育休中の給与減額は違法か|賞与カット判断基準と法的リスク【2026年版】

育休中の給与減額は違法か|賞与カット判断基準と法的リスク【2026年版】 企業の育休対応

育休取得者への給与減額や賞与カットは、企業の対応如何によって違法になる場合と合法の場合が明確に分かれます。本記事では、育児・介護休業法に基づく法的ルール、具体的な違法判定基準、企業が講じるべき対策を完全解説します。


【結論】育休中の給与減額は「ほぼ違法」|3つの判断基準

育休制度の基本構造

育休取得者への待遇は、以下の3原則で判断します。

判断基準 結論 法的根拠
育休中の基本給カット 違法 育児・介護休業法第10条
育休中の給与0円 合法 育児・介護休業法第23条
復帰後の昇給停止 違法 育児・介護休業法第10条第2項

重要なポイント
– 育休は「労働義務の免除」であり、給与支払い義務は法的には発生しない
– しかし「不利益取扱い禁止」が優先されるため、育休を理由とした待遇悪化は禁止
– 給付金(育児休業給付金)で所得補填される仕組み

┌─────────────────────────────────────┐
│ 給与カット可否の判断フロー          │
│                                     │
│ 育休を理由とした待遇変更か?        │
│  ├─ はい → 違法(原則)            │
│  └─ いいえ(業績不振等)           │
│      → 個別判断が必要              │
└─────────────────────────────────────┘

育休中の給与減額が「違法」になる5つのケース

ケース1:基本給を育休期間中に減額した場合

【違法判定】違法

企業が育休開始と同時に基本給を削減することは、育児・介護休業法第10条「不利益取扱い禁止」に該当します。

具体例
– 月給30万円の労働者が育休開始時に月給20万円に減額
– 育休中のみ昇給を停止(他の労働者は昇給)
– 基本給の一部を「育休期間は支給しない」と変更

法的根拠
– 育児・介護休業法第10条:「事業主は、労働者が育児休業の申出をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」
– この「不利益な取扱い」には給与減額が含まれます

救済方法
減額された給与について遡及請求が可能です。労働基準監督署または労働局への相談で是正指導を受けられます。


ケース2:育休中のみ特定の手当を支給停止した場合

【違法判定】違法

基本給そのものではなく、手当の支給停止も違法になる場合があります。

違法となる手当の支給停止
– 家族手当(配偶者手当・子ども手当)
– 住宅手当・交通手当
– 役職手当(職務を遂行していなくても支給される場合)
– 勤続年数に応じた定期昇給分

合法となる手当の支給停止
– 営業手当(実績連動):実績がないため支給なし
– 時間外労働手当:労働していないため対象外
– 業績手当:会社全体の業績悪化により減額(育休が直接原因でない場合)

判例による支持
労働関係の裁判所判例では、「育休中も待遇は変わらないことが原則」とされています。例えば、通勤手当や家族手当のように労働と関連性が薄い手当の支給停止は違法と判断されることが多いです。


ケース3:復帰後に同一実績でも昇給・昇進を拒否する

【違法判定】違法

育休から復帰した後の昇給・昇進において、育休期間を理由に不利に扱うことは違法です。

違法となる例

【例1】昇進試験の筆記試験で合格点に達したが、
       「育休中だから経験が不足」を理由に不合格

【例2】他の労働者と同じ実績なのに、
       育休取得者のみ昇給を見送り

【例3】同期入社の労働者と同じ勤続年数なのに、
       育休期間を「カウントしない」と就業規則に記載

法的問題点
– 育児・介護休業法第10条第2項で「復帰後の不利益取扱い禁止」が明記
– 育休期間は「勤続年数」に含められるべき(厚生労働省通達)

昇進・昇給で適切な対応

✓ 育休期間を含めて勤続年数を計算
✓ 育休前の評価基準で復帰後も評価
✓ 昇進の判定基準に育休期間を含める
✓ 昇給スケジュールで育休取得者を差別しない

ケース4:賞与計算時に育休期間を過度に控除する

【違法判定】状況による(判断基準あり)

