育休中に「給与と育児休業給付金が同じ月にどちらも入金された」というケースは、復帰月や育休開始月に意外と多く発生します。こうした状況は「二重支給」と呼ばれ、超過分の返納が必要になる場合があります。しかし、どの金額が対象になるのか、どのように計算するのか、そして実際に返納が必要なのかどうか、正確に理解できている方は多くありません。
本記事では、育休給付金と給与が同一月に重複した場合の返納ルール・計算方法・手続きを、法的根拠とともにわかりやすく解説します。「自分は返納が必要なのか」を確認したい方も、人事担当者として制度を把握したい方も、ぜひ最後までお読みください。
育休給付金と給与の「二重支給」とはどういう状態か
二重支給が起きる仕組み
育児休業給付金(以下「育休給付金」)は、雇用保険法第61条の4に基づき、育児休業を取得した雇用保険被保険者に対して支給される給付金です。制度の趣旨は、休業中の生活を経済的に支えることにあります。
ここで重要なのは、育休給付金が「就業を予定していない期間」に対する保障であるという点です。同一の期間に給与と給付金の両方が支払われると、「生活保障の重複」が生じます。これが調整が必要とされる根本的な理由です。
育休給付金は支給単位期間(原則として1か月単位)ごとに支給されます。この期間内に賃金(給与)が発生すると、給付金との合計が一定の水準を超えないよう、給付金が減額または支給停止される仕組みになっています。
制度の根拠となる主な法令は以下のとおりです。
| 法令 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険法 第61条の4 | 育休給付金の支給要件・計算方法の根拠 |
| 雇用保険法施行規則 第75条〜第75条の23 | 具体的な支給手続き・減額ルール |
| 育児・介護休業法 第22条 | 育休中の待遇に関する規定 |
二重支給が起きやすい4つの具体的シチュエーション
育休給付金と給与が同一月に重複しやすいパターンは、大きく以下の4つに整理できます。自分のケースに当てはまるものがないか確認してみてください。
① 月の途中で育休から復帰したケース
最も多いのが、月の途中(たとえば15日)から職場復帰したケースです。この場合、月の前半は育休中(給付金の対象期間)、後半は就業(給与の発生期間)となり、同一月に給付金と給与の両方が発生します。
② 育休開始当月に給与が支払われたケース
月の途中(たとえば16日)から育休を開始した場合、同月の前半は就業していたため給与が発生します。後半は育休期間となるため給付金の計算対象となり、同一月内で重複が生じます。
③ 育休中に在宅勤務・副業収入があったケース
育休中であっても、会社が認めた範囲での「育休中就業」や、個人として受け取った業務委託報酬・副業収入がある場合、これらは「賃金」として扱われ、給付金の調整対象になります。
④ 研修講師料などの報酬を受け取ったケース
育休中にオンライン研修の講師を務めた場合の謝礼や、社内の勉強会に参加して受け取った手当なども、賃金と判断されれば調整対象となります。「ちょっとした謝礼だから関係ない」と見過ごしがちですが、申告漏れは不正受給とみなされるリスクがあるため注意が必要です。
ボーナス・賞与は給付金に影響するか
育休中に会社からボーナス(賞与)を受け取った場合、原則として育休給付金の減額調整の対象にはなりません。
これは、雇用保険法における「賃金」の定義が、毎月支払われる定期的な賃金を指しており、3か月を超える期間ごとに支払われる賞与は支給単位期間の「賃金」に含まれないと整理されているためです。
ただし、以下の例外ケースには注意が必要です。
- 賞与を毎月分割支給している場合:実質的に月例賃金とみなされ調整対象となる可能性があります
- 賞与を育休期間に比例削減しない形で支給している場合:個別の判断が必要です
不明な場合は、ハローワークまたは社会保険労務士に確認することを強くおすすめします。
二重支給が発生した場合の「減額・返納ルール」の仕組み
80%ルールの計算式と具体例
育休給付金の減額・返納は、「賃金月額の80%」を超えない範囲に給付金を抑えるルール(以下「80%ルール」)に基づいています。
まず、基本となる用語を整理します。
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| 休業開始時賃金日額 | 育休開始前6か月の賃金の合計 ÷ 180日で算出した1日あたりの賃金 |
| 賃金月額 | 休業開始時賃金日額 × 30日(月換算した基準額) |
| 支給単位期間 | 給付金が計算される1か月単位の期間 |
| 通常給付率 | 育休開始から180日まで67%、181日以降は50% |
給付金の基本支給額の計算式
給付金支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 給付率(67%または50%)
80%ルールの計算式
(受け取った賃金額 + 給付金支給額)÷ 賃金月額 ≦ 80%
この80%を超えた場合、超えた分だけ給付金が減額されます。
【モデルケース①:月途中(15日)で復帰したケース】
- 休業開始時賃金日額:10,000円
