時間労働者で加入要件を満たしていなかったケース
- 育休中の賃金が20%超だった場合:事業主から一定以上の賃金を受け取っていた場合は給付対象外
- すでに180日(所定給付日数)分を受け取り、延長要件を満たしていない場合:給付上限に達していた方は差額計算の余地がないケースもあり
自分が対象か確認する3ステップ
迷ったときは以下の3ステップで確認しましょう。
ステップ1|育休の開始日・終了日を確認する
育休開始通知書や給与明細、育休給付金の通知書を手元に用意して、育休の期間を確認します。2025年3月31日以前が含まれているかどうかが重要です。
ステップ2|給付終了日から2年が経過していないか確認する
育休給付金の「支給決定通知書」に給付終了日が記載されています。終了日から2年以内であれば申請期限内です。
ステップ3|ハローワークまたは会社の人事担当者へ相談する
自己判断が難しい場合は、最寄りのハローワーク(公共職業安定所)へ直接相談するのが確実です。本人または事業主(会社)が代理で問い合わせることもできます。
差額給付金額の計算方法と受取額シミュレーション
差額給付の基本計算式
遡及給付で受け取れる差額は、旧支給率(50%)と新支給率(55%)の差である5%分です。計算式は以下のとおりです。
差額給付額 = 賃金日額 × 対象日数 × 5%
- 賃金日額:育休開始前6ヶ月の平均賃金を30で割った金額
- 対象日数:2025年3月31日以前に給付を受けた日数
具体的な計算シミュレーション
【シミュレーション①】月収30万円・育休6ヶ月(2024年10月〜2025年3月)のケース
| 項目 | 計算内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 賃金日額 | 300,000円 ÷ 30日 | 10,000円/日 |
| 旧支給額(50%) | 10,000円 × 50% × 180日 | 900,000円 |
| 新支給額(55%) | 10,000円 × 55% × 180日 | 990,000円 |
| 差額(遡及給付額) | 990,000円 − 900,000円 | 90,000円 |
【シミュレーション②】月収40万円・育休3ヶ月(2024年12月〜2025年2月)のケース
| 項目 | 計算内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 賃金日額 | 400,000円 ÷ 30日 | 約13,333円/日 |
| 差額(5%分) | 13,333円 × 5% × 90日 | 約60,000円 |
| 差額(遡及給付額) | — | 約60,000円 |
注意:賃金日額には上限額(雇用保険法施行規則に定める上限)があります。また、育休中に一定以上の賃金を受け取っていた場合は減額されるため、正確な金額はハローワークの計算によります。
差額が少ないと感じた場合の確認事項
差額が想定より少ない場合、次の点を確認しましょう。
- 育休中に事業主から賃金が支払われていたか(支給額が調整される場合あり)
- 賃金日額の計算基礎となる6ヶ月に特殊な賃金変動があったか
- 育休期間中に給付が停止された期間がないか
申請手続きの流れと必要書類
申請全体の5ステップ
【ステップ1】申請資格の確認
↓ 対象者要件のチェック
【ステップ2】必要書類の準備
↓ 会社・本人それぞれが用意
【ステップ3】ハローワークへの申請
↓ 事業主経由または本人申請
【ステップ4】ハローワークによる給付計算・支給決定
↓ 支給決定通知書の送付
【ステップ5】差額給付の口座振込
必要書類一覧
遡及給付の申請には、以下の書類が必要です。事業主(会社)が代理申請を行う場合と、本人が申請する場合で一部異なります。
事業主(会社)が用意する書類
| 書類名 | 内容・注意点 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書(差額分) | ハローワークの窓口または公式サイトから様式を入手。支給率変更前の期間を明記する |
| 賃金台帳(育休前6ヶ月分) | 賃金日額の算定基礎となる。月ごとの総支給額・控除額が確認できるもの |
| 出勤簿または勤怠記録 | 育休前6ヶ月の出勤日数を確認するために使用 |
| 育児休業取得確認書類 | 育休開始日・終了日が確認できる社内書類(育休届・雇用契約書の変更通知等) |
本人が用意する書類
| 書類名 | 内容・注意点 |
|---|---|
| 雇用保険被保険者証 | 被保険者番号が記載されたもの |
| 母子健康手帳(該当する場合) | 子の出生日を証明するために使用 |
| 銀行口座情報(振込先) | 通帳またはキャッシュカードのコピー(本人名義に限る) |
| 本人確認書類 | 運転免許証・マイナンバーカード等 |
| 旧支給決定通知書(写し) | 以前受給した際の支給決定通知書。差額計算の照合に使用 |
