育休取得を希望するパパから「会社に申請を断られた」「却下されそうで不安」という声が後を絶ちません。しかし、法律上、企業がパパ育休を不承認にできるケースは極めて限定的です。本記事では、育児・介護休業法の法的根拠を示しながら、申請却下の正当理由と不当な拒否への対抗手段を徹底解説します。
パパ育休の制度概要と法的根拠
パパ育休(出生時育児休業制度)とは
パパ育休とは、2022年10月1日に施行された「出生時育児休業制度」の通称です。子の出生後8週間以内に、最大4週間の育児休業を取得できる制度で、男女問わず利用できますが、特に父親の育休取得促進を目的として新設されました。
制度の主な特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 取得可能期間 | 子の出生後8週間以内 |
| 最大取得日数 | 28日間(4週間) |
| 分割取得 | 2回に分けて取得可能 |
| 給付金支給率 | 手取り相当額の約80%(雇用保険から支給) |
| 休業中の就労 | 労使協定があれば一時的な就労可 |
従来の育児休業と併用が可能なため、パパ育休(最大4週間)取得後に通常の育児休業(最大1年1ヶ月)へ移行することもできます。給付金は雇用保険から支給され、実質的な手取り減少を最小限に抑える設計になっています。
企業の「承認義務」の法的根拠
パパ育休の根拠となる法律は育児・介護休業法第9条の2から第9条の5です。この条文が企業に対して承認義務を課しており、原則として企業は申請を拒否できません。
育児・介護休業法第9条の2(要旨)
労働者は、事業主に申し出ることにより、出生時育児休業をすることができる。
法律の文言が労働者の権利として規定されているため、事業主は法律で定められた例外理由がない限り、申請を承認しなければなりません。不当な拒否は同法違反となり、企業は行政指導・勧告・公表の対象となります。
従来の育児休業との違い
| 比較項目 | パパ育休(出生時育児休業) | 従来の育児休業 |
|---|---|---|
| 取得可能期間 | 子の出生後8週間以内 | 子が1歳になるまで(最長2歳まで延長可) |
| 最大日数 | 28日(4週間) | 約1年1ヶ月 |
| 分割取得 | 2回まで可 | 2回まで可(2022年改正) |
| 申請期限 | 原則2週間前まで | 原則1ヶ月前まで |
| 休業中の就労 | 労使協定があれば可 | 原則不可 |
| 給付金率 | 約80%(実質手取りベース) | 約67%(6ヶ月経過後は50%) |
パパ育休は申請期限が短く、柔軟性が高い点が特徴です。一方、取得できる期間は出生後8週間に限定されるため、この期間を逃すと制度を利用できなくなります。
パパ育休の対象者条件(申請却下の前提)
申請が却下される理由の大半は、「そもそも対象者要件を満たしていない」ケースです。以下の要件をすべて確認してください。
雇用状況の要件
パパ育休を申請できるのは、同一企業に1年以上継続して雇用されている労働者が原則です。
「1年以上」の計算方法
- 申請日(育休開始日)の前日時点で、継続勤務が1年以上であることが必要です。
- 例:2024年10月15日から育休を開始したい場合、2023年10月14日以前に入社していなければなりません。
- 試用期間も継続勤務に含まれます。
- 育児休業法上の「1年」は暦日計算(365日)です。
⚠️ 注意点:2022年10月の法改正以前は「1年以上雇用」の要件を労使協定で設定できましたが、2022年10月1日以降は労使協定によって「勤続1年未満の労働者を除外」することが可能です。企業の就業規則・労使協定を必ず確認してください。
有期契約労働者が対象外となるケース
パートタイマーや契約社員などの有期契約労働者は、以下の条件を両方満たす場合のみ申請できます。
有期契約労働者の申請可能条件
- 同一企業に1年以上継続して雇用されていること
- 子が1歳6ヶ月になるまでの間に、労働契約が満了することが明らかでないこと
2つ目の要件が重要です。具体的には、育休終了予定日(子が1歳6ヶ月になる日)までに契約満了日が到来することが確定している場合、申請は却下されます。「更新される見込みがある」という口頭の約束があっても、契約書上に更新の明示がなければ対象外と判断されるリスクがあります。
有期契約労働者が却下されるケース例
【却下される例】
・契約満了日:2025年3月31日
・子の出生予定日:2025年1月10日
・子が1歳6ヶ月になる日:2026年7月10日
→ 契約満了日(2025年3月31日)が子が1歳6ヶ月になる日より前
→ 申請却下が正当
その他の対象外となるケース
以下に該当する場合も、申請は法律上の正当理由として不承認になります。
