育休給付金(育児休業給付金)の受給額を決定する「賃金月額」の計算において、試用期間中の給与を含めるかどうかは、給付金額に直結する重要な問題です。試用期間は本採用より給与が低く設定されることも多く、計算方法を誤ると受け取れるはずの給付金が少なくなってしまうリスクもあります。
本記事では、育休給付金の賃金月額計算のしくみを基礎から解説したうえで、試用期間給与の扱い・基準日の考え方・実際の申請手続きを社労士監修のもと具体例付きで詳しく説明します。
育休給付金の「賃金月額」とは?計算の仕組みをわかりやすく解説
育休給付金の受給額は、「賃金月額」をベースに計算される給付基礎額によって決まります。賃金月額とは、育休開始前の一定期間に受け取った賃金の平均額を指します。給付金の計算式を正確に理解することが、受取額を正しく把握するための第一歩です。
賃金月額・休業開始時賃金日額・給付率の関係
育休給付金の金額は、次の3つの要素の掛け合わせで決まります。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 賃金月額 | 育休開始前6ヶ月間の賃金合計を180で割った「1日あたり賃金(日額)」をもとに算出 |
| 休業開始時賃金日額 | 賃金月額の計算過程で使われる1日あたりの賃金額 |
| 支給額 | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 給付率 |
計算式で表すと以下のとおりです。
休業開始時賃金日額 = 育休開始前6ヶ月の賃金合計 ÷ 180(日)
1支給単位期間の支給額 = 休業開始時賃金日額 × 30日 × 給付率
給付率は育休取得期間によって異なります。
- 育休開始から最初の180日(約6ヶ月):給付率67%
- 181日以降:給付率50%
たとえば賃金月額が30万円の場合、最初の6ヶ月間は「30万円 × 67% = 約20万1,000円」が毎月の支給目安となります(実際には日額ベースで計算するため端数が生じます)。
なお、2025年4月以降の育休取得分については、育休開始後14日間は就業日数に関わらず給付率が引き上げられる特例が段階的に整備されています。申請前に最新の制度を確認することをおすすめします。
賃金月額の上限・下限(2024年度最新額)
賃金月額には毎年8月に改定される上限額と下限額が設けられています。2024年度(令和6年度)の基準は以下のとおりです。
| 区分 | 金額(月額換算) |
|---|---|
| 賃金月額の上限 | 約450,600円(休業開始時賃金日額の上限:15,020円) |
| 賃金月額の下限 | 約75,000円(休業開始時賃金日額の下限:2,500円) |
ポイント: 実際の賃金月額が上限を超えていても、上限額を基準に給付金が計算されます。高収入の方ほど「実際の収入より低い給付額」になるため注意が必要です。
試用期間中の給与は賃金月額の計算に含まれるか?
ここが本記事の核心です。結論から言えば、試用期間中の給与は原則として賃金月額の計算対象に含まれます。ただし、試用期間と本採用で給与額が異なる場合など、計算に影響が出るケースもあるため、詳しく確認しましょう。
原則|試用期間の給与も計算対象となる理由
育休給付金は雇用保険法に基づく制度です。試用期間中であっても、雇用保険に加入していれば「被保険者」として扱われます。
雇用保険法施行規則第66条の規定では、賃金月額の算定対象となる期間を「育休開始日の前日を起算点として過去6ヶ月間の賃金支払基礎日数が11日以上ある月」と定めています。この規定に「試用期間を除く」という限定はありません。
つまり、試用期間中に11日以上勤務した月があれば、その月の賃金は賃金月額の算定対象となります。
法的根拠のまとめ
- 雇用保険法 第61条の4:育児休業給付の支給要件
- 雇用保険法施行規則 第66条:賃金月額の算定方法
- 厚生労働省「雇用保険業務取扱要領」:算定対象月の判断基準
注意点|試用期間と本採用で給与額が異なる場合