賞与(ボーナス)の扱いは給与よりも複雑です。違法と合法の境界線を理解することが重要です。

違法となる賞与カット

【違法例1】育休期間を完全に無視した計算
支給額:30万円 × (支給対象期間240日 ÷ 360日)
→ 育休180日を除外して計算

【違法例2】育休期間があるだけで減額
「育休中だから」という理由で一律20%カット

合法となる賞与計算

【合法例1】育休期間を含めて日割計算
基本額:30万円 × (360日 ÷ 365日)
→ 育休期間も勤続に含める

【合法例2】実績評価による減額
営業成績:育休前6ヶ月と復帰後6ヶ月の実績で評価
→ 労働していない期間の成績は考慮しない

厚生労働省ガイドライン
– 育休期間は「勤続期間」として扱う
– 賞与の査定で育休を理由に減額することは、原則として違法
– ただし、賞与が「実績報酬」である場合は、未就労期間の減額は合法


ケース5:妊娠中の給与減額・待遇悪化

【違法判定】違法(より厳格に判断)

妊娠中の給与減額は、育休よりもさらに厳格に違法と判断されます

違法となる例

✗ つわりで欠勤が増えたため基本給を減額
✗ 妊娠判明後に職種変更+給与減額
✗ 産前休暇申請後の給与カット
✗ 妊娠による配置転換で実質的な降給

法的根拠
– 男女雇用機会均等法第9条第3項:妊娠中の就業条件変更禁止
– 労働基準法第65条:産前産後休業中は給与支払い義務なし(ただし、手当等の支給停止は違法)

妊娠中の合法的な対応

✓ 職種変更は可(ただし給与は変わらないこと)
✓ 健康診断のための休暇取得を認める
✓ 時間短縮勤務を認める場合、手当の支給を継続
✓ 産前休暇中は給与0円でも合法(ただし手当は継続)

育休中の給与が「0円」でも違法ではない理由

給与0円が合法となる法的背景

育休中の給与0円は、以下の理由で合法です。

理由 詳細
労働義務の免除 育休期間は労働しないため、給与支払い義務が発生しない
賃金の対価性 給与は「労働の対価」であり、労働なく支払う義務はない
法律の明記 育児・介護休業法第23条で給与支払い義務の免除を明記

収入補填の仕組み:育児休業給付金

育休中に給与が0円でも、以下で所得補填されます。

育児休業給付金の給付額

【給付率】
┌──────────────────────────────────┐
│ 休業開始から6ヶ月間:給与の67%   │
│ 6ヶ月以降:給与の50%              │
└──────────────────────────────────┘

【計算例】
基本給:30万円の場合

・1~6ヶ月目:30万円 × 67% = 201,000円
・7ヶ月目以降:30万円 × 50% = 150,000円

給付金対象となる労働者

  • 雇用保険加入者(正社員・契約社員)
  • 育休開始前12ヶ月間で11日以上勤務月が11ヶ月以上
  • 育休中も月20日以上の休業

給付金の申請方法

  1. 申請書類
  2. 育児休業給付金支給申請書(ハローワーク提出)
  3. 雇用保険被保険者証
  4. 育休計画書

  5. 申請窓口

  6. 本人またはハローワーク
  7. 企業経由での申請も可能

  8. 給付期間

  9. 子が1歳になるまで
  10. 保育園入園困難等の理由で最大2歳まで延長可能

企業がしてはいけない「違法な待遇変更」

不利益取扱いの具体的事例

1. 昇進・昇給における差別

【違法事例】
✗ 部長昇進の候補者から育休取得者を除外
✗ 「育休中だから評価対象外」という運用
✗ 昇給テーブルから育休取得者のみ除外
✗ 昇進試験で「育休中の経験不足」を理由に不合格

【是正方法】
✓ 育休期間を勤続年数に含める
✓ 昇進基準に育休取得の有無を含めない
✓ 昇給は入社年度で統一的に行う
✓ 試験合格者を育休を理由に昇進させない判断をしない

2. 配置転換・職種変更による実質的な降給

【違法事例】
✗ 育休復帰後、営業職から事務職に変更(給与が下がる)
✗ 「都合がつきやすい」名目で本人不希望の職種変更
✗ 子育てを理由に全国転勤職から地域限定職へ(給与減)

【判断基準】
・本人の希望か?
・給与・待遇は変わらないか?
・業務上の必要性があるか?

