育休給付金の計算を行ったとき、「自分の給付額はこんなに少ないの?」と不安を感じた方はいませんか。とくにパートタイム労働者や時給が低い非正規雇用の方の場合、賃金月額が低いため、計算上の育休給付金がごくわずかになるケースがあります。そのような労働者を守るために、雇用保険には最低保障制度が設けられています。
この記事では、育休給付金における最低賃金との関係・最低保障額の計算方法・申請手続きと必要書類・2023〜2024年の改正内容を、具体的な数値例を交えながら詳しく解説します。
育休給付金における「最低賃金保障制度」とは
育休給付金(育児休業給付金)は、育児休業を取得した雇用保険の被保険者に対して、ハローワーク(公共職業安定所)を通じて支給される給付です。その基本的な仕組みは「育休前の賃金月額に一定の給付率を掛けて算出する」というものですが、賃金月額が極めて低い場合、計算上の給付金も自動的に低くなってしまいます。
こうした不均衡を是正するために、雇用保険法は基本手当日額に最低額を設定しており、これが実質的な「最低保障」として機能します。育休給付金の計算は雇用保険の基本手当日額に基づいているため、最低額のルールが育休給付金にも連動して適用されます。
主な法的根拠
| 法律・告示 | 条文等 | 内容 |
|---|---|---|
| 雇用保険法 | 第61条の4〜第61条の5 | 育児休業給付の基本規定 |
| 育児・介護休業法 | 第2条 | 育児休業の定義 |
| 雇用保険法施行規則 | 第102条の3 | 給付金の計算方法 |
| 厚生労働省告示 | 基本手当日額最低額 | 最低保障額の根拠(毎年度改定) |
ポイント: 厚生労働省告示による基本手当日額の最低額は毎年8月1日に改定されます。2024年度(2024年8月〜2025年7月)の最低額は2,125円(前年度:2,059円)です。これが育休給付金の最低保障計算にも反映されます。
制度が対象とする労働者層
最低賃金保障制度の恩恵を受けやすいのは、賃金水準が相対的に低い以下のような労働者です。
| 対象になる労働者の例 | 具体的なケース |
|---|---|
| パートタイム労働者 | 時給1,000〜1,100円前後で週20〜30時間勤務 |
| アルバイト | 学生アルバイトを継続して雇用保険に加入し、育休を取得 |
| 扶養範囲内で就労する方 | 年収130万円未満に抑えるため就業調整している方 |
| 短時間正社員 | 育休前に育児や介護のため所定労働時間を短縮していた方 |
一方、以下の方は育休給付金そのものの対象外であるため、最低保障制度も適用されません。
| 対象外の方 | 理由 |
|---|---|
| 自営業者・フリーランス | 雇用保険に加入できないため |
| 公務員 | 別制度(国家公務員共済組合等)が適用 |
| 雇用保険未加入の労働者 | 週所定労働時間20時間未満など加入要件を満たさない |
| 育休取得後に離職が確定している方 | 職場復帰の見込みがないと認定された場合 |
最低賃金と給付金の関係性(法的根拠)
「最低賃金保障」という言葉は、地域の最低賃金(例:東京都1,163円/2024年10月改定)と育休給付金を直接比較する制度ではありません。正確には、雇用保険の基本手当日額に設定された最低額のルールが育休給付金の算定基準にも適用されるという仕組みです。
計算構造を整理すると次のようになります。
【基本手当日額の最低額】(厚生労働省告示)
↓
育休給付金の賃金日額の下限として機能
↓
賃金月額が低すぎる場合は「最低保障ライン」で計算
↓
月単位の育休給付金が決定される
近年の主な制度改正
2022年4月改正(育児・介護休業法改正に伴う対応)
育休中の就労ルールが整備され、「月の就業日数が10日以下、かつ月の就業時間が80時間以下」であれば育休給付金を受給しながら就業できるようになりました。
2023年10月改正(給付率の引上げ)
育休開始から180日目まで(約6ヶ月間)の給付率が、手取り換算で実質80%相当になるよう制度が見直されました(育休給付金67%+社会保険料免除の合算効果)。従来の「賃金月額の50%」から改善が図られています。
2025年4月施行予定(育児・介護休業法さらなる改正)
子どもが3歳になるまでの柔軟な働き方の確保が事業主に義務付けられ、育休給付と連動した制度整備が進んでいます。
育休給付金の計算方法と最低保障額
標準的な計算式(育休開始から180日まで)
