有期雇用の「更新見込みなし」で育休対象外判定は違法か【2026年判定基準】

有期雇用の「更新見込みなし」で育休対象外判定は違法か【2026年判定基準】 企業の育休対応

有期雇用の労働者が育休取得を申し出たとき、企業から「更新見込みなしなので対象外です」と告げられるケースが後を絶ちません。しかし、この判定は本当に法律に基づいた正当なものでしょうか。単に企業側の都合で「更新しない」と言えば育休を拒否できるのでしょうか。

本記事では、育児・介護休業法の条文と厚生労働省のガイドラインに基づき、「更新見込みなし」判定の法的要件・違法性の判断基準・企業が陥りやすいリスクを徹底解説します。労働者が自身の権利を主張する根拠として、また企業の人事担当者が適正な判定を行う指針として、ぜひご活用ください。


有期雇用における育休対象外「更新見込みなし」とは何か

「更新見込みなし」の法定要件(育児・介護休業法第3条第2項)

育児・介護休業法(以下「育介法」)は、正社員だけでなく有期雇用労働者にも育休取得の権利を認めています。ただし、有期雇用労働者が育休を取得するには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります(育介法第3条第2項)。

要件 内容
①継続雇用1年以上 育休申し出時点で、同一事業主に継続して1年以上雇用されていること
②出産後8週間以内の終了が明らかでない 子の出生予定日または出生日から8週間以内に労働契約が満了することが明らかでないこと
③申し出から1年以内に契約満了しない見込み 育休申し出日から起算して1年以内(パパ・ママ育休プラス制度利用時は6か月以内)に労働契約期間が満了しないと見込まれること

このうち、「更新見込みなし」という判定は主に③の要件に関わります。申し出日から1年以内に契約が満了する予定であり、かつ更新される見込みもない場合、企業は有期雇用労働者を育休対象外と判断できます。

しかし重要なのは、「更新見込みなし」は企業が一方的に宣言すれば成立するものではないという点です。法律が要求しているのは、客観的証拠に基づく判定です。使用者が「更新しない」と口頭で言うだけでは足りず、契約書の記載内容・過去の更新実績・同種労働者の扱いなど、複数の客観的事情を総合的に判断しなければなりません。

📌 法的ポイント
「更新見込みなし」の判定は、企業の主観的な意思だけでは成立しません。客観的事情の裏づけが不可欠です。


厚生労働省の判定ガイドライン(2024年改正対応)

厚生労働省は「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(厚労省告示第357号)において、有期労働契約の更新見込みの判断基準を示しています。この基準は、育介法の運用においても重要な指針となります。

2024年の改正(2025年4月施行分含む)では、有期雇用労働者に対する育休制度の周知義務が強化され、「更新見込みなし」の判定手続きにより厳格な説明責任が課されるようになりました。特に注目すべきは、「更新の有無が不明確」な場合には、更新見込みありと推定して扱うことが求められている点です。

厚労省の通達(雇児発0630第1号等)では、以下のような判断視点を示しています:

  • 契約書の更新条項の有無と内容:「更新する場合がある」「更新しない」など、記載がどうなっているか
  • 過去の更新回数と継続期間:3回以上の更新や、1年以上の継続雇用がある場合は更新期待が生じやすい
  • 同種の有期雇用労働者の更新状況:他の同職種・同条件の労働者が通常更新されている場合
  • 使用者の言動・態度:口頭・文書を問わず継続雇用を示唆する言動があったか

これらの要素が一つでも「更新が期待される状況」を示している場合、企業は安易に「更新見込みなし」と判定することはできません。


「更新見込みあり」と判定される具体的な要件

契約書・雇用契約条項の記載と法的効力

雇用契約書の記載内容は、「更新見込みあり」かどうかを判断する最も直接的な証拠となります。以下の記載がある場合、企業は育休申請を拒否しにくくなります。

更新見込みありと判定されやすい記載例:

・「契約期間満了後は、双方合意の上で更新する場合があります」
・「業務の都合、勤務成績等を考慮した上で更新することがあります」
・「原則として1年ごとに更新し、通算5年を上限とします」

更新見込みなしと判定されやすい記載例:

・「本契約は更新しない」
・「契約期間の満了をもって雇用関係は終了する」
・「本契約は1回限りとし、更新は行わない」

ただし、契約書に「更新しない」と書かれていても、それだけで即座に対象外とはなりません。過去に実際に更新が繰り返されていた事実がある場合、契約書の記載よりも実態が優先されることがあります(後述の雇止め法理参照)。


過去の更新実績と更新期待権

雇止め法理(労働契約法第19条) は、育休申請の場面でも重要な役割を果たします。

労働契約法第19条は、有期労働契約の雇止め(更新拒絶)を制限する規定で、以下のいずれかに該当する場合、雇止めは客観的合理的理由・社会通念上の相当性がなければ無効とされます:

  1. 反復更新型:過去に何度も更新が繰り返されており、実質的に無期雇用と同視できる状態
  2. 更新期待型:更新されることへの合理的な期待が生じている状態

この「更新期待権」が認められる場合、企業が「更新見込みなし」と一方的に判定して育休対象外とすることは、育介法違反と雇止め法理違反の両面から違法性が問われます。

更新期待権が認められやすい事情:

  • 3回以上の更新実績がある
  • 同種業務の他の有期労働者が例外なく更新されている
  • 上司や人事担当者が「来年も更新する予定」と口頭で伝えていた
  • 次の契約期間の業務内容・シフト・目標設定について話し合いが始まっていた

これらの事情がある場合、育休申請のタイミングで突然「更新見込みなし」と判定することは、育休取得を理由とした不利益取扱い(育介法第10条違反) として問題になる可能性が高まります。


「更新見込みなし」判定の違法性と差別的扱い

育休申請後の「更新見込みなし」判定が違法となる典型パターン

実務上で問題となりやすいのは、育休申請をしたことをきっかけに、突然「更新見込みなし」の通知が行われるケースです。以下のようなパターンは、違法性が問われやすい典型例です。

🚨 違法リスクが高い典型パターン:

パターン 問題点
育休申請直後に「今回で契約終了」と通知 申請前に更新見込みがあったにもかかわらず、申請を契機に終了させている疑いが強い
妊娠の報告後に更新条件が突然不利に変更 マタニティハラスメント(マタハラ)に該当する可能性あり
同種の他の有期労働者は更新されているのに本人だけ終了 差別的扱いとして均等法・育介法違反の疑い
契約書に「更新の可能性あり」と書きながら育休申請後に「更新なし」と判定 契約書の記載と矛盾する判定

育介法第10条は、育休申請や取得を理由とした解雇・不利益取扱いを明確に禁止しています。また、男女雇用機会均等法(均等法)第9条は、妊娠・出産を理由とした不利益取扱いを禁じており、両法が組み合わさって強力な保護網を形成しています。


有期雇用差別と育休排除の問題

2020年4月(中小企業は2021年4月)に施行されたパートタイム・有期雇用労働法(パート有期法)では、有期雇用労働者と正社員の不合理な待遇差が禁止されています。

育休取得の機会は「福利厚生」の一部とも解釈され得ます。正社員には育休取得を認めながら、同種業務に従事する有期雇用労働者には「更新見込みなし」を理由に一律に育休申請を拒否することは、パート有期法違反の差別的扱いとして問題になる可能性があります。

特に以下の状況では差別性が強く問われます:

  • 正社員とほぼ同一の業務・責任で就労している
  • 業務の都合による「更新見込みなし」ではなく、育休取得回避が真の目的と推認される
  • 正社員の育休取得率は高いが、有期雇用労働者の取得率がゼロに近い

このような実態がある企業は、行政指導・是正勧告のみならず、損害賠償請求訴訟にも発展するリスクがあります。


企業が適正な「更新見込みなし」判定を行うための手続き

適法な判定手続きの要件

企業が適法に「更新見込みなし」と判定して育休対象外とするためには、以下の手続きを踏む必要があります。

ステップ①:契約書の明確な記載確認

雇用契約書に「更新しない」または「更新回数・期間の上限」が明記されていることを確認します。記載がない場合や「更新する場合がある」という曖昧な記載の場合は、更新見込みありと判定されるリスクがあります。

