育休中に配偶者が突然失職——そんな事態に直面したとき、家計への不安は一気に高まります。しかし、実は育児休業給付金には「配偶者失職時の給付金増額制度」が存在し、適切に申告することで受給額が大幅にアップする可能性があります。
この記事では、制度の仕組みから対象者の条件、ハローワークへの申告手続き、必要書類、給付金の再計算方法まで、共働き世帯の育休取得者が知っておくべき情報を完全網羅します。令和5年4月の法改正内容にも対応した最新情報をお届けします。
配偶者失職時の育休給付金増額制度とは
制度の法的根拠と改正経緯
育児休業給付金は、雇用保険法第62条の4から第62条の8を根拠とする制度です。育児休業中の労働者が育児休業開始前の賃金の一定割合を受け取れる仕組みで、通常は「休業開始時賃金日額」をベースに支給額が計算されます。
令和5年(2023年)4月1日の改正により、育休中に配偶者が失職・収入減少した場合に給付金の算定基礎となる「賃金月額」を再計算できる特例制度が新たに設けられました。この改正の背景には、少子化対策と子育て世帯への経済支援強化という政策目標があります。
改正前は、育休給付金の額は原則として育休開始前の賃金のみを基準に固定されており、育休期間中に世帯収入が急減しても給付額に反映されませんでした。しかし育休中の配偶者が失職すると、世帯として受け取れる収入が育休給付金のみになるケースも生じます。そこで厚生労働省は、配偶者の失職という事情変更に対応して給付額を引き上げる特例を法制化したのです。
給付金が増額される理由と仕組み
育休給付金の通常の計算方法は以下のとおりです。
| 育休期間 | 給付率 | 計算式 |
|---|---|---|
| 開始から180日(約6か月)まで | 67% | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67% |
| 181日目以降 | 50% | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50% |
ここで登場する「休業開始時賃金日額」は、育休開始前6か月の賃金合計 ÷ 180で算出されます。この数値は原則として育休中に変わることはありません。
ところが、配偶者失職時の特例では、配偶者が失職した時点の状況を新たな算定基礎として賃金月額を再計算します。具体的には、育休取得者の「賃金月額の上限額」を最大限活用した再計算が行われ、結果として給付金額が増加します。
世帯の収入を支える柱が減った局面で、育休取得者への給付を手厚くすることで、「働けない育休中の保護者が家計を支えられるようにする」のがこの制度の根本的な目的です。
配偶者失職時の給付金増額対象者の条件
以下の6つの条件をすべて満たしているかどうかを確認してください。いずれか一つでも該当しない場合、増額の対象外となります。
育児休業給付金受給中であることの確認方法
条件①:育児休業給付金を受給中(または受給予定)であること
育休給付金の受給状況を確認するには、以下の方法があります。
- ハローワークインターネットサービス:管轄ハローワークの窓口またはオンラインポータルで支給決定通知書の内容を確認できます。
- 勤務先の人事・給与担当:育休給付金は事業主経由で申請されるため、申請状況を確認できます。
- 支給決定通知書の確認:ハローワークから事業所を経由して届く「育児休業給付金支給決定通知書」を保管しているか確認しましょう。
受給中でない場合でも、育休開始後に遡って申請が可能なケースがあります。まずは管轄のハローワークに問い合わせてください。
配偶者の失職事由の判定(4つのパターン)
条件②:配偶者の状況が以下のいずれかに該当すること
配偶者の状況は4つのパターンに分けられます。それぞれ必要書類や申告方法が異なるため、正確にパターンを把握することが重要です。
パターン①:完全な離職(失業)
配偶者が勤務先を退職・解雇・雇い止めなどにより離職した状態です。最も典型的なケースで、ハローワークへの「雇用保険被保険者資格喪失届」の提出が必要になります。
パターン②:勤務時間の短縮
配偶者がパートタイム勤務への転換や所定労働時間の削減を余儀なくされた場合です。勤務時間の短縮が給与の大幅な減少をもたらしている場合に対象となります。
パターン③:給与が20%以上減少
月額給与が以前の水準から20%以上低下した場合に該当します。減給・降格・歩合制収入の激減などが典型例です。比較の基準は「失職事由発生前直近3か月の平均給与」と「失職後の給与」の差で判定されます。
パターン④:休業・休職
傷病による休業、会社都合の一時帰休(レイオフ)、育児休業の取得など、配偶者が就労を一時停止している状態です。ただし、配偶者も育児休業を取得している場合は別途手続きが必要になるケースがあります。
申告タイミングなど残り4つの条件
条件③:失職が育児休業期間中に発生していること
育休開始前の失職は対象外です。育休を開始した日以降に配偶者の失職が発生した場合のみ、増額申告の対象となります。
条件④:申告を遅滞なく行うこと
配偶者の失職を知った後、速やかに勤務先(事業所)に報告し、事業所経由でハローワークへ申告することが求められます。申告が遅れると、増額が適用される時期がずれ込む場合があります。
