育休給付金と失業給付の併給調整【2025年改正版】

育休給付金

育休給付金と失業給付(基本手当)は同時に受け取れるのか——これは育休取得を検討している方や、育休後の転職・退職を考えている方から最も多く寄せられる疑問のひとつです。結論から言えば、両者は原則として併給できません。しかし2025年の雇用保険法改正によって、周辺のルールに重要な変更が加わりました。

本記事では、なぜ併給が認められないのかという法的根拠から、2025年改正の具体的な内容、申請手続き必要書類、さらに「育休終了後に失業給付を受けるには」という実務的な疑問まで、6,000字超のボリュームで徹底解説します。


育休給付金と失業給付はなぜ「同時受給できない」のか

「失業状態」の法的定義と育休の関係

失業給付(基本手当)を受け取るには、「失業状態」にあることが絶対条件です。雇用保険法第37条および雇用保険法施行規則第35条では、「失業」を次のように定義しています。

「被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態」

この定義を育休中の状態に当てはめると、問題がすぐに見えてきます。育休を取得している労働者は——

  • 離職していない(雇用契約が継続している)
  • 職業に就くことができない状態ではない(休業しているだけで、育休終了後は復職予定)

という2点で、失業の定義を満たしません。育休は「働く意思・能力を持ちながら、育児のために一時的に就業を休止している状態」であり、法的には就業可能な雇用状態が続いています。したがって、育休中に失業給付の受給要件を満たすことは構造的にあり得ないのです。

二重給付が認められない理由:制度の目的の違い

法律の目的という観点からも、両制度は明確に区別されています。

項目 育休給付金 失業給付(基本手当)
法的根拠 雇用保険法第61条の7 雇用保険法第37条・第10条
目的 育児休業中の所得を補償し、育休取得を促進する 離職者が次の職を見つけるまでの生活を保障する
対象者 雇用保険加入中の育休取得者 離職した雇用保険被保険者
受給状態 在職中(休業中) 離職後・求職活動中
主な財源 雇用保険の育児休業給付 雇用保険の失業等給付

育休給付金は「子育てをしながら雇用を継続できる社会をつくる」ための所得補償です。一方の失業給付は「職を失った人が生活を維持しながら再就職を目指す」ための支援制度。目的が根本から異なるため、同じ雇用保険の財源から二重に支払われることは制度設計上も許容されていません。


2025年改正で何が変わった?最新の併給調整ルール

2025年4月施行:育休給付金の給付率引き上げの概要

2025年4月1日施行の改正雇用保険法(令和6年法律第26号)により、育休給付金の給付率が引き上げられました。最も注目すべき変更点は以下のとおりです。

【改正前(〜2025年3月31日)】
– 育休開始から180日間:休業開始時賃金日額の67%
– 181日目以降:同50%

【改正後(2025年4月1日〜)】
– 育休開始から180日間:最大80%(条件あり)
– 181日目以降:同50%(変更なし)

「最大80%」になる条件は、男性が育休を28日以上取得すること(産後パパ育休・育児休業のいずれでも可)です。この条件を満たした世帯では、育休開始から180日間について、父母合算で実質的な手取り収入の約10割相当を確保できると厚生労働省は試算しています。

手取り額の試算例(月給30万円の場合)
– 改正前:30万円 × 67% ≒ 約20万円 + 社会保険料免除 ≒ 手取り約23万円
– 改正後(80%適用):30万円 × 80% ≒ 約24万円 + 社会保険料免除 ≒ 手取り約27万円

この引き上げは、育休取得中の所得水準を底上げし、失業給付との「差額」への不満を解消することも狙いのひとつとされています。

自己都合離職者の給付制限期間の短縮

2025年改正のもうひとつの重要変更点が、自己都合離職者に対する給付制限期間の見直しです。

【改正前】
正当な理由のない自己都合離職:給付制限期間 2か月(5年間で3回以上の場合は3か月)

【改正後(2025年4月1日〜)】
正当な理由のない自己都合離職:給付制限期間 1か月(原則)

これは育休・産休とどう関係するのか。たとえば育休終了後に復職せず退職した場合、従来は自己都合退職として2か月間は失業給付を受け取れませんでした。改正後はこの待機期間が1か月に短縮されたため、育休終了後に転職・退職を選んだ方の生活設計が立てやすくなりました

