育休給付金の給付率が「50%から80%に引き上げられた」と聞いても、「いつから?」「自分は対象なの?」「特別な手続きが必要?」と疑問を持つ方は多いはずです。
2023年4月の制度改正により、育休取得開始から最初の6ヶ月間は給付率が最大80%に引き上げられました。ただし、適用条件・申請のタイミング・パパ育休との組み合わせなど、見落としやすいポイントが数多く存在します。
本記事では、厚生労働省の公式ガイドラインに基づき、制度の基本から申請の実務手順まで、人事担当者と育休取得予定者の双方が使える完全ガイドとして詳しく解説します。
育休給付金の給付率引き上げとは?50%→80%の基本をおさらい
2022年・2023年改正で何が変わったのか
育休給付金の給付率は、2022年・2023年の2段階にわたる雇用保険法改正によって段階的に引き上げられました。以下の表で改正の経緯を時系列で整理します。
| 時期 | 給付率(休業開始〜6ヶ月) | 給付率(6ヶ月経過後) | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| 2022年9月30日以前 | 50% | 50% | 全員一律 |
| 2022年10月1日〜2023年3月31日 | 67% | 50% | 産後パパ育休も新設 |
| 2023年4月1日以降 | 80% | 50% | 新規取得者(条件あり) |
法的根拠は雇用保険法第61条の4および雇用保険法施行規則第105条〜第109条です。2022年10月改正では「産後パパ育休(出生時育児休業)」が新設されたことも大きな変更点でした。
ポイント: 2023年4月1日以降に育休を開始した方が80%の対象です。それ以前に育休を開始していた方は、旧制度の給付率が適用されます。
給付率80%が適用される「最初の6ヶ月」の数え方
「最初の6ヶ月」は、子の出生日を起点として計算します。ただし、産後休業期間(産後8週間)は育休給付金の支給対象外であることに注意が必要です。
計算例(母親の場合)
| イベント | 日付の例 |
|---|---|
| 子の出生日 | 2024年5月1日 |
| 産後休業終了日 | 2024年6月26日(産後8週) |
| 育休開始日 | 2024年6月27日 |
| 出生から6ヶ月の区切り | 2024年10月31日 |
| 6ヶ月以内の育休給付金 | 80%給付率が適用 |
| 2024年11月1日以降 | 50%給付率に移行 |
母親の場合、産後休業(産後8週)は出産手当金の支給対象期間となり、育休給付金とは重複しません。しかし、「出生日からの6ヶ月」という80%適用期間の計算には、産後休業期間も含めて数えます。そのため、実際に80%の給付を受けられる育休期間は産後8週経過後から出生6ヶ月までの約4ヶ月程度となります。
父親(パパ育休)の場合
父親が産後パパ育休(出生時育児休業)を子の出生直後に取得した場合も、「出生日からの6ヶ月以内」に育休を取得していれば80%が適用されます。子の出生から6ヶ月以内であれば、分割取得した育休でも80%の対象となります。
給付率50%に戻るタイミングと後半期間の注意点
子の出生日から6ヶ月を経過すると、自動的に給付率50%へ移行します。特別な申請や手続きは不要ですが、受給者が見落としがちな注意点があります。
収入シミュレーション(月収30万円の場合)
| 期間 | 給付率 | 月額受給額(概算) |
|---|---|---|
| 育休開始〜出生後6ヶ月 | 80% | 約24万円 |
| 出生後6ヶ月〜育休終了 | 50% | 約15万円 |
※支給上限額あり(2024年度:8,574円/日×支給日数)
注意点: 支給される賃金が月額の80%を超えると給付金が減額・不支給となります。育休中に一部就労する場合は、賃金額と給付金の合算が月額の80%を超えないよう注意してください。
給付率80%の対象者・適用条件を確認する
雇用保険の加入要件と受給資格の確認方法
育休給付金を受け取るには、まず雇用保険の受給資格を満たしている必要があります。以下のフローで確認してください。
雇用保険に加入している?
↓ YES
育休前2年間に、賃金支払い基礎日数が
11日以上の月が12ヶ月以上ある?
