育児休業(育休)の取得を検討しているあなたが、「兄弟姉妹を扶養に入れているけれど、育休給付金はもらえなくなる?」「扶養控除が外れてしまうのでは?」と不安を感じているなら、この記事はその誤解を一気に解消します。
結論から言えば、育休給付金の支給額は兄弟姉妹の扶養状況とは無関係です。そして、育休を取得しても兄弟姉妹の扶養控除を維持できるケースが大多数です。ただし、それぞれの制度には独自の要件があり、正確に理解しなければ「取れたはずの控除を見逃す」「申請忘れで給付金が受け取れない」という実害が生じます。
本記事では、育休給付金の計算方法・支給要件から、兄弟姉妹を扶養親族として認定するための5つの要件、申請手続きの実務、よくある誤解まで体系的に解説します。2026年の改正情報も反映していますので、最新情報として活用してください。
育休給付金と兄弟姉妹扶養の関係性
混乱を生む3つの誤解
育休を取得する際に、「扶養関係」という言葉が異なる文脈で登場するため、多くの方が次の3つの誤解に陥りがちです。
誤解① 育休給付金の支給額は扶養親族の人数で変わる
育休給付金(育児休業給付金)は、雇用保険制度に基づく給付であり、支給額は「育休前の賃金」と「育休取得日数」によってのみ決まります。兄弟姉妹が何人いても、扶養に入れているかどうかも、支給額にまったく影響しません。
誤解② 育休中は所得が減るので、兄弟姉妹が扶養から外れる
扶養の主体は「扶養する側(あなた)」ではなく、「扶養される側(兄弟姉妹)の所得」で判定されます。あなたの所得が育休中に減っても、兄弟姉妹の年間合計所得が要件を満たしていれば、扶養控除は維持されます(ただし生計維持要件などの確認は必要です)。
誤解③ 育休給付金は所得として扱われ、扶養判定に影響する
育休給付金は非課税所得であり、扶養控除や所得税の計算における「合計所得金額」には含まれません。給付金を受け取っても、あなた自身の「合計所得金額」は増えません。
この3つを正確に理解したうえで、以下で各制度の要件と手続きを詳しく見ていきましょう。
育児休業給付金の基本要件と支給額
給付対象者の要件チェックリスト
育児休業給付金を受け取るためには、以下の要件をすべて満たす必要があります(雇用保険法第61条の4)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険の加入 | 育休開始日時点で雇用保険の被保険者であること |
| 育休前の勤務実績 | 育休開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が通算12か月以上あること |
| 育休の取得理由 | 1歳未満の子を養育するための育児休業であること(パパ・ママ育休プラスの場合は1歳2か月まで) |
| 就労制限 | 育休中の就労日数が1支給単位期間(原則28日)に10日以下であること |
| 賃金制限 | 育休中に事業主から支払われる賃金が、休業開始時賃金月額の80%未満であること |
✔ 兄弟姉妹の扶養の有無は、上記の要件にいずれも関係しません。
なお、2025年4月施行の改正育児・介護休業法により、「出生後休業支援給付」として育休開始後14日間の給付率が実質100%相当に引き上げられる制度も導入されています。手当と合わせて正確に計算しましょう。
給付金額の計算方法と支給期間
基本の計算式
育児休業給付金の支給額
= 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 給付率
休業開始時賃金日額
= 育休開始前6か月の賃金合計 ÷ 180
給付率の段階
- 育休開始から通算して最初の180日間(約6か月):賃金日額の67%
- 181日目以降:賃金日額の50%
具体的なシミュレーション例
【例1:月収25万円のケース】
賃金日額 = 25万円 × 6か月 ÷ 180 = 8,333円
最初の180日間の月額給付金(28日換算)
= 8,333円 × 28日 × 67% ≒ 156,342円
181日目以降の月額給付金
= 8,333円 × 28日 × 50% ≒ 116,662円
【例2:月収30万円のケース】
賃金日額 = 30万円 × 6か月 ÷ 180 = 10,000円
最初の180日間の月額給付金(28日換算)
= 10,000円 × 28日 × 67% = 187,600円
181日目以降の月額給付金
= 10,000円 × 28日 × 50% = 140,000円
⚠️ 賃金日額には上限(2025年度:15,430円)と下限(2,746円)が設定されています。
支給期間の原則は子が1歳になるまでですが、保育所への入所ができないなどの理由があれば最長2歳まで延長できます。
兄弟姉妹を扶養親族として認定するための5つの要件
所得税法における扶養控除の対象となる扶養親族の認定には、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります(所得税法第2条第1項第34号・第84条)。