育休終了後の失業給付:受給期間延長制度の継続

育休中は失業給付を受け取れませんが、「受給期間の延長申請」という重要な救済措置は2025年以降も継続されています。

雇用保険の基本手当は、原則として離職の翌日から1年以内に受給しなければなりません。育休中は求職活動ができないため、この1年間があっという間に経過してしまう恐れがあります。

そこで雇用保険法第20条第1項但書では、育児・介護などのやむを得ない事情がある場合、最大4年間(原則1年+延長3年)まで受給期間を延長できると規定しています。

受給期間延長申請の手続きポイント
– 延長申請はハローワーク窓口または郵送で行う
– 申請期限:離職の翌日から2か月以内(2020年10月以降の離職者から緩和)
– 産前産後・育児休業のいずれかが終了した後、速やかにハローワークに求職申し込みを行う


申請手続きの流れと必要書類

育休給付金の申請フロー

育休給付金は、原則として事業主(会社)を経由してハローワークへ申請します。労働者本人が直接申請するケースは例外的です。

【STEP 1】育休開始の1か月前までに会社へ育休取得申し出
    ↓
【STEP 2】会社がハローワークへ「育児休業給付受給資格確認票・初回申請書」を提出
    (育休開始後2か月経過後の初回支給申請を兼ねる)
    ↓
【STEP 3】初回支給決定通知書が会社に届く
    ↓
【STEP 4】以後、支給単位期間ごと(原則2か月ごと)に定期申請
    ↓
【STEP 5】育休終了・復職後に支給終了

2025年4月の改正により、オンライン申請(e-Gov・マイナポータル連携)が一部ハローワークで拡大されました。事業主単位での電子申請が可能になった地域では、書類の郵送・窓口持参が不要になるケースもあります。担当ハローワークに確認してください。

初回申請時の必要書類

書類名 準備者 備考
育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書(雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書を兼ねる) 事業主・本人 ハローワーク所定様式(2025年4月版)
育児休業開始予定年月日申立書 本人 書面または電子
賃金台帳(育休前の賃金が確認できるもの) 事業主 育休開始前6か月分が目安
出勤簿またはタイムカードの写し 事業主 同上
母子健康手帳の写し(出生前)または戸籍謄本・住民票(出生後) 本人 子の存在の確認用
育児休業取得証明書(就業規則の関連条項が確認できるもの) 事業主 育休制度の存在確認

2回目以降(定期申請)の必要書類

書類名 備考
育児休業給付金支給申請書 2か月に1回申請が基本(1か月ごとも選択可)
賃金台帳(申請対象期間分) 育休中の就労がある場合は特に重要
出勤簿またはタイムカードの写し 育休中の就業状況確認用

申請期限の注意点

育休給付金の申請が遅延すると支給が遅れるため、期限管理が重要です。

  • 支給単位期間(2か月)の末日から4か月以内に申請(遅延すると不支給になる場合あり)
  • ハローワーク窓口の混雑状況によっては振込まで2〜3週間かかることもあるため、早期申請が推奨されます

育休給付金の計算方法:具体的な金額の求め方

賃金日額の算定

育休給付金の計算は「賃金日額」を基準に行われます。

賃金日額 = 育休開始前6か月間の賃金総額 ÷ 180

ここで言う「賃金」には、基本給・職務手当などの毎月支払われる賃金が含まれますが、ボーナス(賞与)は除かれます。

支給額の計算式

育休期間 給付率 1日あたり支給額
開始〜180日目(通常) 67% 賃金日額 × 67%
開始〜180日目(2025年改正・父母要件充足時) 80% 賃金日額 × 80%
181日目〜育休終了まで 50% 賃金日額 × 50%

賃金日額の上限・下限(2025年度)

  • 上限額(30歳未満):賃金日額 13,670円
  • 上限額(30歳以上45歳未満):賃金日額 15,190円
  • 上限額(45歳以上60歳未満):賃金日額 16,710円
  • 下限額(全年齢共通):賃金日額 2,869円

※上限・下限は毎年8月1日に改定されます。最新値は厚生労働省またはハローワークで確認してください。

具体的な計算例

前提:月給30万円・30歳・育休開始から180日以内・父母要件充足(80%適用)

