育休中に突然、親が倒れて「要介護状態」になった——。子どもの世話をしながら親の介護まで対応しなければならない状況に追い込まれたとき、「育休はそのまま続けられるのか」「介護休業に切り替えるべきか」と焦る方は少なくありません。
このような「ダブルケア」状態は、制度の理解が不十分なまま判断してしまうと、給付金の受給機会を逃したり、職場との手続きでトラブルになるリスクがあります。
本記事では、育休中に親が要介護状態になった場合に取り得る2つの対応パターンを法的根拠とともに整理し、申請手続き・必要書類・給付金の計算方法まで実務レベルで解説します。育児・介護休業法に基づいた正確な情報をもとに、状況に応じた最適な選択ができるようサポートします。
育休中に親が要介護状態になったとき、まず知っておくべき「制度の大原則」
「育休継続」という単独の制度は存在しない
まず重要な前提として、「育休継続申請」という独立した手続きは法律上存在しません。現在取得中の育児休業は、申請済みの期間が満了するまで自動的に継続されるものであり、親が要介護状態になったことを理由に「継続申請」する仕組みはないのです。
育休中に親の介護が必要になった場合、労働者が取り得るのは以下の2つのパターンです。
| パターンA | パターンB | |
|---|---|---|
| 概要 | 育児休業を終了し、介護休業へ切り替える | 育児休業を継続しながら介護を対応(休業外で対応) |
| 休業形態 | 介護休業のみ | 育児休業のみ(介護休業との同時取得は原則不可) |
| 給付金 | 介護休業給付金(賃金の67%) | 育児休業給付金(180日まで67%、以降50%) |
| こんな人向け | 育休の残期間が短い・介護が長期化しそう | 子どもがまだ低月齢・育休給付金の方が有利 |
どちらが正解かは個人の状況によって異なります。以下で選択の判断基準を詳しく解説します。
育児休業と介護休業は「原則として同時取得できない」
育児・介護休業法の規定では、育児休業と介護休業はそれぞれ独立した休業制度として位置づけられており、同一期間に両方を重複取得することは原則として認められていません(育児・介護休業法第15条~第23条)。
ただし、就業規則や労使協定で特別な規定を設けている企業では、会社の裁量として柔軟な運用を認めている場合があります。まずは人事部門に確認することが第一歩です。
「育休中に介護も必要になったのだから、両方の給付金をもらえるはずでは?」という誤解は非常に多いですが、制度上はどちらか一方の休業しか取得できないと理解してください。
対応パターンの選び方:3つの判断ポイント
どちらのパターンを選ぶかは、以下の3点を軸に検討しましょう。
① 現在の育休残期間はどのくらいか
育休の残期間が3か月以上ある場合は、育休を継続しながら訪問介護などの外部サービスを活用する選択肢が有効です。一方、残期間が1〜2か月しかない場合は、育休を終了して介護休業(最大93日)を新たに取得する方が合理的なケースが多いです。
② 子どもの年齢・育休の取得可能期間
保育所に入れない等の理由で育休を2年まで延長している場合、育休を途中で打ち切ると給付金が失われます。子どもがまだ1歳未満で育休の恩恵が大きい時期は、育休継続を優先する方向で検討しましょう。
③ 親の介護がどの程度長期化するか
介護休業は通算93日、3回まで分割取得できます(育児・介護休業法第15条)。親の病状が回復見込みのある急性期であれば介護休業で対応できますが、長期的な介護が必要な場合は介護休業だけでは対応しきれないため、職場への介護休暇・在宅勤務との組み合わせも検討が必要です。
育休継続と介護休業、どちらを選ぶべきか?給付金・期間を徹底比較
育児休業給付金の概要と計算方法
育児休業給付金は、雇用保険から支給される給付金で、計算方法は以下のとおりです。
| 期間 | 給付率 | 実質手取り換算 |
|---|---|---|
| 育休開始から180日目まで | 休業開始時賃金の67% | 社会保険料免除を考慮すると約80%相当 |
| 181日目以降 | 休業開始時賃金の50% | 社会保険料免除を考慮すると約60%相当 |
計算例:
月給30万円の方が育休を取得している場合
– 180日まで:30万円 × 67% = 約20万1,000円/月
– 181日以降:30万円 × 50% = 約15万円/月
なお、育休中は健康保険・厚生年金・雇用保険の社会保険料が免除されるため、手取りベースでは給付率以上の経済的メリットがあります。