3. 福利厚生の支給停止

【違法となる停止】
✗ 家族手当:配偶者・子どもの手当を育休中は支給停止
✗ 住宅手当:育休中のみ支給を中止
✗ 定期昇給分:育休期間を昇給計算から除外

【合法となる停止】
✓ 営業手当:実績がないため支給なし
✓ 残業手当:労働していないため対象外

4. 賞与計算の不正操作

【違法事例】
✗ 育休180日 ÷ 365日 = 0.49倍で計算(育休を除外)
✗ 「育休取得者は評価70点に固定」

【合法的な計算】
✓ (360日 ÷ 365日)で日割計算
✓ 育休前後の実績で個別評価

法違反時の企業のリスク

行政指導

労働局・労働基準監督署の対応

【第1段階】相談・指導
→ 違法行為の是正を促す

【第2段階】改善勧告
→ 書面で改善を指示

【第3段階】監督指導
→ 企業立ち入り調査

経済的な損害賠償

リスク 金額・内容
未払い給与 減額分の全額支払い(遡及請求)
遅延損害金 未払い額に対し年14.6%の利息
慰謝料 違法行為の精神的損害:50万~200万円
付加金 未払い額と同額の追加支払い

企業評判・採用への影響

  • 労働基準監督署への指導状況は一部公開されます
  • SNS等での炎上リスク
  • 優秀人材の採用難

企業が講じるべき正しい対応

1. 就業規則の明確化

【記載すべき事項】
・育休中の給与支払い:「支払わない」と明記
  (ただし手当の扱いを明確に)
・育休期間の取扱い:「勤続年数に含む」と明記
・昇給・昇進の基準:育休取得を理由に不利に扱わないことを明記
・賞与計算方法:育休期間の扱いを具体的に記載

記載例

第○条 育児休業中の処遇
1. 育児休業中は給与を支給しない
2. ただし以下を支給する
   - 家族手当、住宅手当(育休前と同額)
   - 社会保険料は企業負担分も免除
3. 育休期間は勤続年数に算入する
4. 昇給時期においても育休取得を理由に
   昇給を停止しない
5. 賞与計算時は育休期間を除外しない

2. 社会保険料の取扱い

育休中の社会保険料の正しい対応

【健康保険・厚生年金】
✓ 企業負担分:免除
✓ 労働者負担分:原則として給与から控除しない
   →ただし給与がある場合は控除

【雇用保険料】
✓ 免除対象外:賃金がない場合でも保険料実績

3. 育休復帰者のキャリア支援

【復帰後の適切な対応】
✓ 復帰1ヶ月前面談:職場復帰計画の確認
✓ 時間短縮勤務制度の活用
✓ 育休取得者を対象外としない研修制度
✓ 昇進昇給の機会均等性の確保
✓ メンター制度の構築

4. 管理職への研修

企業が実施すべき研修
– 育児・介護休業法の基礎知識
– 不利益取扱い禁止に関する具体例
– 復帰後の評価・処遇ルール
– トラブル事例とその対応


よくある質問(FAQ)

Q1:育休中に賞与を支給しないことは違法ですか?

A:状況による。

【合法的な場合】
✓ 賞与が「実績報酬」である
  → 育休中に実績がないため0円は合法

✓ 日割計算で育休期間を含める
  → (355日 ÷ 365日)× 金額

【違法となる場合】
✗ 育休を理由に一律カット(「育休中は支給なし」)
✗ 育休期間を完全に除外して計算
  → (175日 ÷ 365日)× 金額

正しい計算方法
育休期間を含めて日割計算することが原則です。


Q2:育休から復帰した後の給与減額は違法ですか?