年齢要件
扶養控除の対象となるのは、その年の12月31日時点で16歳以上の親族です。16歳未満の兄弟姉妹は児童手当の対象であり、扶養控除の対象外です。
兄弟姉妹が対象の場合、年齢ごとの控除額は以下のとおりです。
| 年齢(12月31日時点) | 区分 | 控除額 |
|---|---|---|
| 16歳以上19歳未満 | 一般の扶養親族 | 38万円 |
| 19歳以上23歳未満 | 特定扶養親族 | 63万円 |
| 23歳以上70歳未満 | 一般の扶養親族 | 38万円 |
大学生の兄弟姉妹(19〜22歳)は「特定扶養親族」として63万円の控除が受けられる点が重要です。学費の負担が大きいこの年代に手厚い控除が設定されています。
所得要件
兄弟姉妹の年間合計所得金額が48万円以下であることが必要です。
📌 2026年申請時点の重要改正情報: 従来は「38万円以下」でしたが、給与所得控除の基礎控除への移行に伴い、現行基準は「合計所得金額48万円以下」です。給与収入に換算すると、給与所得控除55万円を加えた年収103万円以下が目安となります。
アルバイトをしている大学生の兄弟姉妹の場合は、年収が103万円を超えると扶養控除から外れますので、年末に向けて収入を確認しておく習慣をつけましょう。
なお、育休給付金は非課税所得のため、兄弟姉妹があなたの扶養に入っているかどうかの判定(扶養する側の所得)と、育休給付金は切り離して考えてください。
生計維持要件
兄弟姉妹と「生計を一にしている」ことが必要です(所得税法第2条第1項第34号)。
「生計を一にする」とは、必ずしも同居を指しません。たとえば次のケースも生計を一にすると認められます。
- 大学進学のために一人暮らしをしているが、仕送りや学費を負担している兄弟姉妹
- 余暇には実家に戻り、生活費の大半をあなたが支出している場合
一方で、兄弟姉妹が完全に独立した収入で生活しており、財布が完全に別の場合は、同居していても「生計を一にする」とは認められません。
国内居住要件
2020年度税制改正より、原則として国内に居住していることが扶養控除の要件となりました(所得税法第2条第1項第34号の2)。
ただし、以下の場合は国外居住でも認められます。
- 年齢が16歳以上30歳未満または70歳以上の親族
- 留学ビザで国外に在住している場合(留学証明書類が必要)
- 国外で障害者として認定されている場合
海外留学中の兄弟姉妹の学費を負担している場合は、留学ビザに係る証明書類(パスポートコピー・在留資格証明書など)を年末調整または確定申告時に添付してください。
親族関係の要件
兄弟姉妹は3親等内の血族に該当し、扶養控除の対象親族の範囲(6親等内の血族)に含まれます(所得税法第2条第1項第34号)。戸籍上の兄弟姉妹であれば親族関係の要件は通常問題ありません。
育休中の扶養申請・手続きの実務フロー
育児休業給付金の申請手続き
育児休業給付金の申請は、事業主(会社)経由でハローワークへ行うのが原則です。個人で直接ハローワークへ申請することも可能ですが、多くの場合は人事・総務部門が代行します。
申請のタイムライン
出産・育休開始
↓(育休開始後 約2か月後)
第1回目の申請期間が到来
↓
事業主が申請書類をまとめてハローワークへ提出
↓(審査・決定:概ね2週間程度)
給付金の振込(口座は本人名義)
↓(以降、2か月ごとに繰り返し)
育休終了まで継続
必要書類(第1回申請時)
| 書類名 | 準備者 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | 事業主が作成(本人確認欄は本人記入) |
| 育児休業給付受給資格確認票 | 初回申請時のみ必要 |
| 賃金台帳・出勤簿(過去12〜18か月分のコピー) | 事業主 |
| 母子健康手帳(子の氏名・生年月日が確認できるページ) | 本人 |
| 本人確認書類(マイナンバーカードなど) | 本人 |
| 受取口座の通帳コピー | 本人 |
✅ 人事担当者へのアクション: 育休開始日が確定したら速やかに従業員から必要書類を収集し、支給対象期間(原則28日)の終了翌日から起算して2か月以内にハローワークへ申請してください(雇用保険法第61条の6)。
兄弟姉妹の扶養控除申請手続き
扶養控除の申請は、以下の2つのルートで行います。
ルートA:年末調整(給与所得者の場合)
毎年10〜11月に会社から配布される「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に、扶養する兄弟姉妹の情報(氏名・生年月日・続柄・年間所得見積額・マイナンバー)を記載して提出します。
育休中の年は、復職後の年末調整でまとめて精算されます。育休中に年末調整の時期を迎える場合も、休業中の従業員に申告書を送付するよう会社側が対応する必要があります。
