試用期間中に妊娠・出産が重なった場合、「育休は取れないのではないか」と不安を感じる方は少なくありません。しかし、試用期間中であっても育児休業を取得する権利は消えません。この記事では、法的根拠から具体的な手続き・給付金の計算方法まで、試用期間中に出産した労働者が知っておくべきすべての情報を体系的に解説します。
試用期間中に出産したら育休は取れる?【結論から解説】
| 項目 | 産休 | 育休 |
|---|---|---|
| 対象者 | 全ての妊娠・出産した労働者 | 勤続1年以上など条件あり |
| 期間 | 出産予定日の6週間前~出産後8週間 | 子が1歳(最大2歳)になるまで |
| 給付金 | 出産手当金(健保から) | 育児休業給付金(雇用保険から) |
| 給付率 | 標準報酬日額の2/3 | 給与の50%(初6ヶ月は67%) |
| 試用期間中の取得 | 取得可能 | 条件次第で取得可能 |
試用期間中でも育休権は発生する法的根拠
結論から言えば、試用期間中であっても育児休業の請求権は発生します。
「試用期間中は育休を取れない」という考え方は法的に根拠がない誤解です。育児・介護休業法(以下、育介法)は、雇用形態や試用期間の有無にかかわらず、一定の要件を満たすすべての労働者に育児休業の権利を保障しています。
育介法第5条は育児休業の申出について定めており、「労働者は事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる」と明記されています。この「労働者」には試用期間中の者も含まれます。試用期間とは本採用前の能力評価期間に過ぎず、雇用契約そのものは成立しています。したがって試用期間中の労働者も育介法の保護対象です。
また、男女雇用機会均等法第9条第3項は、妊娠・出産・産前産後休業の取得を理由とした解雇その他の不利益取扱いを明示的に禁止しています。試用期間中であっても、妊娠・出産を理由に本採用を拒否したり、解雇したりすることは違法となります。
| 法律名 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 育児・介護休業法 | 第5条 | 育児休業の申出権(労働者全員が対象) |
| 育児・介護休業法 | 第1条 | 雇用継続・職業生活と家庭生活の両立支援 |
| 男女雇用機会均等法 | 第9条第3項 | 妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止 |
| 労働基準法 | 第65条 | 産前産後休業(産前6週・産後8週) |
| 雇用保険法 | 第61条の4 | 育児休業給付金の支給 |
産休と育休の違い:まず押さえるべき基本
試用期間中の出産者が利用できる制度を正確に理解するために、まず「産休」と「育休」の違いを整理します。
産前産後休業(産休)は、労働基準法第65条に基づく制度です。出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から、産後8週間(本人が希望し医師が認めた場合は6週間後)まで取得できます。産休は試用期間・勤続期間を問わず、すべての女性労働者に与えられる権利です。入社初日であっても利用できます。
育児休業(育休)は、育介法に基づく制度で、原則として子が1歳になるまで(一定の場合は最長2歳まで延長可)取得できます。産休とは異なり、後述する勤続期間などの取得要件があります。また、2022年の法改正により導入された産後パパ育休(出生時育児休業)も、子の出生後8週間以内に最大4週間取得できる制度として活用できます。
| 制度 | 根拠法 | 取得可能期間 | 勤続要件 | 対象者 |
|---|---|---|---|---|
| 産前産後休業(産休) | 労働基準法第65条 | 産前6週〜産後8週 | なし | 女性労働者全員 |
| 育児休業(育休) | 育介法第5条 | 子が1歳になるまで(最長2歳) | 原則1年以上 | 男女労働者 |
| 産後パパ育休 | 育介法第9条の2 | 出生後8週以内に最大4週 | 原則1年以上 | 男性労働者(主に) |
試用期間中に育休を取得できる3つの条件
条件①:勤続期間が1年以上であること
育介法第5条第1項が定める要件のうち最も重要なのが、「申出時点で当該事業主に継続して1年以上雇用されていること」です。
ここで重要なのは、試用期間も勤続期間にカウントされるという点です。試用期間中に育休を申し出ることはできませんが、試用期間が終了して本採用された時点で、試用期間を含めた在籍期間が1年以上であれば要件を満たします。
下表は入社時期別の育休取得可否の目安です。
| 入社日 | 出産予定日 | 育休申出時の勤続期間 | 育休権 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 4月1日 | 同年12月下旬 | 約9か月 | × | 1年要件未達 |
| 4月1日 | 翌年4月上旬 | 約12か月 | ✓ | ちょうど1年で要件達成 |
| 4月1日 | 翌年5月以降 | 13か月以上 | ✓ | 要件を十分に満たす |
| 4月1日 | 同年3月下旬 | 約11か月 | × | あと数日で要件未達 |
