子の死亡と育休給付金請求権|喪失しない条件と手続き

子の死亡と育休給付金請求権|喪失しない条件と手続き 育児休業制度

育休中に子が亡くなるという状況は、誰もが経験したくない深い悲しみの中での出来事です。そのような状況で「給付金はどうなるのか」「手続きが必要なのか」と不安を抱える方や、対応を迫られる企業の人事担当者のために、この記事では育児休業給付金の請求権について正確な情報を整理しました。

感情的に辛い時期だからこそ、制度の仕組みを正しく理解し、受け取れるお金はきちんと受け取れるよう、申請タイミング別の支給可否から計算方法・手続き方法まで丁寧に解説します。


育休中に子が死亡した場合、給付金請求権はどうなるのか?

結論から申し上げます。育児休業開始後にすでに発生している育児休業給付金の請求権は、子が死亡しても消滅しません。

これは育児休業給付金制度の重要な原則です。ただし、「請求権が消滅しない」ことと「以降も給付が続く」ことは別の話です。子が亡くなった月の翌月以降については、新たな給付金は支給されなくなります。

多くの方が「子が亡くなったら給付金は全て没収されるのでは」「すでにもらったお金を返さなければならないのでは」と誤解していますが、そのような制度にはなっていません。あくまですでに発生した請求権は守られるのが法の原則です。

「請求権の喪失」と「以降の給付停止」は別の話

混同されがちな二つの概念を整理します。

請求権の喪失とは、すでに発生した給付金を受け取る権利そのものが消えてしまうことを指します。たとえば、休業開始から3か月分の給付金がすでに発生している状態で子が亡くなった場合、その3か月分を受け取る権利は消えません。これを「請求権は喪失しない」と表現します。

一方、以降の給付停止とは、子が亡くなった翌月以降、新たな給付金の支給対象にはならないということです。育児休業給付金は「育児のための休業」に対して支払われるものです。養育すべき子がいなくなった以上、その目的が成立しなくなるため、将来分の給付は受けられなくなります。

この二つをきちんと区別することで、「何が守られていて、何が対象外になるのか」を正確に把握できます。

法的根拠|雇用保険法・育児介護休業法のポイント

育児休業給付金は雇用保険法第61条の7を根拠とし、育児休業給付金の支給要件・支給期間・支給額が定められています。また、育児休業そのものの申請手続きや要件は育児・介護休業法第5条〜第9条に規定されています。

具体的な給付要件や申請手続きについては、雇用保険法施行規則第101条の8〜第101条の19が細則を定めており、給付金の計算に使用する「休業開始時賃金日額」の算定方法も同施行規則に詳述されています。

これらの法令をまとめると、下記のとおりです。

法律・規則 主な規定内容
育児・介護休業法 第5〜9条 育児休業の申請・取得要件
雇用保険法 第61条の7 育児休業給付金の支給要件・給付額
雇用保険法施行規則 第101条の8〜19 申請手続き・賃金日額の算定
厚生労働省通達(各年度) 支給停止・打ち切りの解釈指針

給付金請求権の発生時期は、育児休業を開始した日(休業開始日)から起算し、1か月ごとの支給単位期間ごとに請求権が生まれます。子が死亡した時点でその単位期間中の請求権がすでに発生しているかどうかが、支給可否の判断軸になります。


申請タイミング別|給付金が支給されるケース・されないケース

給付金を受け取れるかどうかは、子が亡くなった時点が育休のどのステージだったかによって大きく変わります。以下の3つのケースに分けて確認しましょう。

状況 給付金請求権 補足
申請前に子が死亡 発生しない 育児休業自体が成立していない
申請後・休業開始前に子が死亡 発生しない 休業が開始されていないため対象外
休業開始後に子が死亡 発生済み分は消滅しない 死亡月翌月以降の給付は停止

申請前・開始前に子が死亡した場合(給付なし)