A:違法です(ほぼ確実に)。

復帰後の給与減額は、育児・介護休業法第10条第2項で明確に禁止されています。

違法例:
✗ 職位が変わらないのに給与減額
✗ 実績が同じなのに昇給を見送り
✗ 昇進は認めたが給与は据え置き

合法例:
✓ 業績悪化で全社的に給与カット(育休取得者も含む)
✓ 配置転換で給与体系が変わる(ただし適切な説明必要)

Q3:「育休期間はカウントしない」という就業規則は有効ですか?

A:無効です。

育児・介護休業法第10条が優先されるため、就業規則で「育休期間をカウントしない」と定めても違法です。

厚生労働省通達:
「育休期間は勤続年数に含める」

この通達が就業規則よりも優先されます。


Q4:男性の育休取得者への給与減額も違法ですか?

A:同じく違法です。

育児・介護休業法は男女の区別をしていません。男性が育休を取得した場合も同じ法的保護が適用されます。

保護対象:
✓ 母親の育休
✓ 父親の育休
✓ 同性婚の育休

Q5:契約社員やパート労働者も同じルールですか?

A:基本は同じですが、雇用形態で異なる可能性があります。

【雇用保険加入者】
✓ 育児休業給付金の対象
✓ 育児・介護休業法の適用あり

【加入要件】
・契約社員:原則対象
・パート:月20日以上勤務で対象
・日雇い労働者:対象外

まとめ:企業が守るべき原則

育休制度に関する3つの黄金ルール

┌────────────────────────────────────┐
│ ルール1:不利益取扱い禁止          │
│ 育休を理由とした待遇悪化は禁止    │
├────────────────────────────────────┤
│ ルール2:育休期間の同視              │
│ 育休期間を勤続年数・昇進評価に含める│
├────────────────────────────────────┤
│ ルール3:給付金制度の周知          │
│ 育児休業給付金で所得補填される     │
└────────────────────────────────────┘

企業が今すぐ実施すべき対策

優先度 対策 実施期限
就業規則の見直し(育休条項) 3ヶ月以内
管理職研修の実施 3ヶ月以内
給与計算システムの確認 6ヶ月以内
過去の違法対応の是正 遡及請求に対応
復帰支援プログラムの構築 1年以内

参考資料

  • 育児・介護休業法(厚生労働省)
  • 男女雇用機会均等法(厚生労働省)
  • 厚生労働省ガイドライン「育児休業、介護休業等育児又は家族の介護を行う労働者の就業環境の整備に関する法律」
  • 育児休業給付金のご案内(ハローワーク)
  • 労働基準法第14条「賃金の減額」

記事作成日:2026年版
法改正対応状況:育児・介護休業法改正(令和3年6月)対応済み

よくある質問(FAQ)

Q. 育休中に給与を0円にすることは違法ですか?
A. 育休中の給与支払い義務は法的に発生しないため、0円にすること自体は合法です。ただし育休を理由とした減額は違法。育児休業給付金で補填される仕組みです。

Q. 手当の支給停止は全て違法ですか?
A. 家族手当や住宅手当など労働と関連性が薄い手当の停止は違法ですが、営業実績手当など実績連動型の手当は支給対象外で合法です。

Q. 育休から復帰後の昇給・昇進を制限することは違法ですか?
A. 違法です。育休期間を理由に昇給や昇進を拒否することは育児・介護休業法第10条第2項で禁止。育休期間は勤続年数に含めるべきです。

Q. 賞与からの育休期間の控除はどこまで合法ですか?
A. 育休期間の日数按分(働いていない日数分のカット)は合法ですが、過度な控除や育休を理由とした賞与の大幅減額は違法判定される可能性があります。

Q. 育休による給与減額で違法判定された場合、どう対応すべき?
A. 労働基準監督署または労働局に相談し、減額分の遡及請求が可能です。是正指導を受けて適切な給与支払いに改めるべきです。

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