育休法改正の周知義務違反と罰則|厚労省指導の対応策【2025年最新版】

育休法改正の周知義務違反と罰則|厚労省指導の対応策【2025年最新版】 育休法改正

育休法(育児・介護休業法)の改正により、企業には従業員への周知義務が法的に課せられています。しかし「就業規則に書いてある」「入社時に説明した」だけでは不十分なケースも多く、知らないうちに違反状態に陥っている企業が後を絶ちません。

本記事では、周知義務の法的根拠・違反時の罰則・厚労省指導の流れ・実務上の対応策を人事担当者が即実践できるレベルで解説します。


育休法改正で企業に課される「周知義務」とは何か

周知義務の法的根拠と改正の流れ

育児・介護休業法(以下「育介法」)における周知義務の中核は、第21条および第21条の2に定められています。

  • 第21条:事業主は、育児休業に関する定めを労働者に周知させるための措置を講じなければならない
  • 第21条の2:妊娠・出産を申し出た労働者に対して、制度内容を個別に説明し、取得意向を確認することを義務化(2022年4月施行)

さらに同法第22条では、雇用環境整備の一環として、育児休業の取得に関する情報提供義務が定められています。2025年改正ではこの義務がさらに強化され、子が3歳になるまでの各節目でも意向確認が求められるようになっています。

改正の主な経緯(年表)

主な改正内容
2021年 産後パパ育休(出生時育児休業)の創設を法定化
2022年4月 個別周知・意向確認の義務化(第21条の2新設)
2022年10月 産後パパ育休・育休分割取得の施行
2023年4月 従業員1,000人超企業の育休取得率公表義務化
2025年4月 子が3歳になるまでの柔軟な働き方の確保・周知義務の拡充

「知らなかった」では済まない理由は明確です。法律の不知は免責事由にならないという法の大原則に加え、厚生労働省・都道府県労働局が企業への監督指導を強化しているからです。また、2023年以降、周知義務違反で是正勧告を受けた企業の一部は労働局から公表される可能性も増加しています。


周知義務が発生する5つのタイミング

周知は「一度やれば終わり」ではありません。以下の5つのタイミングのそれぞれで、適切な周知措置が必要です。

① 妊娠・出産の報告時(最重要)

従業員本人または配偶者が妊娠・出産を報告した際、事業主は遅滞なく個別に以下の事項を文書または面談で説明し、育休取得の意向を確認しなければなりません(育介法第21条の2)。

  • 育児休業・産後パパ育休の申出期限
  • 育児休業給付金の受給要件と金額の目安
  • 社会保険料免除の仕組み
  • 復職後の支援制度(短時間勤務・子の看護休暇等)
  • 育休中の社内連絡体制

実務ポイント: 意向確認の結果は書面で記録し、少なくとも育休終了後1年間は保管してください。後日のトラブル防止に直結します。

② 育児休業申出時

実際に育休の申出がなされた際にも、申出の手続き方法・期間・給付金の申請手順を改めて案内します。

③ 就業規則の改正時

育介法の改正に伴い就業規則を変更した場合、変更内容を全従業員に周知する義務があります(労働基準法第89条・第106条)。就業規則の変更が周知されていない場合、その規定は法的に無効となるリスクがあります。

④ 法改正の施行時

法律自体が改正されて施行された場合、事業主は速やかに制度内容の変更点を従業員に説明する義務を負います。2025年4月改正はまさにこのタイミングに該当します。

⑤ 新規採用時

採用時の研修・オリエンテーションにおいて、育児関連制度の概要を全員に説明することが求められます。入社直後に限らず、試用期間終了後の正式採用時にも改めて案内するのが実務上の推奨です。


周知しなければならない制度の種類と内容一覧

周知対象は育児休業だけではありません。下表のとおり、幅広い制度が周知の対象となります。

制度名 対象者 主な内容
育児休業 子が1歳(最長2歳)になるまでの労働者 最長2年間の休業権利
産後パパ育休(出生時育児休業) 子の出生後8週間以内の父親 4週間まで2回に分割可
子の看護休暇 小学校就学前の子を持つ労働者 年5日(子2人以上は10日)、時間単位可
短時間勤務制度 3歳未満の子を持つ労働者 所定労働時間を6時間に短縮
所定外労働の制限 3歳未満の子を持つ労働者 残業免除の請求権
時間外・深夜労働の制限 小学校就学前の子を持つ労働者 月24時間・年150時間以内
育児のための柔軟な働き方(2025年新設) 3歳以上小学校就学前の子を持つ労働者 テレワーク・時差出勤等から選択
育児休業給付金 雇用保険被保険者 休業前賃金の最大80%(育休開始後180日)

