育休給付金の金額を試算しようとして「基本給だけで計算すればいいの?」「通勤手当や残業代は含まれるの?」と疑問を持つ方は少なくありません。給与明細に並ぶ手当の種類によっては、計算に含まれるものと含まれないものがあり、判定を誤ると実際の受給額と大きく差が出てしまいます。
この記事では、育休給付金の給付額の土台となる「賃金月額」の定義から始め、基本給以外の各種手当が計算に含まれるかどうかを一覧表と具体例を使って徹底解説します。給与明細を手元に置きながら読み進めることで、正確な給付額の見通しが立てられるでしょう。
育休給付金の給付額は何をもとに計算されるのか?
育休給付金(育児休業給付金)の支給額は、育休を開始する前の賃金月額を基準に算出されます。「基本給だけで計算する」と思い込んでいる方がいますが、正確には基本給を含むさまざまな賃金を合算した額が起点になります。まずはこの「賃金月額」と「休業開始時賃金日額」の定義を正確に押さえておきましょう。
賃金月額・休業開始時賃金日額とは
育休給付金の計算に使われる金額は、休業開始時賃金日額と呼ばれます。これは雇用保険法施行規則第106条第1項に基づき、次の計算式で求められます。
休業開始時賃金日額 = 育休開始前6ヶ月間の賃金合計 ÷ 180
「180」は6ヶ月を日数換算した数値(30日×6ヶ月)です。月ごとに給与支払日数が異なっても、この固定値で割ります。
給付額の計算式は次のとおりです。
【育休開始から180日まで(給付率67%)】
1支給単位期間の給付額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
【育休180日経過後(給付率50%)】
1支給単位期間の給付額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50%
支給単位期間は原則として1ヶ月(30日)です。ただし育休の最終月は実際の育休日数で計算します。
支給上限額・下限額(2024年度の目安)
| 区分 | 上限額(月額) | 下限額(月額) |
|---|---|---|
| 給付率67%(育休開始〜180日) | 約310,143円 | 約54,183円 |
| 給付率50%(181日〜) | 約231,450円 | 約40,430円 |
※支給上限・下限は毎年8月に改定されます。最新額は必ずハローワークまたは厚生労働省のウェブサイトで確認してください。
ポイント:「賃金日額の上限」は雇用保険法で設定されており、高収入の方でも給付額に上限があります。
計算に使う「6ヶ月」の範囲の決め方
「育休開始前6ヶ月」というのは、単純にカレンダー上の6ヶ月を指すわけではありません。雇用保険の規定では、賃金支払基礎日数が11日以上ある月を1ヶ月としてカウントします。
賃金支払基礎日数が11日未満の月(例:月途中から入社した月、欠勤が多かった月)はカウントから除外されます。
具体的な起算点の考え方は次のとおりです。
例)2024年4月1日から育休開始の場合
育休開始月(4月)は除外
↓
3月・2月・1月・12月・11月・10月 を順に確認
↓
それぞれの月の賃金支払基礎日数が11日以上か確認
↓
11日以上の月を古い順に6ヶ月分さかのぼって集計
月途中から育休を開始した場合も、開始月は「端数月」として扱われ、原則として6ヶ月の計算には含めません。ただし、開始月に11日以上の賃金支払基礎日数がある場合は含める場合もあるため、ハローワークや社労士に確認することをおすすめします。
注意:産前産後休業(産休)を取得してから育休に移行する場合、産休中は賃金が支払われない月になることが多いため、6ヶ月のカウントが産休前にさかのぼるケースがあります。
基本給以外の諸手当は育休給付金の計算に含まれるか?
