育休が終わったら、すぐにフルタイムで働かなければならない——そう思っている方は少なくありません。しかし、これは大きな誤解です。育児・介護休業法では、子どもが3歳になるまでの間、「短時間勤務制度(時短勤務)」を利用する権利が法律で保障されています。
さらに2025年現在、時短勤務中の収入減少を補う育児時短就業給付金も整備され、育休復帰後の選択肢は以前より格段に広がりました。
このガイドでは、育休復帰時の時短勤務申請から給付金の計算方法、そして通常勤務への切り替え・終了手続きまでを、法的根拠とともに順を追って解説します。
時短勤務で育休復帰するとはどういうことか?制度の基本を整理
法的根拠と「義務」としての時短勤務制度
育児短時間勤務制度の根拠となる法律は、育児・介護休業法(以下「育介法」)第23条第1項です。同条は、3歳に満たない子を養育する労働者が申し出た場合、事業主は1日の所定労働時間を原則6時間に短縮する措置を講じなければならないと定めています。
ポイントは、これが「努力義務」ではなく法的義務であることです。企業の規模や業種にかかわらず、要件を満たす申し出があれば会社は応じなければなりません。
| 法律・規則 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 育児・介護休業法 | 第23条第1項 | 3歳未満の子を養育する労働者への短時間勤務義務 |
| 育介法施行規則 | 第34条〜第36条 | 短時間勤務の具体的な基準(6時間措置等) |
| 雇用保険法 | 第61条の8 | 育児時短就業給付金の支給根拠 |
育休終了後、「育休が終わる=すぐフルタイム復帰」ではありません。むしろ子が3歳になるまでは、時短勤務という選択肢が法的に保障されています。育休終了日の翌日から時短勤務を開始することも可能です。
時短勤務は会社の義務。利用を拒否されたら?
会社が時短勤務の申し出を正当な理由なく拒否することは、育介法違反に該当します。拒否された場合は以下の窓口に相談してください。
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):育介法に関する行政指導・勧告を担当
- 総合労働相談コーナー(各都道府県労働局・労働基準監督署内):無料で相談可能
- 法テラス(日本司法支援センター):法的手続きが必要な場合の無料法律相談
相談の際は、申出日・会社の回答内容・担当者名などをメモしておくと手続きがスムーズです。
パート・契約社員でも使える?対象者の条件
時短勤務制度は正社員だけでなく、パートタイム・有期契約労働者も対象になり得ます。ただし、以下の要件を確認してください。
| 区分 | 条件 | 備考 |
|---|---|---|
| 正社員 | 子が3歳未満 | 原則すべて対象 |
| パート・契約社員 | 子が3歳未満かつ雇用継続見込みあり | 申出時に雇用契約が残っていること |
| 日雇い労働者 | 対象外 | 継続雇用の要件を満たさない |
| 子が3歳以上の場合 | 対象外 | 法定制度の対象期間外(会社独自制度は別) |
| 労使協定で除外された者 | 対象外 | 週2日以下勤務など一定条件の労働者は除外可 |
育休復帰時の時短勤務申請手続き ― 申出書の書き方から提出期限まで
申請の全体フロー
時短勤務を利用するには、会社への書面による申し出が必要です。口頭だけでは不十分なケースがありますので、必ず書面(短時間勤務申出書)を用意しましょう。
STEP 1:復帰予定日を会社と相談(育休終了の2〜3ヶ月前が目安)
↓
STEP 2:短時間勤務申出書を作成・提出(復帰1ヶ月前が目安)
↓
STEP 3:会社が勤務条件を確認・協議
↓
STEP 4:労働条件通知書の交付または雇用契約書の変更
↓
STEP 5:時短勤務スタート(育休終了翌日〜)
↓
STEP 6:育児時短就業給付金の申請(ハローワークへ)
申出書の提出期限について法律上の明確な期日はありませんが、復帰予定日の1ヶ月前を目安に提出するのが実務上の標準です。会社によっては就業規則でより早い期限(例:2ヶ月前)を定めている場合もあるため、就業規則を事前に確認しましょう。