ハローワークへの申請方法
①事業主経由での申請(推奨)
多くの場合、会社の人事・総務担当者が申請窓口となります。事業主が必要書類を取りまとめ、管轄ハローワークへ申請します。申請後、支給は労働者本人の指定口座へ直接振り込まれます。
手続きの流れ:
1. 従業員(本人)から差額申請の意思確認を取得
2. 人事担当者が書類を準備し、管轄ハローワークへ申請書を提出
3. ハローワークから事業主宛に「支給決定通知書」が送付される
4. 従業員の指定口座へ差額が振り込まれる
②本人がハローワークへ直接申請する方法
会社が倒産・廃業している場合や、会社に申請を依頼できない事情がある場合は、本人が直接ハローワークへ申請できます。その際は、事業主が用意する書類の代替として賃金証明書の発行依頼をハローワークに相談してください。
③電子申請(e-Gov経由)
事業主が電子申請システム(e-Gov)を利用している場合は、オンラインで申請が可能です。電子申請の場合、書類の郵送が不要になりますが、電子署名の準備が別途必要です。
申請期限と注意事項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請期限 | 給付終了日(または支給率変更日である2025年4月1日)から2年以内 |
| 時効の起算日 | 各支給単位期間の末日翌日から進行 |
| 申請先 | 事業所の所在地を管轄するハローワーク |
| 支給決定後の振込 | 通常、申請受理から2〜4週間程度で口座振込 |
| 不支給の場合 | 通知書が送付される。内容に不服がある場合は審査請求が可能 |
企業の人事担当者が対応すべき実務ポイント
従業員への周知と差額申請のサポート
企業の人事担当者は、2025年4月以降、対象となる従業員に対して以下の対応を速やかに行う必要があります。
周知すべき従業員のリストアップ方法
- 過去2年間(2023年4月以降)に育児休業給付金を受給した従業員を抽出する
- 育休開始日が2025年3月31日以前の従業員を対象として特定する
- 個別に「遡及給付の対象となる可能性がある」旨を通知する
社内対応の優先順位
| 対応事項 | 優先度 | タイムライン |
|---|---|---|
| 対象従業員のリストアップ | 高 | 速やかに実施 |
| 対象者への個別通知 | 高 | リストアップ後1週間以内 |
| 必要書類の収集・整理 | 中 | 従業員と調整しながら |
| ハローワークへの申請 | 高 | 期限(2年以内)を意識して早期対応 |
| 支給決定通知書の保管 | 中 | 支給後に従業員へ写しを交付 |
申請漏れを防ぐチェックポイント
人事担当者が申請漏れを防ぐために確認すべき事項を以下にまとめます。
- ☐ 育休給付金受給履歴の一覧を作成したか
- ☐ 育休期間が2025年3月31日以前を含む従業員を全員特定したか
- ☐ 申請期限(2年以内)が迫っている従業員を優先対応しているか
- ☐ 育休中に賃金が支払われていた従業員の賃金額を確認したか(20%要件)
- ☐ 退職済みの元従業員への通知が必要かどうかを確認したか
- ☐ ハローワークに申請書の様式の最新版を確認したか
退職済み従業員への対応
退職後も、育休給付金の遡及申請権は本人に残ります。企業側は、在職中に受給履歴がある元従業員について、本人が申請を希望する場合に必要書類の発行に協力する義務があります。
賃金台帳・出勤簿などの書類を適切に保管しておくことは企業の法的義務(労働基準法第109条により5年間保存)でもあるため、退職者対応の書類準備もスムーズに行えます。
申請後の流れと差額振込日の目安
申請受理から振込までのタイムライン
ハローワークに申請が受理されてから差額給付が振り込まれるまでの標準的な流れは以下のとおりです。
申請書類提出
↓(即日〜3営業日)
ハローワークによる受付・審査開始
↓(1〜2週間)
支給額の計算・支給決定
↓(決定から5営業日以内)
支給決定通知書の郵送
↓(通知書送付から5〜7営業日)
差額の口座振込
振込時期の目安:申請から通常2〜4週間程度
ただし、書類の不備がある場合や、申請件数が集中する時期(制度改正直後など)には審査に時間がかかることがあります。申請後2週間を過ぎても連絡がない場合は、管轄ハローワークへ問い合わせましょう。
支給決定通知書の見方と保管
支給決定通知書には次の情報が記載されています。
- 支給された差額の金額
- 差額計算の基礎となった賃金日額
- 対象期間(支給単位期間)
- 振込予定口座
この通知書は税務申告や次回の育休取得時に参照することがあるため、少なくとも5年間は保管することを推奨します。
よくある疑問・トラブルシューティング
差額申請を検討している方から多く寄せられる疑問をまとめました。申請前にご確認ください。
Q1. 育休中に会社から給与の一部を受け取っていたが、差額申請できますか?