  1. 賃金日額:300,000円 × 6か月 ÷ 180日 = 10,000円
  2. 1日あたり給付額(80%):10,000円 × 80% = 8,000円
  3. 1か月(30日)あたり支給額:8,000円 × 30日 = 240,000円

ただし育休中に一定以上の就労(80時間超または賃金が休業前比80%超)があった場合は支給が減額または停止されます。

失業給付(基本手当)の計算との比較

失業給付の基本手当日額は、「賃金日額 × 給付率(45〜80%)」で算出されます。給付率は離職時の賃金水準によって変動するため一概に言えませんが、同じ賃金水準の場合、2025年改正後の育休給付金(67〜80%)は失業給付と同等以上の給付率となっていることが多く、両者を足し合わせることへの「実需」は従来より低下していると言えます。


育休終了後に失業給付を受け取るための実務的な流れ

ケース別:育休後の失業給付受給パターン

ケース①:育休終了後に復職せず退職した場合

育休終了後に自己都合退職した場合は、ハローワークに離職票を持参して求職申し込みを行います。2025年改正で給付制限期間が2か月→1か月に短縮されたため、退職の翌日から約1か月後には基本手当の受給が開始できます。

ケース②:育休中に会社が倒産・解雇になった場合

育休中に会社都合で離職(会社倒産・整理解雇など)になった場合は、会社都合離職として扱われます。この場合は給付制限なしで失業給付を受給できます。育休給付金はその離職時点で支給終了となり、以後は失業給付へ切り替わります。

ケース③:育休前に離職していた場合(受給期間延長を利用)

育休取得前(産前産後休業前など)にすでに退職していた場合、育休を取得することはできません(雇用関係が終了しているため)。この場合、産後に求職活動が可能になった時点でハローワークに求職申し込みを行い、延長していた受給期間内であれば失業給付を受け取ることが可能です。

受給期間延長申請の具体的手続き

  1. 離職票をハローワークに持参(または郵送)
  2. 受給期間延長申請書に記入・提出
  3. 育休終了後、ハローワークに求職の申し込みを行い、失業認定を受ける
  4. 原則4週間ごとに失業認定日に出頭し、求職活動実績を報告
  5. 認定後、指定口座に基本手当が振り込まれる

申請に必要な主な書類

書類 備考
雇用保険被保険者離職票(1・2) 会社から受領
受給期間延長申請書 ハローワーク窓口で入手または厚労省サイトでダウンロード
延長理由を証明する書類 育休の場合は育児休業取得証明書など
本人確認書類(マイナンバーカード等) 写真付き身分証明書
印鑑・通帳(またはキャッシュカード) 振込口座の登録用

企業の人事担当者が押さえておくべきポイント

2025年改正による申請書類・システムの変更

2025年4月以降、ハローワークへの雇用保険関係手続きにおいて電子申請の推奨が強化されています。特に育児休業給付金の申請については、e-Govを通じた電子申請に対応している事業所では書面提出が不要になるケースが増えています。

人事担当者として確認すべき主な変更点は以下のとおりです。

  • 育児休業給付受給資格確認票の様式更新(2025年4月版に更新されているか確認)
  • パパ育休(産後パパ育休)の給付率80%適用のための証明書類の整備
  • 男性育休取得率の公表義務対象の拡大(常時雇用労働者300人超の企業が対象に。2025年4月〜)

社員への周知における留意点

人事担当者は、育休中の社員から「失業保険ももらえますか?」という誤った問い合わせを受けることがあります。その際の標準的な回答骨子は次のとおりです。

  • 育休中は雇用関係が継続しているため失業給付の受給資格なし
  • 育休終了後に退職する場合は、その時点で離職票を発行し、ハローワークで手続きを行う
  • 育休前にすでに退職している場合は受給期間延長制度の活用を案内する

まとめ:2025年改正の要点と実務対応チェックリスト

本記事の内容を整理します。

育休給付金と失業給付の併給は不可(法的根拠:雇用保険法第37条の「失業」定義)

2025年4月改正の主な変更点
– 育休給付金の給付率:最大80%(父母ともに育休28日以上取得が条件)
– 自己都合退職の給付制限期間:2か月→1か月に短縮
– 電子申請の拡大・様式更新