育休給付金の月額は、原則として次の式で計算します。
【育休開始〜180日目まで】
賃金月額 × 67% = 月額育休給付金
【181日目以降】
賃金月額 × 50% = 月額育休給付金
ここで使用する「賃金月額」は、育休開始前の直近6ヶ月間の賃金合計額 ÷ 180日 × 30で求めた「みなし賃金月額」が使われます(賞与は原則除外)。
また、賃金月額には上限と下限が設定されています。
| 区分 | 金額(2024年度) |
|---|---|
| 賃金月額の上限 | 461,700円 |
| 賃金月額の下限(最低保障ライン) | 63,750円 |
重要: 計算で算出した賃金月額が63,750円を下回る場合、63,750円を賃金月額として計算します。これが実質的な「最低保障」です(2024年度)。
最低保障が適用される場合の計算例
以下に、賃金水準の異なる4パターンの計算例を示します。
パターン①:正社員(標準的なケース)
- 月給:230,000円
- 賃金月額:230,000円(上下限内)
- 育休給付金(〜180日):230,000円 × 67% = 154,100円
- 育休給付金(181日〜):230,000円 × 50% = 115,000円
→ 最低保障の適用なし
パターン②:パートタイム(週25時間・時給1,050円)
- 月収概算:1,050円 × 25時間 × 4.33週 ≒ 113,663円
- 賃金月額:113,663円(上下限内)
- 育休給付金(〜180日):113,663円 × 67% ≒ 76,154円
- 育休給付金(181日〜):113,663円 × 50% ≒ 56,831円
→ 最低保障の適用なし(下限63,750円を上回る)
パターン③:パートタイム(週15時間・時給1,000円)
- 月収概算:1,000円 × 15時間 × 4.33週 ≒ 64,950円
- 賃金月額:64,950円(下限63,750円を上回るため上下限内)
- 育休給付金(〜180日):64,950円 × 67% ≒ 43,516円
- 育休給付金(181日〜):64,950円 × 50% ≒ 32,475円
→ 最低保障の適用なし(賃金月額は下限を超えているが給付額は低水準)
パターン④:最低保障が適用されるケース(月収が極めて低い場合)
- 月収概算:1,000円 × 12時間 × 4.33週 ≒ 51,960円
- 算出賃金月額:51,960円 → 下限63,750円を下回る
- → 賃金月額を63,750円として計算(最低保障適用)
- 育休給付金(〜180日):63,750円 × 67% ≒ 42,712円
- 育休給付金(181日〜):63,750円 × 50% ≒ 31,875円
→ 最低保障が適用され、実際の賃金から計算するよりも高い給付金を受け取れる
補足: 週所定労働時間が20時間を下回ると雇用保険に加入できないため、育休給付金の対象外となります。パターン④のケースは加入要件を満たしている前提での例示です。
育休給付金の上限額(参考)
賃金月額の上限(461,700円)が適用された場合の月額給付金の上限も確認しておきましょう。
| 期間 | 給付率 | 月額上限 |
|---|---|---|
| 育休開始〜180日 | 67% | 309,339円 |
| 181日以降 | 50% | 230,850円 |
申請手続きの流れと必要書類
申請の全体フロー
育休給付金の申請は、基本的に事業主(会社)が代行して行います。ただし、手続きの流れを把握しておくことで、申請漏れや遅延を防ぐことができます。
STEP 1:育児休業の開始
└→ 育休開始日の1ヶ月前までに事業主へ申請
STEP 2:事業主がハローワークへ「受給資格確認」を申請
└→ 育休開始日から2ヶ月後の月末までに申請
STEP 3:初回の「支給申請」(受給資格確認と同時でも可)
└→ 育休開始から最初の2ヶ月分をまとめて申請
STEP 4:給付金の支給決定・振込
└→ 申請から約1〜2週間で被保険者の口座へ振込
STEP 5:以降2ヶ月ごとに定期支給申請を繰り返す
STEP 6:育休終了時(職場復帰時)に最終申請
注意: 支給申請の期限は、各支給対象期間の末日から2ヶ月後の月末です。この期限を過ぎると給付金を受け取れなくなる場合がありますので、事業主と密に連絡を取ることが重要です。
必要書類一覧
初回申請時(受給資格確認+第1回支給申請)
| 書類名 | 発行・取得元 | 備考 |
|---|---|---|
