転籍・出向中の育休給付金継続条件と申請手続き【2026年版】

転籍・出向中の育休給付金継続条件と申請手続き【2026年版】 育児休業制度

育休中に転籍や出向を命じられた——そんな状況に直面したとき、「育児休業給付金はこのまま受け取り続けられるのか」という不安が頭をよぎるのは当然です。結論から言えば、転籍と出向では給付金への影響が180度異なります。正しく理解しないまま手続きを進めると、給付が突然打ち切られるリスクも生じます。

本記事では、育休中の転籍・出向に関する法的根拠から給付継続の4要件、申請手続きの実務まで、担当者・本人双方の視点で徹底解説します。


育休中の転籍・出向で給付金はどうなる?まず知るべき基本の仕組み

転籍と出向の違い——給付金への影響がなぜ180度変わるのか

育児休業給付金の継続可否を判断するうえで、まず押さえなければならないのが「転籍」と「出向」の法的な違いです。この2つは日常会話では曖昧に使われることがありますが、労働法の観点では雇用契約の所在という点で根本的に異なります。

【転籍と出向の法的対比】

転籍(転籍型出向)
  元会社との雇用契約:【終了】
  新会社との雇用契約:【新たに締結】
  → 元の会社との法的関係が完全に切れる

在籍型出向
  元会社との雇用契約:【存続】
  出向先との関係:【出向契約(指揮命令関係)のみ】
  → 元の会社との法的関係は継続する

育児休業給付金は雇用保険法第61条の4に基づき支給されます。受給のベースとなる雇用保険被保険者資格は、元の会社との雇用契約に紐づいているため、契約が終了する転籍では原則として給付が打ち切られます。一方、元会社との雇用契約が存続する在籍型出向では、一定の要件を満たす限り給付を継続できます。

この「雇用契約の所在」こそが、給付継続の可否を分ける最も重要なポイントです。


育児休業給付金の基本受給要件(転籍・出向前に確認すること)

転籍・出向後の継続判定に入る前に、まず基本的な受給資格を整理しておきましょう。育児休業給付金を受け取るためには、以下の要件をすべて満たす必要があります(雇用保険法第61条の4・雇用保険法施行規則第99条)。

要件 内容 注意点
雇用保険被保険者 雇用保険に加入していること 週20時間未満の短時間労働者は対象外
前2年間12ヶ月要件 休業開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上あること 会社都合の休業期間は算定外になる場合あり
子の年齢 育休取得時に子が1歳未満(最大2歳まで延長可) 保育所に入れない等の理由が必要
就労していないこと 休業期間中、就労日数が月10日以下(または就労時間80時間以下) 出向先での就労は「就労」に該当する

転籍・出向が発生すると、これらの要件のうち特に「雇用保険被保険者であること」と「就労していないこと」の判定が複雑になります。それぞれについて以下で詳述します。


在籍型出向の場合——給付金が継続できる4つの判定要件

厚生労働省の在籍型出向ガイドライン(2020年版)では、在籍型出向中の労働者に関する雇用保険・社会保険の扱いについて指針が示されています。育児休業給付金の継続可否は、以下の4要件をすべて満たしているかどうかで判断します。

要件 確認内容 育休給付への影響
①出向命令権の所在 元会社(出向元)が出向を命令できるか 元会社に権限があれば継続可能
②雇用契約の存続 元会社との雇用契約が続いているか 契約存続が給付継続の必須条件
③給与負担割合 元会社が基本給の50%以上を負担しているか 給付金計算の基準額に影響する
④社会保険の一本化 元会社の社会保険に継続加入しているか 二重加入は禁止。元会社一本化が原則

要件①②:出向命令権と雇用契約の存続確認

要件①:出向命令権が元会社にあること

在籍型出向として認められるためには、元の会社が就業規則や労働契約書に基づく「出向命令権」を有している必要があります。出向命令は、労働者の同意または就業規則上の根拠がある場合に適法となります(労働契約法第14条)。

確認すべき書類:
– 就業規則の出向規定
– 出向命令書(元会社発行)
– 労働者への出向同意書

ケース例①(OK):就業規則に「会社は業務上の必要に応じ、従業員に出向を命ずることができる」と規定があり、本人も署名済みの出向同意書がある。→ 命令権あり、継続可