介護休業給付金の概要と計算方法
介護休業給付金も雇用保険から支給されます。給付率は一律で以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 給付率 | 休業開始時賃金の67% |
| 支給上限期間 | 同一家族について通算93日(最大3回に分割可能) |
| 支給タイミング | 介護休業終了後に一括でハローワークに申請 |
計算例:
月給30万円の方が93日間(約3か月)介護休業を取得した場合
– 30万円 × 67% × 3か月 = 約60万3,000円(3か月分の合計)
ただし、育児休業給付金と異なり、介護休業中は社会保険料免除の適用がありません。この点は両制度の重要な差異です。
給付金の有利・不利を整理した比較表
| 比較項目 | 育児休業給付金 | 介護休業給付金 |
|---|---|---|
| 給付率(前半) | 67%(180日まで) | 67% |
| 給付率(後半) | 50%(181日以降) | 67%(変わらず) |
| 最大取得期間 | 子が2歳まで(特例あり) | 通算93日 |
| 社会保険料免除 | あり(大きなメリット) | なし |
| 支給方法 | 2か月ごとにハローワーク経由で支給 | 休業終了後に一括申請・支給 |
| 申請先 | 事業主経由でハローワーク | 事業主経由でハローワーク |
ポイント: 育休が180日を超えている場合でも、社会保険料免除があるため育休給付金の方が経済的に有利なケースがあります。どちらが得かは月収や育休残期間によって変わるため、職場の人事担当者や社会保険労務士に試算を依頼することをおすすめします。
介護休業の対象となる「要介護状態」と「対象家族」の範囲
「要介護状態」の定義と確認方法
法律上の「要介護状態」は、介護保険の要介護認定とは異なります。育児・介護休業法第2条では、要介護状態を以下のように定義しています。
「負傷、疾病または身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」
つまり、介護保険の認定を受けていなくても、医師の診断書や状態確認によって「常時介護が必要」と判断されれば対象となります。脳卒中・骨折・認知症の急性期など、突発的な状態変化の場合でも申請できます。
なお、「常時介護を必要とする状態」かどうかの判定については、厚生労働省が示した「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」(12の判断項目:着替え・トイレ・入浴などの日常生活行為で援助が必要等)を参考に、事業主が判断することが実務上の運用です。
介護休業の対象家族の範囲
介護休業を取得できる「対象家族」の範囲は以下のとおりです(育児・介護休業法第2条)。
| 対象となる家族 | 備考 |
|---|---|
| 配偶者(婚姻届の有無を問わず事実婚含む) | |
| 父母(実父母・養父母) | ✅ 親の介護はここに該当 |
| 子(実子・養子) | |
| 配偶者の父母 | |
| 祖父母 | 同居・扶養している場合 |
| 兄弟姉妹 | 同居・扶養している場合 |
| 孫 | 同居・扶養している場合 |
注意点: 配偶者の祖父母・配偶者の兄弟姉妹は原則対象外です。また、祖父母・兄弟姉妹・孫については「同居かつ扶養」していることが要件となります。
介護休業への切り替え手続き:必要書類と申請の流れ
手続き全体の流れ
育休を終了して介護休業へ切り替える場合、以下の手順で進めます。
STEP1:事業主へ介護休業の申出(休業開始予定日の2週間前までに)
↓
STEP2:育児休業の終了(必要に応じて育休の終了申出)
↓
STEP3:介護休業開始
↓
STEP4:介護休業終了
↓
STEP5:事業主がハローワークへ介護休業給付金を申請
↓
STEP6:介護休業給付金の受給
STEP1:事業主への介護休業申出
介護休業を取得するには、休業開始予定日の2週間前までに書面(またはFAX・メール等)で事業主に申し出ることが必要です(育児・介護休業法第15条)。
申出には、法定の事項を記載した「介護休業申出書」を使用します。
申出書に記載すべき事項:
– 申出年月日
– 氏名
– 対象家族の氏名・続柄・要介護状態の内容
– 介護休業の開始予定日・終了予定日
厚生労働省が様式例を公開しているため、社内書式がない場合はそちらを活用できます。