ルートB:確定申告
副業収入がある場合や、年末調整で対応できなかった場合は、翌年2月16日〜3月15日の確定申告で扶養控除を申請します。
育休中の年は所得が低いため、確定申告をすることで源泉徴収税の還付を受けられる可能性があります。育休中でも確定申告は可能です(所得税法第120条)。
必要書類(扶養控除申請時)
| 状況 | 必要書類 |
|---|---|
| 同居している兄弟姉妹 | 基本的に申告書記載のみ(マイナンバー確認) |
| 別居している兄弟姉妹(仕送りあり) | 仕送り額が分かる振込明細・通帳コピー |
| 海外留学中の兄弟姉妹 | 留学ビザに係る証明書・パスポートコピー |
| アルバイト収入がある兄弟姉妹 | 本人の源泉徴収票(年収確認のため) |
健康保険の被扶養者としての申請
所得税の扶養控除とは別に、健康保険の被扶養者としての認定申請も独立して必要です。混同されやすいため、両者の違いを整理します。
| 項目 | 所得税の扶養控除 | 健康保険の被扶養者 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 所得税法 | 健康保険法第3条第7項 |
| 申請先 | 税務署(年末調整・確定申告) | 健康保険組合・協会けんぽ |
| 所得要件 | 年間合計所得48万円以下(給与収入103万円以下) | 年間収入130万円未満(60歳以上は180万円未満) |
| 年齢要件 | 16歳以上 | 原則なし(後期高齢者医療の対象でないこと) |
| 生計要件 | 生計を一にする | 主として被保険者の収入で生計を維持 |
健康保険の扶養認定では、所得要件が「130万円未満」と所得税より緩やかである点に注意してください。アルバイト収入が103万円を超えても、130万円未満であれば健康保険上の扶養は維持できます。
育休中の本人(被保険者)の育休給付金は、健康保険の被扶養者判定における本人の収入には含まれません。ただし、育休中の保険料は免除されますが、被保険者資格は継続しています。そのため、兄弟姉妹が健康保険の扶養に入っていれば、育休中もその状態が継続します。
育休中の税負担と給付金の総合シミュレーション
育休中の家計全体を把握するために、扶養控除と給付金の影響を一覧で確認しましょう。
【前提条件】月収30万円・育休12か月・大学生の弟(20歳)を扶養
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 育休前の年収(推計) | 360万円 |
| 育休中の給付金合計(概算) | 約216万円(前半67%換算) |
| 特定扶養親族控除額(弟・20歳) | 63万円 |
| 控除による所得税軽減額(税率20%の場合) | 約12.6万円 |
| 控除による住民税軽減額(税率10%) | 約6.3万円 |
| 合計節税効果 | 約18.9万円 |
📌 育休中は所得税が0円またはほぼゼロになるケースが多く、翌年の住民税への影響が大きくなります。育休翌年の住民税が軽減される効果も忘れずに確認してください。
よくある失敗と注意点
失敗① 扶養控除の申請書を提出し忘れる
育休中は会社との接点が減るため、年末調整の書類が手元に届かないまま期限を過ぎるケースがあります。会社から書類が届かない場合は自ら人事部門に連絡し、確実に提出しましょう。申請漏れがあっても、5年以内であれば確定申告での更正請求(還付申告)が可能です。
失敗② 兄弟姉妹のアルバイト収入が103万円を超えているのに申告する
扶養控除の申請後に兄弟姉妹の年収が103万円を超えた場合、過少申告加算税のリスクがあります。年末に確認の上、超過が判明したら速やかに「扶養控除等異動申告書」を修正して会社に提出してください。
失敗③ 育休給付金の申請を2か月を超えて放置する
申請期間(支給対象期間終了後2か月以内)を過ぎると、時効(2年)の範囲内でしか請求できなくなる可能性があります。会社が代行している場合も、書類の不備で差し戻しになることがあるため、必要書類は早めに準備しましょう。
失敗④ 育休給付金を「所得あり」として申告してしまう
確定申告の際に、育休給付金を給与所得や雑所得として申告するミスが見受けられます。育休給付金は所得税法上の非課税所得(所得税法第9条第1項第17号)であるため、申告書の収入欄に記載する必要はありません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中でも兄弟姉妹の扶養控除は受けられますか?
はい、受けられます。扶養控除の判定は扶養される側(兄弟姉妹)の所得を基準にするため、あなたが育休中かどうかは直接関係しません。ただし、育休中は自身の所得が減少しているため、所得税の還付額も小さくなる場合があります。住民税の軽減効果は翌年に反映されます。
Q2. 育休給付金は兄弟姉妹の扶養判定の収入に含まれますか?
