育休の開始日を「産後すぐ」や「なんとなく区切りのいい日」に決めていませんか?実は育休の開始日を1日ずらすだけで、育児休業給付金の受給総額が数万円単位で変わるケースがあります。
この記事では、育児休業給付金の計算の仕組みから、開始日が給付額に影響する核心メカニズム、具体的なシミュレーション、そして手続きの流れまでを社労士監修のもと詳しく解説します。損しない育休開始日の選び方を、ぜひ休業前に把握しておきましょう。
育休開始日が給付金額を左右する「本当の理由」
育児休業給付金は、育休開始前の給与実績をもとに支給額が決まります。ポイントは「どの月の給与が計算対象に含まれるか」です。開始日が1日違うだけで、算定対象となる賃金月が変わり、結果として給付基礎額=賃金日額が増減します。
具体的には、ハローワークは育休開始前の直近6ヶ月分の賃金を使って「休業開始時賃金日額」を算出します。このとき、賃金支払基礎日数が11日以上ある月のみがカウント対象です。育休の開始日をどこに設定するかによって「11日以上ある月」の組み合わせが変わり、賃金日額が高い月・低い月をどう拾うかが決まります。
ボーナスや繁忙期手当の多い月、残業代が高かった月が含まれるかどうかで、毎月の給付金が数千円〜数万円変わることがあり、育休期間全体では大きな差額になります。
育児休業給付金の計算式と賃金日額の求め方
育児休業給付金は雇用保険法第61条の4に根拠があり、計算式は以下のとおりです。
基本計算式
【1支給単位期間あたりの給付金】
賃金日額 × 支給日数 × 67%(育休開始から180日間)
賃金日額 × 支給日数 × 50%(181日目以降)
賃金日額の求め方
休業開始時賃金日額 = 育休前6ヶ月の賃金合計 ÷ 180
※「育休前6ヶ月」とは、賃金支払基礎日数が11日以上ある月を直近から6ヶ月分さかのぼったものです。
2025年時点の上限・下限額(目安)
| 区分 | 金額(1日あたり) |
|---|---|
| 賃金日額の上限 | 15,430円(67%適用時) |
| 賃金日額の下限 | 2,746円 |
| 1支給単位期間の上限(67%) | 約310,143円(30日換算) |
| 1支給単位期間の上限(50%) | 約231,450円(30日換算) |
※上限・下限額は毎年8月1日に改定されます。最新額はハローワークの公式サイトで必ず確認してください。
「賃金支払基礎日数11日以上」の月が対象になる理由
育児休業給付金の算定では、賃金支払基礎日数が11日に満たない月は除外されます(雇用保険法施行規則第74条)。これは「実態として働いていない月の給与で平均を歪めない」ための仕組みです。
月途中に育休を開始した場合、開始月自体が11日に満たない可能性があります。
たとえば月の25日に育休を開始した場合、その月の出勤は1〜24日の24日間となりますが、育休前の最終賃金月として「24日分の賃金」がカウントされます。一方、月の3日に開始した場合は「1〜2日の2日分」しか出勤がなく、その月は算定から除外されます。
この除外ルールにより、開始日をどこに置くかで「高賃金月」がカウントされるかどうかが変わります。賞与や残業代が多かった月が算定6ヶ月に含まれるかどうかが、最終的な給付額の差になって現れます。
月初・月末・月途中で開始するとどう違う?【シミュレーション比較】
実際に月給30万円・所定労働日数20日の正社員(育休期間1年間・180日ルール適用)を例に、3つのパターンで比較してみましょう。
前提条件
月給:30万円(固定給、残業代・賞与なし)
育休期間:1年間(365日)
支給率:最初の180日は67%、残り185日は50%
賃金日額の計算
賃金日額 = 30万円 × 6ヶ月 ÷ 180 = 10,000円
給付金総額の試算(標準パターン)
前半180日:10,000円 × 180日 × 67% = 1,206,000円
後半185日:10,000円 × 185日 × 50% = 925,000円
合計:2,131,000円
この標準パターンを基準に、開始日の違いがどう影響するかを見ていきます。
月の途中で開始した場合に損するケース(実例)
ケース:月途中(15日)開始
月の15日に育休を開始すると、開始月の1〜14日分(14日間)が中途半端に発生します。
- 14日分の出勤があれば賃金支払基礎日数11日以上となり、その月は算定に含まれます
- しかし「15日以降は育休」のため、その月の賃金は約14万円(30万円÷20日×14日)になります
- この低い月の賃金が算定6ヶ月に含まれると、賃金日額が下がります
【15日開始の場合の算定月(例)】
対象月:開始月(14日分=14万円)+前月+前々月…の6ヶ月
賃金合計 = 14万円 + 30万円 × 5ヶ月 = 164万円
賃金日額 = 164万円 ÷ 180 = 9,111円
給付金総額:
前半 9,111円 × 180日 × 67% ≈ 1,099,000円
後半 9,111円 × 185日 × 50% ≈ 842,000円
合計 約1,941,000円
標準パターン(2,131,000円)と比べると、約19万円の差が生じます。
ケース:月初(1日)または月末(末日)開始
- 月初1日開始:開始月はまるごと育休(賃金支払なし)→ 算定から除外 → 前月からの6ヶ月がフルにカウントされる
- 月末最終日開始:最終月の賃金がほぼフルに含まれる → 算定有利
つまり、月の最終日(または最終営業日)に育休を開始すると、直前月の満額賃金が算定6ヶ月に入り、給付基礎額が最大になります。
| 開始パターン | 算定への影響 | 給付金総額(目安) |
|---|---|---|
| 月末(最終日)開始 | 最終月の満額が算定に含まれる | 最大(約213万円) |
| 月初(1日)開始 | 開始月が除外され前月以前で算定 | やや低下の可能性 |
| 月途中(15日)開始 | 半月分の低賃金月が算定に混入 | 最大で約19万円減 |
※金額はあくまで試算です。実際の給付額は給与構成・残業代・賞与・社会保険控除後の賃金額によって異なります。
高収入・低収入別で変わる最適開始日の目安
月収が高い人(月収40万円超)
賃金日額の上限(2025年時点で約15,430円/日)に達する可能性が高く、上限を超えた分はカットされます。この場合、開始日をずらしても給付額は変わらないケースがあります。高収入の方は「いつから社会保険料が免除されるか」を重視して開始日を決めるほうが有利なこともあります。
社会保険料(健康保険・厚生年金)は、育休開始月から終了翌月まで免除されます(健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条の2)。月末に1日だけ育休を取得しても、その月の社会保険料は免除対象となります。
月収が低い人(月収20万円以下)
賃金日額の下限ラインに近い場合、算定月の組み合わせを変えても給付差はわずかです。それよりも育休期間中の就業規則・職場の雰囲気・保育園の入園タイミングを優先して開始日を決める方が現実的です。
月収が中程度(月収20〜40万円)
この層が最も開始日の影響を受けやすい層です。残業代・手当が多い月、少ない月を把握し、直近6ヶ月の中に高賃金月をできるだけ多く含めるように開始日を設計することをおすすめします。
損しない育休開始日を決める3つのステップ
ステップ1:直近12ヶ月の賃金明細を確認する
まず、過去12ヶ月分の給与明細を用意してください。残業代・各種手当・賞与(育児休業給付の賞与は通常算定に含まれません)を含む月ごとの「総支給額」を月別に並べます。
確認ポイント:
・残業代が多い月はどこか
・産前休業取得で欠勤・時短になった月はないか
・給与カットや昇給があった月はないか
ステップ2:産前休業の終了日と育休開始可能日を把握する
出産後に育休を取得する場合、産後休業(出産翌日から8週間)が強制休業となります(労働基準法第65条第2項)。育休の開始は原則として産後休業終了翌日以降です。
【出産日から育休開始可能日までの計算】
出産日(例:4月10日)
→ 産後休業:4月11日〜6月4日(56日間=8週間)
→ 育休開始可能日:6月5日以降
ステップ3:賃金日額が最大になる開始日をシミュレーションする
育休開始可能日が確定したら、「その日から直近6ヶ月」を複数パターンでシミュレーションします。
【シミュレーション例】
育休開始を6月30日に設定した場合:
→ 算定6ヶ月:1月・2月・3月・4月(産前休業含む)・5月・6月(満額)
育休開始を7月1日に設定した場合:
→ 算定6ヶ月:1月・2月・3月・4月・5月・6月(満額)
→ どちらも6ヶ月の中身は変わらないが、
産前休業で賃金支払基礎日数11日未満の月がある場合は
さらに前の月に自動的にさかのぼって補充されます。
迷ったら「月末最終日開始」を基本にするのが最も安全です。直前月の満額賃金が確実に算定に含まれ、かつ社会保険料免除のメリットも同月に得られます。
手続きの流れと必要書類
育休を取得するまでの申請ステップ
育休申請(育休開始日の1ヶ月前まで)
従業員から会社へ提出する書類:
- 育児休業申出書(会社所定様式。法定様式は育児・介護休業法施行規則第5条に基づく)
- 母子健康手帳の写し(出生前申請の場合)または出生証明書の写し(出生後)
- 育休終了予定日が記載された書類
申出期限:育休開始希望日の1ヶ月前まで(出生時育児休業=産後パパ育休は2週間前まで)。ただし出産が予定日より早まった場合は、できるだけ早く申し出れば認められます。
ハローワークへの給付金申請(育休開始日から2ヶ月以内)
会社がハローワークへ提出する書類:
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | 会社が作成 |
| 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書 | 会社が作成 |
| 賃金台帳(直近6ヶ月以上分) | 会社が用意 |
| 出勤簿・タイムカード | 会社が用意 |
| 育児休業申出書の写し | 従業員提出分をコピー |
| 住民票・母子健康手帳の写し等(子の出生確認書類) | 従業員から収集 |
初回の申請は育休開始日から2ヶ月後の翌日から5営業日以内が申請期限の目安です(雇用保険法施行規則第101条の13)。実務上、多くの会社は人事担当者が一括して手続きします。
2回目以降の申請
初回申請以降は原則2ヶ月ごとに支給申請を行います。ハローワークから「次回申請日」が記載された支給決定通知書が届くため、それに従って手続きを進めます。
産後パパ育休(出生時育児休業)での注意点
2022年10月から施行された産後パパ育休(出生時育児休業)は、子の出生後8週間以内に父親が最大4週間(28日)取得できる制度です(育児・介護休業法第9条の2)。
給付金は出生時育児休業給付金として支給され、計算方式は通常の育児休業給付金と同様(67%または50%)。ただし以下の点が異なります。
【産後パパ育休の特徴】
・申請期限:育休開始の2週間前まで(原則)
・分割取得:2回に分割して取得可能
・休業中の就業:労使協定により一定の就業が認められる
・給付金への影響:就業日数が一定以上になると給付金が減額または支給停止
産後パパ育休の開始日についても同様に、賃金日額への影響があります。出産直後に連続取得する場合、月末をまたぐ形で設計すると社会保険料の免除メリットも得やすくなります。
よくある質問と誤解
Q1. 育休開始日は自分で自由に決めていいの?
はい、育児・介護休業法第5条に基づき、従業員には育休開始日の指定権があります。会社は原則として従業員が希望した日から1ヶ月以内であれば、開始日を繰り下げ交渉できますが、従業員の同意なく変更することはできません。産後休業終了翌日以降であれば、原則として希望日から取得できます。
Q2. 月末育休開始にすると、その月の給与はどうなる?
月末最終日1日だけ育休を取得した場合、給与は「最終日のみ欠勤扱い」となり、ほぼ満額が支払われます。かつ社会保険料はその月分が免除されます(月末時点で育休取得中が条件)。つまり「給与はほぼ満額もらえて社会保険料も免除」という、非常に有利なタイミングになります。
Q3. 育休中に給与が一部支払われると給付金はどうなる?
育休中に会社から賃金が支払われた場合、その額によって給付金が減額または停止されます。具体的には「休業前賃金の80%以上」が支払われると給付金は支給停止、「13%〜80%未満」の場合は給付金が一部減額されます(雇用保険法第61条の4第4項)。
Q4. 有期契約労働者でも育休・給付金は取得できる?
2022年4月の法改正により、有期契約労働者の「同一事業主に1年以上雇用されている」という要件が撤廃されました。現在は、育休終了予定日の翌日から1年以内に労働契約が満了し、かつ更新されないことが明らかでない場合には取得が可能です(育児・介護休業法第5条第1項ただし書)。
Q5. 申請期限を過ぎてしまったら給付金はもらえない?
申請期限(育休開始から2ヶ月後の翌日から5営業日以内)を過ぎても、やむを得ない理由がある場合は遡って申請できるケースがあります。ハローワークに相談してください。ただし期限を大幅に超えると受給が難しくなるため、早期の対応が重要です。
Q6. 育休開始日をずらすことで社会保険料の免除期間は変わる?
社会保険料の免除は「育休開始月から終了翌月まで」が対象です。月末に育休を開始した場合、その月の社会保険料が免除されます。つまり月末開始は「給与はほぼ満額+保険料免除」で二重にお得になります。
まとめ:損しない育休開始日のポイント
- 賃金日額は「育休前6ヶ月の賃金÷180」で計算される。高賃金月を6ヶ月に含めるのが基本戦略
- 賃金支払基礎日数が11日未満の月は算定除外。月途中開始で端数月が生じると、低額月が混入して給付金が下がる
- 月末最終日に育休を開始するのが最も確実。直前月の満額賃金が算定に含まれ、かつ当月の社会保険料も免除される
- 高収入者は上限額に達するため開始日の影響が小さい。社会保険料免除を重視する設計が有利
- 申請期限は育休開始から2ヶ月以内。会社の人事担当者に早めに相談を
育休開始日の最適化は「制度を賢く使う」ための正当な意思決定です。給与明細と出産予定日を手元に、早めにシミュレーションしておきましょう。
免責事項:本記事の給付金額・上限額・手続き期限は2025年時点の情報をもとにしています。制度は毎年改定されることがあるため、最新情報はハローワークまたは社会保険労務士にご確認ください。