ケース例②(NG):就業規則に出向規定がなく、口頭でのみ出向が告げられた。→ 出向の適法性自体が疑問であり、要確認

要件②:元会社との雇用契約が存続していること

元会社との雇用契約書に「出向期間終了後は元の職場に復帰する」旨が記載されているか、または出向協定書・出向契約書に復帰条件が明記されていることが重要です。

注意が必要なのは、名目上は「出向」であっても、復帰規定がなく実態が転籍化しているケースです。以下のような状況が重なる場合、ハローワークが「実質的転籍」と判断し、給付資格を喪失する可能性があります。

  • 出向期間が無期限
  • 元会社への復帰予定が就業規則・出向契約のいずれにも記載がない
  • 元会社が実質的に経営から撤退しており、雇用関係のみが形式上残っている

要件③④:給与負担50%ルールと社会保険の二重加入禁止

要件③:給与負担50%以上(給付金計算への影響)

育児休業給付金の給付額は、休業開始前6ヶ月の賃金を基準に算出されます。2025年4月の改正により、給付率と算定基準が一部見直されています。出向中に給与の負担割合が変わった場合、給付額の算定基礎にも影響する可能性があります。

【給付金計算の基本式(参考値)】

給付基礎額 = 休業開始前6ヶ月の賃金合計 ÷ 180日

給付金額(6ヶ月まで)= 給付基礎額 × 67%
給付金額(6ヶ月超)= 給付基礎額 × 50%

※2025年4月改正により、給付率・支給期間に見直しがあります。
最新の給付率は管轄ハローワークまたは厚生労働省の最新告示をご確認ください。

出向中であっても、元会社が基本給の50%以上を負担していれば、育休給付金の算定基準は従来どおり維持されます。出向先が負担している部分については、「出向先からの受入れ賃金」として扱われ、給付金計算から除外される場合があります。人事担当者は、出向協定書で負担割合を明文化しておくことが不可欠です。

要件④:社会保険は元会社一本化が原則

雇用保険・社会保険(健康保険・厚生年金)は、二重加入が法律上禁止されています。在籍型出向の場合、どちらの会社で社会保険に加入するかは「主たる賃金を受ける会社」で判断します。育休中は元会社での加入維持が原則です。

重要な注意点として、出向先でも一定時間以上の就労が見込まれる場合(育休から復帰後など)、社会保険の加入先をどちらにするかを事前にハローワーク・年金事務所に確認しておく必要があります。育休中は「就労がない」状態であるため、出向先での社会保険加入は発生しません。


給付継続OKのケース・NGのケース一覧チェック

実務でよく発生するケースを整理しました。判断に迷う場合は必ずハローワークに事前照会してください。

✅ 給付継続OKのケース

ケース 条件
グループ会社への在籍型出向(育休中) 元会社との雇用契約存続・出向命令書あり・元会社が50%以上負担
出向先が変更になった(出向先変更) 元会社との雇用契約は変わらず、出向先のみ変更
出向期間が延長された(3年以内) 元会社との雇用契約存続・復帰規定が書面化されている
産休→育休の切替え時に出向が発令された 出向命令書の日付・雇用契約存続を書面確認の上、ハローワーク事前照会

❌ 給付継続NGのケース(給付資格喪失リスク)

ケース 理由
転籍(元会社との雇用契約終了) 雇用保険被保険者資格が喪失し、新会社で再加入が必要
出向先で実際に就労している 「就労日数が月10日超」に該当し、給付要件を満たさない
元会社が給与負担をゼロにした 実質的に雇用関係が形骸化し、転籍同等と判断される可能性
出向期間が無期限・復帰規定なし 実質的転籍とみなされる可能性あり
出向先で新たに雇用保険に加入 元会社での被保険者資格との重複が問題となる

転籍が発生した場合の給付金の扱いと手続き

転籍時は原則として給付金が打ち切られる

転籍とは、元会社との雇用契約を終了し、新会社と新たな雇用契約を結ぶことです。この時点で、元会社における雇用保険被保険者資格が喪失します。

育児休業給付金は元会社での雇用保険に基づき支給されているため、転籍と同時に給付は打ち切られます。これは、転籍が労働者本人の意思によるものであっても、会社都合によるものであっても同様です。

【転籍時の手続きフロー(人事担当者向け)】

元会社:
  ① 雇用保険被保険者資格喪失届を提出(喪失日から10日以内)
  ② 離職票(育休中のため、通常とは記載が異なる)の発行
  ③ 育児休業給付金支給申請の終了手続き