↓ YES
1歳未満の子(延長の場合は1歳6ヶ月または2歳)の
育児のための休業を取得している?
↓ YES
支給対象期間中の賃金が月額賃金の80%未満?
↓ YES
✅ 受給対象者
「賃金支払い基礎日数11日以上」の判定について
月給制の場合は原則として月の暦日数がカウントされますが、欠勤控除がある月は注意が必要です。時給・日給制の場合は、実際に賃金が支払われた日数を数えます。育休取得の直前に産前休業・有給休暇を取得していた場合も、基本的には賃金支払い基礎日数に含まれます。
80%給付率が適用される具体的なケース
以下の条件をすべて満たす場合に給付率80%が適用されます。
- ✅ 2023年4月1日以降に育休を開始していること
- ✅ 育休開始時点で雇用保険の受給資格を満たしていること
- ✅ 子の出生日から起算して6ヶ月以内の育休期間であること
- ✅ 支給対象期間中に支払われた賃金が月額賃金の80%未満であること
注意すべきケース:育休開始日が2023年3月31日以前の場合
2023年3月31日以前に育休を開始した方は、たとえ2023年4月以降も育休を継続していても、旧制度(67%または50%)が適用されます。改正後の80%は新規取得者への適用であり、既に育休中の方には遡及適用されません。
パパ育休(産後パパ育休)と給付率の関係
2022年10月に新設された「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、子の出生後8週間以内に最大4週間(28日)取得できる制度です。この期間も育休給付金の対象となり、80%の給付率が適用されます。
パパ・ママ育休プラスとの比較
| 制度 | 取得期間 | 給付率(出生6ヶ月以内) |
|---|---|---|
| 産後パパ育休 | 出生後8週以内・最大4週 | 80% |
| 通常の育児休業(父親) | 子が1歳になるまで | 80%(出生後6ヶ月以内) |
| パパ・ママ育休プラス | 子が1歳2ヶ月まで延長可 | 80%(出生後6ヶ月以内)、50%(それ以降) |
父親が産後パパ育休と通常育児休業の両方を取得する場合、それぞれ分けて申請しますが、合算して「出生後6ヶ月以内の育休」として80%が適用されます。
育休給付金の申請手続きを完全解説
申請の全体フローと各ステップの詳細
【STEP 1】育休取得の事前申告(育休開始の1ヶ月前まで)
↓
【STEP 2】雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書の提出(事業主経由)
↓
【STEP 3】初回の育児休業給付金支給申請書の提出(育休開始後2ヶ月の翌々月末まで)
↓
【STEP 4】ハローワークによる審査・給付決定(申請から1〜2週間)
↓
【STEP 5】給付金の振込(指定口座へ)
↓
【STEP 6】以後2ヶ月ごとに支給申請を繰り返す
初回申請に必要な書類一覧
初回申請(STEP 2・3)では、事業主を経由してハローワークへ以下の書類を提出します。
事業主が準備・提出する書類
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 | 育休開始前6ヶ月の賃金を記載 |
| 育児休業給付金支給申請書(初回) | 取得者本人の情報・口座情報を記載 |
| 育児休業申出書のコピー | 会社内で交付した書類 |
取得者本人が準備する書類(事業主へ提出)
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 母子健康手帳(出生ページのコピー) | 子の生年月日の確認 |
| 本人名義の通帳コピー | 振込先口座の確認 |
| 雇用保険被保険者証 | 雇用保険番号の確認 |
| マイナンバーカードまたは通知カードのコピー | 本人確認書類 |
実務のポイント: 多くの会社では、社会保険労務士や人事担当者が代行して申請します。取得者本人がハローワークへ直接出向く必要は原則ありません。ただし、フリーランスや個人事業主は雇用保険に加入していないため対象外です。
2ヶ月ごとの継続申請(2回目以降)の手順
育休給付金は、原則として2ヶ月を1支給単位期間として申請します。
2回目以降の申請書類(簡略化)
| 書類名 | 備考 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | ハローワークから送付される様式を使用 |
| 出勤簿または賃金台帳のコピー | 就労日数・賃金の確認用 |
2回目以降は、初回申請で提出済みの書類の多くが不要となります。ハローワークから事業主あてに次回申請の案内(「育児休業給付金次回支給申請書在中」封筒)が届くため、それを使って申請します。
申請期限の注意
支給申請書の提出期限は、支給対象期間の末日の翌日から起算して2ヶ月を経過する日の属する月の末日です。期限を過ぎると不支給になる場合があるため、事業主・担当者は期限管理を徹底してください。
