育休中にもらえる育休給付金の金額を計算しようとしたとき、「賞与やボーナスも計算に含まれるはずでは?」と疑問を持つ方は少なくありません。実際には、賞与・ボーナスは育休給付金の計算から法律によって明確に除外されています。
この除外ルールを知らずにいると、受け取れる給付金の額を大きく見誤ってしまいます。本記事では、賞与が含まれない法的根拠・計算メカニズム・具体的な金額シミュレーション・申請に必要な書類まで、受給者・企業の人事担当者の双方が正確に理解できるよう丁寧に解説します。
育休給付金の計算で賞与が「含まれない」とはどういう意味か
「育休給付金の計算に賞与が含まれない」という表現は、正確には賞与が「賃金月額」の算定対象から除外されるということを意味します。
育休給付金の金額は次の式で決まります。
育休給付金(1支給単位期間)= 賃金月額 × 給付率 × 給付日数
この計算式の土台となる「賃金月額」に、賞与・ボーナスが算入されないため、結果として給付金の総額が抑えられる仕組みになっています。
賞与が含まれない流れを整理すると、以下のとおりです。
実際の年収(月給+賞与)
↓
賃金月額の算定には月例賃金のみ使用(賞与を除外)
↓
賃金月額が実質的に低く算出される
↓
育休給付金の額が、年収全体から想定したより低くなる
育休給付金の計算式における「賃金月額」の位置づけ
賃金月額は、育休給付金の計算における唯一の賃金基準です。ハローワークが給付金を算定する際も、この賃金月額を出発点として計算します。
賃金月額の算出方法は、育休開始前の直近6ヶ月間の月例賃金の合計を180で割り、30を掛けた値を基本とします。
賃金月額 = 直近6ヶ月の月例賃金合計 ÷ 180 × 30
この計算式には、賞与・ボーナスは一切反映されません。使用されるのは、毎月定期的に支払われる基本給・手当(残業代・通勤手当等を含む)のみです。
なお、賃金月額には上限・下限が設けられており、2025年現在の目安は以下のとおりです(毎年8月に改定)。
| 区分 | 金額(2025年度目安) |
|---|---|
| 賃金月額の上限 | 約450,600円 |
| 賃金月額の下限 | 約82,380円 |
賃金月額が上限を超えた場合は上限額で頭打ちになり、下限を下回った場合は下限額が適用されます。
賞与が含まれると給付金が増えるのではないか、という誤解
「賞与も計算に入れれば給付金が増えるのでは?」と考える方もいますが、これは誤解です。実際には、賞与を含める計算方式は採用されておらず、そもそも法律が禁じています。
さらに重要なのは、仮に計算上賞与を加算したとしても、賃金月額の上限制度により、一定以上は給付金が増えない仕組みになっているという点です。高収入で賞与が多い方ほど、「実際の年収に対する給付金の割合」が見かけ上低くなる傾向があります。
法律が賞与を除外している根拠|雇用保険法の規定を解説
賞与が育休給付金の計算から除外されるのは、企業や行政の任意の判断ではなく、雇用保険法に明確に規定された法的ルールです。
「3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」が除外される理由
雇用保険法および同法施行規則では、賃金日額・賃金月額の算定に使用できる賃金を「臨時に支払われる賃金および3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く」と定めています。
賞与・ボーナスは通常、年2回(夏・冬)や年1回といったサイクルで支払われます。これは「3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するため、法律上、賃金月額の計算から強制的に除外されます。
除外される主な賃金の種類をまとめると、以下のとおりです。
| 賃金の種類 | 除外対象か | 理由 |
|---|---|---|
| 定期賞与(夏・冬ボーナス) | ✅ 除外 | 3ヶ月超の期間で支払われる |
| 年1回払いの報奨金 | ✅ 除外 | 3ヶ月超の期間で支払われる |
| 決算賞与 | ✅ 除外 | 臨時的・不定期に支払われる |
| 結婚祝い金・見舞金 | ✅ 除外 | 臨時的に支払われる |
| 基本給 | ❌ 含まれる | 毎月定期的に支払われる |
| 毎月支払われる職務手当 | ❌ 含まれる | 毎月定期的に支払われる |
| 時間外労働手当(残業代) | ❌ 含まれる | 毎月定期的に支払われる |
| 通勤手当(毎月払い) | ❌ 含まれる | 毎月定期的に支払われる |
この法的根拠は、育休給付金に限らず基本手当(失業保険)など雇用保険全般の給付計算に共通するルールです。
雇用保険と社会保険で扱いが異なる点への注意
育休給付金(雇用保険)では賞与を除外しますが、健康保険・厚生年金(社会保険)の標準報酬月額・標準賞与額は別の制度で計算されます。