育休中に事業主から支払われた賃金が、休業開始時の賃金月額の20%以下であれば給付対象となります(20%超の場合は給付が減額または停止)。旧支給率で受給していた期間があれば、その期間分の差額を申請できます。詳細はハローワークに確認してください。
Q2. 会社が廃業・倒産していて、書類を用意してもらえません。どうすればいいですか?
ハローワークに相談することで、代替書類の提出や書類省略の手続きができる場合があります。雇用保険の電子記録(被保険者記録照会)を活用して、賃金日額の算定基礎を確認する方法もあります。
Q3. パートタイム労働者でも遡及給付の対象になりますか?
雇用保険の被保険者要件を満たしていれば、パートタイム・有期雇用労働者でも対象になります。育休開始前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上の月が12ヶ月以上あることが必要です。
Q4. 申請書はどこで入手できますか?
最寄りのハローワーク窓口で受け取るか、厚生労働省の公式ウェブサイトからダウンロードできます。「育児休業給付金支給申請書(差額申請用)」の様式を利用します。制度改正後の様式が更新されている場合もあるため、必ず最新版を使用してください。
Q5. 差額給付は課税対象になりますか?
育児休業給付金(遡及分を含む)は非課税所得です(所得税法第9条)。確定申告や年末調整で申告する必要はありません。ただし、住民税の算定上も原則として非課税扱いとなります。
Q6. 遡及給付の申請は何回でもできますか?
対象となる育休期間が複数ある場合(例:第1子・第2子それぞれで育休を取得)は、それぞれの給付期間について申請が必要です。同一の期間に対して2回申請することはできません。
Q7. 申請結果に不服がある場合、どうすればいいですか?
支給決定または不支給決定に不服がある場合は、決定通知書を受け取った日の翌日から3ヶ月以内に、都道府県労働局の雇用保険審査官へ審査請求を行うことができます(雇用保険法第69条)。
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まとめ|遡及給付申請のポイントを確認しよう
本記事の重要ポイントを整理します。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 支給率の変更 | 2025年4月1日より50%→55%(+5%) |
| 対象者の基本条件 | 雇用保険加入・被保険者期間充足・1ヶ月以上の育休取得 |
| 申請期限 | 給付終了日から2年以内(時効に注意) |
| 必要書類 | 申請書・賃金台帳・出勤簿・雇用保険被保険者証ほか |
| 申請先 | 事業所管轄のハローワーク(本人直接申請も可) |
| 差額の課税 | 非課税所得のため確定申告不要 |
| 振込目安 | 申請受理から2〜4週間程度 |
育休給付金の遡及給付は、申請しなければ受け取れない給付です。対象者の方は早めにハローワークまたは会社の人事担当者へ相談し、期限内に申請を完了させましょう。企業の人事担当者も、対象従業員への周知と書類準備のサポートを速やかに行うことが求められます。
給付金の額や申請手続きについてご不明な点がございましたら、最寄りのハローワークにお問い合わせいただくか、厚生労働省公式ウェブサイトにて最新情報をご確認ください。制度の詳細な法的根拠は、雇用保険法第61条の4、雇用保険法施行規則第109条〜第113条、および厚生労働省告示(支給率関連)をご参照ください。

