育児休業給付金(以下「育休給付金」)を受け取るには、休業前の賃金をもとに「賃金月額」を算出し、そこから支給額を計算します。しかし、パートや短時間勤務、歩合制などで働いていた場合、計算対象期間の賃金月額が「最小賃金(賃金日額の下限)」を下回るケースがあります。
この状況に該当すると、通常とは異なる特別な計算ルールが適用されるため、「自分はいくらもらえるの?」と混乱してしまう方が少なくありません。
本記事では、賃金月額が最小賃金未満となる原因・対象者の見分け方・具体的な計算手順・ハローワークへの申請手続きまでを、2025年最新情報にもとづいて体系的に解説します。厚生労働省の雇用保険法および官報告示に基づいており、毎年8月の改定にも対応した信頼性の高い情報をお届けします。
育休給付金の「賃金月額」と「最小賃金」の関係とは?
育休給付金の支給額は、休業前の賃金月額を基準に算出されます。この賃金月額が、雇用保険法で定められた賃金日額の下限(最小賃金)を下回る場合、通常の計算式をそのまま使うことができません。
最小賃金を下回りやすいのは、主にパートタイム労働者・短時間勤務者・変動給の多い方です。「自分には関係ない」と思いがちですが、育休直前に時短勤務に切り替えた正社員にも起こりうる問題です。まずは制度の基本的な仕組みから確認しましょう。
育休給付金の給付額はどう決まるか(基本の仕組み)
育休給付金の支給額は、次の3ステップで算出されます。
ステップ①:賃金日額の算出
育児休業開始日前の2年間を遡り、賃金支払基礎日数が11日以上(または就労時間が80時間以上)ある完全な月を最大24か月抽出します。その中から直近の6か月分の賃金合計を180で割った金額が「賃金日額」です。
賃金日額 = 育休開始前6か月の賃金合計 ÷ 180
ステップ②:賃金月額の算出
賃金日額に30を掛けた金額が「賃金月額」となります。
賃金月額 = 賃金日額 × 30
ステップ③:支給額の算出
賃金月額に支給率を掛けて、2か月分の支給額を算出します。
| 育休取得期間 | 支給率 |
|---|---|
| 育休開始から最初の180日(約6か月) | 67%(2025年4月以降の特例は後述) |
| 181日目以降 | 50% |
2か月分支給額 = 賃金月額 × 支給率 × 2
なお、2025年4月以降は、両親が14日以上の育休を取得する場合に支給率が最大80%に引き上げられる「育児休業給付金の給付率引上げ」措置が本格運用されています(雇用保険法第61条の2)。
また、賃金月額には上限額・下限額が設けられています。2025年度現在の目安は以下のとおりです(毎年8月に改定)。
| 区分 | 金額(目安) |
|---|---|
| 賃金月額の上限 | 約480,300円 |
| 賃金月額の下限(最小賃金) | 約77,220円 |
この下限額を下回る場合が、本記事のテーマである「最小賃金未満」の状態です。
「最小賃金」とは何か?最低賃金との関係を整理
最小賃金とは、雇用保険法の賃金日額計算において設定されている下限額のことです。「賃金月額の下限」とも表現されます。正式には賃金日額の下限として厚生労働大臣が毎年8月に定めており、これに30を乗じた金額が賃金月額の下限となります。
一方、最低賃金(地域別最低賃金)は、労働基準法・最低賃金法にもとづいて都道府県ごとに定められた「1時間あたりの最低報酬水準」です。
⚠️ 混同注意:雇用保険法上の「最小賃金(賃金日額の下限)」と「労働基準法上の最低賃金」は別の概念です。ただし、最低賃金が低い地域や短時間勤務者では両者が連動して影響することがあります。
| 比較項目 | 雇用保険の最小賃金 | 労働基準法の最低賃金 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 雇用保険法 | 最低賃金法 |
| 設定単位 | 全国一律(日額) | 都道府県別(時間額) |
| 目的 | 給付金の下限保障 | 労働者の最低賃金保障 |
| 改定タイミング | 毎年8月 | 毎年10月ごろ |
最小賃金未満になるケースとその対象者
計算対象期間の賃金月額が最小賃金を下回るのは、決して珍しいことではありません。特定の働き方や勤務状況のもとで発生しやすい代表的なパターンを整理します。
| ケース | 発生しやすい職種・状況 | 対象の可能性 |
|---|---|---|
| 平均賃金が地域最低賃金水準を下回る | 短時間パート、学生アルバイト | ◎ |
