転職後に妊娠・出産を迎えた方の多くが「育休給付金の計算に前職の給与は含まれるの?」と疑問を持ちます。結論を先にお伝えすると、前職の給与は育休給付金の平均賃金算定には含まれません。計算の基準となるのは、育児休業開始時に在籍している現職企業の給与実績のみです。
本記事では転職者が陥りやすい誤解を解消しながら、法的根拠・計算式・申請手続き・必要書類を順を追って解説します。転職タイミング別の注意点も掲載していますので、ぜひ最後までお読みください。
転職後の育休給付金は現職給与のみで計算される
前職給与が含まれない理由(法的根拠)
育休給付金(育児休業給付金)の支給額の計算根拠は、雇用保険法第61条の4に規定されています。同条では「育児休業給付金の額は、休業開始時賃金日額に支給日数を乗じて得た額の100分の67(または100分の50)に相当する額とする」と定められています。
ここでいう「休業開始時賃金日額」は、雇用保険法施行規則第77条〜第81条に定める方法で算出される「賃金日額」を指します。賃金日額は、育児休業を開始した時点で在籍している企業における直近の給与実績をもとに計算されます。
つまり、法律上「どの企業の給与を使うか」は育児休業を開始した時点の所属企業によって決まります。前職は育休開始時の所属企業ではないため、前職の給与が計算式に入る余地はありません。
| 法律・規定 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 雇用保険法 | 第61条の4第1項 | 育児休業給付金の支給要件・金額の基本ルール |
| 雇用保険法施行規則 | 第77条〜第81条 | 賃金日額・平均賃金の算定方法 |
| 育児・介護休業法 | 第5条 | 育児休業の取得対象者 |
| 厚生労働省告示 | 給付基礎日額に関する告示 | 上限額・下限額の設定根拠 |
ケース別早見表:前職給与の扱い方
転職・出向・転籍・配転など、働き方によって給与の扱いは異なります。以下の早見表で自分に該当するケースを確認してください。
| ケース | 前職給与の扱い | 平均賃金の算定対象 |
|---|---|---|
| 同企業内での部署異動・配転後に育休取得 | 含まれない | 現在の所属部署での給与(ただし同一法人内のため継続算定) |
| 転職して新企業で育休取得 | 含まれない | 現職(転職先)企業の給与実績のみ |
| 出向先で育休取得 | 出向元の給与が基準(契約内容による) | 出向元企業との雇用契約上の賃金 |
| 転籍(雇用契約を移転)後に育休取得 | 含まれない | 転籍先企業の給与実績のみ |
| グループ企業間の異動(転籍)後に育休取得 | 含まれない | 異動先(転籍先)企業の給与実績のみ |
「出向」と「転籍」は似て非なる概念です。出向は元の企業との雇用契約が継続したまま別の企業で就業する形態であるため、賃金の実態に応じて元企業の給与が基準になるケースがあります。一方、転籍は雇用契約そのものが新しい企業に移るため、転籍先での給与だけが算定対象となります。
転職者が誤解しやすい3つのポイント
誤解①「被保険者期間の通算」と「賃金算定の通算」を混同している
転職者にとって特に混乱しやすいのが、「被保険者期間は前職分も通算できるのに、なぜ給与は通算されないのか」という点です。育休給付金の受給資格を得るために必要な「育休開始前2年間に通算12ヶ月以上の被保険者期間」は、前職・現職を合計してカウントできます。しかし、給付金額の計算に使う賃金は現職のみです。資格要件と金額算定では適用される規定がまったく異なります。
誤解②「平均賃金」という言葉を日常的な意味で捉えている
一般的に「平均賃金」は「給与の平均値」をイメージしがちですが、法律上の「平均賃金」(労働基準法第12条等)は具体的な計算式に基づく法律用語です。育休給付金で使用する「賃金日額」は、これとも少し計算方法が異なります。詳細は次のセクションで解説します。
誤解③「収入が低い現職の給与よりも前職の高い給与で計算できる」と思っている
転職直後で現職の給与実績が少ない、あるいは前職より給与が低下している場合に「前職の高い給与を使えないか」と考える方がいますが、法律上これは認められていません。現職での給与実績が少ない場合は、計算に使える賃金月数が少なくなり、その分給付額に影響する可能性があります。