社会保険では、賞与を含む標準報酬月額や標準賞与額を用いて保険料が決まりますが、育休給付金の計算はあくまで雇用保険の賃金月額に基づきます。この2つの計算体系を混同すると、給付金の見積もりが大きくずれる原因になりますので注意が必要です。
賃金月額の具体的な算定方法とステップ
ここでは、実際の手順に沿って賃金月額を算定する方法を解説します。
ステップ1:算定対象となる6ヶ月を特定する
育休開始前の直近6ヶ月間(賃金支払いが確認できる完全な暦月)を抽出します。途中で月の途中から育休が始まった場合は、その月は対象外となり、完全な月6ヶ月分を遡ります。
ポイントとなるのは「給与支払基礎日数が11日以上の月のみを算定対象とする」というルールです。病気休職などで11日未満の月がある場合、その月は飛ばして6ヶ月分を確保します。
ステップ2:各月の賃金から賞与・特別手当を除く
抽出した6ヶ月それぞれの賃金台帳を確認し、賞与・ボーナス・決算賞与・臨時的報奨金などを控除した金額のみを集計します。
計算に含める賃金の例:
– 基本給
– 職能手当・役職手当
– 住宅手当(毎月払い)
– 通勤手当(毎月払い)
– 残業手当・深夜手当
計算から除く賃金の例:
– 夏季賞与・冬季賞与
– 決算賞与・業績連動賞与
– 年1回払いの精勤報奨金
– 慶弔見舞金
ステップ3:6ヶ月の合計を計算し、賃金月額を算出する
賃金月額 = 直近6ヶ月の月例賃金合計 ÷ 180 × 30
この計算式の「180」は6ヶ月を暦日数で表した基準値(30日×6ヶ月)、「30」はひと月の基準日数です。
算出した賃金月額が上限額を超える場合は上限額に、下限額を下回る場合は下限額に調整されます。
具体的な計算シミュレーション|賞与あり・なしの比較
実際の数字で確認するのが最もわかりやすいため、モデルケースを使って比較します。
ケース設定
- 月例賃金(基本給+手当):月30万円
- 賞与:年2回、各60万円(年間計120万円)
- 育休期間:180日間(半年)
- 給付率:67%(育休開始から6ヶ月)
賞与を除いた場合の計算(実際の計算)
6ヶ月の月例賃金合計 = 30万円 × 6ヶ月 = 180万円
賃金月額 = 180万円 ÷ 180 × 30 = 30万円
育休給付金(月額) = 30万円 × 67% = 201,000円
育休給付金(180日間) ≒ 201,000円 × 6ヶ月 = 1,206,000円
仮に賞与を含めた場合の試算(実際にはこの計算は採用されない)
年収合計 = 30万円 × 12ヶ月 + 120万円 = 480万円
月平均換算 = 480万円 ÷ 12 = 40万円
賃金月額(仮) = 40万円(ただし上限を超えた場合は上限適用)
育休給付金(月額、仮) = 40万円 × 67% = 268,000円
育休給付金(180日間、仮) ≒ 268,000円 × 6ヶ月 = 1,608,000円
差額の確認
| 項目 | 賞与除外(実際) | 賞与込み(仮定) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 賃金月額 | 300,000円 | 400,000円 | −100,000円 |
| 月額給付金 | 201,000円 | 268,000円 | −67,000円 |
| 180日間の総給付金 | 1,206,000円 | 1,608,000円 | −402,000円 |
このシミュレーションでは、賞与除外によって180日間で約40万円の差が生じています。年収に占める賞与比率が高い方ほど、この差は大きくなります。
給付率と支給上限額の仕組み
賞与除外の影響をさらに正確に把握するには、給付率と支給上限額のルールも合わせて理解する必要があります。
給付率の段階
育休給付金の給付率は育休の期間によって2段階に変わります。
| 育休取得期間 | 給付率 | 手取り換算での実質補填率 |
|---|---|---|
| 育休開始から180日目まで | 67% | 約80%相当 |
| 181日目以降 | 50% | 約60%相当 |
※手取り換算は、育休中は社会保険料・所得税が免除・軽減されることを踏まえた参考値です。
支給上限額の計算例
賃金月額に上限が設けられているため、月例賃金が高くても給付金は上限で頭打ちになります。
2025年度を基準とした目安:
| 期間 | 賃金月額上限 | 月額給付金の上限(67%の場合) |
|---|---|---|
| 育休開始〜180日 | 約450,600円 | 約301,902円 |
| 181日〜 | 約450,600円 | 約225,300円 |
※上限額は毎年8月に最低賃金の動向等を反映して改定されます。最新値はハローワークまたは厚生労働省の公式サイトで確認してください。
申請手続きの流れと必要書類
給付金を確実に受け取るためには、正確な書類準備と期限管理が欠かせません。