ポイント:育休の申出時点ではなく、育休を取得開始する日までに1年以上の勤続があれば要件を満たすとされるケースもあります。具体的な判断は会社の人事担当者または労働局に確認してください。
なお、2022年4月の法改正以前は有期雇用労働者に「子が1歳6か月になるまでの間に雇用契約が終了することが明らかでないこと」という要件が加わっていましたが、2022年4月以降は有期雇用労働者の要件が「勤続1年以上」のみに統一・簡略化されています(労使協定で適用除外とした場合を除く)。
条件②:育休終了後も雇用継続の見込みがあること
育休期間終了後も引き続き雇用が継続される見込みがあることが求められます。
有期雇用(契約社員・パートタイマーなど)の場合、育休申出時点で雇用契約の更新が見込まれ、子が2歳になるまでの間に契約が終了することが明らかでないことが条件となります。正社員(無期雇用)の場合はこの条件は実質的に問題となりません。
注意点:労使協定(会社と労働組合または従業員代表との協定)がある場合、勤続1年未満の労働者を育休の適用対象外とすることが認められています(育介法第6条第1項ただし書)。自社に労使協定があるかどうかを就業規則や人事担当者に確認することを推奨します。
条件③:週の所定労働日数が2日以上であること
週の所定労働日数が2日以下の労働者は、育介法の適用対象外となることがあります。パートタイマーや短時間勤務者であっても、週3日以上の勤務があれば原則として対象になります。
なお、日雇い労働者(日々雇用される者)は育介法の適用対象外となっています(育介法第2条第1号)。
育休が認められない・難しいケース
勤続1年未満で出産した場合の選択肢
勤続1年未満で育休要件を満たせない場合でも、以下の対応が考えられます。
① 産前産後休業は必ず取得できる
産休は勤続要件がなく、全女性労働者の権利です。産前6週・産後8週は法律上の保護期間として確実に確保できます。
② 会社の育休制度を確認する
法律上の要件(勤続1年以上)は最低基準であり、会社独自の就業規則や育休制度が法律よりも緩やかな条件を設けている場合があります。「入社6か月から育休取得可」などの社内規定があれば、法定要件を満たさない場合でも育休が取れる可能性があります。
③ 育休開始を子の誕生後まで待つ(勤続1年になるまで産休で対応)
産後8週間の産休を経て、その時点で勤続1年を超えていれば育休に移行できます。出産日が入社から約10〜11か月後であれば、産後8週を終えた時点で勤続1年を超えるケースがあります。
試用期間中の出産で押さえるべき申請手続き
STEP1|妊娠判明後できるだけ早く会社に報告する
法的な義務はありませんが、妊娠が判明したら早めに上司・人事担当者に報告することを強く推奨します。早期報告により業務調整・引き継ぎ計画が立てやすくなり、会社との関係も円滑に進みます。
STEP2|産前産後休業の申請
出産予定日の6週間前(多胎は14週間前)までに、以下の書類を準備して会社に提出します。
必要書類
– 産前産後休業取得申請書(会社所定の様式。なければ自作も可)
– 母子健康手帳の写し(出産予定日の確認)
– 医師・助産師の診断書(会社が求める場合)
産後8週間は就業が法律で禁止されており(例外あり)、産後休業は「取る・取らない」ではなく原則として取得するものです。
STEP3|育児休業の申出
育休は、希望する育休開始日の1か月前までに書面で申し出る必要があります(育介法第6条第3項)。産後パパ育休(出生時育児休業)の場合は2週間前までです。
必要書類
– 育児休業申出書(会社所定書式または厚生労働省のモデル様式を使用)
– 出生届受理証明書または母子健康手帳の「出生届出済証明」欄の写し(子の出生を証明するもの)
– 育児休業期間変更申出書(期間変更が生じた場合)
申出を受けた事業主は、育休取得予定期間・給付金に関する事項を書面等で通知する義務があります(育介法施行規則)。
STEP4|育児休業給付金の申請(ハローワーク経由)
育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が育休中に受け取れる給付金です。会社(事業主)がハローワーク(公共職業安定所)に代わって申請するのが一般的です。
申請のタイミング
育休開始から約2か月後(最初の支給単位期間終了後)に第1回目の申請を行い、以降2か月ごとに申請します。
必要書類(会社経由でハローワークに提出)
– 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
– 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書
– 賃金台帳・出勤簿の写し
– 母子健康手帳(出生日を確認できるページ)の写し
受給資格の確認:育児休業給付金を受け取るには、育休開始前の2年間に雇用保険の被保険者期間が通算して12か月以上ある必要があります(各月に11日以上の就業が必要)。試用期間中から雇用保険に加入していれば、その期間もカウントされます。
育児休業給付金の計算方法と支給額
支給額の基本計算式
育児休業給付金の支給額は、育休開始前6か月の賃金平均(休業開始時賃金日額)をもとに計算されます。
【育休開始から180日目まで】