必要書類一覧と提出先
| 書類 | 提出先 | 備考 |
|---|---|---|
| 介護休業申出書 | 事業主(人事部門) | 法定書式または会社所定様式 |
| 対象家族の状態を確認できる書類 | 事業主 | 診断書・要介護認定書など(会社が求める場合) |
| 育児休業終了申出書(必要な場合) | 事業主 | 育休期間中に自己都合終了する場合 |
| 介護休業給付金支給申請書 | ハローワーク | 事業主が代理申請するケースが多い |
| 賃金台帳・出勤簿など | ハローワーク | 事業主が用意 |
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | ハローワーク | 事業主が作成 |
STEP5:介護休業給付金の申請方法とスケジュール
介護休業給付金の申請は事業主がハローワークへ行うのが通常です。従業員本人が行う場合もありますが、会社に依頼するのが一般的です。
申請期限: 介護休業終了日の翌日から起算して2か月後の月末まで
申請に必要な書類(ハローワーク提出分):
1. 介護休業給付金支給申請書
2. 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
3. 介護休業の期間を確認できる書類(申出書のコピー等)
4. 対象家族との関係を確認できる書類(戸籍謄本等)
5. 対象家族の要介護状態を確認できる書類(診断書等)
申請後、ハローワークが支給決定を行い、指定口座に振り込まれます(事業主経由の場合は事業主の口座経由となる場合もあります)。
育休を継続する場合の注意点と介護との両立方法
親の介護が必要になっても育休を継続する選択肢を取った場合、育休給付金は引き続き受給できますが、育休中は原則として就労できないため、介護への対応は自身の育休期間を活用しながら行うことになります。
育休中に使える介護サービス・支援制度
育休中に介護対応を行う場合、以下の制度や外部サービスを組み合わせることで負担を軽減できます。
① 介護休暇(育休中は使えない)
介護休暇は就労していることが前提の制度のため、育休中には取得できません。介護休暇は年5日(対象家族が2名以上の場合は年10日)、1日・半日単位で取得できる制度ですが、育休中は対象外です。
② 介護保険サービスの活用
親が介護保険の要介護認定を受けている場合、訪問介護(ホームヘルプ)・デイサービス・ショートステイなどを利用することで、育休中の自分に過度な負担をかけずに介護を対応できます。
③ 育休の期間延長制度
子どもが1歳を超えても保育所に入れない場合は最長1歳6か月まで、さらに入れない場合は最長2歳まで育休を延長できます(育児・介護休業法第5条第4項・第5項)。親の介護と重なっている時期は、育休延長を申請して育休給付金を継続受給しながら、介護は外部サービスに委ねるという方法も有効です。
育休復帰後の介護体制も事前に検討する
育休を継続する場合、育休が終われば職場復帰が待っています。職場復帰後に介護が続いている状態では、介護休業(通算93日の残日数)・介護休暇・所定労働時間の短縮(介護のための短時間勤務制度)を活用することができます。
育休中から復帰後の介護計画を立てておくことが、スムーズな職場復帰と介護の両立につながります。
介護休業を取得できる要件:申請前に確認すべきチェックリスト
介護休業の取得には一定の要件を満たす必要があります。申請前に以下を確認してください。
取得できる対象者の要件
- [ ] 雇用保険に加入している(被保険者である)
- [ ] 同一の事業主に1年以上継続して雇用されている
- [ ] 介護休業の開始予定日から93日以上継続雇用が見込まれる
- [ ] 1週間の所定労働日数が3日以上である(パート・アルバイトの場合)
注意: 2022年4月の法改正で、以前は労使協定で除外できた「1年以上雇用継続」の要件が法定要件として原則適用されるようになりました。
給付金受給の追加要件
介護休業給付金を受け取るには、休業前の2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あることが必要です(雇用保険法第61条の6)。
また、介護休業期間中に就業した日数が各月10日以下であることも要件の一つです。10日を超えて就業した場合、その月は給付金が支給されません。
手続きに関するよくある質問
Q1. 育休中に介護休業を取得することはできますか?