育休給付金の計算で最も誤解が多いのが、諸手当の取り扱いです。結論から言えば、「毎月決まって支払われる賃金」は基本給以外の手当であっても計算に含まれます。一方で、実費弁償的なものや臨時・変動的なものは含まれません。
以下では「含まれる手当」と「含まれない手当」を詳しく解説します。
計算に「含まれる」手当の種類と判定基準
雇用保険法において「賃金」とは、労働の対償として事業主が労働者に支払うすべてのものを指します(雇用保険法第4条第4項)。つまり、名称が「手当」であっても、毎月固定的に支払われていれば賃金として計算対象に含まれます。
計算に含まれる手当の一覧
| 手当の種類 | 含まれる理由 | 具体例 |
|---|---|---|
| 家族手当(扶養手当) | 毎月固定支給の固定的賃金 | 子1人につき月1万円など |
| 住宅手当 | 毎月固定支給の固定的賃金 | 月2万円の住宅補助 |
| 役職手当(管理職手当) | 毎月固定支給の固定的賃金 | 係長手当・課長手当など |
| 資格手当 | 毎月固定支給の固定的賃金 | 社内資格に応じた月額手当 |
| 皆勤手当 | 出勤実績に基づくが毎月支給 | 月皆勤で5,000円など |
| 地域手当(調整手当) | 勤務地に応じた固定的賃金 | 都市手当・地域加算など |
| 固定残業代(みなし残業代) | 毎月一定額が固定支給 | 月30時間分として2万円固定 |
| 営業手当(職務手当) | 職種・業務内容に応じた固定払い | 外勤者への月額手当 |
| 技術手当・専門職手当 | 毎月固定支給の固定的賃金 | 資格保有者への月額加算 |
判定の基本原則:毎月ほぼ同額が継続的に支払われているかどうか
「毎月の支給額が労働者の都合ではなく雇用契約や就業規則で定められており、固定的に支払われる」という性質を持つ手当は、基本給と同様に賃金月額に含まれます。
具体例で確認:固定残業代の扱い
「固定残業代」は、あらかじめ一定時間分の残業代を毎月定額で支払う制度です。実際の残業時間にかかわらず、毎月固定額として支給されるため、賃金月額に含まれます。
例)基本給 250,000円 + 固定残業代(30時間分)30,000円 の場合
賃金月額の計算に使う月額 = 280,000円(両方含む)
ただし、固定残業代を超えた実際の残業代(変動部分)の扱いについては後述します。
計算に「含まれない」手当の種類と判定基準
以下の手当は、雇用保険法上の「賃金」に該当しないか、または賃金月額の計算対象から除外されます。
計算に含まれない手当・支給の一覧
| 手当の種類 | 含まれない理由 | 具体例 |
|---|---|---|
| 退職金 | 退職時のみ支払われる一時的なもの | 定年退職金・自己都合退職金 |
| 結婚祝い金・出産祝い金 | 臨時・不定期に支払われるもの | お祝い金・慶弔費 |
| 賞与(ボーナス) | 3ヶ月を超える期間ごとに支払われるもの | 夏季・冬季賞与 |
| 出張旅費・実費精算 | 費用弁償であり労働の対償でない | 交通費実費・宿泊費 |
| 会社貸付金の返済免除 | 経済的利益として別途判断 | 社宅の家賃補助(一部例外あり) |
「通勤手当」の特殊な扱い
通勤手当は実費弁償的な性格を持つ手当ですが、雇用保険の計算においては原則として賃金に含まれます。これは、健康保険・厚生年金の標準報酬月額における通勤手当の扱いとは異なるため、混同しないよう注意が必要です。
雇用保険(育休給付金の計算):通勤手当を「含む」
健康保険・厚生年金(標準報酬月額):通勤手当を「含む」(非課税上限分も含む)
所得税:一定額まで非課税
→ 育休給付金の計算では通勤手当は賃金に含まれる
ただし、実際の交通費を都度精算する「実費交通費精算」の場合は、毎月の賃金として一定額が計上されないため取り扱いが異なることがあります。通勤手当が「定期代の現物支給」や「月額固定の交通費補助」として給与明細に記載されている場合は、賃金月額に含まれます。
判定が迷いやすいケース:変動的な賃金の取り扱い
「含まれる手当」と「含まれない手当」が明確に分かれているケースだけでなく、判定が難しいグレーゾーンも存在します。代表的なものを整理します。
①実際の残業代(時間外手当)
毎月の実働に応じて変動する残業代(時間外手当・深夜手当・休日手当)は、雇用保険法上の賃金には含まれます。ただし変動するため、6ヶ月間の実際の支払額がそのまま賃金月額の計算に組み込まれます。
残業が多かった月と少なかった月が混在していても、6ヶ月分を合算して÷180で日額を算出するため、自動的に平均化されます。
例)過去6ヶ月の残業代の合計が48,000円の場合
賃金月額の計算では、48,000円÷6ヶ月=月平均8,000円が
基本給・固定手当に加算されて含まれる
②成果給・インセンティブ手当
毎月の成果や売上に連動して変動する成果報酬・インセンティブ給は、賃金月額の計算に含まれます。変動幅が大きい場合でも、6ヶ月間の実際の支払額が計算の対象です。
育休前に成果が出ていた月が6ヶ月の範囲に入ると給付額が高くなりやすく、逆に不調の月が多ければ低くなることがあります。
③慶弔休暇中・病気欠勤中の手当