試用期間中に減額規定(本採用給与の80〜90%に設定するケースなど)がある場合、算定される賃金月額が低くなる可能性があります。
たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
【事例:Aさんのケース】
| 期間 | 月給 |
|---|---|
| 試用期間(3ヶ月) | 22万円 |
| 本採用後(3ヶ月) | 28万円 |
この場合、育休開始前6ヶ月(試用3ヶ月+本採用3ヶ月)の賃金合計は次のとおりです。
(22万円 × 3ヶ月)+(28万円 × 3ヶ月)= 66万円 + 84万円 = 150万円
賃金月額 = 150万円 ÷ 6ヶ月 = 25万円
もしすべて本採用給与(28万円)だった場合の賃金月額は28万円ですから、試用期間の低い給与が含まれることで賃金月額が3万円下がることになります。
この差が給付金に与える影響は以下のとおりです。
試用期間含む場合:25万円 × 67% = 約167,500円/月
試用期間なしの場合:28万円 × 67% = 約187,600円/月
月額で約2万円の差が生じます。育休期間が長い場合はこの差が累積するため、試用期間給与が低かった方は事前に概算計算をしておくことをおすすめします。
賃金月額計算の「基準日」をどう判断するか
賃金月額の計算において、「どの時点から6ヶ月さかのぼるか」という基準日の考え方は非常に重要です。誤った理解をすると、計算対象期間が変わり、算定結果に影響します。
基準日は「育休開始日の前日」
賃金月額の算定に使用する基準日は、育休(育児休業)を開始した日の前日です。この前日から起算して過去にさかのぼり、賃金支払基礎日数が11日以上ある月を最大6ヶ月分カウントします。
たとえば2024年4月1日に育休を開始した場合、基準日は3月31日となり、そこから過去にさかのぼって算定対象月を確定させます。
賃金支払基礎日数「11日以上」の月のみカウント
全ての月が算定対象になるわけではありません。その月に賃金支払いの基礎となった日数(出勤日数)が11日以上ある月のみが対象です。
産前休業中や有給休暇のみで出勤日数が少なかった月は除外されることがあります。逆に言えば、試用期間中であっても11日以上出勤していれば算定対象になります。
試用期間開始月の取り扱い
入社月(試用期間開始月)は、月の途中から働き始める場合が多く、賃金支払基礎日数が11日に満たないケースがあります。その場合、その月は算定対象から除外され、代わりに7ヶ月以上前の月が繰り上がってカウントされます。
【実例:入社月が算定対象外になるケース】
入社日:2023年10月20日(月中入社)の場合、育休開始が2024年5月1日だったとすると:
| 月 | 出勤日数 | 算定対象 |
|---|---|---|
| 2023年10月 | 8日 | ✗(11日未満) |
| 2023年11月 | 20日 | ✓ |
| 2023年12月 | 21日 | ✓ |
| 2024年1月 | 20日 | ✓ |
| 2024年2月 | 20日 | ✓ |
| 2024年3月 | 21日 | ✓ |
| 2024年4月(育休直前月) | 20日 | ✓ |
この場合、10月を除いた11月〜翌4月の6ヶ月分で賃金月額が計算されます。
申請手続きと必要書類|試用期間給与を正しく申告する
賃金月額の計算が確認できたら、実際の申請手続きに進みます。育休給付金の申請はハローワーク(公共職業安定所)を通じて行われます。
育休給付金申請の全体フロー
STEP 1|育休開始前(できるだけ早めに)
ハローワークに受給資格の事前確認・相談
STEP 2|育休開始から約1〜2ヶ月以内
初回支給申請書・受給資格確認票を提出
STEP 3|2ヶ月ごと
育児休業給付支給申請書を定期提出
STEP 4|審査・振込
通常5営業日以内に指定口座へ振込
実務上は、事業主(勤め先)経由でハローワークに申請するケースがほとんどです。書類の準備は企業の人事担当者と連携して進めてください。
初回申請に必要な書類一覧