育休終了後に失業給付を受けるには
– 離職後、受給期間延長申請を忘れずに行う(期限:離職翌日から2か月以内)
– 育休終了後にハローワークで求職申し込みを行い、認定を受ける
– 2025年改正で給付制限期間が1か月に短縮されたため、自己都合退職後の生活設計が立てやすくなった

実務対応チェックリスト(労働者向け)
– [ ] 育休給付金の初回申請に必要な書類を会社と確認した
– [ ] 育休中の就労が80時間・賃金80%を超えないよう管理している
– [ ] 育休後に退職予定の場合、受給期間延長申請の期限を把握している
– [ ] 2025年改正の80%給付率の対象になるか(パートナーの育休取得計画)を確認した

実務対応チェックリスト(企業人事向け)
– [ ] 育児休業給付受給資格確認票を2025年4月版様式に更新した
– [ ] e-Gov電子申請への移行可否を確認した
– [ ] 産後パパ育休の取得実績の記録・証明書類の発行体制を整えた
– [ ] 男性育休取得率の公表義務対象か確認した(300人超の企業)

育休給付金と失業給付の関係は「原則、非常に明確」ですが、育休後の退職・転職時の受給設計や、2025年改正による給付率向上の恩恵を最大限に受けるためには、制度の細部まで理解しておくことが重要です。手続きに不安がある場合は、管轄のハローワークまたは社会保険労務士に相談することをお勧めします。


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よくある質問(FAQ)

Q1. 育休中にパート・アルバイトで働くと失業給付は受け取れますか?

育休中に就労した場合でも、雇用関係が継続している限り「失業状態」には該当しないため、失業給付は受け取れません。ただし、育休中の就労が1か月あたり80時間を超えた場合、または賃金が育休前比80%を超えた場合は、育休給付金も支給停止になります。育休中の就労時間管理には十分ご注意ください。

Q2. 育休中に会社が倒産しました。この場合でも失業給付はもらえませんか?

もらえます。会社都合での離職(倒産・解雇)の場合は、育休中であっても離職の事実が発生した時点で育休給付金の支給は終了し、それ以降は失業給付(基本手当)の受給申請が可能です。この場合は給付制限期間も設けられず、7日間の待機期間後から基本手当を受け取ることができます。

Q3. 育休前にすでに失業給付の受給資格ができていましたが、育休中に受け取ってもよいですか?

育休前にすでに離職していた場合(前職を退職後に新しい職場で育休を取る場合を除く)は、育休と失業給付が重複することはありません。ただし、前の会社を辞めてから現在の雇用関係がなく育休を取得している、という状況は原則として生じません。具体的な状況に応じてハローワークに確認することをお勧めします。

Q4. 2025年改正で給付率80%になるのはどんな条件ですか?

2025年4月1日以降に育休を開始した方が対象で、父母がともに育児休業を取得し、かつ父親(または非出産配偶者)が育休を28日以上取得することが条件です。この条件を満たす世帯では、育休開始から180日間について給付率が最大80%に引き上げられます。出産した側(母親)は単独でも67%が適用されますが、80%を受けるにはパートナーの育休取得が必要な点に注意してください。

Q5. 育休給付金を受けながら転職活動をしてもよいですか?

育休中の転職活動自体は法律上禁止されていませんが、転職先が決まり現在の職場を退職した時点で育休給付金の支給は終了します。なお、育休中に「いつでも働ける状態」として失業給付の求職申し込みを行うことは、育休の実態と矛盾するためできません。転職活動は育休終了後の退職を前提として進め、退職後にハローワークで手続きを行うのが正しい流れです。

Q6. 産後パパ育休(出生時育児休業)と通常の育休を連続取得した場合、給付はどうなりますか?

産後パパ育休(子どもの出生から8週間以内に最大4週間取得可能)と通常の育児休業を連続取得した場合、それぞれの期間に応じた育休給付金が支給されます。産後パパ育休期間分は「出生時育児休業給付金」として、その後の育休期間分は「育児休業給付金」として支給されます。給付率・上限額は両者とも同じ基準で計算されます。なお、産後パパ育休と通常育休を合算して28日以上取得すれば、パートナーの80%給付率適用要件を満たすことになります。

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