申出書に書くべき5つの記載事項
短時間勤務申出書には、以下の5項目を漏れなく記載することが重要です。
- 申出日:書類を提出する日付
- 子の氏名・生年月日:制度の対象期間(3歳未満)を証明するため必須
- 短縮後の勤務開始時刻・終了時刻:例「9:00〜16:00(休憩1時間含む、実労働6時間)」
- 時短勤務の開始日・終了予定日:「子が満3歳に達する日の前日まで」など明記
- 申出者の署名・押印(または電子署名)
会社所定の書式がある場合はそれを使用し、ない場合は厚生労働省が公開しているひな形を活用できます。記載後はコピーを手元に保管しておきましょう。
復職前面談で確認しておくべきチェックリスト
復職前面談は、会社と労働者の双方が条件をすり合わせる重要な機会です。以下を必ず確認してください。
勤務条件について
– [ ] 短縮後の始業・終業時間(原則6時間)
– [ ] 所定労働時間の変更に伴う休憩時間の調整
– [ ] テレワーク・在宅勤務の可否
– [ ] 担当業務・配属先の変更有無
給与・待遇について
– [ ] 時短勤務中の給与額(時間比例か固定かを確認)
– [ ] 賞与・手当への影響
– [ ] 人事評価方法の変更有無
社会保険・給付金について
– [ ] 標準報酬月額の変更タイミング(月額変更届の提出時期)
– [ ] 育児時短就業給付金の申請手続きの担当部署確認
– [ ] 養育特例(社会保険料の計算特例)の申請有無
育児時短就業給付金とは?受給要件と金額の計算方法
制度の概要と2025年時点の位置づけ
育児時短就業給付金は、2025年4月から本格施行された比較的新しい給付制度です(雇用保険法第61条の8に基づく)。育休終了後、子が2歳になるまでの間に時短勤務で就業している被保険者に対して、収入減少分の一部を補填することを目的としています。
注意: 育児時短就業給付金は「子が2歳まで」が対象です。育介法上の時短勤務制度の対象(子が3歳まで)とは期間が異なります。2歳以降3歳までは時短勤務制度は引き続き利用できますが、この給付金は受給できません。
受給要件
以下の要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険の被保険者であること | 週所定労働時間20時間以上など通常の被保険者要件を満たすこと |
| 育児休業を取得していたこと | 育休終了後の復帰であること |
| 時短勤務中であること | 育介法第23条に基づく短時間勤務を利用していること |
| 子が2歳未満であること | 給付対象期間の終了日は子が2歳に達する日の前日 |
| 時短勤務後の賃金が育休前の80%未満であること | 収入減少が一定程度あること |
給付金額の計算方法
給付率は時短勤務中の賃金の10%(当初)です。ただし、時短勤務前後の賃金比較によって上限が設定されています。
計算式:
育児時短就業給付金(月額)
= 時短勤務中の1ヶ月の賃金額 × 給付率(10%)
※ ただし、「時短勤務中の賃金 + 給付金」の合計が、
育休前賃金(休業開始時賃金日額 × 30)の80%を超える場合は、
80%に達するまでの額が上限となる
計算例:
- 育休前の月収(基準賃金):30万円
- 時短勤務中の月収(実際の賃金):22万円
- 80%の基準額:30万円 × 80% = 24万円
| 計算項目 | 金額 |
|---|---|
| 時短賃金の10%(基本給付額) | 22万円 × 10% = 2.2万円 |
| 賃金+給付金の合計 | 22万円 + 2.2万円 = 24.2万円 |
| 80%基準額との比較 | 24.2万円 > 24万円(上限超過) |
| 実際の給付額 | 24万円 − 22万円 = 2万円(上限調整後) |
このケースでは、基本給付額2.2万円ではなく、上限調整後の2万円が実際の給付額となります。
ハローワークへの申請手続き
育児時短就業給付金の申請は、原則として勤務先の会社(事業主)がハローワークに対して行います。労働者が直接ハローワークに行く必要は通常ありません。