育休給付金の平均賃金とは?計算の基本ルール
「平均賃金」(法律用語)と「平均給与」の違い
日常会話で使う「平均給与」は「毎月の給与を足して月数で割った値」のイメージが一般的ですが、育休給付金の支給額計算では「賃金日額」という概念を使います。
賃金日額とは、育児休業を開始した日の直前の賃金締切日から遡って6ヶ月間の賃金総額を180で割った金額です(雇用保険法施行規則第19条の2等を準用)。なお、賞与(ボーナス)は賃金日額の計算には含まれません。
【賃金日額の計算式】
賃金日額 = 育休開始直前6ヶ月の賃金総額(賞与除く) ÷ 180
この賃金日額に対して、「給付基礎日額」という概念が設定されており、法定の上限額・下限額が設けられています(毎年8月1日に更新)。
育休給付金の支給額決定フロー
育休給付金の月額がどのように決まるかを順を追って示します。
【支給額決定のフロー】
① 育休開始直前6ヶ月の賃金総額(賞与除く)を集計
↓
② 賃金総額 ÷ 180 = 賃金日額
↓
③ 賃金日額に上限・下限を適用して「給付基礎日額」を確定
↓
④ 支給率を乗算(育休開始後180日目まで:67%、181日目以降:50%)
↓
⑤ 育休取得日数(支給単位期間)を乗算
↓
⑥ 月額育休給付金が決定
2025年現在の支給率は以下の通りです。
| 育休期間 | 支給率 | 手取り換算の目安 |
|---|---|---|
| 育休開始〜180日目まで | 賃金日額の67% | 手取りの約80%相当 |
| 181日目以降〜育休終了まで | 賃金日額の50% | 手取りの約60%相当 |
※手取り換算の目安は、育休中は社会保険料が免除されることを考慮した概算です。
「休業開始時」の企業が基準になる理由
育休給付金の計算基準が「休業開始時の所属企業」とされているのは、給付金が育休取得者が実際に失った収入を補填するものという制度設計の根拠に基づいています。
育休中に喪失する収入は、現在の職場での給与です。前職の給与は既に過去のものであり、育休取得によって直接的に失われる収入とは関係がありません。したがって、補填の基準も現職の給与実績のみとなります。
転職者が知っておくべき「6ヶ月の給与実績」の重要性
賃金日額の計算には育休開始直前6ヶ月分の給与が必要です。転職してからの在職期間が6ヶ月未満の場合、実際に在籍した期間の賃金総額を実在籍日数で割り、30を乗じた額を1ヶ月分の賃金として換算する取り扱いになります(端数処理あり)。
つまり、現職での在籍期間が短ければ短いほど、計算のベースとなる賃金データが少なくなります。転職直後に育休を取得するケースでは、給付額が月給の単純計算より低くなる可能性があることを把握しておきましょう。
転職タイミング別の注意点と給付額への影響
転職から1年未満で育休を取得する場合
転職後の在籍期間が12ヶ月未満であっても、前職での被保険者期間と合算して12ヶ月以上あれば、育休給付金の受給資格は満たせます(ただし、前職退職時に離職票の発行を受けており、かつ基本手当を受給していないことが条件)。
しかし、給付金額の計算には現職の給与実績しか使えません。たとえば転職後3ヶ月で育休を取得した場合、3ヶ月分の賃金データのみで賃金日額が算出されます。
転職後の給与が前職より下がっている場合
給与が前職より低い場合、育休給付金の額も前職在籍時に取得した場合と比べて低くなります。これは法律上やむを得ない結果であり、前職給与を追加して計算を「かさ上げ」する方法は存在しません。
転職を検討している方で、将来の育休給付金の水準を維持したい場合は、転職先での給与水準・雇用形態・昇給タイミングを事前に確認しておくことが重要です。
転職後に給与が上がっている場合
転職によって給与が上昇している場合は、現職の高い給与をベースに計算されるため、前職在籍時より給付額が高くなることもあります。転職後に一定期間(最低でも2〜3ヶ月以上)在籍して給与実績を積んでから育休を取得すると、より実態に近い給付額を受け取れます。
申請手続きと必要書類(転職者向け)
申請の全体フロー
育休給付金の申請は、基本的に勤務先(会社)を通じてハローワークに行います。転職者の場合も手続き自体は変わりませんが、現職での給与実績証明が求められる点に注意が必要です。
【転職後の育休給付金申請フロー】