新会社:
  ① 雇用保険被保険者資格取得届を提出(取得日から10日以内)
  ② 新会社での育休取得申請(育児・介護休業法に基づく申請を新会社に再提出)
  ③ 新会社での育児休業給付金受給資格の再確認
     ※ 被保険者期間の通算規定に注意(詳細は次項)

転籍後に育休給付金を再受給するための「被保険者期間通算」

転籍後に新会社で育児休業給付金を受給するためには、新会社での雇用保険加入だけでは足りません。新会社での被保険者期間が12ヶ月に満たない場合でも、元会社での被保険者期間を通算できる場合があります。

通算が認められる主な条件(雇用保険法施行規則第99条関連):

  • 元会社での離職から新会社の資格取得までの間が1年以内
  • 元会社での離職が自己都合・定年等でないこと(転籍の場合は会社都合に準じて扱われる場合がある)
  • 新会社での育休開始時点で基本要件を満たしていること

⚠️ 重要:通算規定の適用可否はケースバイケースです。必ず新会社の管轄ハローワークに事前確認してください。


出向・転籍時の申請手続きと必要書類

在籍型出向中の育休給付金継続手続き(出向元担当者向け)

在籍型出向中に育休を継続する場合、原則として出向元の会社が申請手続きを行います

必要書類一覧

書類 取得先・作成者 備考
育児休業給付金支給申請書 ハローワーク指定様式 2ヶ月ごとに提出
出向命令書(写し) 元会社作成 出向の事実証明
出向協定書(写し) 元会社・出向先間で締結 給与負担割合・復帰条件の確認
賃金台帳(直近6ヶ月分) 元会社 出向先負担分と区別して記載
育児休業申出書(写し) 労働者→元会社提出分 育児・介護休業法第5条に基づく申出
出生証明書または母子手帳写し 労働者 子の出生確認
雇用保険被保険者証 元会社保管 被保険者番号の確認

申請スケジュール

【育休開始から最初の申請まで(在籍型出向の場合)】

育休開始日
  ↓(2ヶ月後)
第1回支給申請期間(開始から2ヶ月後の末日翌日から4ヶ月後の末日まで)
  ↓
ハローワークに申請書類一式を提出(出向元が行う)
  ↓(約2週間後)
給付金振込(本人の口座に直接振込)

申請を失念すると給付が遅延します。出向発令後は速やかにハローワークへ状況を報告し、担当窓口に申請方法を確認することをおすすめします。


転籍時の雇用保険移管手続き(緊急対応が必要)

転籍が決定した場合、育休中であっても雇用保険の移管手続きは通常と同じタイムラインで進めます。手続きが遅れると給付金の空白期間が生じるため、転籍日が決まった段階で早急に対応してください。

手続きチェックリスト

【元会社が行う手続き(転籍日以降10日以内)】
□ 雇用保険被保険者資格喪失届の提出
□ 雇用保険被保険者離職証明書の作成(育休中は「その他」扱いになる場合あり)
□ 育児休業給付金の支給終了手続き(ハローワークへ通知)
□ 育休取得者への離職票交付

【新会社が行う手続き(転籍日以降10日以内)】
□ 雇用保険被保険者資格取得届の提出
□ 新会社での育児休業申出書の受理(労働者から再提出してもらう)
□ 新会社の管轄ハローワークへの状況説明・事前照会
□ 育児休業給付金受給資格の新規申請

【労働者本人が行うこと】
□ 新会社への育児休業申出(書面)
□ 受給口座の確認(変更がある場合は申告)
□ 被保険者期間通算の希望がある場合、ハローワークへ申し出

担当者・労働者が知っておくべき法的根拠と注意事項

関連法令の整理

本記事で解説した内容に関連する主な法的根拠を整理します。手続き時や社内方針の策定時にご参照ください。

法令・ガイドライン 該当条文・内容
育児・介護休業法 第5条 育児休業の申出・対象者の定義
育児・介護休業法 第10条 育休申出を理由とした不利益取扱いの禁止
雇用保険法 第61条の4 育児休業給付金の支給要件
雇用保険法施行規則 第99条 給付金の継続支給要件・申請方法
労働契約法 第14条 出向命令の適法性要件
在籍型出向ガイドライン(厚労省2020年版) 出向中の雇用保険・社会保険の扱い

よくある見落とし・トラブル事例

①「名目上の在籍出向」が転籍認定されるケース

元会社が実質的に解散・縮小しており、出向先への移管が既定路線になっている場合、ハローワークが実態調査の結果「転籍と同等」と判断することがあります。書面上の雇用契約存続だけでは不十分で、実態の確認が重要です。