| 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書(雇用保険被保険者育児休業給付支給申請書) | ハローワーク(事業主が取得) | 事業主が記載・押印して提出 |
| 雇用保険被保険者証(写し) | 事業主保管 | 被保険者番号の確認に使用 |
| 母子手帳(写し)または出生証明書 | 医療機関 | 子どもの生年月日の確認 |
| 賃金台帳(直近6ヶ月分) | 事業主が作成 | 賃金月額の計算根拠として提出 |
| 出勤簿またはタイムカード(直近6ヶ月分) | 事業主が作成 | 同上 |
| 育児休業申出書(写し) | 事業主が保管 | 休業期間の確認 |
2回目以降の定期支給申請時
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 育児休業給付金支給申請書 | 毎回の申請に必要。就業日数・就業時間を記載 |
| 出勤簿またはタイムカード | 育休中に就業があった場合は提出が必要 |
育休中に就業した場合の調整
2022年4月の改正により、育休中に一定の範囲内で就業しても給付金を受け取れるようになりました。ただし、就業収入に応じて給付金が減額される場合があります。
【就業が認められる上限(毎月)】
・就業日数:10日以下
(10日を超える場合は就業時間が80時間以下であること)
【給付金の減額ルール】
(賃金月額 × 80%)-(育休中の就業で得た賃金額)= 支給額の上限
※この計算で上限を超える分は給付金が減額される
最低保障が適用されているケースでは、「賃金月額」として63,750円(下限) が使われるため、就業収入との調整計算もこの金額をベースに行います。
よくある疑問と注意点
パート・アルバイトが育休給付金を受け取るための加入要件
育休給付金を受け取るには、育休開始前の2年間に雇用保険の加入期間が通算12ヶ月以上あることが必要です(各月に11日以上就業した月を1ヶ月とカウント)。複数の事業所での加入期間は合算できます。
産後パパ育休(出生時育児休業)との関係
2022年10月に創設された「産後パパ育休」(出生時育児休業給付金)も同じ雇用保険の仕組みで運用されています。給付率・最低保障の考え方は通常の育休給付金と同様です。
育休給付金は非課税
育休給付金は所得税・住民税が課税されません。また、育休期間中は社会保険料(健康保険・厚生年金)も免除されるため、手取りベースの実質給付率は公称の数字より高くなります。
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2024年改正・最新動向まとめ
| 改正・変更点 | 時期 | 内容 |
|---|---|---|
| 育休給付率の改善(手取り80%相当) | 2023年10月〜 | 育休開始180日間は社会保険料免除と合わせて実質手取り約80%水準に |
| 基本手当日額の最低額改定 | 2024年8月〜 | 2,125円(前年度比66円増)→最低保障額に反映 |
| 育児・介護休業法の改正 | 2025年4月施行 | 3歳未満の子を持つ労働者への柔軟な働き方確保が事業主に義務化 |
| 共働き・共育て推進 | 2024年度〜 | 両親ともに14日以上育休取得の場合、最大28日間の給付率を引上げ(手取り実質100%相当)する制度の導入が検討・議論中 |
最新情報の確認先: 厚生労働省「育児休業給付について」(https://www.mhlw.go.jp/)またはお近くのハローワークへお問い合わせください。給付額・上下限額は年度ごとに改定されるため、申請前に必ず最新の数値を確認してください。
最低保障制度を正しく活用するためのチェックリスト
申請前に以下の項目を確認しましょう。
- [ ] 雇用保険に加入しており、被保険者期間が育休開始前2年間で通算12ヶ月以上ある
- [ ] 育休開始を事業主に申し出た書面(育児休業申出書)を提出済み
- [ ] 育休中の就業は月10日以下(または80時間以下)に収まる予定である
- [ ] 賃金台帳・出勤簿の直近6ヶ月分を事業主に用意してもらっている
- [ ] 初回申請の期限(育休開始2ヶ月後の月末)を事業主と共有している
- [ ] 給付金振込口座(自分名義)をハローワークに登録済み(または確認済み)
- [ ] 育休終了(職場復帰)後の最終申請についても事業主と確認した
よくある質問(FAQ)
Q1. 賃金月額の下限(63,750円)は毎年変わりますか?
