育休申請済みで流産してしまった場合、「給付金はどうなるのか」「手続きは何から始めればよいのか」と不安を抱える方は少なくありません。
結論から先にお伝えします。
育児休業給付金は、原則として請求権が消滅します。しかし、流産の状況(妊娠週数・健康状態・申請タイミング)によっては、出産育児一時金・傷病手当金・産前産後休業中の給付など、別の給付金を受け取れる可能性があります。
本記事では、妊娠週数・申請状況別に受け取れる給付金の種類と条件、具体的な申請手続き・必要書類・法的根拠を、2025年時点の制度に基づいてわかりやすく解説します。
⚠️ この記事をお読みの方へ
流産・死産を経験された方がこの記事を読まれている場合、まずは心身を休めることを最優先にしてください。手続きは後からでも対応できます。本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
育休申請後に流産した場合、給付金はどうなるのか
妊娠週数・申請状況別:給付金の結論早見表
まず自分の状況に該当するケースを確認してください。
| 状況 | 妊娠週数 | 育児休業給付金 | 出産育児一時金 | 傷病手当金 | 産前産後休業給付 |
|---|---|---|---|---|---|
| 流産(手術なし) | 22週未満 | ❌ 消滅 | ✅ 対象(50万円) | 条件次第で✅ | ❌ 対象外 |
| 流産(手術あり・療養必要) | 22週未満 | ❌ 消滅 | ✅ 対象(50万円) | ✅ 対象 | ❌ 対象外 |
| 死産 | 22週以上 | ❌ 消滅 | ✅ 対象(50万円) | 条件次第で✅ | ✅ 対象(産後8週) |
| 切迫流産で入院中 | 問わず | ❌(育休未開始なら消滅) | ✅ 対象 | ✅ 対象 | 週数次第 |
注記: 育児休業給付金は「子を現に養育していること」が要件のため、流産・死産のいずれの場合も原則として請求権は消滅します。
育児休業給付金が「子の養育」を要件とする理由
育児休業給付金は、雇用保険法第67条に基づく給付です。同法および育児・介護休業法第9条では、育児休業の取得要件として「1歳未満の子を養育するために取得する休業」であることが明確に定められています。
つまり、給付金が支給されるためには以下の両方を満たす必要があります。
- 育児休業を取得していること
- その期間中、実際に子を養育していること
流産によって「養育すべき子」が存在しなくなった場合、この②の要件を満たせなくなります。その結果、育児休業そのものの法的根拠が消滅し、それに伴って給付金の請求権も消滅するというのが法的なメカニズムです。
具体的には以下のような流れになります。
育休申請済み → 流産発生 → 「子の養育」要件が消滅
↓
育児・介護休業法上の育休取得事由なし
↓
雇用保険法上の給付金請求権も消滅
既に育児休業に入っていた場合も同様で、流産が確認された時点以降の給付金支給は停止されます。これを「給付事由消滅」といいます。
妊娠週数で変わる!流産・死産の法律上の扱い
流産・死産は、医学的・法律的にどの週数で区分されるのかを理解しておくことが非常に重要です。週数によって適用される法律と受け取れる給付金が大きく変わるからです。
妊娠22週未満:「流産」として扱われる
医学的・法律的に「流産」と定義されます。この場合、労働基準法第65条の産前産後休業は原則として適用されません。ただし、健康保険法に基づく出産育児一時金や傷病手当金の対象になる可能性があります。
妊娠22週以上:「死産」として扱われる
法律上「死産」として取り扱われ、死産届の提出が必要になります(死産の届出に関する規程第3条)。この場合、労働基準法第65条に基づく産後休業(産後8週間)が適用され、それに関連する給付金も発生します。
重要な違いまとめ:
| 区分 | 妊娠週数 | 死産届 | 産前産後休業 | 出産育児一時金 |
|---|---|---|---|---|
| 流産 | 22週未満 | 不要 | ❌ 対象外 | ✅ 対象(妊娠12週以上) |
| 死産 | 22週以上 | ✅ 必要 | ✅ 対象(産後8週) | ✅ 対象 |
