育休を取得したのに配偶者が出勤していてワンオペ状態になっている。そんなとき「給付金を返納しなければならないのでは?」と不安になる方は少なくありません。
結論を先にお伝えすると、配偶者が出勤していても給付金は原則として受け取れます。
本記事では、育児休業給付金の支給要件・支給停止・返納条件を法的根拠とともに徹底解説します。企業の人事担当者向けの手続き手順も収録していますので、ぜひ最後までお読みください。
育休中に配偶者が出勤していても給付金はもらえる?結論を先に解説
配偶者の就業状況は給付要件に直接影響しない理由
育児休業給付金(以下「育休給付」)の支給要件は、申請者本人の育休取得状況と就業実績によって判定されます。配偶者が正社員として毎日出勤していても、その事実は給付金の受給資格に直接影響しません。
法的根拠は次の2つです。
| 法律・条文 | 内容 |
|---|---|
| 育児・介護休業法 第6条 | 育児休業の取得要件として「配偶者の就業状況」は列挙されていない |
| 雇用保険法 第61条の7(育児休業給付金) | 支給要件は①被保険者が育児休業を取得していること②支給単位期間の就業日数・時間が一定基準以下であること、に限定される |
つまり法律の条文上、「配偶者が働いているかどうか」は育休給付の可否判定に含まれていないのです。
【給付判定の構造】
配偶者の出勤状況
↓(直接影響しない)
【判定対象】申請者本人
├─ 育児休業を取得しているか? → YES/NO
├─ 支給単位期間中の就業日数は10日以下か? → YES/NO
└─ 就業時間は月80時間以下か? → YES/NO
↓ すべてYES
給付金 支給対象
2022年10月の育児・介護休業法改正で「配偶者同時取得」が明確に認められましたが、これはあくまで「二人で同時に育休を取れる」という規定であり、「片方だけ取る場合に配偶者の就業が問題になる」という規定ではありません。
よくある誤解①「ワンオペでも育休ではない」は法的に誤り
「配偶者が出勤しているということは、自分が一人で育児している。でも本当に育休として認められるのか?」
この疑問はよく耳にしますが、法律上は一人で育児していても育休として完全に有効です。
育児・介護休業法第2条第1号は育児休業を「労働者がその子を養育するためにする休業」と定義しています。この「養育」には、一人親・ワンオペ状態・配偶者が日中不在といった状況のすべてが含まれます。「子を養育するため」の休業であることに変わりはないからです。
ポイント: 育休の有効性は「子と一緒に過ごして養育しているか」で判断されます。配偶者が隣にいるかどうかではありません。
実際、厚生労働省のガイドラインでも「育児休業は配偶者の就業・不就業に関わらず取得できる」と明示されており、ワンオペ育休は制度的に何ら問題がない形態です。
給付金が支給停止・返納になる「本当の条件」
多くの方が誤解しているのが「どんな場合に給付金が止まるか」です。配偶者の出勤とは無関係に、申請者本人の就業状況が判定基準になります。
月の就業日数が10日(または80時間)を超えると停止になる仕組み
育休給付の支給停止基準は、雇用保険法施行規則第101条の14に規定されています。
支給停止の数値基準(支給単位期間ごとに判定)
| 判定基準 | 上限 | 超過した場合 |
|---|---|---|
| 就業日数 | 10日以下 | 超えると支給停止 |
| 就業時間 | 80時間以下 | 超えると支給停止 |
| 適用関係 | 両方同時に判定 | どちらか一方でも超えると停止 |
「10日ルール」の読み方: 支給単位期間(1ヶ月)に職場に出勤・就業した日が10日を超えると、その期間分の給付金は支給されません。11日以上働いた月は、給付の対象外となります。
ただし、就業日数が10日を超えていても、就業時間が80時間以下であれば支給停止とはなりません(逆も同様)。日数・時間のどちらの基準も超えた場合ではなく、「どちらか一方でも超えたら停止」という点に注意が必要です。
給付金が「返納」になるケースと不正受給のリスク
支給停止と返納は別の概念です。整理しておきましょう。
返納が発生する主なケース
-
支給要件を満たさなかったのに給付を受けた場合
→ 就業日数・就業時間の申告が不正確で実態と異なる場合 -
育児休業が遡って取消・無効とされた場合
→ 事業主との合意なく復職していたなど -
虚偽申告による不正受給
→ 雇用保険法第10条の4に基づき返納命令+3倍返しのペナルティが課される
配偶者出勤は返納理由にならない
繰り返しになりますが、「配偶者が出勤していたこと」は給付金の返納理由には一切なりません。ハローワークが確認するのは、あくまで申請者本人の就業日数・就業時間です。