申請に必要な主な書類(会社が用意・提出):
- 育児時短就業給付金支給申請書
- 賃金台帳・出勤簿(時短勤務中の実績確認用)
- 育児休業終了確認書類
- 子の生年月日が確認できる書類(住民票等のコピー)
支給のタイミング:
申請は2ヶ月に1回まとめて行うのが一般的です(育児休業給付金と同様の申請サイクル)。支給決定後、数週間以内に振り込まれます。
社会保険への影響と養育特例の活用
時短勤務中の標準報酬月額と月額変更届
時短勤務によって給与が下がると、社会保険の標準報酬月額が変更になる場合があります。標準報酬月額が変わると、将来の厚生年金受給額や健康保険の傷病手当金額にも影響します。
標準報酬月額は通常、固定的賃金の変動後3ヶ月の平均賃金をもとに月額変更届(随時改定)によって改定されます。時短勤務開始後に固定的賃金(基本給・諸手当等)が下がった場合、3ヶ月経過後に会社から年金事務所へ届け出が行われます。
養育特例(育児期間中の標準報酬月額の特例)
「養育特例」とは、育児休業終了後に時短勤務等で標準報酬月額が下がっても、将来の年金額が不利にならないよう保護する制度です(厚生年金保険法第26条)。
- 対象: 3歳未満の子を養育しながら時短勤務等をしている厚生年金保険の被保険者
- 効果: 養育期間中の低い標準報酬月額の代わりに、養育前の高い標準報酬月額をもとに年金額を計算
- 申請方法: 「養育期間標準報酬月額特例申出書」を事業主経由で年金事務所に提出
- 申請タイミング: 原則として養育開始月から2年以内(遡及申請が可能)
✅ アドバイス: 養育特例は申請しないと適用されません。復職後できるだけ早く会社の担当者に申請を依頼しましょう。
通常勤務(フルタイム)への戻し方 ― 終了手続きの全ステップ
時短勤務を終了するタイミング3パターン
時短勤務の終了には、主に以下の3つのパターンがあります。
| パターン | 概要 | 手続きの特徴 |
|---|---|---|
| ① 法定期間満了(子が3歳) | 子の3歳の誕生日をもって自動終了 | 会社からの通知確認、勤務条件の変更届が必要 |
| ② 自己申告による早期終了 | 子が3歳になる前に労働者が任意に終了を申し出る | 「短時間勤務終了申出書」の提出が必要 |
| ③ 会社都合による変更(原則不可) | 会社側の事情による一方的な終了 | 原則として認められない(育介法違反になる可能性) |
通常勤務へ戻すための具体的な手続き
STEP 1:終了の意思を会社に書面で申し出る
早期終了の場合は「短時間勤務終了申出書(または変更申出書)」を会社の人事担当部署に提出します。提出は終了希望日の2週間〜1ヶ月前を目安とする会社が多いです(就業規則を確認)。
STEP 2:労働条件の変更確認
フルタイム復帰に伴い、以下の変更が生じます。
- 所定労働時間の変更(例:6時間→8時間)
- 基本給・諸手当の変更(時短減額分が戻る場合)
- 業務内容・担当業務の見直し
変更内容は書面(労働条件通知書または雇用契約書の変更覚書)で確認してください。
STEP 3:社会保険の手続き(標準報酬月額の再改定)
フルタイム復帰後に給与が増加した場合、標準報酬月額の随時改定(月額変更届)が再度必要になる場合があります。3ヶ月の平均賃金をもとに会社が手続きします。
STEP 4:育児時短就業給付金の終了処理
時短勤務が終了すると、育児時短就業給付金も自動的に終了します。最終の支給申請は会社がハローワークに行いますが、終了月・終了理由を会社に正確に伝えることが重要です。
終了手続きの注意点
- 終了申出は原則として一度行うと撤回できないため、本当にフルタイムへ戻れる状況かどうか慎重に判断しましょう。
- 子の体調不良・保育園の急な休園など突発的な事態に備え、テレワークや有給休暇の取得ルールを事前に会社と確認しておきましょう。
- 通常勤務復帰後に再度時短勤務に戻すことは法律上は可能ですが(子が3歳未満の間)、会社の就業規則によって回数制限が設けられている場合があります。
時短から通常勤務への切り替え時によくある給与・税務の疑問
給与計算はどう変わる?