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
【育休181日目以降】
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50%
休業開始時賃金日額の計算
休業開始時賃金日額 = 育休開始前6か月の賃金合計 ÷ 180
具体的な計算例
例)月給25万円の労働者が12か月育休を取得した場合
休業開始時賃金日額 = 250,000円 × 6か月 ÷ 180日
= 1,500,000 ÷ 180
= 8,333円(1日あたり)
【育休開始〜180日目(約6か月)】
月額支給額 = 8,333円 × 30日 × 67%
≒ 167,493円/月
【育休181日目以降】
月額支給額 = 8,333円 × 30日 × 50%
≒ 124,995円/月
2025年現在の給付率と上限・下限
| 取得期間 | 給付率 | 上限額(目安) | 下限額(目安) |
|---|---|---|---|
| 育休開始〜180日目 | 67% | 約305,319円/月 | 約50,400円/月 |
| 育休181日目〜 | 50% | 約227,850円/月 | 約37,800円/月 |
※上限・下限は毎年8月に改定される賃金日額の上限・下限額に連動します。最新の金額はハローワークインターネットサービスまたは厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
社会保険料の免除
育休期間中は、健康保険・厚生年金保険の保険料が本人・事業主ともに免除されます(健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条の2)。月単位で育休を取得した場合、その月の保険料全額が免除され、手取り額を実質的に底上げする効果があります。この免除を受けるには、事業主が「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構に提出する必要があります。
試用期間中の出産で会社が行うべき対応
人事担当者が確認すべき対応事項を整理します。
絶対にしてはいけないこと(違法行為)
- 試用期間中・妊娠を理由とした本採用拒否・解雇
→ 男女雇用機会均等法第9条第3項違反、原則として無効(最高裁判例あり) - 育休申出を理由とした降格・賃金引き下げ・不利益な配置転換
→ 育介法第10条違反 - 育休を理由とした解雇・雇い止め
→ 育介法第10条違反
これらは行政指導・罰則の対象となるほか、労働者から損害賠償請求を受けるリスクがあります。
人事担当者がすべき手続き
| タイミング | 対応事項 |
|---|---|
| 妊娠報告受理後 | 産前産後休業・育休の制度説明、業務引き継ぎ計画の立案 |
| 産前産後休業開始前 | 産前産後休業取得申請書の受理、健康保険への届出 |
| 育休申出受理後 | 育休期間・給付金の書面通知(育介法上の義務) |
| 育休開始後 | ハローワークへの育児休業給付金申請(事業主経由) |
| 育休開始月 | 日本年金機構への社会保険料免除申請(育児休業等取得者申出書提出) |
出産手当金との関係
産前産後休業中(産休中)は、育児休業給付金ではなく出産手当金が支給されます。出産手当金は雇用保険ではなく健康保険から支給されます。
| 項目 | 出産手当金 | 育児休業給付金 |
|---|---|---|
| 支給元 | 健康保険(全国健康保険協会・健保組合) | 雇用保険(ハローワーク) |
| 取得期間 | 産前42日+産後56日 | 育休期間(原則1歳まで) |
| 支給額 | 標準報酬日額の3分の2(約66.7%) | 賃金の67%(前半)/50%(後半) |
| 申請者 | 本人(健康保険への直接申請も可) | 事業主経由でハローワークへ |
| 受給資格 | 健康保険の被保険者(勤続要件なし) | 雇用保険被保険者12か月以上 |
試用期間中の注意点:試用期間中から健康保険・雇用保険に加入している場合、産休中は出産手当金、育休中は育児休業給付金がそれぞれ支給されます。未加入の場合は受給資格がないため、入社時の保険加入状況を確認することが重要です。
転職直後・入社間もない時期の注意点
前職の雇用保険加入期間は引き継げる
転職後すぐに育児休業給付金の受給資格を確認する際に重要なのが、前職の雇用保険被保険者期間の通算です。転職から現職入社まで1年以内であれば、前職の雇用保険加入期間を現職分に合算して12か月以上の受給資格を計算できます(雇用保険法の規定による)。
ただし、育介法上の勤続1年要件は現職のみでカウントされます。前職の期間は通算できないため、育休取得の条件(勤続1年)と給付金受給の条件(雇用保険加入12か月)は別々に確認が必要です。
試用期間中から雇用保険に加入しているかを確認する
雇用保険は週20時間以上・31日以上の雇用見込みがあれば加入義務があります。試用期間中から加入している場合、その期間から給付金の受給資格要件(12か月)のカウントが始まります。給与明細の「雇用保険料」欄を確認し、控除されていれば加入済みです。
よくある質問
Q1. 試用期間3か月で出産しました。育休は取れませんか?