注意: 出産育児一時金は、妊娠12週(85日)以上であれば、流産・死産を問わず支給対象になります(健康保険法第101条)。妊娠12週未満の流産の場合は支給されません。
ケース別:流産時に請求できる給付金の種類と条件
妊娠22週未満の流産のケース
育児休業給付金は請求できませんが、以下の給付金を検討してください。
出産育児一時金(妊娠12週以上が条件)
健康保険または国民健康保険に加入していれば、妊娠12週(85日)以上での流産・死産に対して50万円が支給されます(産科医療補償制度加算分を含む。加算対象外の場合は48.8万円)。
- 根拠法: 健康保険法第101条、国民健康保険法第58条
- 申請先: 加入している健康保険組合・協会けんぽ・市区町村(国保の場合)
- 申請期限: 出産日(流産確認日)の翌日から2年以内
- 必要書類: 出産育児一時金支給申請書、医師の診断書(流産証明)、保険証
傷病手当金(療養が必要な場合)
流産後に入院・安静加療が必要となり、会社を休んで給与が支払われない場合に請求できます。
- 支給額: 標準報酬日額の3分の2×休業日数
- 支給期間: 最長1年6ヶ月
- 根拠法: 健康保険法第99条
- 申請先: 加入している健康保険組合・協会けんぽ
- 必要書類: 傷病手当金支給申請書(本人・事業主・医師の各欄の記入が必要)
ポイント: 傷病手当金は「業務外の病気やケガで働けない状態」が条件です。流産手術後の療養・切迫流産による入院中も対象になります。育児休業給付金とは異なり、「子の養育」要件がないため請求権は消滅しません。
妊娠22週以上の死産のケース
死産の場合は、産前産後休業が適用され、受け取れる給付金の種類が増えます。
産前産後休業と出産手当金
労働基準法第65条により、死産であっても産後8週間の産後休業を取得する権利があります。この期間中は、健康保険から出産手当金が支給されます。
- 支給額: 標準報酬日額の3分の2×産後休業日数
- 根拠法: 健康保険法第102条
- 申請先: 加入している健康保険組合・協会けんぽ
- 必要書類: 出産手当金支給申請書、死産証書または死胎火葬許可証のコピー、医師の証明
注意: 産後休業は「8週間を経過しない女性を就業させてはならない」という強行規定(労働基準法第65条)です。本人が希望しても6週経過後でないと就業できません。
出産育児一時金(50万円)
22週以上の死産でも、出産育児一時金の支給対象です。申請方法は22週未満の場合と同様です。
社会保険料の免除
産前産後休業期間中は、本人・事業主ともに社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されます(健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条の2)。
- 免除申請先: 会社経由で年金事務所または健康保険組合
- 必要書類: 産前産後休業取得者申出書(会社が申請)
育児休業取得中に流産が発覚したケース
育児休業取得後・出産前に流産が判明した場合(例:双子妊娠で一方の出産後に育休取得中、次の出産予定で流産した等のケース)は、以下の手続きが必要です。
- 会社に流産の事実を報告し、育児休業の取り消し申請を速やかに行う
- ハローワークに給付事由消滅の届出を提出する
- 既に受給した給付金は返還不要(流産判明前の正当な受給分)
- 流産判明後に受け取ったものがある場合は要確認(会社・ハローワークに相談)
具体的な申請手続きの流れと必要書類
フェーズ1:流産判明直後にすること(1〜2週間以内)
【STEP1】医療機関での対応
流産が医学的に確認されたら、以下の書類を医師に発行してもらいましょう。
- 診断書(流産の事実・妊娠週数・手術の有無を記載したもの)
- 傷病手当金を申請する場合は、医師に「療養担当者の意見書」欄への記入も依頼
妊娠22週以上の場合は、死産証書または死胎火葬許可証が発行されます。これらは後の各種申請に必要になるため、大切に保管してください。
【STEP2】会社への連絡と育休取り消し手続き