周知義務違反をした場合の罰則・制裁リスク

「罰則がないから大丈夫」という認識は危険な誤解です。育介法違反に対する制裁は、刑事罰だけではなく行政指導・助成金返還・民事訴訟リスクまで多岐にわたります。

厚労省・都道府県労働局による行政指導・是正勧告の流れ

育介法違反の疑いが生じた場合、以下のステップで行政が介入します。

STEP 1:申告・端緒の把握
 従業員・元従業員からの申告、または労働局による定期調査

     ↓

STEP 2:事実確認・任意調査
 労働局の担当官から会社へ「報告徴収」の連絡
 就業規則・周知記録・面談記録の提出を求められる

     ↓

STEP 3:行政指導(口頭指導)
 軽微な違反の場合、まず口頭で是正を促す指導が行われる

     ↓

STEP 4:是正勧告書の交付
 改善が見られない場合、書面による是正勧告を受ける

     ↓

STEP 5:是正報告書の提出
 企業は期限内(通常2〜4週間)に改善内容を記載した
 是正報告書を労働局へ提出する義務を負う

     ↓

STEP 6:公表・過料
 重大違反・改善拒否の場合、厚労省が企業名を公表(育介法第56条の2)
 報告拒否・虚偽報告には20万円以下の過料(同法第66条)

注意: 2023年の改正により、育休取得率の公表義務違反についても企業名の公表が可能となりました。社名公表は採用・ブランドへのダメージが大きく、実質的な制裁として機能します。

違反時に適用される主な条文と罰則

違反内容 根拠条文 制裁の内容
周知義務・意向確認義務違反 育介法第21条・第21条の2 行政指導・是正勧告・公表
報告徴収への不応・虚偽報告 育介法第66条 20万円以下の過料
育休取得率の公表義務違反 育介法第22条の2 行政指導・企業名公表
就業規則の不周知 労働基準法第106条 30万円以下の罰金
ハラスメント防止措置義務違反 育介法第25条 行政指導・企業名公表

就業規則の効力喪失リスクと労働紛争への影響

周知されていない就業規則は、裁判所において無効と判断されるリスクがあります。

最高裁判所は「就業規則が法的規範としての効力を持つためには、少なくとも、使用者が就業規則を制定し、これを労働者に周知させる手続きを履踏むことが必要」(フジ興産事件・最高裁2003年10月10日判決)と判示しています。

これが実務に及ぼす影響は深刻です。

  • 育休中の賞与・昇給に関する規定が未周知の場合、不利益取扱いの根拠として使えなくなる
  • 育休後の職場復帰先に関する規定が無効とされ、復職トラブルに発展する
  • 育休取得を理由とした降格・減給が正当化できず、損害賠償請求のリスクが生じる

近年はパタハラ(パタニティハラスメント)・マタハラ訴訟が増加傾向にあり、周知不備は訴訟リスクを直接高める要因となります。


助成金・両立支援等助成金の不支給・返還リスク

厚生労働省の両立支援等助成金(育児休業等支援コース・出生時両立支援コース等)は、周知義務を適切に果たしていることが受給の前提条件となっています。

助成金名 支給上限額(目安) 周知違反時のリスク
出生時両立支援コース(第1種) 20万円/人 不支給・返還請求
育児休業等支援コース 30万円/人 不支給・返還請求
育休中等業務代替支援コース 最大125万円 不支給・返還請求

助成金の審査で周知義務違反が発覚した場合、既に受給した金額の全額返還を求められるケースもあります。助成金目当てで制度を整備したにもかかわらず、周知手続きの不備で全額返還となった事例が報告されており、書類管理の徹底が不可欠です。


法的に有効な周知方法と実務上のポイント

厚労省が認める5つの周知方法

育介法施行規則および厚生労働省の指針では、以下の方法が法的に有効な周知手段として認められています。

周知方法 法的効力 推奨度 実施タイミング
① 就業規則への記載+全員への配布 ◎ 最重要 ★★★★★ 制度導入時・法改正時
② 書面(案内書・パンフレット)の個別交付 ◎ 必須(妊娠報告時) ★★★★★ 妊娠報告時・申出時
③ 社内イントラネット・電子掲示板への掲載 ○ 有効 ★★★★☆ 常時掲示
④ 社内研修・説明会の実施 ○ 有効 ★★★★☆ 年1回以上
⑤ 個別面談での口頭説明(議事録作成必須) ○ 有効 ★★★★☆ 妊娠報告時・申出時

重要: 電子メールや社内チャットツール(Slack等)での周知は「補助手段」として有効ですが、これ単体では法的要件を満たさないケースがあります。必ず書面交付または就業規則の周知と組み合わせてください。