フルタイム復帰後の給与は、原則として育休前の賃金水準に戻ります。ただし、育休中の昇給・賞与の扱い(不支給や減額計算)については、会社の就業規則によって異なります。
時短勤務中は「時間比例」で計算されることが多く、たとえばフルタイムの月給30万円であれば、6時間勤務(フルタイム8時間の場合)では 30万円 × 6/8 = 22.5万円 が基本給の目安となります。フルタイム復帰後はこの逆算で元の水準へ戻ります。
所得税・住民税への影響
時短勤務中は収入が減るため、所得税の源泉徴収額も減少します。フルタイム復帰後に給与が増加すると源泉徴収額も増加しますが、年末調整で精算されるため大きな問題は生じません。
住民税は前年の所得をもとに計算されるため、時短勤務で収入が低かった翌年は住民税が下がり、フルタイム復帰後の収入が翌年以降の住民税に反映されます。
よくある質問
Q1. 育休取得後、時短勤務を使わずにいきなりフルタイムで復帰することはできますか?
はい、可能です。時短勤務制度は労働者の権利ですが、利用は義務ではありません。フルタイムでの復帰を希望する場合は、通常の復職手続きを行えば問題ありません。ただし、いったんフルタイムで復帰した後に時短勤務を開始する場合は、改めて申出書の提出が必要です。
Q2. 時短勤務中に残業を命じられた場合、断ることはできますか?
原則として、育介法第16条の8に基づき、3歳未満の子を養育する労働者は時間外労働の免除を申し出る権利があります(所定外労働の制限)。「残業を断れない」と感じている場合は、この申し出を書面で行うことができます。
Q3. 夫婦両方が同じ子について時短勤務を利用できますか?
はい、父母それぞれが勤務先に申し出れば、双方が同時に時短勤務を利用することは可能です。ただし、育児時短就業給付金については、双方が受給要件を満たす場合にそれぞれの職場を通じて受給申請が必要です。
Q4. 育児時短就業給付金は確定申告が必要ですか?
育児時短就業給付金は雇用保険の給付金のため、非課税です(所得税法第9条)。確定申告は不要で、給付金収入は所得に含まれません。ただし、通常の給与所得については例年通り会社の年末調整で処理されます。
Q5. 時短勤務終了後に子の病気などで急に休む必要が生じた場合の制度はありますか?
はい、子の看護休暇制度(育介法第16条の2)があります。小学校就学前の子が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日の看護休暇を取得できます(2025年改正後は時間単位の取得も可能)。また、会社によっては独自の特別休暇や積立有給休暇制度を設けているケースもあります。
まとめ:時短勤務復帰・終了の重要ポイント
育休後の時短勤務と通常勤務への戻し方は、複数の法律・制度が関係する複雑な手続きです。以下のポイントを整理して、スムーズな職場復帰に役立ててください。
| フェーズ | やること | 期限・タイミング |
|---|---|---|
| 育休中 | 短時間勤務申出書の準備・会社との面談調整 | 復帰1〜2ヶ月前 |
| 復帰直後 | 養育特例の申請、育児時短就業給付金の確認 | 復帰後できるだけ早く |
| 時短勤務中 | 給付金支給状況の確認、社会保険の改定確認 | 随時 |
| フルタイム復帰前 | 終了申出書の提出、労働条件の書面確認 | 希望日の1ヶ月前目安 |
| フルタイム復帰後 | 社会保険の再改定確認、養育特例の終了申出 | 随時・3ヶ月後目安 |
育介法上の権利はしっかり主張しつつ、職場とのコミュニケーションを丁寧に行うことが、長く働き続けるための最大の近道です。不明な点は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や社会保険労務士(社労士)に相談することをお勧めします。
本記事は2025年4月時点の法令・制度情報に基づいています。制度は改正される場合があるため、最新情報は厚生労働省ホームページまたは所轄のハローワークでご確認ください。