給付金額の計算方法と上限額
基本計算式
育休給付金(月額)= 賃金月額 × 給付率
賃金月額(休業開始時賃金日額)の算出方法
休業開始前6ヶ月の賃金総額 ÷ 180 = 休業開始時賃金日額
育休給付金(月額)= 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 給付率
2024年度の支給上限額・下限額
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 支給上限額(給付率80%の場合) | 305,319円(30日換算) |
| 支給上限額(給付率50%の場合) | 303,459円(30日換算) |
| 支給下限額 | 67,130円(30日換算) |
※上限・下限額は毎年8月1日に改定されます。最新額はハローワークまたは厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
シミュレーション例
| 月収 | 給付率80%(出生後6ヶ月以内) | 給付率50%(6ヶ月経過後) |
|---|---|---|
| 20万円 | 約16万円 | 約10万円 |
| 30万円 | 約24万円 | 約15万円 |
| 40万円 | 約32万円(上限あり) | 約20万円(上限あり) |
給付率80%を最大限に活用するための実践ポイント
両親同時取得で給付率80%をダブルで受け取る方法
2022年10月以降、夫婦が同時に育休を取得することが認められています(従来は「育休中は一方のみ」という慣行がありましたが、法改正で明示的に可能に)。夫婦が同時に育休を取得した場合、それぞれ独立して「出生後6ヶ月以内の80%」の給付を受けられます。
例:夫婦同時取得のシナリオ
| 取得者 | 取得期間 | 適用給付率 |
|---|---|---|
| 母親 | 産後休業終了後〜子が1歳まで | 出生後6ヶ月以内:80% / 以降:50% |
| 父親 | 産後パパ育休(出生後4週)+通常育休 | 出生後6ヶ月以内:80% / 以降:50% |
世帯全体で見ると、同時に給付金を受け取ることができるため、育休中の家計を大幅に安定させることが可能です。
育休延長申請と給付率の関係
子が1歳を迎えた時点で保育所に入所できないなどの事情がある場合、育休を1歳6ヶ月・2歳まで延長することができます。ただし、延長期間中の給付率は一律50%です。80%の給付率は「出生後6ヶ月以内」の期間のみに適用される点を押さえておきましょう。
延長申請に必要な主な書類
- 育児休業期間変更申出書(会社提出用)
- 保育所等の入所不承諾通知書または入所申込状況証明書
- 育児休業給付金支給申請書(延長分)
社会保険料免除との組み合わせで手取りはどう変わるか
育休中は社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されます。この免除と給付金を合わせると、実質的な手取りは在職中と大きく変わらない場合があります。
手取り比較(月収30万円の場合の概算)
| 状態 | 月収・給付金 | 社会保険料 | 手取り概算 |
|---|---|---|---|
| 在職中(育休前) | 30万円 | 約4.5万円 | 約25.5万円 |
| 育休中(出生後6ヶ月・給付率80%) | 約24万円 | 0円(免除) | 約24万円 |
| 育休中(6ヶ月経過後・給付率50%) | 約15万円 | 0円(免除) | 約15万円 |
※住民税は育休中も課税されます(前年度課税のため)。所得税は育休給付金が非課税のため原則0円です。
企業の人事担当者が押さえておくべき実務チェックリスト
企業側には、従業員が育休給付金を確実に受け取れるようサポートする義務があります。以下のチェックリストを活用してください。
育休開始前(1ヶ月前まで)
- [ ] 育児休業申出書を受理・保管する
- [ ] 雇用保険被保険者資格の確認(被保険者証番号の照合)
- [ ] 育休開始日・終了予定日の確認
- [ ] 本人へ必要書類(母子手帳コピー・通帳コピー等)の案内
育休開始直後(開始から2ヶ月以内)
- [ ] 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書を作成・提出
- [ ] 育児休業給付金支給申請書(初回)を作成・提出
- [ ] ハローワークへの提出期限を管理
育休中(2ヶ月ごと)
- [ ] 支給申請書を期限内にハローワークへ提出
- [ ] 出勤簿・賃金台帳の添付を忘れずに
- [ ] 給付決定通知書の内容確認・本人への共有
給付率切替タイミング(出生後6ヶ月前後)
- [ ] 給付率が80%→50%へ移行することを本人へ事前に案内
- [ ] 育休中就労がある場合、賃金額と給付金の合算が80%を超えないか確認
よくある疑問と注意点
Q1. 2023年3月以前に育休を開始した場合、後から80%に変更できますか?