就業規則への記載と届出の具体的手順

就業規則への記載は周知の大前提です。以下の手順で整備してください。

STEP 1:就業規則の育児関連条項の確認・改訂

2025年4月改正で新設された「3歳以上小学校就学前の子を持つ従業員への柔軟な働き方の選択肢提供」を盛り込む必要があります。

就業規則記載例(育児休業条項)

第○条(育児休業)
1. 1歳に満たない子を育てる従業員は、申出により育児休業を取得することができる。
2. 保育所に入所できない等の理由がある場合、子が1歳6ヶ月(再延長の場合は2歳)
   になるまで育児休業を延長することができる。
3. 産後パパ育休(出生時育児休業)として、子の出生後8週間以内に
   最大4週間(2回まで分割可)の休業を取得することができる。
4. 育児休業の申出は、原則として休業開始予定日の1ヶ月前
   (産後パパ育休は2週間前)までに行うものとする。

STEP 2:労働組合または過半数代表者への意見聴取

就業規則の変更には、労働組合(または過半数代表者)の意見書の添付が必要です(労基法第90条)。

STEP 3:労働基準監督署への届出

常時10名以上の事業場では、変更した就業規則を所轄の労働基準監督署へ届け出る義務があります(労基法第89条)。

STEP 4:全従業員への周知

変更した就業規則を、以下のいずれかの方法で全従業員が確認できる状態に置きます(労基法第106条)。

  • 常時各作業場の見やすい場所への掲示・備え付け
  • 書面の交付
  • 磁気テープ・CD等への記録(従業員が閲覧できる機器を設置)
  • イントラネットへの掲載(全従業員がアクセス可能な環境)

個別周知・意向確認の実施手順とひな形

個別周知・意向確認は、妊娠・出産報告からおおむね2週間以内に実施するのが実務上の目安です。

個別周知・意向確認の手順

① 妊娠・出産の報告を受ける(本人または配偶者)

② 面談の日程調整(上司または人事担当者)

③ 面談の実施(本人の意向・プライバシーに配慮)
   ・育児休業の期間・手続き方法の説明
   ・育児休業給付金の概算額の提示
   ・社会保険料免除の説明
   ・復職後の支援制度の案内

④ 「個別周知・意向確認書」への署名・捺印

⑤ 書類のコピーを本人へ交付・原本を人事部で保管

個別周知・意向確認書(簡易ひな形)

育児休業制度に関する個別周知・意向確認書

氏名:_______________  実施日:___年___月___日

■ 説明した事項(チェックリスト)
□ 育児休業・産後パパ育休の取得期間・申出期限
□ 育児休業給付金の受給要件(雇用保険加入期間等)
□ 給付金の概算額(休業前賃金の67%〜80%)
□ 社会保険料免除の仕組み
□ 育児休業中の社内連絡先・復職手続き
□ 短時間勤務・子の看護休暇等の関連制度

■ 育児休業取得の意向
□ 取得する予定  □ 取得しない予定  □ 未定

本人署名:_______________  確認者署名:_______________

育児休業給付金の計算方法と申請手続き

給付金の計算式

育児休業給付金は雇用保険から支給されます。金額の計算方法は以下のとおりです。

育休開始から180日間(約6ヶ月):

給付金額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%

181日目以降:

給付金額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50%

※2025年度の法改正議論では、一定条件下での給付率80%への引き上げが検討されています(両親ともに育休取得の場合)。最新情報はハローワークまたは厚労省ウェブサイトをご確認ください。

計算例

月収30万円(賃金日額1万円)の従業員が6ヶ月育休を取得した場合:

  • 180日間:1万円 × 30日 × 67% = 約20万1,000円/月
  • 181日目以降:1万円 × 30日 × 50% = 15万円/月

給付金申請に必要な書類と手続き

書類名 準備者 提出先
育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書 企業(事業主) ハローワーク
賃金台帳・出勤簿 企業 ハローワーク
住民票(子の生年月日確認) 従業員 → 企業経由 ハローワーク
母子健康手帳(出生の事実確認) 従業員 → 企業経由 ハローワーク

申請期限: 育休開始日から4ヶ月後の末日(初回)。以降は2ヶ月ごとに申請が必要です。期限を過ぎると給付金が受けられなくなるリスクがあるため、人事担当者はリマインダー管理を徹底してください。


2025年改正で強化された義務と対応チェックリスト

2025年4月施行の改正育介法では、以下の点が企業の対応義務として新たに加わりました。

2025年改正の主なポイント

改正内容 対象企業規模 施行時期
子が3歳〜小学校就学前:柔軟な働き方の選択肢提供義務 全企業 2025年4月
子が3歳になるまでの各段階での意向確認義務 全企業 2025年4月
育休取得状況の公表義務(300人超企業に拡大) 300人超 2025年4月
所定外労働の制限対象を「3歳未満」→「小学校就学前」に拡大 全企業 2025年4月