育休中の就業と給付金の関係:80時間・10日ルールの実務
育休中に少し働いた場合の給付金の計算式
育休中に就業した場合、就業日数・時間が基準内であれば給付金は受け取れますが、賃金が発生した場合は給付額が減額調整されます。
給付額の調整計算式
【就業あり月の給付額計算】
(1) 休業前賃金日額 × 支給日数 × 67%(または50%)= 基本給付額
(2) 就業による賃金支給がある場合:
基本給付額 + 就業賃金 > 休業前賃金 × 80% の場合
→ 超過分を給付額から差し引き
(3) 基本給付額 + 就業賃金 > 休業前賃金 × 100% の場合
→ 給付金はゼロ(ただし返納ではなく不支給扱い)
実務ポイント: 休業前賃金の80%を超えないよう就業日数を調整することが、給付金を最大限受け取るうえで重要です。
「実質育児していない」と判断される境界線
「ワンオペなのに夜間だけ配偶者が帰宅して育児する」「保育所に預けている時間帯がある」――こうした状況でも育休は有効です。
実質育児の有無を判断する基準(ハローワーク)
| 状況 | 育休の有効性 |
|---|---|
| 日中のみ保育所利用・親が育休 | ✅ 有効(保育所利用と育休は併用可) |
| ワンオペで配偶者が日中出勤 | ✅ 有効 |
| 子を別居の親族に完全委託・本人は就業 | ❌ 実質育休とみなされない可能性あり |
| 育休申請後に事業主の承認なく復職 | ❌ 育休期間として認められない |
「子を養育する」という行為は主たる養育責任を担っていることを意味します。日中に保育所を利用したり、一時的に親族が手伝ったりすることは「養育の放棄」には当たりません。
産後パパ育休(出生時育児休業)と配偶者同時取得の注意点
2022年10月の改正で創設された産後パパ育休(出生時育児休業)では、配偶者が育休を取得中であっても取得できます。また、配偶者が就業中であっても取得要件に影響はありません。
産後パパ育休の制度概要と給付金
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象期間 | 子の出生後8週間以内 |
| 取得可能日数 | 最大28日(2回まで分割取得可) |
| 就業可能日数 | 労使協定がある場合、最大10日または80時間まで就業可 |
| 給付金名称 | 出生時育児休業給付金 |
| 給付率 | 休業前賃金の67%(2025年4月より一定条件下で80%に引き上げ) |
2025年4月の重要改正: 「出生後休業支援給付金」が創設され、配偶者が育休中または専業主婦(夫)家庭で被保険者が産後パパ育休を28日間取得した場合、給付率が実質手取りベースで約10割相当(社会保険料免除後)になる可能性があります。
配偶者同時取得時のケース別シミュレーション
ケース①:夫婦同時に育休を取得する場合
妻:産前6週から産後8週(産休)→ 育休へ移行
夫:子の出生後 産後パパ育休(28日)→ 通常育休へ移行
→ 両者とも給付金受給可能
→ お互いの取得状況は相手の給付要件に影響しない
ケース②:妻が育休中・夫が通常勤務(今回のメインケース)
妻:育休取得中 → 給付金受給中
夫:通常出勤(ワンオペ状態の妻を支援できない日中)
→ 妻の給付金:影響なし ✅
→ 妻の育休有効性:影響なし ✅
→ 確認すべきは妻本人の就業日数・時間のみ
ケース③:夫が産後パパ育休取得後、妻だけ育休継続
夫:産後パパ育休(28日)終了後 → 通常復職
妻:育休継続
→ 妻の給付金:継続受給可能 ✅
→ 夫の復職は妻の育休・給付金に無関係
実務チェックリスト:企業・人事担当者が確認すべきポイント
育休申請から給付金受給までの全体フロー
STEP 1:育休申出の受付(育休開始1ヶ月前目安)
- [ ] 労働者から「育児休業申出書」を受領
- [ ] 口頭申出でも法的効力あり(書面での記録を強く推奨)
- [ ] 育休開始日・終了予定日を確定
- [ ] 社会保険料免除申請の準備開始
STEP 2:雇用保険の手続き(育休開始後)
- [ ] 「育児休業給付金支給申請書」の準備
- [ ] 賃金台帳・出勤簿の整備(支給単位期間ごとに管理)
- [ ] ハローワークへの初回申請(育休開始から4ヶ月以内)
STEP 3:継続申請(支給単位期間ごと=2ヶ月に1回)
- [ ] 就業日数・就業時間の確認(10日・80時間ルール)
- [ ] 就業による賃金発生の有無確認
- [ ] 支給申請書の記載・提出(支給単位期間末日翌日から2ヶ月以内)
必要書類一覧
| 書類名 | 誰が用意するか | 提出先 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | 事業主(労働者の確認署名必要) | ハローワーク |
| 賃金台帳(コピー) | 事業主 | ハローワーク |