ステップ②:過去の更新実績の確認

当該労働者の過去の更新実績を確認します。3回以上の更新がある場合は特に慎重な判定が必要です。更新実績がある場合は、業務終了・事業縮小など育休取得とは無関係の客観的事由が必要です。

ステップ③:同種労働者との比較検討

同種業務に従事する他の有期雇用労働者の更新状況を確認し、当該労働者だけ特別に不利に扱っていないか検証します。

ステップ④:書面による通知と理由の明示

「更新見込みなし」と判定した場合は、口頭ではなく書面で、かつ具体的な理由(業務量の減少、事業廃止、上限回数に達したなど)を明示した通知を交付します。理由が曖昧な書面は、後日の紛争で企業側に不利に働きます。

ステップ⑤:育休申請時期との関連性がないことの確認

判定のタイミングが育休申請と近接していないか確認します。申請後に判定を行う場合は、申請前から更新しない方針が決まっていたことを示す証拠(会議議事録・メール等)を保全しておくことが重要です。


企業が陥りやすい法的リスクと対策

リスク 内容 対策
育介法第10条違反 育休申請を理由とした不利益取扱い 申請前から更新しない方針を文書化
雇止め法理違反(労契法19条) 更新期待権のある労働者の一方的終了 契約書の更新条項を明確化し、早期から更新予定を書面で通知しない
マタハラ(均等法9条違反) 妊娠・出産を理由とした不利益取扱い 妊娠報告後の待遇変更は記録とともに正当性を確認
パート有期法違反 正社員との不合理な格差 有期雇用者の育休取得について就業規則・運用を整備
行政指導・是正勧告 都道府県労働局による指導 育休制度の周知義務を履行し、定期的に社内点検を実施

育休対象外と判定された場合の労働者の対処法

不服申し立ての手順と必要書類

「更新見込みなし」として育休対象外と判定された有期雇用労働者は、以下の手順で不服申し立てを行うことができます。

手順①:証拠の収集

まず以下の書類・記録を収集・保全します。

  • 雇用契約書(過去のものも含むすべて)
  • 過去の契約更新通知書
  • 上司や人事からの更新に関する発言のメモ・メール
  • 同種の他の有期労働者の更新状況に関する情報
  • 「更新見込みなし」の通知書(口頭の場合は日時・発言者・内容をメモ)

手順②:会社への書面申し入れ

育休申請を書面で行い、対象外と判定する場合はその法的根拠と具体的理由を書面で示すよう求めます。会社が書面による回答を拒む場合、それ自体が後の手続きで不利に働きます。

手順③:都道府県労働局への相談

育介法に基づく紛争解決制度として、都道府県労働局雇用環境・均等部(室) への申し出が可能です(育介法第52条の4)。調停・あっせん手続きを通じて、費用をかけずに解決できる場合があります。

手順④:労働審判・訴訟

話し合いによる解決が困難な場合は、地方裁判所への労働審判申立てが有効です。労働審判は原則3回の期日以内に結果が出るため、通常訴訟より迅速な解決が期待できます。


育児休業給付金との関係

育休対象外と判定された場合、当然ながら雇用保険の育児休業給付金も受給できません。しかし、不当に対象外とされたと認められれば、育休取得の権利とともに給付金受給の権利も回復されます。

育児休業給付金の基本的な計算式は以下のとおりです:

育児休業給付金の支給額(目安):

休業開始から180日間:
  休業前賃金の67%(月額上限:約31.4万円)※2025年度適用額

181日目以降:
  休業前賃金の50%(月額上限:約23.4万円)※2025年度適用額

⚠️ 注意:給付金の上限額は毎年8月1日に見直されます。最新額は雇用保険のハローワーク窓口または厚労省ウェブサイトでご確認ください。

また、2025年4月施行の改正育介法・育介給付金制度では、一定の要件を満たした場合の手取り10割相当の給付金制度(出生後休業支援給付)が開始されていますが、有期雇用労働者が対象外と判定されている場合はこれも受給できないため、適正な判定がより一層重要となっています。


よくある誤解と正しい理解

育休対象外判定をめぐっては、企業側・労働者側の双方に誤解が蔓延しています。正確な理解のために、典型的な誤解を整理します。

Q1. 契約書に「更新しない」と書いてあれば、育休申請を拒否していいですか?