条件⑤:育休取得者自身が雇用保険の被保険者であること
育休開始時点で雇用保険の被保険者資格を有していることが必要です。育休開始前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あることも基本要件となります。
条件⑥:配偶者が雇用保険制度の対象者であること
配偶者が自営業者(個人事業主)や公務員(別途共済制度あり)の場合、雇用保険制度上の「失職」に該当しないため、対象外となります。
申請手続きの流れ
ステップごとの全体像
配偶者失職時の増額申告は、以下の6ステップで進みます。各ステップで何をすべきかを把握しておくことで、手続きの漏れを防げます。
STEP 1:配偶者の失職が発生
↓
STEP 2:育休取得者が勤務先(事業所)に配偶者失職を報告
↓
STEP 3:事業所がハローワークへ申告書類を提出
↓
STEP 4:次回の育休給付金支給申請時に増額申告を反映
↓
STEP 5:ハローワークが賃金月額を再計算
↓
STEP 6:増額後の給付金が支給決定・振込
育休取得者から勤務先への報告(STEP 2の詳細)
配偶者が失職した事実を知ったら、できるだけ早く自分の勤務先の人事・総務担当者に連絡します。口頭だけでなく、書面またはメールで記録に残しておくことを推奨します。
報告時に伝えるべき情報:
- 配偶者の失職発生日(離職日・休業開始日など)
- 失職の事由(退職・解雇・休業・給与減少など)
- 関連書類の準備状況
事業所からハローワークへの申告(STEP 3の詳細)
事業所の担当者が、育休取得者からの報告を受けてハローワークへ申告を行います。通常の育休給付金支給申請と同時に、または別途「育児休業給付金支給申請書(配偶者失職申告)」として提出します。
申告の際に事業所が準備する書類:
- 育児休業給付金支給申請書(配偶者の失職情報を記載)
- 配偶者の失職を証明する書類(後述)
- 賃金台帳・出勤簿(育休取得者分)
必要書類の完全リスト
配偶者の失職を証明する書類
失職パターンによって、準備すべき書類が異なります。以下の表を参考に不備のない書類一式を用意しましょう。
| 失職パターン | 必要書類 | 入手先 | 提出期限の目安 |
|---|---|---|---|
| 完全離職(退職・解雇) | 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書、または離職票(第1・第2票) | 配偶者の元勤務先 → ハローワーク | 離職日から10日以内に勤務先が届出 |
| 勤務時間短縮 | 勤務時間変更を証明する書類(労働条件通知書・雇用契約書の変更版) | 配偶者の勤務先 | 変更が確定次第速やかに |
| 給与20%以上減少 | 給与明細書(変更前後各3か月分)、または給与支払証明書 | 配偶者の勤務先 | 減少が確認できる明細が揃い次第 |
| 休業・休職 | 休業・休職証明書、または休業命令書 | 配偶者の勤務先(会社発行) | 休業開始後速やかに |
育休取得者本人に関する書類
| 書類名 | 用途 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | 給付金の継続申請 | 事業所が作成・提出 |
| 賃金台帳(育休前6か月分) | 賃金月額の再計算根拠 | 事業所が保管 |
| 母子健康手帳(子の出生証明部分) | 子の生年月日確認 | 初回申請時に使用済みであれば不要な場合も |
| 雇用保険被保険者証 | 被保険者資格の確認 | 必要に応じて |
世帯状況を示す補足書類(求められる場合)
- 住民票(世帯全員記載):同一世帯であることの確認のため提出を求められる場合があります。
- 所得証明書(配偶者分):給与減少の証明として必要になることがあります。
- 失業給付受給資格者証(配偶者分):配偶者が失業保険の受給手続き中の場合に参考書類として提出を求められることがあります。
給付金の再計算方法と増額のシミュレーション
再計算の基本ロジック
配偶者失職による増額は、育休給付金の「賃金月額上限」の扱いを変更することで実現します。
通常の育休給付金計算における賃金月額には上限が設けられています(令和7年度の賃金月額上限は450,600円)。この上限を活用した計算式で再計算が行われます。
通常時の計算例
育休前の月額賃金が30万円の場合:
- 賃金日額:300,000円 ÷ 30日 = 10,000円
- 支給額(180日以内):10,000円 × 30日 × 67% = 201,000円/月
- 支給額(181日以降):10,000円 × 30日 × 50% = 150,000円/月
配偶者失職後の再計算例
賃金月額の算定基礎を再計算した結果、上限額が適用されるケースでは:
- 賃金月額上限:450,600円
- 賃金日額:450,600円 ÷ 30日 = 15,020円
- 支給額(給付率67%):15,020円 × 30日 × 67% ≒ 301,902円/月
- 支給額(給付率50%):15,020円 × 30日 × 50% ≒ 225,300円/月