育休給付金はあなた(扶養する側)の非課税所得であり、兄弟姉妹の扶養判定には影響しません。兄弟姉妹の扶養判定は、あくまでも兄弟姉妹自身の年間合計所得(48万円以下か否か)で行います。
Q3. 兄弟姉妹が海外の大学に留学中でも扶養控除を受けられますか?
2020年度改正後は原則として国内居住が要件ですが、16歳以上30歳未満の留学生は留学ビザに係る書類を添付することで対象となります。確定申告または年末調整の際に、パスポートの在留資格ページのコピーや学校の在籍証明書を提出してください。
Q4. 育休中に兄弟姉妹が就職して扶養から外れた場合、会社への届け出は必要ですか?
はい、必要です。扶養親族の変動があった場合は、「扶養控除等異動申告書」を修正して会社に提出する必要があります。届け出が遅れると過払いの税額が発生し、翌年の精算で追徴されることがあります。速やかに人事部門に連絡してください。
Q5. 育休中の給付金と産後パパ育休(出生時育児休業)給付金は別物ですか?
はい、別制度です。産後パパ育休(子の出生後8週間以内に最大4週間取得可能)に対応する給付は「出生時育児休業給付金」といい、給付率は67%が適用されます。通常の育児休業給付金と同様、兄弟姉妹の扶養状況とは無関係に支給されます。
Q6. 兄弟姉妹を扶養に入れている状態で育休中に副業収入が発生した場合は?
育休中の就労には雇用保険法上の制限がありますが、育休給付金の受給と扶養控除は引き続き適用できます。ただし副業収入が雑所得・事業所得として確定申告の対象となる場合は、所得税の合計所得額が変わります。扶養控除への影響は生じませんが(扶養される側の所得が基準のため)、育休給付金の支給要件(就労日数・賃金額)に影響しないか確認が必要です。
育休中の兄弟姉妹扶養と給付金:実務チェックシート
育休取得前に確認すべき項目をまとめました。
【給付金申請の準備】
- [ ] 雇用保険被保険者であること を確認した
- [ ] 育休開始前2年間の給与・出勤記録を確認した
- [ ] 育休開始予定日を会社の人事部門に報告した
- [ ] 育休給付金申請に必要な書類一覧を人事部門から取得した
- [ ] 母子健康手帳のコピーを準備した
- [ ] 給付金受取口座を指定した
【扶養控除の確認】
- [ ] 兄弟姉妹の氏名・生年月日・続柄を確認した
- [ ] 兄弟姉妹の前年度年間所得が48万円以下であることを確認した
- [ ] 兄弟姉妹との生計維持状況(同居/別居・仕送りなど)を整理した
- [ ] 海外に在住している兄弟姉妹がいる場合は留学ビザ情報を確認した
- [ ] 年末調整の時期に「扶養控除等異動申告書」を提出すると決めた
- [ ] マイナンバーカード(または通知カード)を手元に準備した
【その他の手続き】
- [ ] 健康保険の被扶養者申請が必要か確認した
- [ ] 厚生年金保険の被扶養配偶者申請が必要か確認した
- [ ] 育休開始後の給与振込スケジュールを確認した
- [ ] 育休復帰予定月を目安に調整している
まとめ:育休中の兄弟姉妹扶養、押さえるべき3つのポイント
本記事の内容を3つに集約します。
① 育休給付金と扶養控除は「完全に独立した制度」
給付金の額は賃金と育休期間で決まり、扶養親族の有無は一切影響しません。
② 兄弟姉妹の扶養控除は「兄弟姉妹自身の所得」で判定する
あなたの育休中の所得減少は、兄弟姉妹の扶養判定に影響しません。年間合計所得48万円以下(給与収入103万円以下)であれば、引き続き扶養控除を受けられます。
③ 手続き漏れが最大のリスク
給付金申請の期限(支給対象期間終了後2か月以内)と、扶養控除の申告書提出(年末調整または確定申告期限)を見逃さないことが最も重要です。育休中は会社との接点が減るため、意識的に確認する習慣をつけてください。
育休給付金と兄弟姉妹扶養は適切な知識と手続きで、両制度の給付・控除を最大限活用できます。本記事を参考に、あなたの家計全体の最適化を実現してください。
参考法令
- 育児・介護休業法 第1条・第5条
- 雇用保険法 第61条の4・第61条の6
- 所得税法 第2条第1項第34号・第9条第1項第17号・第84条
- 健康保険法 第3条第7項
- 厚生年金保険法 第3条第1項
⚠️ 免責事項: 本記事は2026年申請を想定した解説です。法改正・個別の状況により異なる場合がありますので、具体的な申請については管轄のハローワーク・税務署・健康保険組合にご相談ください。