| 月ごとの賃金変動が大きい | 歩合制、変動シフト制 | ◎ |
| 最低賃金改定直後の計算対象期間 | 改定前後を跨ぐ全勤務者 | △(要確認) |
| 産休直前に時短勤務へ切り替え | 育休前の産前休業取得者 | ◎ |
平均賃金が地域最低賃金を下回るケース
育休給付金の賃金日額を計算するために使用する6か月間の平均が、地域最低賃金×月間所定労働時間を下回るケースです。
具体例:週20時間のパートタイム労働者(東京都)
- 時給:1,113円(東京都最低賃金付近)
- 月間労働時間:約87時間(週20時間×4.35週)
- 月収:約96,831円
この場合、計算される賃金日額は 96,831円 ÷ 30 ≒ 3,227円となり、2025年度の賃金日額の下限(約2,574円)は超えています。しかし、育休前に長期間体調不良などで出勤が少なかった月が含まれると、平均が下がり下限を割る可能性があります。
発生しやすい職種・業種の例:
- 飲食業・小売業のパートタイマー
- 保育補助・介護補助スタッフ
- 在宅ワーカー(成果報酬制)
月ごとの賃金にばらつきがある場合(変動給・歩合制など)
歩合制や出来高払いで働いていた場合、月によって賃金が大きく変動します。育休給付金の計算では6か月分の賃金を合計して180で割るため、低収入月が複数含まれると賃金日額が押し下げられます。
具体例:歩合制営業職
| 月 | 賃金額 |
|---|---|
| 1か月目 | 350,000円 |
| 2か月目 | 120,000円 |
| 3か月目 | 80,000円 |
| 4か月目 | 95,000円 |
| 5か月目 | 110,000円 |
| 6か月目 | 75,000円 |
| 合計 | 830,000円 |
賃金日額 = 830,000円 ÷ 180 ≒ 4,611円
この例では下限を上回りますが、低月が増えると容易に下限を割ります。歩合制の場合は「計算対象となる完全月」の選定がポイントになるため、給与明細の保管と精査が重要です。
特別計算が適用される条件:
賃金日額が下限を下回ると判定された場合、ハローワークは下限額をそのまま賃金日額として採用します。つまり、実際の賃金水準が下限を下回っていても、給付金の計算上は下限額が保障されます。
最低賃金改定直後のタイミングに該当するケース
毎年10月ごろに地域別最低賃金が改定されます。育休の計算対象期間(最大2年)がこの改定前後を跨ぐ場合、期間内の賃金が混在し、一部の月が旧最低賃金水準に留まることがあります。
注意すべきポイント:
- 2024年10月改定:全国加重平均が初めて1,054円となった
- 2025年度の最低賃金は2025年10月ごろ改定予定
- 計算対象月のうち改定前の月が多いほど、平均賃金が下がりやすい
ハローワークへの確認事項:
- 計算対象期間の確定(育休開始日から遡って特定)
- 改定前後の月が何か月含まれるか
- 最小賃金(下限)との照合結果
- 下限適用の有無と給付額の確定
最小賃金未満の場合の特別計算方法と給付額
賃金月額が最小賃金(賃金日額の下限×30)を下回ることが確認された場合、ハローワークでは賃金日額を下限額に置き換えて給付額を再計算します。この「下限保障」の仕組みにより、実際の賃金が非常に低い場合でも、一定の給付が保障されます。
賃金日額の下限額と上限額(2025年度)
育休給付金の賃金日額には、毎年8月に改定される上限・下限が設定されています。2025年度(2025年8月改定値)の目安は以下のとおりです。
| 区分 | 日額 | 月額換算(×30) |
|---|---|---|
| 上限額 | 16,010円 | 480,300円 |
| 下限額(最小賃金) | 2,574円 | 77,220円 |
⚠️ 上記は参考値です。毎年8月に改定されるため、申請時は必ずハローワークまたは厚生労働省の最新告示を確認してください。
最小賃金未満時の計算ステップ
実際の賃金日額 < 下限額(2,574円)の場合
使用する賃金日額 = 下限額(2,574円)に置き換え
その後の計算は通常どおりです。
計算例:賃金日額が2,200円だったパートタイム労働者
【Step 1】実際の賃金日額の確認
育休前6か月の賃金合計 ÷ 180 = 2,200円 → 下限(2,574円)未満
【Step 2】下限額に置き換え
使用賃金日額 = 2,574円
【Step 3】賃金月額の算出
2,574円 × 30 = 77,220円
【Step 4】支給額(2か月分)の算出