- 賃金月額:10,000円 × 30日 = 300,000円
- 支給単位期間の日数:14日(月の前半が育休期間)
- 通常給付率:67%(育休開始180日以内)
- 復帰後の給与:160,000円
① 本来の給付金支給額
10,000円 × 14日 × 67% = 93,800円
② 80%の上限額
300,000円 × 80% = 240,000円
③ 給与と給付金の合計
160,000円(給与) + 93,800円(給付金) = 253,800円
④ 上限を超えた額(返納または減額対象)
253,800円 − 240,000円 = 13,800円
この13,800円分、給付金が減額されます。つまり、実際に受け取れる給付金は 93,800円 − 13,800円 = 80,000円 となります。
【モデルケース②:給与合計が80%を超えないケース】
- 賃金月額:300,000円
- 復帰後の給与:80,000円
- 本来の給付金:93,800円
80,000円 + 93,800円 = 173,800円 < 240,000円(80%上限)
この場合は上限を超えていないため、給付金の減額はなく、全額93,800円を受け取れます。
給与と給付金の合計が80%を超えた場合の返納額の算出方法
80%ルールの適用に加えて、すでに給付金が支給された後に給与が発生した(または給与額が確定した)場合には、過払い分の返納(返還請求)が発生します。
返納額の算出は以下の手順で行います。
【返納額の計算手順】
STEP1:賃金月額の80%上限額を確認する
(休業開始時賃金日額 × 30日 × 80%)
STEP2:同一支給単位期間内の給与額を確認する
STEP3:(給与額 + すでに支給された給付金)から上限額を引く
STEP4:STEP3が正の値 → その金額が返納対象
なお、給付金がすでに支給された後に給与が確定した場合、ハローワークから返還請求書が送付されます。返納先は原則としてハローワーク(公共職業安定所)となります。
支給停止となるケース
給与が賃金月額の80%以上に達している場合は、給付金は全額支給停止となります。
給与額 ≧ 賃金月額 × 80%
→ 育休給付金は0円(支給停止)
申請・返納の手続き方法
返納が必要になったときの手続きフロー
実際に返納が必要になった場合は、以下のフローに沿って対応します。
STEP1:給与額・報酬額を会社または自分自身で正確に把握する
↓
STEP2:育児休業給付金申請書の「賃金支払状況」欄に正確に記入する
↓
STEP3:ハローワークが給付金支給額を計算・決定する
↓
STEP4:過払いがあった場合、ハローワークから返還請求書が届く
↓
STEP5:指定の方法(口座振込など)で返納する
返納期限と延滞
返還請求書に記載された期日までに返納することが求められます。期日を過ぎると延滞金が発生する場合がありますので、速やかに対応してください。
育児休業給付金申請書への記載方法
申請書には「賃金の支払いがあった場合」の記載欄があります。月途中復帰や育休中就業があった場合は、以下を正確に記入します。
| 記載項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 賃金支払基礎日数 | 給与が発生した日数(就労日数ベース) |
| 支払われた賃金額 | 同一支給単位期間内に支払われた給与・報酬の総額 |
| 就業した日数 | 育休中に就業(育休中就業を含む)した日数 |
記載を誤った場合や申告漏れがあった場合は不正受給とみなされる可能性があります。不明な点は会社の人事担当者またはハローワークに確認してから提出しましょう。
必要書類一覧
| 書類 | 入手先 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金申請書 | ハローワーク・会社 | 2か月ごとまたは毎月提出 |
| 賃金台帳(写し) | 会社 | 給与額の確認資料 |
| 出勤簿・タイムカード(写し) | 会社 | 就業日数の確認資料 |
| 母子健康手帳(写し) | 本人保管 | 子の生年月日確認用(初回申請時) |
| 育児休業取扱通知書(写し) | 会社 | 育休取得の証明 |
| 返還請求書 | ハローワークから送付 | 返納が必要な場合のみ |
返納を未然に防ぐための事前確認ポイント
復帰前に会社と確認すべきこと
返納トラブルを防ぐために最も重要なのは、復帰前に会社の人事担当者と詳細を確認することです。以下のチェックリストを参考にしてください。
【復帰前チェックリスト】
- [ ] 復帰日は月の初日か、月の途中か
- [ ] 復帰月に支払われる給与の見込み額はいくらか
- [ ] 育休中就業(テレワーク・在宅業務)をした日があるか
- [ ] 育休中に報酬・謝礼を受け取ったことがあるか
- [ ] 育休給付金の申請は誰が行っているか(会社 or 本人)
- [ ] 賃金台帳と申請書の整合性は確認済みか
復帰月のタイミングで調整できること
返納リスクを下げるために、復帰日を月初に設定するという方法があります。
月の初日から復帰した場合、その月の支給単位期間はすべて就業期間となり、育休給付金の対象期間とはなりません。逆に前月末で育休を終了すれば、前月分の給付金と当月の給与が重複しないため、返納の問題が生じにくくなります。