育児休業給付金は、育児休業を実際に開始したことを前提として支給される給付金です。したがって、育児休業の申請を職場に提出していたとしても、休業がまだ始まっていない段階で子が亡くなった場合は、育児休業給付金の対象になりません。

このケースでは、給付金請求権そのものが「まだ発生していない」状態です。請求権が喪失したのではなく、そもそも生まれていなかったという整理になります。

会社への届出としては、育児休業申請の撤回届が必要になる場合があります。企業の人事担当者は、当事者に対して温かく対応しつつ、必要な書類手続きをサポートしてください。

なお、育休開始前であっても、産後8週間の産後休業(産前産後休業)中は別の給付である出産手当金(健康保険法第102条)が支給されており、こちらは子の死亡の影響を受けません。出産手当金は産後休業に対して支払われるものであり、子の生存を要件としないためです。

育休開始後・給付発生後に子が死亡した場合(給付あり)

育児休業を開始した後に子が亡くなった場合、すでに発生している給付金の請求権は消滅しません

育児休業給付金は「休業開始日から起算して1か月ごとの支給単位期間」ごとに支給額が計算されます。たとえば、育休を4月1日に開始した場合、4月1日〜4月30日が第1支給単位期間、5月1日〜5月31日が第2支給単位期間、というように進みます。

具体例で確認しましょう。

例: 4月1日に育休を開始し、第1・第2支給単位期間(4〜5月分)の給付金がすでに発生している状態で、6月15日に子が亡くなった場合。

  • 4〜5月分の給付金:請求権は消滅しない。受け取り可能。
  • 6月分の給付金:死亡日が月の途中であるため、支給の可否と日割り計算の扱いについてはハローワークに確認が必要。
  • 7月分以降:支給されない。

子が亡くなった月(上記の例では6月)の給付金の扱いについては、支給単位期間の途中かどうか、またその期間内に規定の休業日数を満たしているかどうかによって判断が分かれます。必ずハローワークに個別確認することを強くお勧めします。

子死亡月の翌月以降の取り扱い

子が亡くなった月の翌月以降は、育児休業給付金の支給は打ち切られます。育児休業は「満1歳(または最大2歳)に達するまでの子を養育するための休業」であり、養育すべき子がいなくなった以上、制度目的が失われるためです。

重要なのは、翌月以降に新たな給付金が支給されないのであって、すでに支給された給付金を返納する義務はないという点です。受け取り済みの給付金について返還を求められることは原則ありません。

また、育休終了後に職場復帰する場合の手続きも、通常の育休終了とは異なる対応が必要になります。会社への育休終了(短縮)届、ハローワークへの給付終了の届出が必要になりますので、次章の手続きセクションで詳しく説明します。


給付金はいくらもらえる?支給額の計算方法

育児休業給付金の支給額は、休業開始時賃金日額をベースに計算されます。計算式と2025年現在の支給率を確認しましょう。

基本的な計算式

育児休業給付金の支給額は、支給単位期間ごとに以下の式で算出されます。

支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 支給率
  • 休業開始時賃金日額:育休開始前6か月間の賃金合計 ÷ 180日
  • 支給日数:原則として1支給単位期間(30日)
  • 支給率:育休開始から180日目まで67%、181日目以降50%

支給額の上限・下限(2025年度)

項目 金額(1支給単位期間あたり)
最高支給額(開始〜180日) 約312,814円(上限日額15,640円 × 67% × 30日)
最高支給額(181日〜) 約233,700円(上限日額15,580円 × 50% × 30日)
最低保障額 日額2,125円 × 支給率(下限あり)

※上限額は雇用保険の基本手当日額の上限改定に連動して毎年変わります。最新の金額は厚生労働省またはハローワークの公式情報を必ず確認してください。

具体的な計算例

例: 育休開始前6か月間の月額賃金が平均30万円だった場合

  • 休業開始時賃金日額:300,000円 × 6か月 ÷ 180日 = 10,000円/日
  • 開始〜180日の1か月支給額:10,000円 × 30日 × 67% = 201,000円
  • 181日目以降の1か月支給額:10,000円 × 30日 × 50% = 150,000円