人事担当者向け緊急対応チェックリスト

以下の項目を早急に確認・整備してください。

【就業規則・制度整備】
– [ ] 2025年改正内容を就業規則に反映済み
– [ ] 変更した就業規則を労働基準監督署に届出済み
– [ ] 全従業員に変更内容を周知済み(記録あり)

【個別周知・意向確認】
– [ ] 妊娠・出産報告時の個別周知フローを整備済み
– [ ] 個別周知・意向確認書のひな形を用意済み
– [ ] 意向確認書を安全に保管するルールを設けている

【給付金・手続きサポート】
– [ ] 育児休業給付金の申請スケジュールを管理している
– [ ] ハローワークへの申請期限をリマインダー設定済み
– [ ] 社会保険料免除の手続き(日本年金機構)を把握済み

【取得率・公表義務】
– [ ] 従業員300人超の場合、育休取得率の算定・公表体制を整備済み
– [ ] 公表データを厚労省の「両立支援のひろば」に登録済み

【ハラスメント防止】
– [ ] マタハラ・パタハラ防止の研修を年1回以上実施している
– [ ] ハラスメント相談窓口を設置・周知している


よくある質問(FAQ)

パートタイム・有期雇用の従業員にも周知義務はありますか?

A. はい、あります。2022年4月の改正により、有期雇用労働者も育休の取得要件を満たせば育児休業を取得できるようになりました(「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が廃止)。企業はパートタイム・有期雇用の従業員に対しても、正社員と同様に個別周知・意向確認を実施する義務があります。


中小企業(100人以下)でも育休取得率の公表義務はありますか?

A. 2025年4月現在、公表義務の対象は従業員300人超の企業に拡大されています(従来は1,000人超)。ただし300人以下の企業でも、公表は努力義務とされており、「両立支援のひろば」への登録は任意で行えます。助成金申請の加点要素にもなるため、積極的な活用をおすすめします。


就業規則の周知をイントラネットだけで行っても問題ありませんか?

A. 労働基準法第106条では、イントラネットへの掲載も周知方法の一つとして認められています。ただし「全従業員がいつでもアクセスできる環境が整っている」ことが条件です。現場作業員や工場労働者など、パソコンを日常的に使用しない従業員がいる場合は、紙の掲示や書面配布を併用してください。イントラネット単体での周知が無効と判断された裁判例もあります。


周知義務違反の是正勧告を受けた場合、どう対応すればよいですか?

A. 是正勧告書を受け取ったら、以下の手順で速やかに対応してください。①指摘事項を正確に把握し、②期限内(通常2〜4週間)に是正措置を実施し、③是正報告書を作成して労働局へ提出します。社会保険労務士(社労士)に相談しながら対応するのが最も確実です。是正勧告への誠実な対応が、その後の行政処分(公表・過料)を回避する最大の手段です。


育休中の従業員に「業務の引き継ぎを要求」してもよいですか?

A. 育休取得を妨げる目的での業務要求はパタハラ・マタハラに該当します。ただし育休開始前の通常の引き継ぎは問題ありません。育休中の業務連絡は原則として行わず、緊急時の連絡方法については本人の同意を得た上であらかじめ取り決めてください。「育休中に仕事の連絡をしてしまった」という事例が増えており、上司への研修も合わせて実施しましょう。


まとめ:周知義務は「形式」ではなく「実態」で問われる

育介法の周知義務は、書類を整備するだけの「形式的な対応」では不十分です。厚労省・労働局が重視するのは、従業員が実際に制度を理解し、取得しやすい環境が整っているかという「実態」です。

企業が取るべきアクションを3点にまとめます。

  1. 制度を整備する:2025年改正内容を就業規則に反映し、労基署に届け出る
  2. 周知を記録する:個別周知・意向確認書を作成・保管し、エビデンスを残す
  3. 文化をつくる:管理職研修・ハラスメント防止教育で取得しやすい職場文化を醸成する

周知義務の徹底は、法的リスクの回避にとどまらず、優秀な人材の採用・定着・生産性向上につながる経営投資です。2025年改正の施行を機に、自社の対応状況を今すぐ点検することをおすすめします。


参考法令・資料
– 育児・介護休業法(育介法):第21条・第21条の2・第22条・第22条の2・第25条・第56条の2・第66条
– 労働基準法:第89条・第90条・第106条
– 雇用保険法:第61条の4(育児休業給付金)
– 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし(令和7年4月改正対応版)」
– 厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」

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