②出向先での「研修参加」が就労と見なされるケース

育休中に出向先での研修・業務説明会に参加した場合、「就労」と見なされ給付要件(就労日数10日以下)を超えてしまう可能性があります。育休中は出向先からのいかなる業務要請にも応じないよう、事前に双方で確認しておきましょう。

③転籍直後の新会社での育休申出が遅れるケース

転籍後、新会社に育児休業申出書を提出し直すことを失念するケースがあります。育児・介護休業法上、育休は会社ごとの申出が必要です。元会社での申出は新会社には引き継がれません。転籍日以降は速やかに新会社への再申出を行ってください。


よくある質問(FAQ)

Q1. 出向中に育休を開始した場合、申請はどこに行けばいいですか?

A. 在籍型出向の場合、雇用保険の被保険者資格は元会社(出向元)にあります。申請手続きは出向元の会社が管轄ハローワークに対して行います。出向先の会社は申請主体になりません。


Q2. 転籍したばかりで新会社での雇用保険歴が短い場合、給付金はもらえませんか?

A. 元会社での雇用保険被保険者期間を通算できる場合があります。通算により「前2年間12ヶ月要件」を満たせるかどうかは、新会社の管轄ハローワークに確認してください。転籍から1年以内であれば通算が認められる可能性が高くなります。


Q3. 育休中に会社が倒産し、転籍を余儀なくされました。給付金はどうなりますか?

A. 会社倒産による雇用契約終了の場合も、雇用保険被保険者資格は喪失します。ただし、元会社が指定した清算人や雇用保険センターを通じて、被保険者期間の記録を保全する手続きが可能です。早急に最寄りのハローワークに相談し、特定受給資格者への該当可否も含めて確認することをお勧めします。


Q4. 出向先で月8日だけ研修に参加しました。給付金に影響しますか?

A. 就労日数が月10日以下(または就労時間80時間以下)であれば、給付要件の「就労していないこと」は満たされます。ただし、研修の内容・目的・指揮命令関係によっては「就労」と見なされるグレーゾーンもあります。参加前にハローワークに事前確認することを強く推奨します。


Q5. 出向先が海外子会社の場合、給付継続の条件は変わりますか?

A. 国内勤務と異なり、海外での就労は雇用保険の適用除外となるケースがあります。海外出向中は雇用保険被保険者資格を喪失する場合があり、育休給付金の継続は原則として困難です。ただし、元会社が国内に残留して雇用契約・給与支払いを継続している場合は例外的に継続が認められることもあります。必ずハローワークと社会保険労務士に事前相談してください。


Q6. 在籍型出向中に第二子の育休を取得したいと思います。手続きは同じですか?

A. 基本的な手続きの流れは同じですが、第一子育休中に出向が発令された場合と、第二子育休の申出時点で既に出向中の場合では、育休開始時期や被保険者期間の算定に差異が生じる可能性があります。特に育休の「前2年間12ヶ月要件」の起算点に注意が必要です。出向元の担当者と連携の上、ハローワークに照会してください。


まとめ:転籍・出向時の育休給付金継続のポイント

本記事の要点を最後に整理します。

【確認すべき3つのポイント】

1. 転籍か出向かを正確に判定する
   → 雇用契約が終了するなら転籍(給付打ち切り)
   → 雇用契約が継続するなら在籍型出向(4要件の確認へ)

2. 在籍型出向の4要件をすべて確認する
   → 出向命令権・雇用契約存続・給与50%負担・社会保険一本化

3. 手続きを早期に・正確に行う
   → 転籍時は10日以内の雇用保険移管手続きが必要
   → 育休中の就労(研修含む)は事前にハローワーク確認

育休中の転籍・出向は、本人にとっても人事担当者にとっても手続きが複雑です。判断に迷う場面では、管轄のハローワーク・社会保険労務士への早期相談が最大のリスク回避策となります。給付金の空白期間を生じさせないよう、転籍・出向が決定した段階で速やかに行動してください。


その他の育休制度に関する関連記事

本記事で解説した転籍・出向時の給付金継続以外にも、育休制度に関する多くの疑問や手続きがあります。以下の記事も併せてご確認ください。より詳細な情報により、育児支援制度を最大限に活用できます。


免責事項:本記事は2026年版として作成していますが、雇用保険法・育児・介護休業法の改正により内容が変更となる場合があります。最新の情報は厚生労働省公式サイトまたは管轄のハローワークでご確認ください。

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