STEP 1:妊娠判明後、速やかに会社に報告し育休取得の意思を伝える
↓
STEP 2:育休開始前に「受給資格確認申請」の準備(会社の担当者と連携)
↓
STEP 3:育休開始から原則10日以内(遅くとも1ヶ月以内)に受給資格確認申請
↓
STEP 4:初回「育児休業給付金支給申請」(育休開始後2ヶ月ごとに実施)
↓
STEP 5:以降2ヶ月ごとに支給申請を繰り返す
↓
STEP 6:育休終了後、給付金の終了手続きを実施
必要書類一覧(初回受給資格確認申請時)
| 書類名 | 入手先 | 提出タイミング |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認申請書(HB100) | ハローワーク(会社が準備) | 育休開始後できるだけ早期(遅くとも1ヶ月以内) |
| 母子健康手帳(出生証明欄のコピーまたは出生届受理証明) | 市区町村・医療機関 | 初回申請時 |
| 賃金台帳(現職分のみ:直近6ヶ月分) | 勤務先が準備 | 初回申請時 |
| 出勤簿またはタイムカード(現職分のみ) | 勤務先が準備 | 初回申請時 |
| 雇用保険被保険者証 | 本人が保管(会社が交付) | 初回申請時 |
| 育児休業申出書(会社への申出記録) | 勤務先が準備 | 初回申請時 |
転職者固有の注意点:前職での離職票は「12ヶ月の被保険者期間」を証明するために必要になる場合があります。前職退職時に離職票を受け取っていない場合は、前職の会社に問い合わせて再発行を依頼するか、ハローワークに相談してください。
申請先と提出窓口
申請はすべて現在の勤務先(会社)が管轄するハローワークへ行います。労働者本人が直接ハローワークに行く必要は基本的になく、会社の人事・総務担当者が手続きを代行します。ただし、委任状の記入など一部書類の署名・押印が必要なことがあるため、会社の担当者の指示に従ってください。
支給申請(2ヶ月ごと)に必要な書類
初回以降の支給申請(2ヶ月ごと)には以下の書類が必要です。
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | ハローワーク所定の様式(会社が準備) |
| 賃金台帳(育休中の2ヶ月分) | 育休中は無給の場合が多く、その旨を記入 |
| 出勤簿またはタイムカード | 育休中の出勤状況の確認用 |
計算例でわかる転職者の育休給付金の実額
計算例①:転職後6ヶ月で育休を開始した場合
- 転職後の月給(額面):30万円
- 育休開始直前6ヶ月の賃金総額:180万円(賞与なし)
- 賃金日額:180万円 ÷ 180 = 1万円
- 育休開始〜180日分の月額給付金(目安):1万円 × 30日 × 67% = 約20万1,000円/月
- 181日目以降の月額給付金(目安):1万円 × 30日 × 50% = 約15万円/月
計算例②:転職後3ヶ月で育休を開始した場合(在籍期間が短いケース)
- 転職後の月給(額面):30万円
- 現職での実際の賃金実績:3ヶ月分(90万円)
- 在籍日数(賃金台帳上):約90日(3ヶ月)
- 賃金日額の計算:90万円 ÷ 180 = 5,000円(6ヶ月分に満たないため日割り換算が適用される場合あり)
ポイント:転職後すぐに育休を取得する場合は、給付額が月給の実態より低くなる可能性があります。会社の人事担当者やハローワークの窓口で事前に試算してもらうことをおすすめします。
上限額・下限額と2025年度の最新情報
育休給付金の賃金日額には、法令で上限と下限が設けられています。毎年8月1日に見直されるため、最新の金額は必ずハローワークまたは厚生労働省の公式サイトで確認してください。
| 区分 | 2025年8月1日時点(目安) |
|---|---|
| 賃金日額の上限(67%支給の場合) | 約15,190円 |
| 賃金日額の下限 | 約2,869円 |
| 月額給付金の上限(67%支給・30日計算) | 約305,319円 |
※上記は2024年度〜2025年度の参考値です。正確な金額は厚生労働省発表の最新告示をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 前職の給与が現職より高かった場合、前職給与を使って申請できますか?