会社に流産の事実を報告し、以下の手続きを依頼します。
会社側で必要な主な対応:
| 手続き | 届出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 育児休業申出の撤回(育休取り消し) | 会社の人事担当 | できるだけ速やかに |
| 雇用保険:育児休業給付金の受給資格喪失届 | ハローワーク(会社経由) | 速やかに |
| 産前産後休業取得者申出書(22週以上の場合) | 年金事務所(会社経由) | 速やかに |
ポイント: 育休の取り消し手続きは、育児・介護休業法上の「育児休業申出の撤回」として処理されます。会社の人事担当者に「流産による育休申出の撤回」を申し出てください。
フェーズ2:各種給付金の申請(1〜2ヶ月以内)
出産育児一時金の申請手順
直接支払制度(医療機関に直接支払)を利用する場合:
1. 分娩(流産手術)を行った医療機関が手続きを代行
2. 費用が50万円を超えた場合は差額を窓口で支払
3. 費用が50万円未満の場合は差額を後日健康保険組合等から受取
直接支払制度を利用しない場合(事後申請):
1. 健康保険組合・協会けんぽ・市区町村から「出産育児一時金支給申請書」を入手
2. 必要書類を準備:
– 出産育児一時金支給申請書
– 医師または助産師の証明書(申請書の所定欄への記載)
– 健康保険被保険者証
– 振込先口座を確認できるもの
3. 申請先に提出(申請期限:流産確認日の翌日から2年以内)
傷病手当金の申請手順
- 協会けんぽまたは健康保険組合から「傷病手当金支給申請書」を入手
- 3つのパートを順番に記入:
- 被保険者(本人)記入欄:氏名・傷病名・休業期間など
- 事業主記入欄:会社が休業の事実・給与支払い状況を証明
- 療養担当者記入欄:医師が療養の必要性を証明
- 申請書を健康保険組合・協会けんぽに提出
- 申請は1ヶ月ごとに行うことが一般的(まとめて申請も可)
申請期限: 労務不能であった日の翌日から2年以内
フェーズ3:確認・事後対応
税務上の対応
流産に関連して支払った医療費は、医療費控除の対象になります。確定申告(または年末調整の補完として確定申告)で申告できます。
対象となる費用:
– 診察費・入院費・手術費(流産手術含む)
– 通院交通費
社会保険料の取り扱い
育休中に支払われていた社会保険料免除は、育休取り消しにより終了します。流産後に産前産後休業(22週以上の場合)に切り替えれば、引き続き免除が受けられます。会社の人事担当者に確認してください。
会社の人事担当者が行うべき手続きチェックリスト
従業員から流産の報告を受けた場合、人事担当者は以下の手続きを速やかに行ってください。
必須対応チェックリスト
- [ ] 育児休業申出の撤回を書面で受け取る(育児・介護休業法に基づく記録保存)
- [ ] ハローワークへ育児休業給付金の支給停止申請を提出する
- [ ] 妊娠22週以上(死産)の場合:産前産後休業の取得申出を受理し、社会保険料免除の申請を年金事務所へ提出
- [ ] 健康保険組合・協会けんぽへ出産育児一時金の申請案内を従業員に伝える
- [ ] 傷病手当金が必要な場合:申請書の事業主記入欄を記載し従業員に返却する
- [ ] 就業規則・慶弔規程に基づく特別休暇・見舞金の支給を確認する
ハローワークへの届出書類
| 書類名 | 提出タイミング |
|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書(取り消し) | 流産確認後、速やかに |
| 雇用継続給付受給資格者通知(受給資格喪失の場合) | 会社経由でハローワークへ連絡 |
よくある疑問と注意点
流産後の給付金手続きに関して、特に多い疑問をまとめました。
Q1. 流産した事実を会社に詳しく伝えないといけませんか?
いいえ、詳細を伝える義務はありません。「流産により育休申出を撤回します」という事実の報告と、必要な書類(医師の診断書など)の提出で手続き上は十分です。プライバシーに配慮した対応を会社に求めることも可能です。
Q2. 育休申請前に流産した場合も同様の手続きが必要ですか?