⚠️ 注意:上記はあくまでシミュレーションです。実際の増額幅は育休取得者の賃金水準・育休開始日・配偶者失職の状況によって異なります。正確な金額はハローワークまたは勤務先の担当者に確認してください。
月額支給上限・下限の目安(2025年度版)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 賃金月額の上限 | 450,600円 |
| 賃金月額の下限 | 72,290円 |
| 1か月あたり給付上限(67%適用時) | 301,902円 |
| 1か月あたり給付上限(50%適用時) | 225,300円 |
| 1か月あたり給付下限(67%適用時) | 48,434円 |
| 1か月あたり給付下限(50%適用時) | 36,145円 |
※ 上記数値は令和7年度の雇用保険料率改定に基づく暫定値です。毎年8月に改定されるため、最新値はハローワークまたは厚生労働省の公式情報をご確認ください。
ハローワークへの申告で注意すべきポイント
申告のタイミングと遅延リスク
配偶者の失職が発生したら、発生後できるだけ早く(目安として2週間以内に)勤務先に報告することを強く推奨します。その理由は2つあります。
理由①:増額の適用開始日がずれる
申告が遅れると、増額が適用されるのは申告後の支給申請からとなり、申告前の期間は増額されません。遡及適用には制限がある場合があるため、速やかな行動が重要です。
理由②:書類の有効期限がある
特に配偶者が離職した場合の「雇用保険被保険者資格喪失届」は、離職日の翌日から10日以内に配偶者の元勤務先がハローワークに提出する義務があります。この書類が提出されてからでないと、配偶者の失職事実がハローワーク上で確認できません。
勤務先の担当者との連携ポイント
育休給付金の申請手続きは、育休取得者本人ではなく事業主(勤務先)がハローワークへ行うのが原則です。そのため、勤務先の人事・総務担当者との連携が不可欠です。
連携時のチェックポイント:
- [ ] 配偶者失職の事実を口頭・書面で報告済みか
- [ ] 配偶者の失職証明書類を担当者に渡せているか
- [ ] 次回の育休給付金支給申請に増額申告を反映してもらえるか確認したか
- [ ] 支給申請書に「配偶者失職」の記載が入っているか確認したか
- [ ] 増額決定後の支給通知書が届くタイミングを確認したか
対象外となるケースの再確認
以下に該当する場合、残念ながら増額制度の対象外となります。手続きの前に必ず確認しておきましょう。
| ケース | 理由 |
|---|---|
| 配偶者が自営業者・フリーランス | 雇用保険制度の対象外のため失職の定義が適用されない |
| 配偶者が公務員 | 共済制度が適用されるため雇用保険上の失職に当たらない |
| 配偶者の失職が育休開始前に発生 | 育休期間中の事情変更を対象とする制度のため |
| 配偶者も育児休業を取得している | 別制度(パパ・ママ育休プラス等)の適用を検討 |
| 育休取得者自身が雇用保険未加入 | 給付金受給の基本要件を満たさない |
給付金増額後の手続き・その後の流れ
増額決定後に届く書類の見方
増額が認められると、ハローワークから事業所を経由して「育児休業給付金支給決定通知書(変更後)」が届きます。この書類には以下の情報が記載されています。
- 変更後の賃金月額
- 変更後の支給額(1か月あたり)
- 増額が適用される期間
通知書の金額が期待値と異なる場合は、速やかに管轄のハローワークに問い合わせてください。
育休終了後・配偶者の再就職後の対応
配偶者が再就職した場合、増額の根拠となる「失職状態」が解消されます。この場合、再就職の事実を勤務先に報告し、必要に応じてハローワークへ申告が必要です。再就職後は通常の給付額に戻る場合があります。
また、育休を予定より早く終了する場合や、育休期間を延長する場合も、それぞれ別途手続きが必要です。育休終了後の職場復帰についても、事前に勤務先と十分に話し合っておきましょう。
制度を最大限活用するためのアドバイス
申告前に整理しておくべき4つの事項
① 配偶者失職の正確な日付を把握する
離職日・休業開始日・給与変更日など、失職の「開始日」を正確に把握しておくことが、増額適用開始日の決定に影響します。
② 配偶者の失業給付申請と連動して考える
配偶者が離職した場合、配偶者自身も失業給付(基本手当)の受給申請をハローワークに行うことが多いです。この申請過程で作成される離職票や受給資格者証が、育休給付金の増額申告に流用できる書類となる場合があります。書類の取得漏れがないよう、配偶者と情報共有しておきましょう。
③ 家計の収支を整理して優先すべき手続きを判断する
育休給付金の増額申告と並行して、健康保険の扶養変更手続きや、住民税・所得税の変更手続きも必要になることがあります。特に配偶者が離職した場合は健康保険の被扶養者認定申請も忘れずに行いましょう。
④ 支給申請スケジュールを把握しておく
育休給付金は原則として2か月に1回支給申請を行います(事業所が申請)。次回の申請タイミングに間に合うよう、配偶者失職の申告を進めることで、最短で次回支給分から増額を受けられます。
よくある質問
Q1. 配偶者が失職してから何日以内に申告すれば増額が適用されますか?