できません。育休給付金の賃金算定は、育児休業を開始した時点の所属企業(現職)の給与実績のみを対象とします。前職の給与を任意に選択して申請することは、法律上認められていません。
Q2. 転職後12ヶ月未満でも育休給付金を受け取れますか?
育休給付金の「受給資格」は、育休開始前2年間に通算12ヶ月以上の被保険者期間があれば満たせます。この12ヶ月は前職と現職の期間を合算できます。ただし、前職退職時に雇用保険の基本手当(失業給付)を受給している期間がある場合は、その期間より前の被保険者期間はカウントされない点に注意が必要です。
Q3. 転職してすぐに妊娠した場合、育休給付金は受け取れますか?
受給には「育休開始前2年間に通算12ヶ月以上の被保険者期間」が必要です。現職での在籍が短くても前職期間と合算して12ヶ月以上あれば受給資格を得られます。ただし、給付金額は現職の給与実績のみで計算されるため、在籍期間が短いほど算定の基礎となるデータが少なくなります。
Q4. 育休給付金の申請を自分でハローワークに行って行うことはできますか?
基本的には会社(事業主)を通じた申請が原則です。ただし、会社が申請手続きに協力しない場合など、やむを得ない事情がある場合は本人が直接ハローワークに申請できるケースもあります。詳細はお近くのハローワークにご相談ください。
Q5. 出向中に育休を取得した場合、どちらの企業の給与が基準になりますか?
出向の場合は雇用契約の実態によります。元企業との雇用契約が継続している「在籍出向」では、元企業が給与を支払っているケースが多く、その場合は元企業の給与が基準になります。出向先企業が給与を支払っている場合は出向先の給与が基準になる場合もあるため、詳細はハローワークまたは社会保険労務士にご確認ください。
Q6. 転職後に昇給があった場合、給付金の計算にはいつの給与が使われますか?
育休開始直前の賃金締切日から遡って6ヶ月間の賃金実績が使われます。昇給後の給与がその6ヶ月の期間内であれば、昇給後の給与が計算に反映されます。昇給前の低い給与期間が含まれる場合は、その期間の実際の賃金が使われます。
Q7. 賞与(ボーナス)は育休給付金の計算に含まれますか?
含まれません。育休給付金の賃金日額の計算対象は月例賃金(基本給・残業代・各種手当等)のみです。賞与・一時金・インセンティブなど3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金は除外されます。
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まとめ:転職者が育休給付金の申請で押さえるべきポイント
本記事の重要点を整理します。
① 前職給与は育休給付金の平均賃金算定に含まれない
育休給付金の支給額は、育児休業開始時点の現職企業の給与実績(直近6ヶ月)のみをもとに計算されます。雇用保険法第61条の4に基づく法律上の原則であり、例外は認められません。
② 被保険者期間(12ヶ月要件)は前職と通算できる
給付金の「受給資格」を得るための被保険者期間は前職と現職を合算できます。ただし、前職退職後に雇用保険の基本手当を受給した場合はその前の期間は通算に含まれないため注意が必要です。
③ 転職後の在籍期間が短いほど給付額への影響が出る
賃金日額の計算に使える実績が少ないため、転職直後の育休取得では給付額が月給の実態より低くなることがあります。
④ 申請手続きは会社(事業主)が窓口
基本的にはすべての申請を会社の担当者を通じてハローワークへ行います。必要書類の収集・提出は会社が主導するため、育休開始前に人事・総務担当者と早めに連携を取ることが重要です。
⑤ 不明点はハローワークまたは社会保険労務士へ相談を
出向・転籍・グループ企業間異動など複雑なケースでは、判断が難しい場合があります。管轄のハローワークや社会保険労務士に相談することで、正確な給付額の試算や申請手続きの確認ができます。
転職後の育休給付金申請で不安なことや質問がある場合は、躊躇せずに会社の人事部門やハローワークに相談し、自分の状況に合った適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
免責事項:本記事は2025年時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。給付額・手続き・書類等は制度改正により変更される場合があります。最新情報および個別の判断については、管轄のハローワーク・社会保険労務士・厚生労働省公式サイトをご確認ください。