原則としてできません。育児・介護休業法では、育児休業と介護休業を同一期間に重複取得することは認められていません。介護休業を取得するには、まず育児休業を終了する必要があります。ただし、会社の就業規則によって特別な取り扱いを定めている場合は例外があります。人事部門に確認してみましょう。
Q2. 介護休業給付金はいつ振り込まれますか?
介護休業給付金は、介護休業終了後に申請する形式のため、休業中に支給されることはありません。休業終了後に事業主がハローワークに申請し、通常1〜2か月程度で指定口座に振り込まれます。育児休業給付金とは支給タイミングが異なる点に注意が必要です。
Q3. 親の介護のために育休を早めに終了した場合、育休給付金はどうなりますか?
育休を予定より早く終了した場合、終了日までの分の育休給付金が支給されます。終了後に介護休業を取得すれば介護休業給付金が別途支給されます。育休を早期終了することで給付金の受給期間は短くなりますが、その分介護休業給付金(通算93日分)を新たに受け取れる可能性があります。
Q4. 育休中の「介護休暇」取得はできますか?
介護休暇は就業中の労働者が取得できる制度であり、育休中は取得できません。育休と介護休暇は前提となる状態(就労中であること)が異なります。育休復帰後に介護が継続している場合は、年間5日(対象家族2名以上の場合は10日)の介護休暇を活用できます。
Q5. 要介護状態の確認書類として、介護保険の認定通知書は必須ですか?
必須ではありません。育児・介護休業法における「要介護状態」は介護保険制度とは独立した基準で判断されます。診断書や医師の意見書、あるいは事業主が状態を確認できる書類があれば、介護保険の認定を受けていなくても介護休業の取得が認められます。ただし、会社が独自に求める書類がある場合は、就業規則や人事担当者に確認してください。
Q6. 介護休業の93日はリセットされますか?
対象家族1人につき通算93日が上限であり、一度使った日数は同一対象家族に対してリセットされません。ただし、3回まで分割して取得できます。例えば、最初に30日、次に30日、最後に33日というように使うことが可能です。なお、異なる家族(父と母など)はそれぞれ93日の権利があります。
Q7. 育休と介護休業を交互に取得することはできますか?
できます。例えば、残りの育休期間を満了させた後に、改めて介護休業を申請することは可能です。ただし、同一期間の重複取得はできません。この場合、給付金は育休給付金→介護休業給付金へ切り替わることになります。
Q8. 育休給付金と介護休業給付金の両方をもらうことはできますか?
同一期間での重複受給はできません。しかし、育休期間を終了してから介護休業を取得する場合、育休給付金は育休期間中に支給され、介護休業給付金は介護休業期間中に支給されるため、結果として両方を受け取ることは可能です。期間的には異なるタイミングでの受給となります。
まとめ:育休中に親が要介護状態になったときの対応ステップ
育休中に親が要介護状態になった場合の対応を、以下のステップで整理します。
STEP 1:状況を整理する
現在の育休残期間・給付金の残受給可能期間・親の介護の緊急度・長期化の見通しを確認する。
STEP 2:2つのパターンを比較する
育休を継続して外部介護サービスを活用するか、育休を終了して介護休業に切り替えるかを、給付金・期間・家族状況を踏まえて検討する。
STEP 3:職場の人事部門に相談する
会社の就業規則や労使協定の内容・申請書類の様式・手続きのスケジュールを確認する。疑問点は社会保険労務士に相談することも有効です。
STEP 4:申請手続きを進める
介護休業へ切り替える場合は、休業開始予定日の2週間前までに事業主に申出を行い、必要書類を提出する。
STEP 5:復帰後の介護計画も視野に入れる
育休・介護休業終了後も介護が継続する場合、介護のための短時間勤務・介護休暇・フレックスタイム制などの活用を事前に検討しておく。
育休中の突然の親の要介護は、精神的にも経済的にも大きな負担です。しかし、制度を正しく理解し適切な手続きを踏めば、給付金を最大限に活用しながら子育てと介護を両立する道が開けます。一人で抱え込まず、職場・市区町村の相談窓口・社会保険労務士など専門家に相談しながら対応を進めてください。
参考法令・資料
– 育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)
– 雇用保険法第61条の6(介護休業給付金)
– 厚生労働省「介護休業給付について」
– 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」
– 厚生労働省「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」