| 書類 | 発行者・入手先 | 試用期間に関する注意点 |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・初回支給申請書 | ハローワーク(様式公開) | 賃金月額の記載欄を正確に記入 |
| 給与明細書(直近6ヶ月分) | 勤め先(企業) | 試用期間が含まれる場合はその月分も漏れなく提出 |
| 賃金台帳(直近6ヶ月分) | 勤め先(企業) | 試用期間と本採用の給与区分が明確になっていること |
| 出勤簿・タイムカード(直近6ヶ月分) | 勤め先(企業) | 日数が11日以上あることを証明するために必要 |
| 雇用保険被保険者証 | 勤め先または本人保管 | 被保険者番号の確認に使用 |
| 母子手帳(出生証明ページ)または出生届受理証明書 | 市区町村 | 対象児の確認 |
| 本人確認書類(マイナンバーカードなど) | 本人 | マイナンバーの提出が必要 |
| 振込先口座確認書類(通帳コピーなど) | 本人 | 本人名義の口座 |
試用期間給与の提出ポイント: 試用期間中の給与明細も算定対象月であれば必ず提出が必要です。「本採用前だから不要」と判断して省略すると、算定月数が不足し受給資格を満たせない場合があります。
給与明細書が紛失している場合の対応
試用期間中の給与明細を紛失しているケースは少なくありません。その場合は以下の方法で対応できます。
- 勤め先の人事・総務部門に再発行を依頼する(賃金台帳の写しでも代替可)
- ハローワークに相談し、代替書類として認められる書類を確認する
明細書そのものがなくても、賃金台帳(法定帳簿)があれば代替書類として申請可能なケースがほとんどです。早めに人事担当者に確認しましょう。
定期申請(2ヶ月ごと)の手続き
初回申請後は、育休継続中に2ヶ月ごとの定期申請が必要です。
定期申請に必要な書類
- 育児休業給付支給申請書(ハローワーク様式)
- 給与明細書(育休中に就業した場合)
- 就業実績がわかる書類(育休中に一部就業した場合)
育休中に10日を超えて就業した場合や、賃金の80%以上が支払われた場合は給付が一時停止または減額されます。就業日数の管理は慎重に行いましょう。
育休給付金の受給資格|試用期間を含めた被保険者期間の確認
育休給付金を受け取るためには、給付金額の計算以前に受給資格を満たしているかの確認が必要です。
受給資格の基本要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険加入 | 育休開始前2年間に雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上あること |
| 就業日数 | 被保険者期間として算定される各月に賃金支払基礎日数が11日以上あること |
| 育休の取得 | 育児・介護休業法に基づく育児休業を取得していること |
| 就業制限 | 育休期間中の就業日数が10日以下(または80時間以下)であること |
試用期間は被保険者期間に含まれるか
結論として、試用期間中であっても雇用保険に加入していれば被保険者期間にカウントされます。正社員・契約社員を問わず、週20時間以上・31日以上の雇用見込みがある労働者は雇用保険への加入が義務付けられています(雇用保険法 第6条)。
したがって、試用期間3ヶ月+本採用9ヶ月のように、試用期間を含めて12ヶ月以上の被保険者期間があれば受給資格を満たします。
前職の被保険者期間と通算できるケース
転職後すぐに育休に入る場合など、現在の職場の被保険者期間だけでは12ヶ月に満たないケースがあります。この場合、以下の条件を満たせば前職の被保険者期間と通算できます。
- 前職を離職してから現在の勤め先に就職するまでの空白期間が1年以内
- 前職での離職理由について給付制限(受給終了・未受給など)に該当しないこと
前職がある方は、ハローワークへの相談時に必ず通算可能かどうか確認してください。
よくある疑問|試用期間給与と育休給付金のQ&A
これまでの解説を踏まえ、実際によく寄せられる疑問をまとめました。
Q1. 試用期間の給与が低かったため、賃金月額が少なく計算されてしまいます。異議申し立ては可能ですか?