申請の全体フロー
育休取得開始
↓
【第1回申請(受給資格確認+初回支給申請)】
・育休開始後、速やかに手続き
・企業がまとめてハローワークへ提出するケースが多い
↓
【2回目以降の支給申請】
・原則として2ヶ月ごとに申請
・育休中の賃金支払い実績も確認される
↓
育休終了・職場復帰
↓
【最終支給申請】
・育休終了後に最後の申請を行う
必要書類一覧
| 書類名 | 作成者 | 提出タイミング | 備考 |
|---|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書(初回) | 本人+企業 | 初回申請時 | ハローワーク指定様式 |
| 育児休業給付金支給申請書(2回目以降) | 本人+企業 | 各支給単位期間ごと | 2ヶ月に1回が目安 |
| 母子健康手帳(写し) | 本人 | 初回申請時 | 出生日・子どもとの続柄確認 |
| 雇用保険被保険者証 | 本人 | 初回申請時 | 被保険者番号確認 |
| 賃金台帳(直近6ヶ月分) | 企業 | 初回申請時 | 賃金月額算定の根拠書類 |
| 出勤簿・タイムカード | 企業 | 初回申請時 | 給与支払基礎日数の確認 |
| 育児休業取得確認書類(社内通知等) | 企業 | 初回申請時 | 育休の開始・終了予定の確認 |
| 労働者名簿または雇用契約書 | 企業 | 初回申請時 | 雇用形態・期間の確認 |
申請先と提出方法
申請先は、事業所を管轄するハローワーク(公共職業安定所)です。多くの企業では、企業の人事・総務担当者が代理でまとめて申請を行います。従業員が直接申請することも可能ですが、賃金台帳など企業が保有する書類が必要となるため、企業を通じた手続きが一般的です。
電子申請(e-Gov)にも対応しており、企業規模や担当者の体制に応じて活用できます。
賞与支給月と育休が重なった場合の注意点
育休取得中に賞与の支給月が来た場合、扱いは次の2点で注意が必要です。
育休中の賞与と社会保険料の免除
育休期間中(月末時点で育休中)に支払われた賞与については、社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されます(2022年10月以降の改正により、月末育休取得が要件化)。この免除は雇用保険とは別の制度ですが、実質的な手取り増につながります。
育休前の賞与は賃金月額に影響しない
育休開始前に支払われた賞与は、雇用保険法の規定により賃金月額の算定から除外されます。「直前に賞与をもらったから給付金が増える」という期待は持てません。逆に言えば、賞与がいつ支払われても賃金月額の計算結果は変わらない、ということになります。
企業の人事担当者が押さえるべきポイント
企業側が育休給付金の申請手続きを正確に行うためには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
賃金台帳の記載精度を高める
賃金月額の算定では、賃金台帳が最も重要な根拠書類となります。特に以下の点を明確に記載しておきましょう。
- 基本給・各種手当の内訳が明示されていること
- 賞与・一時金は「賞与台帳」など別帳票で管理し、賃金台帳と分離していること
- 給与支払基礎日数(暦日数ではなく、出勤・有給等の実績日数)が正確に記録されていること
算定対象月の特定は慎重に
育休開始月の途中で休業が始まった場合、その月が算定対象に含まれるかどうかはハローワークの判断によります。疑問が生じた場合は申請前に管轄ハローワークに確認することを推奨します。
手続きの代理申請と委任状
企業が従業員の代理で申請する際、基本的に委任状は不要ですが、申請書への従業員の署名・捺印が必要な箇所があります。育休中の従業員との連絡体制を事前に確認しておきましょう。
2025年の法改正と育休給付金への影響
2025年以降、育児・介護休業法および雇用保険法の改正が段階的に施行されます。賞与の除外ルール自体に変更はありませんが、以下の点は変更・拡充が予定されています。
| 改正内容 | 概要 | 施行時期 |
|---|---|---|
| 育休給付金の給付率引き上げ(一部) | 両親ともに育休取得時、一定期間の給付率を最大80%に引き上げ | 2025年4月〜 |
| 出生後休業支援給付の新設 | 子の出生直後の育休に対する追加給付 | 2025年4月〜 |
| 育休取得促進のための事業主支援強化 | 中小企業向けの助成金拡充 | 2025年度中 |
給付率の引き上げは、賃金月額の算定方法(賞与除外のルール)には影響しませんが、最終的な給付金総額が増加する可能性があります。最新の改正内容は、厚生労働省の公式サイトまたは最寄りのハローワークで確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 賞与が多い月の翌月から育休を取ると給付金は増えますか?