育休申請前であれば、育休取り消しの手続きは不要です。ただし、出産育児一時金・傷病手当金・産前産後休業(22週以上)については、申請の有無にかかわらず、条件を満たせば請求できます。
Q3. 流産後すぐに職場復帰しなければなりませんか?
いいえ。流産後に体調が回復していない場合は、傷病手当金を受給しながら療養を続けることができます。また妊娠22週以上の死産の場合は、産後8週間の休業を取る権利があります(本人希望で6週経過後の就業は可)。精神的なケアも含め、無理をせず医師に相談しながら復帰時期を決めてください。
Q4. パートタイム・派遣社員でも給付金はもらえますか?
出産育児一時金は、健康保険(または国民健康保険)に加入していれば雇用形態を問わず受け取れます。傷病手当金は健康保険(国保は対象外)の被保険者が対象です。育児休業給付金は、雇用保険の被保険者であれば雇用形態を問いませんが、本記事で解説のとおり流産の場合は請求権が消滅します。
Q5. 流産後に妊娠・出産した場合、育休給付金は改めて請求できますか?
はい、次の妊娠・出産の際に改めて育休を取得し、要件を満たせば育児休業給付金を請求できます。以前の流産による給付金消滅は、次回の請求権に影響しません。
Q6. 会社が手続きをしてくれない場合はどうすればよいですか?
会社が手続きを怠っている場合は、ハローワーク(公共職業安定所)に直接相談することができます。また、出産育児一時金は被保険者本人が健康保険組合・協会けんぽに直接申請できます。権利の侵害が疑われる場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談してください。
まとめ:流産後の給付金手続きのポイント
流産後の給付金手続きは複雑に見えますが、ポイントを整理すると以下のとおりです。
1. 育児休業給付金の請求権は原則消滅する
育児・介護休業法・雇用保険法の「子の養育」要件が満たせなくなるため、流産・死産のいずれの場合も育休給付金は受け取れません。これは法律上の必然的な結果であり、例外はありません。
2. 別の給付金で一定の保護は受けられる
- 妊娠12週以上:出産育児一時金(50万円)
- 療養が必要な場合:傷病手当金(標準報酬日額の2/3)
- 妊娠22週以上の死産:産後休業中の出産手当金+社会保険料免除
3. 妊娠22週が重要な分岐点
22週未満(流産)と22週以上(死産)では適用される法律・給付金の種類が異なります。妊娠週数を確認することが、受け取れる給付金を判定する第一ステップです。
4. 申請期限は比較的長め
出産育児一時金・傷病手当金ともに2年以内が申請期限です。流産直後は無理せず、体調が回復してから手続きを進めることも可能です。焦らず丁寧に対応してください。
5. 一人で抱え込まない
不明な点は会社の人事担当者、ハローワーク、健康保険組合・協会けんぽに相談してください。複数の機関が連携して対応できるよう、会社の人事担当者を窓口として活用するのが最も効率的です。
関連法令・参考情報
本記事の根拠となる主要な法令および参考リソースを以下にまとめます。
法令:
– 育児・介護休業法第9条(育児休業の要件)
– 雇用保険法第65条・第67条(育児休業給付金の支給要件)
– 労働基準法第65条(産前産後休業)
– 健康保険法第99条(傷病手当金)・第101条(出産育児一時金)・第102条(出産手当金)・第159条(社会保険料免除)
– 厚生年金保険法第81条の2(社会保険料免除)
– 死産の届出に関する規程(妊娠22週以上の死産届の根拠)
公式情報・参考資料:
– 厚生労働省:育児・介護休業法のあらまし
– ハローワーク:育児休業給付金の手続きガイド
– 協会けんぽ:出産育児一時金・傷病手当金の申請様式および制度説明
– 全国健康保険協会:出産にかかる給付について
免責事項: 本記事は2025年時点の法令・制度に基づいて作成しています。制度の改正や個別の状況によって異なる場合がありますので、具体的な手続きについては会社の人事担当者またはハローワーク・健康保険組合に必ずご確認ください。本記事の情報は一般的なガイダンスであり、個別の法的助言ではありません。