育休開始前6ヶ月の間に、慶弔休暇や傷病休暇で欠勤した月がある場合、その月の給与が通常より低くなっていることがあります。賃金支払基礎日数が11日以上あれば計算対象月に含まれ、その実際の支払額が反映されます。
実際の給与明細で賃金月額を計算する手順
実際に自分の育休給付金の概算を計算するには、給与明細を使って以下の手順で進めます。
ステップ1:計算対象月を特定する
育休開始日から過去にさかのぼり、賃金支払基礎日数が11日以上ある月を新しい月から順に6ヶ月分選び出します。
確認リスト(各月ごとに確認)
□ 給与明細に記載されている出勤日数・有給消化日数の合計が11日以上か
□ 育休開始月(端数月)を除いているか
□ 産休期間中の月を除いているか(賃金支払い実績がある月のみ対象)
ステップ2:各月の「含まれる賃金」を合計する
各月の給与明細を見ながら、計算に含まれる項目を足し合わせます。
【含める項目】
✓ 基本給
✓ 家族手当・住宅手当・役職手当
✓ 固定残業代(みなし残業代)
✓ 資格手当・技術手当
✓ 通勤手当(定額支給の場合)
✓ 実際の残業代(時間外手当・休日手当・深夜手当)
✓ 成果給・インセンティブ手当
✓ 皆勤手当・地域手当
【除く項目】
✗ 賞与・ボーナス
✗ 退職金
✗ 慶弔費・見舞金
✗ 出張旅費の実費精算
ステップ3:休業開始時賃金日額を算出する
6ヶ月間の賃金合計 ÷ 180 = 休業開始時賃金日額
ステップ4:給付額を計算する
【育休開始から180日まで】
休業開始時賃金日額 × 30日 × 67% = 月あたりの給付額(概算)
【181日目以降】
休業開始時賃金日額 × 30日 × 50% = 月あたりの給付額(概算)
具体的な計算例
【モデルケース】
基本給:240,000円
役職手当:20,000円
住宅手当:15,000円
通勤手当:10,000円
残業代(月平均):15,000円
月間賃金合計:300,000円
6ヶ月合計:1,800,000円
休業開始時賃金日額:1,800,000円 ÷ 180 = 10,000円
育休開始〜180日の月給付額(目安):
10,000円 × 30日 × 67% = 201,000円
181日目以降の月給付額(目安):
10,000円 × 30日 × 50% = 150,000円
※上限額に達する場合は上限額が適用されます。
手続きの流れと申請時の注意点
育休給付金の申請は、企業の人事・総務担当者がハローワークに対して行うのが一般的です(労働者本人が直接申請することも可能ですが、事業主を通じた申請が通常です)。
申請の流れ
【育休開始前】
↓ 育休取得の申出(育休開始予定日の1ヶ月前までに事業主へ)
【育休開始後10日以内】
↓ 事業主がハローワークに「育児休業給付受給資格確認票・
(初回)育児休業給付金支給申請書」を提出
【以降、2ヶ月ごとに申請(原則)】
↓ 「育児休業給付金支給申請書」をハローワークへ提出
↓ 支給決定後、約5営業日で振込
【育休終了時】
↓ 最終月の申請書提出・育休終了確認
主な必要書類
| 書類名 | 誰が作成するか | 提出タイミング |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書 | 事業主・本人 | 育休開始後10日以内(原則) |
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | 事業主 | 初回申請時 |
| 出生証明書または母子健康手帳(出産日確認分) | 本人 | 初回申請時 |
| 育児休業給付金支給申請書(2回目以降) | 事業主 | 2ヶ月ごと |
| 出勤簿・賃金台帳(写し) | 事業主 | 初回申請時・必要に応じて |
申請期限に注意: 育休給付金の申請には時効があり、支給単位期間の末日の翌日から起算して2年以内が申請期限です。申し忘れを防ぐため、事業主と連携して計画的に申請を進めましょう。
育休給付金の計算で起こりやすいミスと対策
ミス①:賞与を賃金月額に含めてしまう
年2回支給のボーナスを月割りして賃金月額に加算するのは誤りです。3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賞与は計算対象外です。
ミス②:産休中の月を6ヶ月に含めてしまう
産前産後休業中は賃金が支払われないことが多く、この期間は賃金支払基礎日数が11日に満たない場合があります。カウントに含めずに、産休前の賃金支払基礎日数11日以上の月を6ヶ月分さかのぼります。
ミス③:通勤手当を除外して計算してしまう
社会保険(健康保険・厚生年金)の標準報酬月額の計算でも通勤手当は含まれますが、雇用保険との制度の差異から「通勤手当は除く」と誤解している方がいます。育休給付金(雇用保険)の計算では通勤手当は含まれます。
ミス④:固定残業代を「残業代(変動)」と混同して除外する
「残業代だから変動する」と判断して固定残業代を除外するのは誤りです。毎月一定額が固定的に支払われる固定残業代は、賃金月額に含まれます。
よくある質問
Q1. 家族手当は育休前に子どもが生まれた場合だけ計算に含まれますか?