必ずしもそうとは言えません。契約書の記載内容は判断要素の一つに過ぎず、過去の更新実績や使用者の言動によって「更新期待権」が生じている場合は、育休申請を拒否することで違法と判断されるリスクがあります。特に3回以上の更新実績がある場合は、雇止め法理(労働契約法第19条)との関係で慎重な対応が必要です。

Q2. 有期雇用で雇用期間が6か月の場合、育休は絶対に取れないですか?

雇用契約の期間が6か月であっても、同一事業主との通算雇用期間が1年以上あり、かつ育休取得要件を満たす見込みがある場合は、育休を取得できます。単一契約の期間ではなく、継続雇用の通算期間で判断される点に注意してください。

Q3. 「更新見込みなし」と言われた後、妊娠が判明した場合はどうなりますか?

「更新見込みなし」の通知が妊娠判明前に行われ、その後妊娠が判明した場合でも、通知の真の理由が妊娠・育休取得の回避にある場合は違法となります。一方、業務の終了・事業縮小など客観的な理由がある場合は適法です。証拠収集と専門家への相談をお勧めします。

Q4. 育休対象外と判定された場合、産後パパ育休(出生時育児休業)も取れないですか?

産後パパ育休(出生時育児休業)についても、有期雇用労働者に対しては同様の要件(申し出日から6か月以内に労働契約が終了しない見込み等)が課されています。育休の対象外判定がされた場合、産後パパ育休も対象外となる可能性が高いですが、判定の適法性は同様の基準で判断されます。

Q5. 労働局に相談した場合、企業に対して何か制裁がありますか?

都道府県労働局雇用環境・均等部(室)への申し出により、調停・あっせんが行われます。企業が違反していると認定された場合、行政指導・是正勧告・企業名公表(悪質な場合)が行われます。また、育介法第56条に基づき、厚生労働大臣による報告徴収・立入検査の対象にもなります。刑事罰(同法第68条:10万円以下の過料)の規定もあります。


「更新見込みなし」判定に必要な法的理解と相談窓口

有期雇用労働者に対する「更新見込みなし」を理由とした育休対象外判定は、適切な法的根拠と客観的事情の裏づけがなければ違法となるリスクがあります。 本記事の要点を以下に整理します。

項目 ポイント
法的根拠 育介法第3条第2項の3要件をすべて満たす必要がある
判定基準 契約書記載+過去の更新実績+同種労働者の扱い+使用者の言動を総合判断
違法性の焦点 育休申請を契機とした判定・差別的扱い・更新期待権の無視
雇止め法理 労働契約法第19条による更新期待権が育休申請場面にも影響
企業のリスク 育介法・均等法・パート有期法・労働契約法の複合的違反リスク
労働者の対処 証拠収集→書面申入れ→労働局相談→労働審判の順で対応

企業の人事担当者は、育休申請時の「更新見込みなし」判定が感情的・場当たり的な対応ではなく、法律上の要件を満たした適正な手続きであることを文書で証明できる体制を整えることが求められます。

労働者の方は、「更新見込みなし」と告げられた場合でも即座に諦める必要はありません。雇用の実態・更新実績・使用者の言動を丁寧に整理し、専門家に相談することで、権利が回復されるケースは少なくありません。

📞 相談窓口一覧

都道府県労働局雇用環境・均等部(室)
育児・介護休業法に関する専門的な相談・紛争解決制度(調停・あっせん)を無料で利用できます。全国の労働局で対応しており、妊娠・出産・育休に関する相談は優先的に取り扱われています。各都道府県労働局にお問い合わせください。

総合労働相談コーナー
各都道府県労働局・労働基準監督署内に設置されており、育休を含む労働条件全般について相談できます。
電話:0120-811-610(総合相談ホットライン)

社会保険労務士(社労士)・弁護士への相談
育休制度の具体的な判定方法や不服申し立ての戦略について、個別の法的助言が必要な場合は有資格者の相談が有効です。法律相談料は事務所により異なるため、事前に確認することをお勧めします。


本記事は2025年7月時点の法令・通達に基づいて作成しています。法改正・通達改正により内容が変わる場合がありますので、最新情報は厚生労働省ウェブサイトまたは専門家にご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談の代替とはなりません。

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