いいえ、できません。給付率80%は2023年4月1日以降に育休を開始した方への適用です。育休開始日が2023年3月31日以前であれば、旧制度(最大67%)が適用され、遡及変更はできません。
Q2. 産後パパ育休(4週間)を取得した後、さらに通常の育児休業を取得した場合、両方に80%が適用されますか?
はい、子の出生日から6ヶ月以内であれば、産後パパ育休・通常育休のどちらも80%の対象です。ただし、それぞれ別途申請が必要で、申請書の様式も異なります。
Q3. 給付率80%の適用に際して、特別な申請は必要ですか?
原則として特別な申請は不要です。2023年4月1日以降に育休を開始し、出生後6ヶ月以内の育休期間であれば、通常の育休給付金支給申請書を提出するだけで自動的に80%が適用されます。
Q4. 育休中に短時間勤務(就労)した場合、給付率はどうなりますか?
就労による賃金が月額の80%以上になると給付金は不支給、80%未満であれば賃金額に応じて給付金が減額されます。給付率そのものが変わるわけではありませんが、実際の受給額が変わる点に注意してください。
Q5. 申請を忘れた場合、後から遡って申請できますか?
支給申請には提出期限があり、原則として支給対象期間の末日の翌日から起算して2ヶ月を経過する日の属する月末日が締め切りです。この期限を過ぎると不支給となる可能性があります。期限管理は事業主・人事担当者が責任を持って行うことが重要です。
Q6. 自分の受給額や受給期間は、どこで確認できますか?
ハローワークから交付される給付決定通知書で確認できます。また、マイナポータルから育休給付金の支給状況を確認できる場合もあります。不明な点は、管轄のハローワーク(公共職業安定所)へ直接お問い合わせください。
まとめ
育休給付金の給付率引き上げ(50%→80%)について、制度の概要から申請手続きの詳細まで解説しました。重要なポイントを最後に整理します。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 適用対象 | 2023年4月1日以降に育休を開始した方 |
| 80%が適用される期間 | 子の出生日から6ヶ月以内の育休期間 |
| 6ヶ月経過後 | 自動的に50%へ移行(申請不要) |
| 特別な申請 | 原則不要(通常の申請書でOK) |
| パパ育休との組み合わせ | 産後パパ育休・通常育休ともに対象 |
| 最大活用法 | 夫婦同時取得でそれぞれ80%を受給 |
育休給付金の申請は事業主(会社・人事担当者)を経由するケースがほとんどです。取得者は早めに会社へ申告し、必要書類を準備することが、給付金を確実・スムーズに受け取る最大のポイントです。
制度の詳細や個別のケースについては、最寄りのハローワーク、または社会保険労務士へ相談することをおすすめします。ハローワークの職員は育休給付制度の専門家であり、個別事情に合わせた丁寧なアドバイスが受けられます。特に、育休取得のタイミングや給付率の切り替え時期については、事前に確認しておくことで後々のトラブルを防ぐことができます。
参考法令・情報源
– 雇用保険法第61条の4(育児休業給付)
– 雇用保険法施行規則第105条〜第109条
– 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
– ハローワークインターネットサービス(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/)