・育休開始~180日:77,220円 × 67% × 2か月 = 103,474円
・181日目以降:77,220円 × 50% × 2か月 = 77,220円
このように、最小賃金未満であっても下限額が保障されるため、実際の賃金よりも高い給付額が受け取れる場合があります。
上限額を超える場合との対比
一方、賃金日額が上限額(16,010円)を超える場合は、上限額に置き換えて計算します。最小賃金との照合と同様に、ハローワークが自動的に上限・下限の範囲内に収めて計算します。
| 実際の賃金日額 | 使用する賃金日額 |
|---|---|
| 下限(2,574円)未満 | 2,574円(下限額)を使用 |
| 下限以上・上限以下 | 実際の賃金日額をそのまま使用 |
| 上限(16,010円)超 | 16,010円(上限額)を使用 |
申請手続きと必要書類
ハローワークへの申請フロー
育休給付金は、事業主を通じてハローワークへ申請するのが原則です。以下のフローで手続きを進めます。
STEP 1: 育児休業開始の届出
└ 事業主が管轄ハローワークへ提出
└ 育休開始日から10日以内が目安
STEP 2: 第1回申請の準備(休業開始後2か月経過後)
└ 労働者が事業主へ必要書類を提出
└ 事業主が申請書を作成・提出
STEP 3: ハローワークによる賃金確認
└ 計算対象期間の給与明細・賃金台帳の審査
└ 賃金日額の算出・最小賃金との照合
STEP 4: 給付金額の決定・支払い
└ 申請から約2週間で指定口座へ振込
STEP 5: 以後2か月ごとの継続申請
└ 育休終了まで継続(最長子が2歳になるまで)
必要書類一覧
| 書類名 | 用意する人 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | 事業主(記入) | ハローワーク所定様式 |
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | 事業主(記入) | 初回申請時のみ |
| 育児休業開始日・終了予定日の確認書類 | 労働者 | 育休申出書のコピー等 |
| 賃金台帳(計算対象期間分) | 事業主 | 過去2年分を用意 |
| 出勤簿またはタイムカード | 事業主 | 賃金支払基礎日数の確認用 |
| 母子健康手帳または出生証明書 | 労働者 | 子の生年月日確認用 |
| 振込先口座情報(通帳コピー等) | 労働者 | 初回申請時に提出 |
📌 最小賃金との照合に関する追加書類
通常の申請書類に加えて、賃金の内訳が分かる明細書(各月の固定給・変動給の別が確認できるもの)を準備しておくと、ハローワークでの審査がスムーズです。
申請期限と注意事項
- 第1回申請:育休開始日から4か月を経過する日の属する月の末日まで(例:4月1日育休開始なら8月31日まで)
- 継続申請:指定された申請期間内に2か月ごとに申請
- 申請は原則として事業主経由ですが、事業主が協力しない場合は労働者が直接申請できる場合もあります(ハローワークへ相談)
パート・短時間勤務者が特に注意すべきポイント
パートや短時間勤務者は、最小賃金未満になりやすい最大のグループです。以下のポイントを事前に確認しておきましょう。
賃金支払基礎日数の確認
育休給付金の対象となるには、計算対象期間に賃金支払基礎日数が11日以上の月が12か月以上必要です。パートタイムで週2〜3日しか働いていない場合、この「11日以上」の月が12か月に満たないケースがあります。
その場合、就労時間が月80時間以上あれば「11日以上」とみなす特例が適用されますので、タイムカードの確認が重要です。
育休前の産前休業期間の取り扱い
産前6週間(多胎妊娠は14週間)の産前休業中は賃金が発生しないか、休業手当のみとなるため、この期間を計算対象から除外して遡ることができます。育休直前に産前休業があった場合は、計算対象期間の起算点がずれますので、ハローワークに確認しましょう。
複数の雇用保険に同時加入している場合
複数の事業所で働いており、それぞれで雇用保険に加入している場合は原則として主たる雇用関係の賃金で計算します。副業・兼業を行っている方は、どの事業所の賃金が計算対象になるかをハローワークに確認してください。
よくある疑問:最小賃金未満の申請トラブルを防ぐために
育休給付金の申請にあたって、最小賃金未満のケースで特に多い疑問・トラブルをまとめました。
Q1. 自分の賃金日額が下限未満かどうか、事前に確認できますか?