| 出勤簿・タイムカード(コピー) | 事業主 | ハローワーク |
| 母子手帳(写し) | 労働者 | 事業主経由 |
| 育児休業申出書(控え) | 事業主 | 保管 |
人事担当者が誤りやすい「配偶者出勤」に関する申請ミス
NG例①:配偶者が出勤しているという理由で申請を保留・拒否する
→ 法令違反になる可能性があります。育児・介護休業法第10条は、育休取得を理由とした不利益取扱いを禁止しています。配偶者の就業状況を理由に申請を止めることも同様です。
NG例②:ワンオペ育休の労働者に「実質育児していない」と通知する
→ 法的根拠のない指摘です。ワンオペは育休の有効性を損ないません。
NG例③:就業日数10日の算定に「育休中の研修参加」を含めない
→ 育休中に事業主の指示で研修・会議に参加した場合も就業日数にカウントします。10日以内に収まるよう管理が必要です。
給付金の計算方法と受取額の目安
育児休業給付金の基本計算式
育休給付は休業前の賃金日額を基準に計算されます。
基本計算式
賃金日額 = 育休開始前6ヶ月の賃金合計 ÷ 180日
給付額(月額)= 賃金日額 × 30 × 給付率
【給付率】
・育休開始から180日(約6ヶ月)まで:67%
・181日目以降:50%
※2025年4月改正で一定条件下では80%適用の場合あり
年収別の給付金目安(月額)
| 育休前月収 | 最初の6ヶ月(67%) | 6ヶ月経過後(50%) |
|---|---|---|
| 20万円 | 約13.4万円 | 約10.0万円 |
| 30万円 | 約20.1万円 | 約15.0万円 |
| 40万円 | 約26.8万円 | 約20.0万円 |
| 50万円 | 約33.5万円 | 約25.0万円 |
社会保険料免除の効果: 育休中は健康保険・厚生年金の保険料が免除されるため、実質的な手取りは給付率以上になります。月収30万円の場合、社会保険料免除込みで手取り約8割相当になるケースも珍しくありません。
給付金の上限額と計算の注意点
賃金日額には上限と下限があります(2025年時点の参考値)。
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 賃金日額の上限 | 15,690円(※毎年8月に改定) |
| 賃金日額の下限 | 2,869円(※毎年8月に改定) |
| 月額給付金の上限(67%時) | 約315,000円 |
| 月額給付金の上限(50%時) | 約235,000円 |
⚠️ 賃金日額の上限・下限は毎年8月に改定されます。申請前には必ずハローワークまたは厚生労働省の最新数値を確認してください。
ワンオペ育休でよくある疑問と対処法
配偶者が育休中の配偶者をサポートできない場合、育休は認められない?
いいえ。育児・介護休業法の条文には「配偶者がサポートすること」という要件はありません。むしろ、配偶者が仕事で忙しく、子どもの養育を一人で担っている状況こそ、育休制度が最も活躍する場面です。
厚生労働省の通達でも「育児休業は配偶者の有無・就業状況を問わず、本人が養育する意思があれば認められる」と明記されています。ワンオペ育休は決して例外的な取得方法ではなく、多くの労働者が経験する一般的な育休の形です。
育休期間中に自分の出勤日が増える可能性がある場合、どう対応すればよいか
育休中に自分の出勤日数が増える可能性がある場合は、事前にハローワークに相談し、支給申請時に正確な就業実績を報告することが重要です。
対応手順:
- 事前相談段階:ハローワークに「月の出勤日数が変動する可能性がある」旨を伝える
- 支給申請時:支給単位期間ごとに実際の就業日数・時間を正確に記入
- 月10日超過となった月:その支給単位期間の給付金は支給停止となることを理解する
育休期間内での出勤が10日を超えても、育休自体が無効になるわけではありません。翌月の出勤が10日以下なら、その月から給付金は再開されます。
配偶者が育休中に別の子どもの面倒を見ている場合、自分の育休給付は停止されるか
いいえ、停止されません。複数の子どもの養育に対応している場合でも、育休給付の判定基準は変わりません。配偶者が上の子どもの世話をしていても、あなた本人が下の子に対して主たる養育責任を担っていれば、給付金は支給されます。
むしろ、兄弟姉妹の世話と新生児の育児を同時に行う状況は、育休が最も必要とされる典型的なケースです。
育休中に「在宅勤務」をした場合、出勤日数にカウントされるか
育児・介護休業法上、「育児休業中の在宅勤務」は原則として認められていません。育休とは「労働から完全に離れる期間」を指すため、在宅形式であってもの仕事を行えば、それは出勤日数にカウントされます。
在宅勤務をした場合の扱い:
- 判定基準:仕事をした日は「就業日」として扱われる
- 就業時間:自宅で仕事をした時間も就業時間にカウント
- 給付への影響:月10日を超えると、その支給単位期間分の給付金は支給停止
育休中に仕事をする必要がある場合は、事前にハローワークと事業主に相談し、就業日数・時間が基準内に収まるよう調整することが大切です。
給付金受取中に「育休を短縮したい」と考える場合、配偶者の就業状況は影響するか
いいえ、影響しません。育休期間の短縮(早期復職)を決めるのは、本人と事業主の合意に基づくものです。配偶者が出勤しているかどうかは、この判断に何ら影響を与えません。
ただし、育休を当初予定より早く終了させた場合、その翌月から給付金は支給されなくなります。復職予定月の給付申請について、ハローワークに事前に相談することをお勧めします。
まとめ:配偶者出勤でも育休給付金は守られる
本記事の要点を整理します。
✅ 結論のポイント
| 確認事項 | 答え |
|---|---|
| 配偶者が出勤していても給付金はもらえるか? | もらえる |
| ワンオペ育休は法的に有効か? | 有効 |
| 給付金の停止・返納が発生する条件は? | 申請者本人の就業日数10日超または就業時間80時間超 |
| 配偶者の出勤状況は申請書に記載が必要か? | 不要 |
| 育休中の保育所利用は育休を無効にするか? | しない |
📌 実務上の注意事項(3つのルール)
-
10日・80時間ルールを月次で管理する
育休中に少しでも就業した場合、就業日数と時間を支給単位期間ごとに正確に記録・管理してください。一度の誤報告が返納に繋がる可能性があります。 -
配偶者の就業状況は気にしない
ワンオペ状態でも、育休・給付金ともに完全に有効です。配偶者が正社員・出張・残業しているといった事情は、給付判定に一切関係ありません。心理的に不安になる必要はありません。 -
変更点は必ずハローワークに連絡する
育休期間の延長・短縮、就業日数の変動、賃金の変更など、当初の申請内容に変更が生じた場合は速やかにハローワークへ届け出てください。自主的な申し出は、不正受給のペナルティを軽減する要因となります。
📞 相談窓口
| 窓口 | 内容 | 連絡先 |
|---|---|---|
| ハローワーク(公共職業安定所) | 育休給付金全般の申請・相談 | 居住地のハローワーク |
| 都道府県労働局雇用環境・均等部(室) | 育児・介護休業法に関するトラブル | 各都道府県の労働局 |
| 社会保険労務士 | 個別の申請代行・計算支援 | 全国社会保険労務士会連合会 |
| 子育て支援センター | 育児支援・給付金の案内 | 居住市区町村の窓口 |
FAQ:よくある質問と回答
Q1. 配偶者が出張や残業で帰宅が遅く、実質ワンオペです。給付金に問題はありますか?
A. 問題ありません。配偶者の勤務状況(出張・残業・在宅など)は給付要件に含まれていません。申請者本人が育休を取得し、就業日数・時間が基準内であれば給付金は受け取れます。
Q2. 育休中に保育所に子どもを預けていると「育児していない」とみなされますか?
A. なりません。保育所の利用は育休と並行して認められています。「子を養育する」とは保育所を一切使わないことを意味するのではなく、主たる養育責任を担っていることです。なお、就労目的の保育所利用が育休の前提と矛盾しないかは事業主との確認が必要な場合があります。
Q3. 夫が育休中、妻は出産後すぐ復職しました。夫の給付金はもらえますか?
A. 受け取れます。2022年10月の改正以降、配偶者の就業状況(復職含む)は育休給付の要件に影響しません。夫本人の就業日数・時間が基準内であれば問題ありません。
Q4. 育休中に副業・フリーランス業務をしている場合はどうなりますか?
A. 副業・フリーランスの就業時間・日数も就業実績にカウントされます。本業の育休中に副業で月10日を超えて働いた場合、その支給単位期間の給付金は支給停止となります。副業収入がある場合は事前にハローワークに確認することを強く推奨します。
Q5. ハローワークに「配偶者が出勤している」ことを申告する必要がありますか?
A. 申告義務はありません。育休給付の申請書に「配偶者の就業状況」を記載する欄はなく、提出不要です。申請書には申請者本人の就業日数・就業による賃金額を正確に記載することが求められます。
Q6. 給付金を誤って多く受け取ってしまった場合、どうすればよいですか?
A. 速やかにハローワークに申し出てください。自主申告による返納の場合、ペナルティが軽減されるケースがあります。不正受給と判断されると給付金の全額返納に加え、返納額の2倍(合計3倍)を納付する義務が生じる場合があります(雇用保険法第10条の4)。
Q7. 育休給付金はいつまで受