法令上の厳密な期限は定められていませんが、増額は申告後の支給申請から適用されるのが原則です。遡及適用が認められないケースもあるため、失職を知ったら2週間以内を目安に勤務先へ報告することを強くおすすめします。
Q2. 配偶者がパートタイムで働いており、勤務時間が減っただけでも対象になりますか?
勤務時間の短縮により給与が実質的に減少している場合、対象となる可能性があります。特に給与が20%以上減少している場合は「給与低下」のパターンとして申告できます。勤務時間の変更を示す書類(労働条件通知書など)と給与明細書を準備してハローワークに確認しましょう。
Q3. 配偶者がうつ病などで休職中です。休職も対象になりますか?
傷病による休職も対象となります。「休業・休職証明書」または「休業命令書」など、会社が発行した書類を用意して申告してください。なお、配偶者が傷病手当金を受給している場合でも、育休給付金の増額申告に支障はありません。
Q4. 育休開始から1年経過後に配偶者が失職しました。育休を延長していますが対象になりますか?
育休の延長期間中(最大2年まで)であっても、育休給付金を受給中であれば申告対象となります。ただし、延長期間の給付金は支給申請期間が通常とは異なる場合があるため、管轄ハローワークに申告タイミングを確認してください。
Q5. 手続きはすべて勤務先にお任せすれば良いのですか?本人が直接ハローワークに行く必要はありますか?
原則として育休給付金の申請手続きは事業主(勤務先)がハローワークへ行います。ただし、勤務先によって対応が異なる場合があり、本人がハローワークに直接相談することも可能です。特に不明点がある場合は、管轄ハローワークの「育児休業給付担当」窓口に相談するのが確実です。
Q6. 増額された育休給付金に税金はかかりますか?
育児休業給付金は所得税・住民税が非課税です。増額された場合も同様に非課税となります。また、社会保険料(健康保険・厚生年金)の育休中の免除も継続されます。
Q7. 自分が勤める会社の規模が小さく、人事担当者が制度を知らないようです。どうすれば良いですか?
この場合、厚生労働省が公表している「育児休業給付金の詳細(事業主向け)」の資料を人事担当者に共有することが有効です。また、会社を管轄するハローワークに人事担当者と一緒に相談に行くことも可能です。制度の活用は労働者の権利であり、申告を妨げることは許されません。
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まとめ
配偶者失職時の育休給付金増額制度は、令和5年4月の法改正で制度化された比較的新しい仕組みです。正しく申告すれば給付金が大幅に増額される可能性があるにもかかわらず、制度の存在自体を知らずに申告しないまま育休を終えてしまうケースが少なくありません。
この記事のポイントを振り返ります。
- 配偶者が離職・休業・勤務時間短縮・給与20%以上減少した場合が対象
- 育休期間中の配偶者失職に限り、育休開始前の失職は対象外
- 申告は自分の勤務先経由でハローワークへ行う(原則事業主が申請)
- 配偶者の失職を証明する書類(離職票・休業証明書など)の準備が必須
- 申告は失職発生後できるだけ早く(目安2週間以内)行うことで遡及漏れを防ぐ
- 2025年度の給付上限額は月301,902円(67%適用時)
育休中の家計不安は精神的にも大きな負担になります。制度を正しく活用して、安心して育児に専念できる環境を整えてください。手続きに迷ったときは、管轄ハローワークの育児休業給付担当窓口への相談が最も確実な方法です。
参考法令・公的情報源
- 雇用保険法第62条の4〜第62条の8
- 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
- ハローワークインターネットサービス(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/)
- 令和5年4月1日施行・育児介護休業法改正関連通達
※ 本記事は2025年7月時点の法令・制度情報に基づいています。制度は随時改正される可能性があります。最新情報は厚生労働省またはハローワークの公式情報をご確認ください。