はい、確認できます。育休前6か月分の給与明細を手元に用意し、賃金合計を180で割って計算してみてください。算出された金額が2,574円(2025年度目安)を下回る場合、下限額が適用されます。事前にハローワークの「育児休業給付金試算サービス」や、ハローワーク窓口での個別相談を利用することもできます。
Q2. 下限額が適用された場合、実際より高い給付が受けられるのですか?
はい、そのとおりです。実際の賃金日額が下限(2,574円)を下回っていても、給付金の計算上は下限額が保障されます。たとえば、実際の賃金日額が2,000円であっても、2,574円を基準に給付額が算出されます。
Q3. 歩合制で収入が毎月バラバラですが、どの月が計算対象になりますか?
育休開始日前2年間を遡り、賃金支払基礎日数が11日以上(または就労時間80時間以上)の完全な月を最大24か月の中から直近6か月分を使用します。端月(育休開始月など)は原則として除外されます。計算対象月の選定はハローワークが行いますが、不明点は申請前に窓口で確認することをお勧めします。
Q4. 産休中(出産手当金受給中)の賃金は計算に含まれますか?
産前産後休業中は無給または出産手当金のみとなるため、雇用保険上の「賃金」には該当しません。この期間は計算対象期間から除外して遡ることができます。育休前に産休があった場合は、産休開始前の月から遡って計算対象期間を確定します。
Q5. 最低賃金が改定された後に育休を取得します。改定前の月の賃金も計算に使われますか?
はい、改定前の月が計算対象期間に含まれる場合、その月の実際の賃金(改定前の賃金)が計算に使用されます。改定前後の月が混在することで平均が下がり、最小賃金未満になる可能性があります。この場合も、下限額による保障が適用されます。
Q6. 申請書の「賃金月額」欄に記載する金額は、下限適用後の金額ですか?
申請書には実際の賃金月額(実額)を記載します。下限との照合・置き換えはハローワークが計算処理の中で行いますので、申請者が意識して修正する必要はありません。不明な場合は事業主や社会保険労務士に確認しましょう。
Q7. 育休給付金の計算でトラブルが生じた場合、どこに相談すればよいですか?
まずは管轄のハローワークの育児休業給付担当窓口に相談してください。複雑な計算や特例適用については、社会保険労務士(特に育児休業給付を専門とする者)への相談も有効です。また、事業主の人事・総務部門でも対応できる場合が多いため、遠慮なく質問しましょう。
まとめ:最小賃金未満でも給付は保障される
育休給付金の賃金月額が最小賃金未満となる場合の要点を整理します。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 最小賃金とは | 雇用保険法上の賃金日額の下限(2025年度:約2,574円/日) |
| 下回ったときの対応 | 実際の賃金日額ではなく、下限額に置き換えて計算 |
| 対象になりやすい人 | パート・短時間勤務者・歩合制労働者・産休後育休取得者 |
| 実際にやること | 給与明細を保管し、事業主を通じてハローワークへ申請 |
| 計算は自動的に行われる | ハローワークが下限・上限を照合して給付額を算出 |
最小賃金未満であっても、雇用保険の被保険者要件を満たしていれば給付は保障されています。「給付が少ないかもしれない」と諦めず、まずはハローワークに相談することが第一歩です。
産前・産後の忙しい時期に複雑な手続きを行うのは大変です。不安な点があれば、ハローワークの育児休業給付担当窓口や、社会保険労務士への相談を積極的に活用しましょう。申請手続きの具体的な進め方や個別の給付額については、毎年8月の改定を踏まえた最新情報をハローワークで確認することをお勧めします。
参考法令・資料
- 雇用保険法 第61条の2(育児休業給付金)
- 雇用保険法施行規則 第101条の8〜第101条の19
- 育児・介護休業法 第5条
- 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
- 厚生労働省告示(賃金日額の上限額・下限額)※毎年8月改定
本記事の給付額・日額等は2025年度の参考値です。毎年8月に改定されるため、申請前に最新の告示をご確認ください。