はい、基本手当日額の最低額は厚生労働省告示により毎年8月1日に改定されます。これに連動して育休給付金の賃金月額下限も変動します。申請時点の最新の数値をハローワークまたは厚生労働省ウェブサイトで確認することをお勧めします。
Q2. 最低保障が適用された場合、申請書に特別な記載は必要ですか?
特別な記載は不要です。ハローワークが提出された賃金台帳・出勤簿をもとに計算を行い、下限に該当する場合は自動的に最低保障額を適用して給付金額を決定します。事業主担当者はこの仕組みを理解した上で正確な賃金情報を記入してください。
Q3. パートで複数の事業所に掛け持ちで勤務しています。雇用保険の加入要件はどう判断されますか?
雇用保険は原則として主たる事業所(週の所定労働時間が最も長い勤務先)で加入します。2022年1月から「マルチジョブホルダー制度」が始まり、条件を満たせば複数の事業所の労働時間を合算して雇用保険に加入できるようになりました。ただし、このマルチジョブホルダー制度加入者が育休給付金を受け取れるかどうかは個別の判断が必要なため、ハローワークに相談してください。
Q4. 産休(産前産後休業)中も育休給付金は受け取れますか?
いいえ。育休給付金は「育児休業期間中」に支給されるものです。産前産後休業中は別の給付(出産手当金、健康保険から支給)が適用されます。産後休業終了後に育休を開始した時点から育休給付金の受給対象期間が始まります。
Q5. 育休延長(子どもが1歳6ヶ月・2歳になるまで)をする場合、最低保障は引き続き適用されますか?
はい。保育園に入れないなどの理由で育休を延長する場合でも、給付金の支給要件を満たしている限り、最低保障を含む育休給付金の仕組みは同様に適用されます。ただし延長には「入所不承諾通知書」などの証明書類が必要です。
Q6. 事業主が申請を怠った場合、自分でハローワークに直接申請できますか?
事業主が正当な理由なく申請を行わない場合、被保険者本人がハローワークに直接申請することが認められています(雇用保険法施行規則第102条の4第2項)。まずは会社の人事担当者に確認し、対応が困難な場合はハローワークの窓口に相談してください。
まとめ
育休給付金の最低保障制度は、賃金水準が低い労働者にとって重要なセーフティネットです。パートタイム労働者やアルバイトの方も、雇用保険の加入要件を満たしていれば受給資格があります。
2024年現在、育休給付金の最低保障額は月額63,750円(2024年8月1日改定)となり、実際の賃金がこれを下回る場合は、自動的にこの金額で給付金が計算されます。 これにより、低賃金で就業していた期間でも、適切な給付金を受け取ることが可能になります。
制度内容は毎年改定されるため、申請前には必ず最新情報をハローワーク公式サイトで確認するか、お近くのハローワークの窓口に相談することをお勧めします。不明な点がある場合や、個別の事情がある場合は、遠慮なくハローワークの専門窓口に積極的に相談してください。