出産時点での勤続が3か月であれば、育介法の「勤続1年以上」要件を満たさないため、法定の育休は原則取得できません。ただし産前産後休業(産休)は勤続要件なく取得できます。また、産後8週間(産休終了後)に勤続1年を超えていれば育休に移行できる可能性があります。さらに、会社独自の就業規則で法定より緩やかな要件が定められていないかも確認してください。
Q2. 試用期間中に妊娠が発覚した場合、本採用を拒否されても仕方ありませんか?
いいえ、違法です。 妊娠・出産を理由とした本採用拒否は、男女雇用機会均等法第9条第3項が禁止する「不利益取扱い」に該当し、原則として無効となります。不当な扱いを受けた場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。
Q3. 育児休業給付金は試用期間中でも受け取れますか?
育児休業給付金の受給資格は、育休を開始する前の2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あることです。試用期間中から雇用保険に加入していれば、その期間もカウントされます。ただし、育休そのものの取得(勤続1年以上)の条件と、給付金の受給資格(雇用保険12か月以上)は別の要件ですので、両方を個別に確認してください。
Q4. 育休中に雇用保険の被保険者資格は維持されますか?
育休中も雇用保険の被保険者資格は維持されます。育休終了後に復職すれば、そのまま被保険者として継続されます。
Q5. 産後パパ育休(出生時育児休業)は試用期間中でも取れますか?
産後パパ育休も育介法に基づく育児休業の一種であり、勤続1年以上の要件が適用されます(労使協定がある場合を除く)。要件を満たせば、子の出生後8週間以内に最大4週間、2回に分割して取得することが可能です。
Q6. 育休中に試用期間が終了した場合、本採用されますか?
育休中に試用期間の満了日を迎えた場合、育休を理由に本採用を拒否することは違法です。ただし、育休とは無関係な能力・勤務態度上の問題を理由とした本採用拒否は、適法とされる可能性があります。疑問がある場合は都道府県労働局や社会保険労務士に相談することをお勧めします。
Q7. 試用期間中に妊娠・出産した場合、ボーナス計算時に不利益を受けることはありますか?
育休を理由とした減額は違法ですが、賃金・ボーナス計算の取り扱いは会社の就業規則によって異なります。例えば、出勤日数や営業実績を基準とする計算方式では、育休期間の扱いについて確認が必要です。不安な場合は人事担当者または社会保険労務士に相談してください。
まとめ:試用期間中に出産しても権利は守られる
試用期間中の出産と育休権について、重要なポイントを整理します。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 産前産後休業 | 勤続要件なし。すべての女性労働者が取得可能 |
| 育児休業(法定) | 勤続1年以上が原則(試用期間も通算) |
| 育児休業給付金 | 雇用保険加入12か月以上(前職期間通算可) |
| 不利益取扱い | 妊娠・出産・育休を理由にした解雇・本採用拒否は違法 |
| 社会保険料 | 育休期間中は本人・事業主ともに免除 |
試用期間という立場に不安を感じる必要はありません。法律はあなたの権利をきちんと守っています。 勤続1年の要件を満たしていれば、試用期間中であっても育休を申し出る権利があります。要件を満たさない場合も、産休の取得・会社独自制度の確認・産後に勤続1年を迎えるまで待つなど、複数の選択肢があります。
不明な点がある場合は、以下の相談窓口を積極的に活用してください。
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):妊娠・出産・育休に関するハラスメント・不利益取扱いの相談
- ハローワーク(公共職業安定所):育児休業給付金の受給資格・申請に関する相談
- 社会保険労務士:給付金計算・手続き全般の専門的サポート
免責事項:本記事は2025年時点の法律・制度に基づいて作成しています。制度は随時改正される場合があります。個別の事情については、労働局・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