いいえ、家族手当の計算対象への含有は「育休取得する子の出産時期」ではなく、「育休開始前6ヶ月に実際に支払われていたかどうか」で判断します。育休開始前から家族手当が支給されていれば、その実際の支払額が賃金月額に含まれます。
Q2. 育休前に昇給があった場合、昇給後の給与で計算されますか?
はい。育休開始前6ヶ月の実際の支払額をもとに計算するため、昇給後の月があればその月の高い賃金が計算に反映されます。逆に昇給直前に育休を開始すると、昇給前の賃金で計算されることになります。
Q3. 育休中に副業・兼業の収入がある場合、給付額に影響しますか?
育休給付金の支給には「育休中の賃金(元の勤務先からの賃金)が給付額の80%以下」という要件があります。元の勤務先からの賃金に対してのみ80%要件が適用されるため、副業収入は直接的な減額事由にはなりません。ただし、育休中に元の会社からも一部賃金が支払われた場合は減額対象となります。
Q4. パートタイム労働者でも諸手当は給付金計算に含まれますか?
含まれます。雇用保険に加入しているパートタイム労働者も、正社員と同じルールで賃金月額を算出します。実際に支払われた基本給・交通費・各種手当の合計が計算の基礎になります。
Q5. 育休前6ヶ月に11日未満の月が多くて6ヶ月集まらない場合はどうなりますか?
この場合、ハローワークで個別に取り扱いを確認することになります。賃金支払基礎日数が11日以上の月が6ヶ月に満たない場合でも、一定の基準(賃金支払基礎時間数が80時間以上など)が適用される場合があります。事前にハローワークまたは社労士に相談することをおすすめします。
Q6. 育休給付金は非課税ですか?
はい、育休給付金(育児休業給付金)は雇用保険の給付であり、所得税・住民税の課税対象外です。また、育休中は社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除される制度もあります(申請が必要)。手取り額の計算では税金・社会保険料の負担が通常の給与より少ないことも踏まえると、実質的な生活費の補填率は給付率(67%・50%)より高くなります。
賃金月額の計算で迷いやすい判定の最終確認
育休給付金の計算において、各手当の含有判定を最終確認するためのフローチャートを提供します。
手当が「含まれる」かどうかを判定するフロー
給与明細に記載されている手当がある
↓
その手当は「毎月」支給されているか?
├─→ いいえ → 【含まれない】(臨時・不定期)
└─→ はい
↓
その支給額は「一定」か、または「労働の対償」か?
├─→ いいえ(純粋な実費補填) → 要確認(通勤手当など)
└─→ はい
↓
その手当は「3ヶ月を超える期間」ごとの支給か?
├─→ はい → 【含まれない】(賞与として扱う)
└─→ いいえ
↓
【含まれる】
このフローに沿って判定することで、ほとんどの手当について正確に含有判定ができます。なお、判定に迷う場合や複雑な給与体系の場合は、必ずハローワークの窓口で相談してください。
まとめ:諸手当の含有判定チェックリスト
育休給付金における諸手当の取り扱いを最後に整理します。
含まれる(賃金月額に算入する)
– ✅ 基本給
– ✅ 家族手当・住宅手当・役職手当・資格手当・地域手当
– ✅ 通勤手当(月額固定の交通費補助)
– ✅ 固定残業代(みなし残業代)
– ✅ 実際の残業代(時間外・休日・深夜手当)
– ✅ 成果給・インセンティブ(変動でも対象月の実額を使用)
– ✅ 皆勤手当・精勤手当
含まれない(賃金月額に算入しない)
– ❌ 賞与・ボーナス(3ヶ月超の期間ごとの支給)
– ❌ 退職金
– ❌ 出張旅費・業務実費精算
– ❌ 慶弔費・見舞金などの臨時的支払い
育休給付金の正確な計算には、毎月の給与明細を6ヶ月分用意した上で、上記の基準に照らして含有判定を行うことが大切です。判定に迷う手当がある場合や、産休との組み合わせで6ヶ月の範囲が複雑になる場合は、ハローワーク窓口や社会保険労務士への相談を早めに検討しましょう。
また、育休給付金は育児・介護休業法による休業制度と雇用保険法による給付制度が組み合わさった複雑な制度です。より詳しい情報や個別相談については、厚生労働省の公式サイトやお住まいの地域のハローワークでご確認いただくことをお勧めします。育休開始前の早期相談が、トラブル回避と正確な給付額把握につながります。
本記事の情報は執筆時点の法令・制度に基づいています。給付上限額・下限額は毎年8月に改定されるため、申請の際は必ずハローワークまたは厚生労働省の最新情報をご確認ください。また、個別の状況によって適用が異なる可能性があるため、重要な判定については必ず専門家にご相談ください。