ただし、月初復帰が難しい事情がある場合は、上記の計算式で事前にシミュレーションしておくことをおすすめします。
育休中就業(テレワーク等)を行う場合の注意点
2022年10月の育児・介護休業法改正により、育休中就業(育休取得中に一時的に就業すること)が制度化されました。育休中就業をした場合、その日数・賃金が給付金の支給額に影響します。
育休中就業の上限ルール
- 支給単位期間の所定労働日数の 50%以下であること
- 就業日数が 10日以下(または80時間以下)であること
この上限を超えると、その支給単位期間は育休給付金が支給されません。
育休中就業を行う場合は、事前に会社と書面で取り決めを行い、就業日数・賃金額を正確に申告してください。
会社(人事担当者)が行うべき対応
従業員への事前説明義務
会社は従業員が育休を取得する前に、以下の情報を説明する義務があります(育児・介護休業法に基づく措置)。
- 育休給付金の支給条件・減額ルール
- 育休中就業を行った場合の給付金への影響
- 月途中復帰時の給与と給付金の調整方法
特に「復帰月の給付金が減額・返納になる可能性がある」という点は、従業員が事前に把握していないケースが多いため、育休前の面談や書面で明確に伝えることが重要です。
申請書類の管理と申告内容の確認
会社が育休給付金の申請を代行している場合(多くの場合、総務・人事部門が手続きを担当)、以下の点を徹底してください。
- 賃金台帳と育児休業給付金申請書の数字の一致を毎回確認する
- 月途中復帰があった場合は、復帰日・支払賃金額を速やかに申請書に反映する
- 育休中就業があった場合は、その日数・賃金額を漏れなく記載する
- 過払いが発生した場合は、従業員に通知し、ハローワークへの返納手続きをサポートする
よくある疑問をQ&Aで解説
育休給付金の返納に関して、実際によく寄せられる疑問をまとめました。
Q1. 育休給付金がすでに振り込まれた後に返納が必要と言われました。いつまでに返せばいいですか?
ハローワークから送付される返還請求書に返納期限が記載されています。期日を過ぎると延滞金が課される場合があるため、請求書が届いたら速やかに対応してください。不明な点がある場合は、請求書に記載のハローワーク担当窓口に連絡しましょう。
Q2. 月途中復帰で給与が少額だった場合でも、給付金は減額されますか?
給与と給付金の合計が「賃金月額の80%」を超えなければ、給付金の減額はありません。給与が少額であれば影響が出ない場合も多いため、まず上記の計算式でシミュレーションしてみてください。
Q3. 副業収入は育休給付金に影響しますか?
育休中の副業収入(フリーランスの報酬・業務委託料など)は、原則として給付金の調整対象となります。特に会社員として育休中であっても、他の事業所からの収入がある場合は申告が必要です。申告漏れは不正受給とみなされるリスクがあります。
Q4. 育休中に育休中就業(テレワーク)をしても給付金はもらえますか?
一定の条件(所定労働日数の50%以下、かつ就業日数10日以下または80時間以下)を満たしていれば、育休給付金を受け取りながら就業することが可能です。ただし、賃金額によっては給付金が減額になります。就業前に会社・ハローワークに確認してください。
Q5. 返納が必要な金額を会社が立て替えてくれることはありますか?
法律上の義務はありませんが、会社によっては返納サポートを行う場合があります。ただし、返納義務はあくまで受給者本人(従業員)にあります。まずは会社の人事担当者に相談してみましょう。
Q6. 育休給付金の過払いが発覚した場合、ペナルティはありますか?
申告内容の誤りが単純なミスであれば、通常は返納のみで対応可能です。しかし、意図的な虚偽申告や不正受給が認められた場合は、支給額の2倍の返還請求(不正受給加算)が課される場合があります(雇用保険法第10条の4)。正確な申告を心がけることが最大の防御策です。
まとめ
育休給付金と給与の二重支給・返納に関するポイントを整理します。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 二重支給が起きやすいタイミング | 月途中復帰・育休開始当月・育休中就業・副業収入 |
| 調整の基準 | 給与+給付金の合計が賃金月額の80%以内に収まるか |
| 減額・返納の計算 | 80%上限額を超えた差額が減額・返納対象 |
| 賞与の扱い | 原則として調整対象外(例外あり) |
| 返納を防ぐ方法 | 月初復帰・事前シミュレーション・正確な申告 |
| 不正受給のリスク | 申告漏れは2倍返還の可能性あり |
育休給付金の返納は、事前の知識と正確な申告によって多くのケースで防ぐことができます。「自分の場合はどうなのか」が不明な場合は、ハローワークの窓口または社会保険労務士に相談することを強くおすすめします。特に月途中の復帰を予定している方は、復帰前に必ず給与見込み額と給付金の調整額をシミュレーションしておきましょう。
免責事項:本記事は2024年時点の法令・制度に基づいて作成しています。制度は変更される場合があります。個別のケースについては、必ずハローワークまたは社会保険労務士にご相談ください。