残念ながら、試用期間中の給与が実際に支払われた賃金である以上、その金額をもとに計算することが法令上の原則です。賃金月額の計算方法は雇用保険法施行規則に基づくため、金額が低いことを理由とした修正は原則として認められません。ただし、計算に誤りがある場合(算定対象月のカウントミスなど)は修正を求めることができます。
Q2. 試用期間中に育休に入ることはできますか?
育児・介護休業法上、試用期間中の取得を禁止する規定はありません。ただし、育休給付金の受給には「育休開始前2年間に被保険者期間12ヶ月以上」という条件があります。入社直後(試用期間中)に育休に入る場合は受給資格を満たせないケースが多いため、前職の被保険者期間との通算も含めてハローワークに事前確認することをおすすめします。
Q3. 試用期間中に月給が変動した場合、どの金額を使いますか?
試用期間中に月給が異なる月があっても、それぞれの月の実際の支給額をそのまま使用します。算定対象となる6ヶ月分の賃金をすべて合算して180で割るため、変動がある場合はその実態がそのまま反映されます。
Q4. 育休取得前に試用期間が満了して本採用になりましたが、計算上の扱いは変わりますか?
試用期間から本採用への移行は、雇用保険上は同一の被保険者期間として継続します。賃金月額の計算においても、試用期間・本採用を分けて扱う規定はなく、育休開始前6ヶ月間の実際の賃金をそのまま算定に使用します。ただし、前述のとおり試用期間の低い給与が含まれると賃金月額が下がる点は注意が必要です。
Q5. ハローワークへの申請は本人が行わなければなりませんか?
育休給付金の申請は、原則として事業主(会社)が代理申請します。必要書類を会社の人事・労務担当者に提出し、会社がハローワークに申請する流れが一般的です。個人でハローワークに直接申請することも制度上は可能ですが、賃金台帳などは会社にしかない書類のため、実務上は会社との連携が不可欠です。
Q6. 育休給付金はいつ振り込まれますか?
初回申請の審査には通常2〜4週間程度かかります。支給決定後は、指定の銀行口座に振り込まれます。定期申請(2ヶ月ごと)では、書類が受理されてから5営業日前後で振り込まれることが多いです。ただし申請時期や繁忙期によって前後するため、ハローワークの窓口で確認してください。
Q7. 試用期間中の低い給与をカウントしない方法はありませんか?
雇用保険法上、試用期間も被保険者期間に含まれるため、原則としてその期間の給与を除外することはできません。ただし、試用期間の給与支払基礎日数が11日未満だった月については算定対象から自動的に除外されます。詳細は申請時にハローワーク担当者に相談してください。
まとめ|試用期間給与と育休給付金の重要ポイント
本記事の要点を整理します。
試用期間給与と賃金月額計算のポイント
- 試用期間中の給与は原則として賃金月額の計算対象に含まれる(雇用保険法上、試用期間も被保険者期間にカウント)
- 基準日は「育休開始日の前日」。この日から過去6ヶ月分の11日以上出勤した月の賃金を合算して計算する
- 試用期間に給与が低かった場合、賃金月額が下がり給付額も減少する可能性がある(事前の試算が重要)
- 入社月が月途中の場合は11日未満となり算定対象外になることがある(代わりに7ヶ月前の月が繰り上がる)
- 申請には試用期間を含む給与明細・賃金台帳の提出が必要。紛失している場合は早めに会社に再発行を依頼する
- 前職の被保険者期間がある場合は通算可能なケースもあるため、ハローワークへの事前相談が重要
育休給付金の申請で迷ったときは、まず勤め先の人事担当者またはハローワークに相談することが最善の方法です。 試用期間の扱いや被保険者期間の通算など、個別の状況によって判断が異なるケースもあるため、書類提出前に必ず確認しましょう。
免責事項: 本記事は2024年度時点の制度・法令に基づく一般的な解説です。法改正や個別の状況によって取り扱いが異なる場合があります。具体的な手続きについては、最寄りのハローワークまたは社会保険労務士にご相談ください。