| 却下理由 | 詳細 |
|---|---|
| 週の勤務日数が2日以下 | 労使協定で除外規定がある場合 |
| 雇用保険未加入 | 給付金受給資格がないため |
| 既に同一の子で育休取得済み | 分割取得の上限2回を超える申請 |
| 申請期限(2週間前)を超えた申請 | 企業は拒否できる(後述) |
企業がパパ育休を不承認にできるケースと正当理由
法律上の不承認が認められる理由一覧
育児・介護休業法で認められた不承認理由は以下に限定されます。これ以外の理由で却下することは違法です。
①対象者要件を満たさない場合
前章で解説した「勤続1年未満」「有期契約の契約満了見込み」「週2日以下勤務(労使協定ある場合)」が該当します。
②申請期限を過ぎた場合
パパ育休の申請は、休業開始予定日の2週間前までに申請する必要があります(育児・介護休業法第9条の3)。
- 正式申請期限:休業開始予定日の2週間前の日まで
- 出生前の申請:出生予定日の2週間前までに申請可能
- 出生後の申請:出生日から8日以内に申請が必要(緊急事態の特例)
期限を超えた場合、企業は申請を拒否できますが、柔軟な対応が望ましいとされており、拒否する場合は事業主の努力義務として調整が求められます。
③労使協定による除外が定められている場合
以下の労働者を除外する旨の労使協定が締結されている場合、企業は不承認にできます。
【労使協定で除外できる労働者】
・引き続き雇用された期間が1年未満の労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
・育休申請日から8週間以内に雇用契約が終了することが明らかな労働者
⚠️ 労使協定の内容は就業規則と合わせて確認してください。
企業が不承認にできないケース(違法な却下)
以下の理由による却下はすべて違法です。
❌ 「業務が忙しいから」
❌ 「前例がないから」
❌ 「男性社員が育休を取るのは慣例上認めていない」
❌ 「代替要員が見つからないから」
❌ 「あなたの業務は特殊だから」
❌ 「会社の規則で認めていない」(育児・介護休業法に反する規則は無効)
これらの理由で却下された場合、育児・介護休業法違反として企業は行政指導の対象となります。
給付金の計算方法と受給条件
育児休業給付金(パパ育休中)の計算式
パパ育休中の給付金は雇用保険から「出生時育児休業給付金」として支給されます。
給付金の計算式
支給額 = 休業開始時の賃金日額 × 休業日数 × 67%
※ 社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されるため、
実質的な手取りは約80%相当となる
賃金日額の計算方法
| ステップ | 計算内容 |
|---|---|
| ① 基礎賃金を算出 | 休業開始前6ヶ月間の賃金合計 ÷ 180日 |
| ② 支給日額を算出 | 賃金日額 × 67% |
| ③ 月額換算 | 支給日額 × 当月の休業日数 |
具体的な計算例
- 月給30万円の場合
- 賃金日額:300,000円 × 6ヶ月 ÷ 180日 = 10,000円/日
- 4週間(28日)取得の場合:10,000円 × 28日 × 67% = 187,600円
- 社会保険料免除分を加味した実質手取り相当:約240,000円(月給の80%相当)
申請が却下された場合の対抗手段
不当な却下(違法な拒否)を受けた場合、以下の手順で対抗できます。
ステップ①:会社に書面で再申請・異議申立て
口頭でのやり取りを避け、メールや書面で正式に申請してください。会社の回答も書面で求めることが重要です。申請内容と申請日時の記録を必ず保管しましょう。
ステップ②:都道府県労働局・労働基準監督署へ相談
「育児・介護休業法の違反」として、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。無料で対応してもらえます。
相談窓口:都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)
電話:各都道府県の労働局代表番号
または「総合労働相談コーナー」(全国の労働局・労働基準監督署内)
ステップ③:育児・介護休業調停委員会によるADR
行政による調停制度(裁判外紛争解決手続き)を利用できます。費用は原則無料で、中立な第三者による調停が行われます。
ステップ④:労働審判・民事訴訟
悪質なケースでは、育児・介護休業法第56条の2に基づく企業名公表が行われる場合もあります。また、労働審判や民事訴訟で休業権の確認・損害賠償請求が可能です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 入社して8ヶ月ですが、パパ育休は取れますか?