子が育休開始から3か月(90日)で亡くなった場合、すでに支給された2か月分(約402,000円)の請求権は消滅せず、返納も不要です。死亡月(3か月目)の扱いはハローワークに確認が必要です。

支給条件の注意点

以下の条件を満たしていない支給単位期間は、給付の対象外となります。

  • 育休中の就労が月10時間以下(または就労日数が10日以下)であること
  • 育休中に事業主から支払われる賃金が休業開始時賃金月額の80%未満であること(80%以上になると支給停止)
  • 賃金日額が雇用保険の最低賃金額に相当する額以上であること

子が死亡した場合の手続きフローと必要書類

全体の手続きフロー

子が亡くなった際には、悲しみの中でも複数の手続きが必要になります。会社・ハローワーク双方への対応を時系列で確認しましょう。

子の死亡
  ↓
① 会社(事業主)への連絡・育休終了の届出
  ↓
② ハローワークへの給付金支給終了手続き(事業主経由)
  ↓
③ 未支給分の給付金がある場合は請求手続き
  ↓
④ 職場復帰の日程調整(任意・本人の状況に応じて)

会社(事業主)への手続き

育児休業の終了理由として「養育する子の死亡」を届け出ます。通常の育休終了とは手続きが異なる場合があるため、人事担当者と本人双方で内容を確認してください。

事業主側の対応(人事担当者)

  1. 育児休業終了届の受理:育児・介護休業法に基づく育休終了の届出を受け取る
  2. 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書の保管確認:給付金請求に必要な書類
  3. 育児休業給付金支給申請の取り扱い確認:未申請の支給単位期間がある場合、ハローワークに申請を行う
  4. 社会保険の手続き:育休中の社会保険料免除終了手続き(日本年金機構への届出)

ハローワークへの手続き

育児休業給付金はハローワークに対して事業主(会社)が申請するのが原則です。本人が直接申請するケースは限られます。

提出書類一覧(未支給分の給付金を請求する場合)

書類名 入手先・備考
育児休業給付金支給申請書 ハローワーク窓口またはe-Gov電子申請
雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 育休開始時に事業主が提出済みであることが多い
育児休業取扱通知書のコピー 会社が発行
子の死亡を確認できる書類 住民票の除票、死亡診断書のコピーなど
賃金台帳・出勤簿 休業中の就労状況確認のため(事業主保管)

子の死亡を確認できる書類については、死亡診断書のコピーや、市区町村が発行する住民票(続柄・死亡日が記載されたもの)が一般的に認められています。原本が必要かコピーで足りるかはハローワークによって異なる場合があるため、事前に確認してください。

申請期限(時効)の注意点

育児休業給付金の請求権には2年の時効(雇用保険法第74条)が設けられています。子が亡くなった後もこの時効は進行しますので、未支給分がある場合は速やかに申請手続きを行うことが大切です。

悲しみの中での手続きになるため、会社の人事担当者が積極的にサポートし、本人が手続きを忘れたり誤ったりすることのないよう配慮することが重要です。


企業・人事担当者が知っておくべき対応のポイント

当事者への配慮と情報提供

子を亡くした従業員は、深い悲しみの中にあります。企業として、まず感情的なサポートを最優先にしてください。給付金や書類の話は、本人の状態を見ながら適切なタイミングで丁寧に伝えることが大切です。

具体的には以下の点に留意してください。

  • 給付金を受け取れる権利があることを本人に漏れなく伝える
  • 会社側で代行できる手続き(ハローワークへの申請など)は積極的に担う
  • 復職時期について本人の意思を尊重し、強制的なスケジュールを設けない
  • EAP(従業員支援プログラム)やカウンセリング窓口の案内を行う

社会保険料免除の終了手続き

育休中は健康保険・厚生年金保険の社会保険料が免除されていますが、育休が終了すると免除も終了します。子の死亡により育休が事実上終了した場合、育児休業等終了届を日本年金機構(管轄の年金事務所)に提出する必要があります。