増えません。育休給付金の計算に使う賃金月額は「月例賃金のみ」で算定されるため、賞与支給のタイミングを育休前に調整しても給付金額への影響はありません。賞与を受け取った月の翌月から育休を取っても、賞与の金額は賃金月額の算定から除外されます。
Q2. 毎月支払われる「月例賞与」は賃金月額に含まれますか?
毎月定期的に支払われる名目が「賞与」であっても、支払い周期が月1回であれば「3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」には該当しないため、賃金月額の計算に含まれる可能性があります。ただし、名称よりも実態(支払いの規則性・算定基準)によって判断されるため、不明な場合はハローワークに確認することを推奨します。
Q3. 育休中に会社から賞与が支払われた場合、給付金は減りますか?
育休中に賞与を受け取っても、育休給付金の算定賃金月額には影響しません。ただし、育休中に賃金が支払われた場合、支払われた賃金額によっては給付金が減額・不支給となるケースがあります(賃金月額の80%以上の賃金が支払われた場合は不支給)。賞与の扱いについては、事前に会社の人事担当者およびハローワークに確認してください。
Q4. 賃金月額の計算対象となる6ヶ月に残業代は含まれますか?
含まれます。毎月支払われる残業手当(時間外・深夜・休日労働手当)は月例賃金として賃金月額の算定対象となります。月によって残業代が大きく変動する場合は、6ヶ月間の平均が賃金月額に反映されます。
Q5. 産休(産前産後休業)中の給付金の計算も同じルールですか?
産休中の給付(出産手当金)は、健康保険から支給されるもので、雇用保険とは別の制度です。出産手当金の計算には「標準報酬月額」が使われ、こちらも賞与(標準賞与額)とは別に算定されます。育休給付金とは計算方法・根拠法令・申請先がすべて異なる点に注意してください。
Q6. 派遣社員でも育休給付金の賞与除外ルールは同じですか?
同じルールが適用されます。派遣社員であっても雇用保険の一般被保険者として育休給付金を受給する場合、賃金月額の算定から賞与が除外される点は正社員と変わりません。申請手続きは派遣元事業主(派遣会社)が行います。
まとめ
育休給付金の計算で賞与が除外される理由と、賃金月額の計算方法を整理すると以下のとおりです。
- 育休給付金の計算式は「賃金月額 × 給付率 × 給付日数」であり、賃金月額が唯一の賃金基準となる
- 賞与・ボーナスは「3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」として、雇用保険法に基づき算定から除外される
- 賃金月額は育休開始前直近6ヶ月の月例賃金のみで算出される(賞与除外は例外なく全受給者に適用)
- 賞与比率が高い収入構造の方ほど、年収全体から想定した給付金との差が大きくなる
- 申請はハローワークへ企業経由で行い、賃金台帳・出勤簿などの書類で賃金月額の根拠を示す必要がある
育休給付金の受給額をより正確に把握したい場合は、自分の直近6ヶ月の月例賃金(賞与を除いた額)を確認し、上記の計算式に当てはめてみましょう。
賃金月額の計算に不明点がある場合や、個別の事情がある場合は、早めに会社の人事担当者または最寄りのハローワークに相談することをおすすめします。専門家のサポートを受けることで、より正確な給付金見積もりと スムーズな申請手続きが可能になります。