A. 原則として取得できません。育児・介護休業法上の要件は「1年以上の継続雇用」です。ただし、会社の就業規則に労使協定がなく、かつ「1年未満でも認める」旨の規定があれば取得できる場合があります。まず就業規則を確認してください。
Q2. 申請書を提出したのに会社が受理を拒否しています。
A. 受理拒否自体が違法行為です。申請書の写しと提出日時を記録し(メール送付が証拠として有効)、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談してください。行政機関による指導が可能です。
Q3. 「業務が忙しい時期だから時期をずらしてほしい」と言われました。
A. パパ育休(出生時育児休業)の開始日を企業が一方的に変更することは、法律上認められていません。ただし、労使間の話し合いによる合意での変更は可能です。一方的な変更要求には応じる義務はありません。
Q4. 有期契約ですが、契約更新の見込みがあれば申請できますか?
A. 「見込み」だけでは不十分です。子が1歳6ヶ月になる日までの間に契約が満了しないことが明らかである必要があります。「明らか」とは、契約書に更新規定がある・更新が繰り返されているなど客観的な根拠が必要です。口頭での約束のみでは不十分な場合があります。
Q5. パパ育休と通常の育児休業は同時に申請できますか?
A. 同時申請は原則できませんが、パパ育休(出生後8週間以内)を取得した後に、通常の育児休業を別途申請することは可能です。給付金の計算も別々に行われます。
Q6. 申請2週間前のルールは絶対ですか?緊急の場合はどうなりますか?
A. 出産が予定より早まった場合など、緊急時は出生後8日以内に申請することで対応できます。この場合、育休開始日が出生日から8週間以内であれば有効です。企業側にも柔軟な対応が求められます。
まとめ
パパ育休(出生時育児休業)は、育児・介護休業法によって労働者の権利として保障されており、企業が不承認にできる理由は法律で厳しく限定されています。
| 不承認が認められるケース | 不承認が認められないケース |
|---|---|
| 勤続1年未満(労使協定あり) | 業務多忙 |
| 有期契約の契約満了が明確 | 代替要員不足 |
| 申請期限超過 | 前例がない |
| 週2日以下勤務(労使協定あり) | 男性だから |
もし不当な却下を受けた場合は、書面での記録を残したうえで、都道府県労働局へ相談することをためらわないでください。法律はパパの育休取得権をしっかりと守っています。
関連法令・参考リンク
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談には該当しません。具体的なケースについては、社会保険労務士または都道府県労働局にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 会社が育休申請を断ることはできますか?
A. 法的根拠がない限りできません。育児・介護休業法により企業に承認義務があり、不当な拒否は法違反です。却下可能な理由は極めて限定的です。
Q. パパ育休と従来の育児休業の違いは何ですか?
A. パパ育休は出生後8週間以内に最大4週間、2回分割取得可能です。従来の育休は1年程度取得できます。給付金率はパパ育休が約80%と高いのが特徴です。
Q. 勤続1年未満でもパパ育休は申請できますか?
A. 原則できません。同一企業での継続勤務が1年以上必要です。申請日時点で1年経過していることが要件となります。
Q. 有期契約社員はパパ育休を申請できますか?
A. 可能ですが、1年以上勤続に加え、育休終了時点(子が1歳6ヶ月)までに契約満了が確定していないことが必須です。
Q. 企業が育休を不承認にできるケースはどんな場合ですか?
A. 対象者要件を満たさない、または事業継続が難しい場合など極めて限定的です。詳しくは企業の就業規則や労使協定を確認してください。