育休終了日(子が亡くなった日または会社が届け出た終了日)の翌日以降は通常の社会保険料が発生するため、給与計算への反映も忘れずに行ってください。

出生時育児休業(産後パパ育休)への影響

2022年10月から施行された出生時育児休業(産後パパ育休)についても同様の考え方が適用されます。出生後8週間以内に最大28日間取得できる制度ですが、この期間中に子が亡くなった場合も、すでに発生している出生時育児休業給付金の請求権は消滅しません。手続きの基本フローは通常の育児休業給付金と共通です。


よくある疑問をまとめて解説

Q1. 子が亡くなった月の給付金はもらえますか?

子が亡くなった月の支給単位期間が開始されており、かつ規定の休業日数を満たしている場合は支給される可能性があります。ただし、月の途中で死亡した場合の日割り計算の扱いや支給要件の充足状況によって異なるため、ハローワークに個別に確認することが必須です。

Q2. すでに受け取った育休給付金を返還しなければならないですか?

いいえ、原則として返還義務はありません。育休開始後に正当に支給された給付金は、子が亡くなったことを理由に返還を求められることはありません。

Q3. 子の死亡を会社に報告する前に申請していた給付金はどうなりますか?

すでに申請・支給が完了している給付金は問題ありません。申請中(審査中)のものについても、支給単位期間内に要件を満たしていれば支給されます。ただし、会社への報告は速やかに行い、ハローワークへの届出も適切に処理することが重要です。

Q4. 双子のうち一人が亡くなった場合はどうなりますか?

双子のうち一人が亡くなっても、もう一人の子を養育していれば育児休業給付金は継続して支給されます。育児休業給付金は「育児のための休業」に対する給付であり、養育すべき子が少なくとも一人いれば制度の目的は存続します。届出内容の修正が必要になる場合があるため、会社とハローワークに状況を報告してください。

Q5. 子の死亡後、どのくらいの期間休職できますか?

育児休業の制度上は、養育する子がいなくなった時点で育児休業の取得事由が消滅するため、法的な育児休業としての継続は原則できなくなります。ただし、就業規則に特別休暇・忌引き休暇・慶弔休暇・病気休暇などの規定があれば、それらを活用できる場合があります。また、私傷病休職制度やメンタルヘルス支援の観点からの休業が認められるケースもあります。会社の就業規則と人事担当者に相談してください。

Q6. 育休給付金の申請期限はいつまでですか?

育児休業給付金の請求権は2年で時効消滅します(雇用保険法第74条)。支給単位期間の末日の翌日から2年以内に申請する必要があります。子が亡くなった後は手続きが後回しになりがちですが、請求権があることを認識したら早めに手続きを進めてください。


まとめ|子の死亡と育休給付金、押さえるべき5つのポイント

この記事で解説した内容を整理します。

  1. 育休開始後に発生した給付金請求権は、子の死亡によって消滅しない
  2. すでに支給された給付金は返還不要
  3. 子が亡くなった月の翌月以降は給付されない(将来分の停止)
  4. 申請前・開始前に子が亡くなった場合は、請求権そのものが発生しない
  5. 未支給分の給付金は時効(2年)内に申請が必要

育休中に子を亡くすという経験は、言葉に表せないほど辛いものです。しかし、制度上受け取れる権利は正しく行使していただきたいと思います。手続きに迷った場合は、管轄のハローワーク(ハローワークインターネットサービスで検索可能)または社会保険労務士に相談することをお勧めします。企業の人事担当者も、当事者が一人で抱え込まないよう、積極的にサポートしてください。


免責事項:本記事は2025年時点の法令・制度に基づく一般的な情報提供を目的としています。給付金の支給可否・金額・手続き方法については個別の状況によって異なる場合があります。実際の手続きにあたっては、管轄のハローワークまたは社会保険労務士にご確認ください。

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